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五十嵐編
294.
しおりを挟む「……良いねぇ。
こういうリアルな表情を見たいって変態共は、結構いるからさぁ」
完全に状況を楽しんでいる、悪意で固められた声。
その声に反応し、五十嵐が勢いよく振り返る。その時、少し上体を持ち上げたせいか……ぼんやりとした視界の中に八雲が映る。
ここからでも解る、冷ややかな蒼眼。無感情ながら僅かに歪む口元には、含んだような笑みが見え隠れしていた。
「覚えてるよね。凌のやってた仕事。
何処にも居場所のない少女達に優しく声を掛け、小遣いと住む場所を与える代わりにAVに出演して貰う。
──世の中には沢山いるんだよ。未成熟な少女と、どうにかなりたい大物や著名人がさ。
だけど、迂闊に手は出せない。未成年は法律で守られているからね。
どんなに裏で手を回して被害者に金を積んだとしても、一度表に出てしまった情報は、人の記憶から消し去る事は出来ない」
「……」
大物達の名簿が載った、顧客リスト──その一部がメディアに流出。権力者からの強い圧力によって、直ぐに揉み消された。
……そう、モルが言っていたのを、頭の片隅で何となく思い出す。
「そこで立ち上げられたのが、素人少女を売りにした、大物専用の会員制デリバリーヘルス『J- Angel』。
撮影されたこれは、単なる裏モノAVじゃない。所謂、プロフィール動画だ。
風俗店に出向いた客が、性処理相手を写真やプロフィールを見て選ぶのと同じ。会員にのみ閲覧できる配信動画から気に入った子を指名すれば、特定の場所にてその子とマッチングできる。……後は煮るなり焼くなり、お好きにどうぞってシステムだ」
「……」
売り捌いていたのは、裏モノAVじゃなく……少女達の性の方──
「その中には、当然男色家もいる。
若葉の血筋を引く君なら、きっとソイツらに寵愛されて……今頃は幸せに暮らしていたかもしれないのにね……」
「……」
「残念だよ。
君に執着していた動画編集班から救い出して、住む場所も仕事も凌が与えてやったのに。……その恩を、仇で返しちゃうんだからさぁ」
カチャン……
ハンディカメラの液晶画面を閉じ、得意気な表情を浮かべた八雲が、ゆっくりと此方に近付く。
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