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菊地編
169.
しおりを挟む想像通りの車内。
窓ガラスにフィルムが貼られている辺りで、何となく嫌な感じはしていた。
三列シートの一番後ろの席に積まれた、何が入ってるのか解らない数個の段ボール。その上には、乱雑に置かれた数々の服。端のよれた雑誌。幾つものコンビニ袋。その袋は、縛った口から割り箸が半分程突き出たものばかり。
車の芳香剤と、香水と、煙草と、……他にも何かが混ざったような、異様な臭い。
窓を開けて新鮮な空気を取り込みたいけど、異様な雰囲気にのまれて言い出せない。
「……あー、さくらちゃんてさぁ……」
運転している男が、何かを思い出したように口を開く。
黒の短髪。片耳ピアス。和服柄の襟付きシャツ。首元のタトゥー。左手にはゴールドの腕時計。加えて、咥え煙草。
何処からどう見ても、柄が悪い。
「『姫』って呼ばれてんだってね」
信号に引っ掛かった訳でもないのに、山道を下りながら、助手席の後ろに座る僕の方をチラッと見る。
「あー、それ、蕾の弟が言ってたヤツだろ?」
可笑しそうに笑いながらそう言ったのは、僕の右隣に座る男。
耳たぶ辺りまでかかる金髪。そこから覗く数個の耳ピアス。黒のキャップ。グレーのフードが付いた、赤と黒のチェックシャツ。細縁の丸めがね型サングラス。
「姫は姫でも、“囚われの姫”ってカンジだよな……」
口の片端をクッと持ち上げ、僕に顔を近付けまじまじと見てくる。
「おい、愁。さくらちゃんは、菊地さんの大事な“お姫様”なんだぜ。……迂闊に手ぇ出すんじゃねーぞ」
「わぁーってるって。オレ、そこまでバカじゃねーから!」
運転している男に釘を刺されながらも、隣の男──愁は、一定の距離を保ったまま黒目を素早く上下させ、僕を舐めるように見た。
「………あー、しっかし堪んねぇ……
セーラー服着させて、スカートの裾持ち上げさせて……オレの上に跨がって腰振ってくれたら、……最っ高に絶景だよなぁ……」
前の二人を警戒しつつ……僕の首元に鼻先を寄せ、クンッと嗅ぎながら吐息混じりに囁いてくる。と同時に、ふわっと掛かる生暖かな吐息。
……乗るんじゃなかった。
余りにも柄が悪くて、必然的に五十嵐に頼るしかない状況になっている事も、最悪……
「そういえば、真木先輩。……八雲先輩と蕾先輩は……?
今日は珍しくいないんですね」
助手席にいる五十嵐が、運転手の男──真木に話し掛ける。
「……新人教育だよ」
「え、……あっ、あの新しく入った……類って人のですか?」
「そう。アイツな、蕾の弟のくせしてセックスを異常に毛嫌いすんだよ。
だから、その調教。……っつーより、洗礼か。
──昨日の夜、引っ掛けた女をホテルに連れ込んで、類に夜通しヤらせたんだとよ」
……え……
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