バタフライ・ナイフ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る4-

真田晃

文字の大きさ
2 / 80

2.

しおりを挟む


振り返ってみれば、そこにいたのは──白衣の裾を翻して近付く化学教師。
後ろで無造作に束ねた、襟足の長い黒髪。細身で長身。丸い細渕眼鏡。柔らかな雰囲気を纏った笑顔。

「騒がしいから、何かあったのかと思って……」

そう言いながら、チラリと職員室を尻目に見る。
きっと以前の僕だったら、頑なに心を閉ざして何の反応も示さずにいただろう。……でもこの人は、他の先生とは違う。

「俳優、樫井秀孝のニュースは……知ってるかな?」
「……」

先生を見上げながら、こくんと頷く。

「その被害者が、この学校の生徒らしくてね。マスコミ関係者や、タレコミを信じた一般人熱狂的ファンからの問い合わせが殺到してるんだよ」
「……」
「一体、何処から湧いて出た情報なんだろうね」

眉尻を下げ、先生がふぅ…と溜め息をつく。





ガヤガヤ、ガヤガヤ……

何時にも増して、騒がしい教室。
後ろのロッカー。ベランダ入口。廊下側の掲示板前。教卓付近。
相変わらず、同じ顔ぶれ同士で固まって屯っているクラスメイト達。

「職員室、マジ地獄だな」
「裏門にマスコミ来てるってよ」
「えっ、マジ……?」
「じゃあオレら、インタビューされちゃうんじゃね?」
「マジかよ!」

「……」

ゲラゲラと笑いながら騒ぐ彼らを尻目に、窓際中央の自席へと向かう。

「ニュース見たぁ?」
「見た見た!」
「樫井きゅんのイメージ、完全に壊れたよぉ~」
「うん。……なんか、気持ち悪いよね」
「性的対象が男とか」
「しかも未成年って……。マジで性癖ヤバいわ」

自席の椅子を引き、手のひらを返すように樫井秀孝を軽蔑する彼女達を睨む。

「……」

樫井秀孝が本当にシたかった相手は、アンタ達の大好きな『アゲハ王子』だ──そう、心の中で悪態をつく。


跡形もなく綺麗に消え去った、鬱血痕。窓から射し込む太陽の光が、剥き出された首筋を照らす。

『 ごめん。さくらが可愛くて、止められなくて……』

媚薬のせいだったとはいえ、はしたない声を上げ、樫井の腕の中で淫らに感じさせられてしまった。

「……」

早く忘れたいのに。
世間がそれを許さない。
僕がその被害者だと知られるのは、時間の問題だろう。

そしたらきっと、僕の中に秘めたものを曝かれ、引っ掻き回され……辱しめを受ける事になる。
溜まり場で、集団レイプを受けた時のように。

「……」

そしたらもう、この学校に来る勇気なんて、ない……



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...