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キング編
502.
しおりを挟むギシ……
命を下された基泰が、無言でベッドに上がる。
……ギシ、ギシ、
切羽詰まった双眸。
カミソリを握り締めたまま、ゆっくりと僕に近付く。
腕力では、屋久より勝っている筈なのに。……どうして、言いなりになってしまうんだろう。
『キングは二人もいらねぇ』──深沢にそう言われて……僕に、一緒に逃げようとまで言ってきたのに。
「……」
……このままだと、切り裂かれてしまう。
これは、初めてのデートで寛司が買ってくれた、大切な服なのに。
唯一の形見なのに。
……どうしよう……
どうにかして、回避しなきゃ……
「………な…、基成」
じりじりと脳内が痺れていくのを感じながら、やっとの事で声を絞り出す。
「お願い、……切らないで……」
……他の事なら、何だってするから。
そう続けたつもりだったのに、思うように声が出なくて。
上擦ってしまう呼吸。震える身体。縋るようにゆっくりと見上げ、視線を屋久に向ける。
その瞬間、熱いものが瞼の縁から零れ落ちる。
つ…、と頬に描かれる、涙の線。……泣くつもりなんて、無かったのに。
「……だったら、尚更だよ」
ハンディカメラ越しに、屋久が淡々と答える。
「姫が、大事に思ってるものでなければ……お仕置きにならないだろう?」
神妙な面持ちで僕の前に膝立ちをした基泰が、胸元の布地を抓み上げる。反対の手で、カミソリを構えながら。
「……動くんじゃ、ねぇぞ」
ドクン──!
浮かせた布地に当てられる、刃先。
不気味に光るその刃が、ヤケに拡大して見え、僕の視界全てを覆い尽くす。
「もし暴れでもしたら、手元が狂って……下まで切っちまうかもしれねぇからな」
「……」
一瞬、息が止まる。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、……
心臓を打ち破る程の、強い鼓動。
無意識に大きくなる震え。
冷えていく身体。
見開いたまま、閉じ方を忘れた二つの瞳──
逃げる事もできず、身体が硬直し、ただ息を潜めて事の成り行きを見届けるしかない。
ドクン……ドクン……
……ハァ、ハァ、ハァ、
「──!」
不意に。
背後から伸びてくる、無数の黒い手。
それが、容赦なく震え脅える僕の身体を掴み、後方の闇へと引き摺り込もうと強い力で引っ張る。
はぁ、はぁ、はぁ……
瞬間──視界がグニャリと歪み、忘れたいあの忌々しい過去へと意識だけが飛ばされていく。
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