シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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五十嵐編

312.

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……何がそんなに可笑しいんだろう。
大きく口を開けて笑う吉岡を、静かに睨みつける。

「そんな事聞いて、どうすんの? またレイプでもして貰う?」
「……」
「いいよ。それなら適任である蕾を、呼び出してあげるから」

僕を揶揄する目つき。
一見柔らかい印象を与える表情なのに、纏う空気はピンと張り詰め、嫌悪しか感じられない。
それに。五十嵐については何も答える気が無いらしい。

「三日だよ!」
「……」
「三日、足止めを喰らった」

スッと立ち上がった吉岡が、備え付けの冷蔵庫からペットボトルを取り出す。

「こうなる事を想定して、五十嵐には姫の体調管理まで任せてたのに。
菊地に引き渡した日──ハイジのせいで姫が痩せ痩けたから、食事はちゃんと摂らせるようにってね」

パタンと冷蔵庫のドアを閉めた後、飲みかけだったらしいそれを一気に煽る。

「……まぁでも、これも想定内か」

飲み終えたペットボトルを、背の低いゴミ箱に放る。
カラン、と響く、乾いた軽い音。

「明日には出発する。
それまでには、自力で歩けるようにしておくんだよ。……お姫サマ」
「……」




ぶら下がる点滴の袋。
照明の点いた天井。

……確かに、今すぐ僕を始末するつもりはないらしい。
囚われてからずっと感じていた、身体の怠さが消えている。腕を上げてみて気付く。重いのに、軽い。何だか不思議な感覚。

抗生物質とブドウ糖液──確か、点滴の中身はそう言っていた。
いつからちゃんと、食事を摂っていなかったんだろう。
『もっと食え』って、良く寛司に言われてた。……確か、ハイジにも。
与えられたものは殆ど口にしていなかったし、してもほんの少しだけ。
それ以前からも、余り食べてなくて。お気に入りのジーンズが緩くなっていたのを思い出す。
一体いつから、僕はまともに食事を採らなくなったんだろう……

その結果が、栄養失調……って。
なんか……笑っちゃう。
死にたいって思ってたのに、こうして生かされちゃうんだから。やっぱり思うようにはいかないんだね……

窓の方に目を向ければ、カーテン越しに射し込む明るい光。
でも、状況が好転した訳じゃない。
囚われの身である事に、何ら変わりはない。

「……」

どうして、僕を生かし続けるんだろう。
八雲の言う次の目的って、一体何……?
僕を、どうしたいの……?

まだ余り働かない頭のまま、先程部屋を出て行った吉岡の話を思い返す。


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