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キング編
420.
しおりを挟む「……」
身構えながら下から睨みつければ、イチの黒眼が素早く上下に動く。
「………なんだ、もう忘れたのかよ」
歪めた口から発せられた……何処か小馬鹿にしたような、呆れたような声。
ジャンパーのポケットに両手を突っ込み、顎を少し持ち上げ、威嚇するように僕を見下ろす。
「クク……仕方ねぇな、このお姫サマは。
………前に会ったろ? クラブのVIPルームで」
「………え」
予想外の台詞に、頭が混乱する。
この切迫した状況下で必死に脳を働かせるものの、ぐちゃぐちゃに引っ掻き回されるだけで……
「……」
クラブ──クラブって……
……そんなの、人生で一回しか入った事がない。
まだハイジに囚われていた頃──何も知らされずに連れて行かれた、あの一回だけ………
──まさか。
まさか、VIPルームって……あの時のクラブハウスの──?!
「──!」
『おい、イチ! 簡単に食えるメシと、スポドリ何本か用意しとけ』──基泰が発した台詞が、鮮明に蘇る。
『ヤス』『ナリ』──キングの二人は、お互いを名前の下二文字で読んでいた。
──それじゃあ、『イチ』って
まさか………
「……」
それまでバラバラだった点と線が、勝手に結びつく。
心臓が煩い程に暴れ回り、末端である指先にまで強い脈動を感じる。……なのに、手足は痺れ、全身からサッと血の気が引いていく。
気分が、悪い……
瞬きも忘れ、ただ思考だけがグルグルと同じ場所をずっと駆け巡っている。
「……」
───太一、だ。
何で……
何で今まで、気が付かなかったんだろう。
スキンヘッドに刺青──あの頃とは随分と見た目が変わってしまったけど、面影なら確かにちゃんとあった。
声や雰囲気だって、太一そのものだったのに……
「て事で、姫。VIPでの続きを始めようか」
「──!」
片手をポケットから取り出し、肩程の高さまでサッと上げる。
と、それを合図に、太一の背後に控えていた男達が勢いよく雪崩れ込む。
はぁ、はぁ、はぁ……
「………ゃ、めろ……!」
床に尻餅をつき、片手で頭を押さえていた蕾が立ち上がり、男達を止めようと体当たりする。
その姿が、揺れる視界の端に映り込む。
しかし、それをものともせず──飢えた獣のように目の色を変えた男達が、文字通り僕に飛び掛かった。
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