シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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ハイジ編

120.

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……だけど、どうやって………?


もう一度、腕を引っ張ってみる。
無駄な行為だと、解っていながら……


ガッ、ギギ…ギ……

静かな空間に、虚しく響く金属音。
手首に当たる部分には、黒い毛皮のようなものが覆われていて、多少乱暴にしでも痛くはない。多分これも、SMクラブの玩具のひとつなんだろう。

輪っかから手が外れたら……と、手のひらを窄めながら引っ張ってみる。この行為も、無駄なんだろうと思いながら。

……はぁ、…ぅ……

力尽き、両腕をベッドに落とす。
ぼんやりと映る、天井。


……どうしよう。

どうやって、これを外そう。
ここから逃げよう。


遠くから聞こえる小鳥の囀り。
次第に明るくなっていく天井。
見れば、カーテンを照らす陽射しが、さっきよりも強くなっていた。

「……」

ハイジが帰ってくるまでに……って思ってたけど。この拘束を解いて貰ってからの方が、いいのかもしれない。

逃亡中ならきっと、まだチャンスはある。
あんな事があったから、手錠はされたままかもしれないけど。でも、今みたいに身動きできない程ではない筈だから。

利用するのは、タクシーか。電車か。
どうやって足が付かずに逃げるのかは、解らないけど……

「……」

ちゃんと、隙をついて逃げ出せるだろうか。
ハイジから、逃げ切れるだろうか。

そっと、瞼を閉じる。
その裏に浮かんだのは、優しげな光を揺らす、ハイジの瞳──


──ズキン、

その刹那、胸が痛む。
決意したばかりの心が高鳴り、大きく揺さぶられてしまう。


『“逃げない”んじゃなくて、“逃げられない”のかもね』──僕を試すような声で語りかける、記憶の中の吉岡。

黒革の首輪には、見えないリードが付ついていて。そのリードの先を、ハイジがしっかりと握っている。

僕は……完全にハイジから逃れる事なんて、できないのかもしれない。

もし、上手く逃げられたとしても。裏切られたと感じたハイジは、きっと今以上に荒れて──傷害事件を起こしてしまうんじゃないか。

僕のせいで。
関係の無い人達を巻き込んで。
警察沙汰にもなって。

もし──また殺人事件最悪な事にでもなったとしたら……


「……」


最悪な事ばかりが頭の中をグルグルと回り、胸の奥を苦しくさせる。

このまま、ハイジと一緒に逃亡先でひっそりと暮らすか。
それとも、ハイジから逃れるか──

ここに来て、また最初の選択肢にまで戻ってしまう。


「……」


胸中に、罪悪感が渦巻く。

ハイジと僕にとって……何が一番良いんだろう。

大きく深呼吸をひとつし、ドアの方へと顔を向ける。

シャラ……
首輪の鎖が、黒革の上を滑って音を立てる。まるでそれが、当然かのように。


───ガチャンッ

その時、玄関ドアの開く音が遠くで聞こえた。




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