シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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キング編

399.

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×××


長すぎる袖を肘上まで捲り上げるものの、腕を下ろす度にストンと落ちてしまう。

「……可愛いな、お前」

声に釣られて見れば、隣に座る基泰が僕の様子を微笑ましげに見つめていた。


車内にある料金メーター。その数値がカチンと上がる。
タクシーの運転手がカーラジオのボリュームを上げれば、パーソナリティの軽快な声が車内に響く。


「ほら、腕貸してみろ」
「……」

言われるがままに腕を出せば、手首が見える位の長さまで丁寧に折り畳んでくれる。

「細ぇ腕」
「……」
「何か、エロいな」
「……え……」
「こうしたら、裸に俺のシャツ被ってるようにしか見えねぇ」

そう言いながら基泰が手を伸ばし、開いていたシャツの前を合わせてみせる。

「……」

ふわりとする、基泰の匂い。
じっと基泰の顔を見つめていれば、不意に向けられる……基泰の黒眼。


───ドクンッ、


目が合った──ただ、それだけなのに。
心臓が、大きな鼓動をひとつ打つ。
合わせた瞳は穏やかで、落ち着きながらも何処か、色を含んでいて……

「……」

やっとの思いで目を伏せ、その視線から逃れる。


──震える指先。

どうしたんだろう。
何か……おかしい。

お仕置きされてから………いや、違う。
あの箱庭に連れて来られた時から、何かおかしい。
ヘンな夢を見たり、触れて欲しいと、身体の深部が疼いてしまったり……


……まさか……

この身体の中に流れてる、若葉の血のせい──?


「……」






歩行者信号から流れる、鳥の鳴き声。
寂れた電気屋から漏れる、懐かしいCMソング。
駅方面から聞こえる、構内放送と発車ベル。
疎らに行き交う、人々の足音。話し声。
田舎町の喧騒。

一体、何処へ行くつもりなんだろう……
駅前のロータリーでタクシーを降りてから、裏通りに入った道を暫く歩いている。
古びた雑居ビル。パチンコ店。コインパーキング。表通りの商業施設や飲食店が立ち並ぶ賑やかさはなく、歩く人ももう殆ど見掛けない。

「……」

逃げようと思えば、簡単に逃げられるのかもしれない。
でも……箱庭部屋に蕾を残して逃げる訳にはいかない。

──それに……

斜め前を歩く、基泰の背中。
それが視界に映る度に、風に乗って匂いがする度に……そんな考えは萎んでいき、大人しく後をついていくしかなくなってしまう。

まるで見えない首輪を括られ、見えないリードを引かれているかのように。


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