67 / 118
第三章 パパ
67.
しおりを挟む
「………返して、下さい」
鉛を飲み込んだ様に、心が重苦しい。
騒ぎ立てる訳でもなく。泣き寝入りする訳でもなく。ただ、感情を押し殺す様にして淡々と言葉を吐く。
「ねー、果穂ちゃん。こういうイケナイ事してんの、将生は知ってんのかなぁ?」
将生……安藤先輩の事だ。
ボブヘアの由美が勝ち気な表情で画面を見せる。
もう一人も、睨みつけるように私を見ながら口元を歪ませる。
「知ったらどーなるか、今から試してあげよっか」
「……いーね、それ!」
由美の提案に乗ったとばかりに、ロングヘアの子が口の両端を持ち上げる。取り出した携帯を両手で持つと、器用に2本の親指を高速で動かし、何やら打ち込み始めた。
「……」
別に、安藤先輩の事はどうだっていい。知られたって構わない。……けど。さっきから食堂にいる人達の視線が、チラチラと此方に注がれていて……それに耐えられそうにもない。
ざわめく空間。
嫌な汗。軽い眩暈。
早く携帯を奪い返して、さっさとこの場から立ち去りたいのに……
「………何を騒いでる」
突然声がし、私と取り巻き達の間にヌッと現れたのは──講師の菱沼。
細縁眼鏡の奥にある、目尻の吊り上がった瞳が由美に向けられる。
その冷たく射抜くような視線に、一瞬怯んだ表情を見せた由美が、誤魔化すように口元を緩ませる。
「……やだぁ、先生。見ないでよエッチ」
「これ、うちらのじゃなくて川口さんのだから」
もしかしたら見られただろう携帯を、押し付けるようにして私に返してくる。
「別に、君らが何をしてようが私にはどうでもいい。が……ここは騒ぐ所じゃない。もう少し静かにしてくれたまえ」
「はーい」
「すみませーん」
由美ともう一人が調子のいい返事をし、サッとその場を去っていく。それを見送った菱沼は、次に私の方へと顔を向ける。
相変わらず吊り上がった目尻のせいで、冷たい印象であるものの、由美に向けたそれよりも、何故か、柔らかくて温かみを感じた。
「君も。石原由美といい、大山美紀子といい……もう少し、交遊関係は選んだ方がいい」
「……」
その瞳が僅かに細められ、柔らかな光を含む。引き込まれるように暫く目が合った後、絡んだ視線がスッと外される。
何も答えなかった私に背を向け、菱沼が何の挨拶も合図もなく去っていく。
もしかして……助けてくれた……?
鉛を飲み込んだ様に、心が重苦しい。
騒ぎ立てる訳でもなく。泣き寝入りする訳でもなく。ただ、感情を押し殺す様にして淡々と言葉を吐く。
「ねー、果穂ちゃん。こういうイケナイ事してんの、将生は知ってんのかなぁ?」
将生……安藤先輩の事だ。
ボブヘアの由美が勝ち気な表情で画面を見せる。
もう一人も、睨みつけるように私を見ながら口元を歪ませる。
「知ったらどーなるか、今から試してあげよっか」
「……いーね、それ!」
由美の提案に乗ったとばかりに、ロングヘアの子が口の両端を持ち上げる。取り出した携帯を両手で持つと、器用に2本の親指を高速で動かし、何やら打ち込み始めた。
「……」
別に、安藤先輩の事はどうだっていい。知られたって構わない。……けど。さっきから食堂にいる人達の視線が、チラチラと此方に注がれていて……それに耐えられそうにもない。
ざわめく空間。
嫌な汗。軽い眩暈。
早く携帯を奪い返して、さっさとこの場から立ち去りたいのに……
「………何を騒いでる」
突然声がし、私と取り巻き達の間にヌッと現れたのは──講師の菱沼。
細縁眼鏡の奥にある、目尻の吊り上がった瞳が由美に向けられる。
その冷たく射抜くような視線に、一瞬怯んだ表情を見せた由美が、誤魔化すように口元を緩ませる。
「……やだぁ、先生。見ないでよエッチ」
「これ、うちらのじゃなくて川口さんのだから」
もしかしたら見られただろう携帯を、押し付けるようにして私に返してくる。
「別に、君らが何をしてようが私にはどうでもいい。が……ここは騒ぐ所じゃない。もう少し静かにしてくれたまえ」
「はーい」
「すみませーん」
由美ともう一人が調子のいい返事をし、サッとその場を去っていく。それを見送った菱沼は、次に私の方へと顔を向ける。
相変わらず吊り上がった目尻のせいで、冷たい印象であるものの、由美に向けたそれよりも、何故か、柔らかくて温かみを感じた。
「君も。石原由美といい、大山美紀子といい……もう少し、交遊関係は選んだ方がいい」
「……」
その瞳が僅かに細められ、柔らかな光を含む。引き込まれるように暫く目が合った後、絡んだ視線がスッと外される。
何も答えなかった私に背を向け、菱沼が何の挨拶も合図もなく去っていく。
もしかして……助けてくれた……?
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる