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菊地編
228.
しおりを挟む寛司の言葉に、心のド真ん中を打ち抜かれる。
瞬間──何かが弾け、込み上げ、殻を破って色んな想いが溢れて……止まらない……
「………ぼくも、…すき……」
寛司の耳元に寄せた唇から、小さな吐息と共に零れる声。
それが、外耳から脳内にも響いて……自分でも驚く。
……そっか。
僕、寛司の事……好き、だったんだ……
複雑に絡み合っていた糸が、スルッと解ける。
今まで、何で……気付けなかったんだろう……
目の前の視界がパッと開き、眩い程の光に目が眩んだような気がした。
「好きだよ……寛司……」
瞳の奥から熱いものが溢れ、瞼の縁から零れ落ち、寛司の肩口を濡らす。
「……さくら」
僕の身体をギュッと抱き締め、寛司が堪えるような安堵のような息を、ゆっくりと吐く。
重なる心音。重なる呼吸音。
心地良い温もりの中で、僕は寛司という居場所を見つけた。
もう、離したくない……
僕の顔を覗き込む、寛司の瞳。
瞼が薄く閉じ、そっと寄せられた唇が、濡れた頬を優しく拭う。
「やっぱ、可愛いな……お前」
嬉しそうな顔。少し、照れてる……?
「素直で、純粋で……」
言いながら、寛司が僕の横髪を搔き上げる。
手のひらの温もりを感じながら、寛司を見つめた。
「……素直、なんかじゃ……」
性悪で、捻くれて。
こんなにも性格悪いのに……?
「素直だよ。……三歳の子供みてぇにな」
「……ばか」
「はは。それぐらい、純粋だって意味だ」
寛司が目を細めて笑う。
「前にも言ったが。こんなアンダーグラウンドな世界にいて、汚れてねぇのが不思議なぐらいだ」
「………そんな事、ない……」
もう充分、汚れてる……
僕は……僕のせいで、色んな人を傷つけてきたし、人生まで狂わせてしまった。
それにこの身体だって、もう、充分に汚れてる……
「………いや。綺麗だよ」
僕の悲観的な心情を切り裂くように、寛司がハッキリと口にする。
「……え」
「もっと自信持てって、言ったろ?」
優しい囁き。
その唇が迫り、僕の唇をそっと塞ぐ。
それでも。
別に、不安が消えた訳じゃない。
まだ自信もない。
……こうして愛される事にも、まだ慣れてない。
『綺麗だよ』──脳内でリフレインする、寛司の声。
……許されない気がする。
僕が歩んできた人生も、僕自身も。
僕が望む幸せは、いつも手中をすり抜け……硝子細工のように壊れてしまうから──
「………うん」
寛司の身体をギュッと抱き、そっと目を閉じれば、まだ残っていた涙が一筋零れ、二人の間に落ちた。
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