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しおりを挟む振り返ってみれば、そこにいたのは──白衣の裾を翻して近付く化学教師。
後ろで無造作に束ねた、襟足の長い黒髪。細身で長身。丸い細渕眼鏡。柔らかな雰囲気を纏った笑顔。
「騒がしいから、何かあったのかと思って……」
そう言いながら、チラリと職員室を尻目に見る。
きっと以前の僕だったら、頑なに心を閉ざして何の反応も示さずにいただろう。……でもこの人は、他の先生とは違う。
「俳優、樫井秀孝のニュースは……知ってるかな?」
「……」
先生を見上げながら、こくんと頷く。
「その被害者が、この学校の生徒らしくてね。マスコミ関係者や、噂を信じた一般人からの問い合わせが殺到してるんだよ」
「……」
「一体、何処から湧いて出た情報なんだろうね」
眉尻を下げ、先生がふぅ…と溜め息をつく。
ガヤガヤ、ガヤガヤ……
何時にも増して、騒がしい教室。
後ろのロッカー。ベランダ入口。廊下側の掲示板前。教卓付近。
相変わらず、同じ顔ぶれ同士で固まって屯っているクラスメイト達。
「職員室、マジ地獄だな」
「裏門にマスコミ来てるってよ」
「えっ、マジ……?」
「じゃあオレら、インタビューされちゃうんじゃね?」
「マジかよ!」
「……」
ゲラゲラと笑いながら騒ぐ彼らを尻目に、窓際中央の自席へと向かう。
「ニュース見たぁ?」
「見た見た!」
「樫井きゅんのイメージ、完全に壊れたよぉ~」
「うん。……なんか、気持ち悪いよね」
「性的対象が男とか」
「しかも未成年って……。マジで性癖ヤバいわ」
自席の椅子を引き、手のひらを返すように樫井秀孝を軽蔑する彼女達を睨む。
「……」
樫井秀孝が本当にシたかった相手は、アンタ達の大好きな『アゲハ王子』だ──そう、心の中で悪態をつく。
跡形もなく綺麗に消え去った、鬱血痕。窓から射し込む太陽の光が、剥き出された首筋を照らす。
『 ごめん。さくらが可愛くて、止められなくて……』
媚薬のせいだったとはいえ、はしたない声を上げ、樫井の腕の中で淫らに感じさせられてしまった。
「……」
早く忘れたいのに。
世間がそれを許さない。
僕がその被害者だと知られるのは、時間の問題だろう。
そしたらきっと、僕の中に秘めたものを曝かれ、引っ掻き回され……辱しめを受ける事になる。
溜まり場で、集団レイプを受けた時のように。
「……」
そしたらもう、この学校に来る勇気なんて、ない……
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