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五十嵐編
272.手の温もり
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「……なぁ、工藤」
カラオケ店を後にし、あてもなく街中をぶらぶらと歩いていると、視界に映った商業ビルの大型液晶ディスプレイに、瑞々しいレタスと厚みのあるパテを挟んだハンバーガーの公告映像が流れた。
満面な笑顔の五十嵐が、立てた親指でそれを差し示す。
「これ、食おうぜ!」
「……」
同じビルの一階、路面店であるハンバーガーショップ。お昼時ともあって、ガラス越しからでも店内の混雑ぶりが覗えた。
空いてる席なんてあるんだろうか。
それでも構わず、五十嵐が僕の手を掴んで引っ張った──時だった。
「………あっれぇ。五十嵐じゃーん!」
直ぐ後ろから聞こえる、嫌な感じの声。
五十嵐の肩が大きく跳ね、僕の手を強く握る。
「へぇ……昼間っからデートとはねぇ」
「隅に置けねぇなぁ、五十嵐も」
クツクツと笑いながら、三人の男が背後からゆっくりと姿を現す。
サイドを刈り上げ、高い位置で後ろに束ねた長い黒髪。十字架のシルバーピアス。
こめかみ辺りに蛇の刺青が入ったスキンヘッド。黒の丸サングラス。
五分刈りの金髪。顎髭。青系のアロハシャツ。ゴールドの腕時計。
周りの一般人とは明らかに違う雰囲気を漂わせた三人は、何処からどう見ても、五十嵐の友達には見えない。
「妹?」
「可愛いじゃん」
「……いや。スレイブちゃん、だね。
まぁ、いずれにしても………かぁいいなぁ、やっぱ」
長髪の男が、ニヤつきながら自身の首元を親指で指す。
それを確認した他の男達が、口元を歪めながら黒眼を上下に動かし、僕を舐めるように見る。
その目付きが厭らしくて、気持ち悪い。
半歩引き、五十嵐の陰に隠れ、繋いだ手を握り返す。
「なぁ、五十嵐。……俺らにちょっと、その女貸せや。
隅々までたっぷりと、可愛がってやるからさぁ……」
金髪の男が、細い目で五十嵐を上から睨みつける。
ニヤついた口元が、気持ち悪い。
「……なぁ、五十嵐ぃ」
その隙に、スキンヘッドが僕の傍らに回り、手を伸ばす。
瞬間──五十嵐が、僕の手をグンッと引っ張る。
「逃げるぞ!」
「……っ」
男達の間を、風のようにすり抜ける。
腕が千切れてしまいそうな程強く引っ張られ、痛みが肩に走ったものの……それでも必死に足を前に出し、懸命に走る。
「──ゴラァ、待て!」
人で混み合う商業ビルに入れば、出入口近くのエレベーターが目に飛び込む。
チン、と鳴り、静かに開くドア。降りてくる人達を掻き分け、強引に飛び乗る。
後からぞろぞろと人が押し寄せ、ぎゅうぎゅう詰めになる小さな箱。その奥で、五十嵐がその盾になるよう僕の前に立つ。
繋がったままの手。
トンッ、と僕の顔の真横に付いた、もう片方の手。
間近にある瞳。交差する息。
押されて密着する身体。匂い。熱気──
五十嵐の顔がスッと近付き、耳元に唇が寄せられる。
「………ごめん、」
「……」
五十嵐の、筋ばった男らしい腕。厚い胸板。広い肩幅。
……前にも感じた事がある。とても同い年とは思えない体つきだって。
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