バタフライ・ナイフ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る4-

真田晃

文字の大きさ
30 / 80

30.

しおりを挟む


そう吐露すれば、少しだけ胸のつかえが取れる。

「……幹生くんに?」

若葉の、少し驚いた声。
こくんと小さく頷いた後、怖ず怖ずと口を開く。

「その時、デジタルタトゥーの話を聞かされました。……もっと、警戒心を持った方がいいって」

両手の指先に力を入れ、ギュッと握り拳を作る。

「ここに引っ越してから、ずっと部屋に籠もってたから。もうそろそろ、元の生活に戻らないとって、思ってたのに。……外に出るのが、怖くて」
「……」
「でも、一歩踏み出す勇気を持てたのは……若葉が、御守りの鈴を僕にくれたから」
「……」

それに、雨も降ってたから。
傘で顔を隠せるし……何より、凌の住んでいたマンションを、視界から追いやれるから。

「なのに。そんな事言われたら、また……」
「……そう」

それまで静かだった若葉が、僕の言葉を遮るよう小さく溜め息をつく。

「そうね。勇気を出して外へ出たのに、そんな事言われたら辛いわね」
「……」
「ねぇ。さくらは、人から『好き』『嫌い』『無関心』の、どの感情を一番多く持たれていると思う?」
「……え」

唐突な質問に理解ができず、必死に頭を働かせる。


「正解は、『無関心』よ」


柔らかく、寄り添うような囁き声。肩口から顔を覗かせながら、僕の胸の前で交差する若葉の腕。その腕に力が籠められ、僕の身体をしっかりと抱き締める。

「あなたを『好き』な人が2割。『無関心』が7割。『嫌い』が1割。……だそうよ。
昔、お世話になった精神科医から聞かされたの。──2:7:1の法則って言うみたい」
「……」
「大丈夫。さくらが思ってる程、相手はそこまで感心を持っていないわ。……そんなに、脅えなくてもいいのよ」

不思議と……若葉の言葉が、それまで燻っていた僕の心を浄化してくれる。

「……」

確かに。
僕が他人に余り関心がないように、相手も僕にそこまで関心を持っていないかもしれない。
スーパーで鍵を拾ってくれた人だって、変な下心は無くて。やっぱり岩瀬が警戒するような人じゃないんだ。


「……うん」


俯き加減でそう答えれば、組んでいた若葉の腕が解かれ、僕の米神辺りをその手のひらが覆う。

こつん……、
そのままそっと若葉の方へと引き寄せられ、頭と頭が優しくぶつかった。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...