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五十嵐編
284.
しおりを挟むギシギシギシ……
スプリングの利いたベッド。
静寂を切り裂くように、軋んだ音が同じリズムを刻む。
壊れる………壊、される……
男の腰の動きが更に激しさを増し、嗚咽混じりに苦いものが、喉奥から迫り上がってきた──時だった。
「………なんだ。もう、ヤっちゃったんだ」
バタン、とドアの閉まる音。
足音と共に響く、男の低い声。
呆れたようなトーンでありながらも、その感情は全くと言っていい程感じられない。
「あれほど『待て』って言ったのに。……しょうがない子だね」
ギシッ……
フードの男の背後にある暗闇から、スッと白い手拭いが浮かび上がる。
俊敏に覆い隠される、男の両目。
クンッと引っ張られ、男がのけ反りながら後ろへと倒されれば、必然的に僕の後孔を穿つ男の肉欲も一緒に引き抜かれる。
「……」
何が起きたのか……解らない。
一体、何が……
「……ああ、そういう事」
男の居なくなった暗闇から、ぼぅ…と浮かび上がる顔。
放心状態の僕を冷ややかに見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべるそれは、金髪蒼眼の──
──麗夜
手を伸ばし、僕の首元にある黒革の首輪を指で引っ掛ける。
「ハイジに付けられたコレ、まだ外して無かったんだ」
「……」
「それに……」
折り畳んだ両膝の内側を引っ付け、内腿を閉じて秘部を隠す僕の足に視線を落とす。
「こんなの見せつけられちゃったら、『待て』なんてできる訳ないよねぇ。……蕾」
目隠しをされてすっかり大人しくなった男を、顔を歪めた麗夜がよしよしする。
……蕾……
蕾って……
……あの、蕾……?
真木の車に初めて乗った時──愁がモルの事を『蕾の弟』だと言った。
それに、確か、深沢のパーティーで……響平の口を割らせる為に、蕾を宛がったと知った深沢が、そのやり方は『ゲスい』とまで言って──
「……」
……ふぅ……はぁ……
未だ身体は欲情を宿しているのか。先程のような息遣いがずっと続いている。
だけどもう、さっきまでの衝動的な行動は見られない。
だらしなく口を半開きにしたまま、じっとご主人様の命令に従い、大人しく座って『待て』をしている。
まるで、従順な飼い犬のように。
「……」
……この人が……モルのお兄さん……?
信じられない……
性に貪欲な人なんだろうとは思っていたけど……
まさか、こんな……壊れた感じの人だったなんて──
「……この子はさぁ……『黒くて長いもの』に、異常に性的興奮を覚えんの」
「……」
僕の心情を察してか。のんびりとした口調で麗夜が語り出す。
「そういう、病気。……抑制不可能なんだよ。
対象物が目に飛び込んでしまえば、老若男女誰彼構わず襲いかかって、合意も無しに性行為に及んでしまう。
少年院でもその体質を抑えきれず、教官を襲っちゃってさぁ。……それから院内は『黒くて長いもの』が一斉排除されたらしいよ」
「……」
「でも、幾ら安全な空間が用意されたって。そこから一歩外へ出ちゃえば、対象物で溢れかえっている。簡単に目に付くのは当たり前だ。
この子はね、そんな世の中に上手く適応できない、とても可哀想な子なんだよ」
言いながら、蕾の頭をよしよしと撫でて宥める。
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