死にたがりな悪役令嬢

白湯

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〜*第2話-5*〜

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 その後戻ってきた父と継母には、慎吾が上手く言ったみたいでドア越しに「明日に備えゆっくりしなさい。もし体調が戻らないなら、私が引越しをしてくるから」と優しく声を掛け離れていった。

 血で汚れたシーツは慎吾が交換して持っていき、洗濯をしたようだ。

 痛みと羞恥心と憎悪がグルグルと頭を支配する。
 やっと、約1年の地獄を終えたと思ったら、義弟にこんな思いをさせられるなんて。

 どうして、私がこんな目に合わないといけないのか
 ようやく収まったと思ったら、また溢れ出す涙。

 2度と同じ思いはしたくない。明日にはこの町から出ていけるんだ。
 今後の生活は、望まれた人物像で過ごして生きていってやる。

*

*

 それからは極力家には寄り付かず、女子校・女子大に進む事で男絡みのトラブルはなく、周りの望む人物像で過ごす事で穏やかに過ごした。

 そして、無事社会人となりOLとして働き始めた時1人の男性と出会った。

 あの日から男を前にするとトラウマからか、萎縮するようになっていた。そんな私の教育担当として指導してくれる事になり、この人に迷惑をかけてしまったらどうしよう…と悩んでいたが、何故か彼の前ではそこまで萎縮すること無く、仕事を教えて貰うことが出来た。
 この人のもつ穏やかな空気感のおかげかもしれない。

ーーまぁ、だからどうって事じゃないけど。

 出会って数年後、その後もその人とは普通の先輩・後輩として接することも多く、新人だった私も色々な仕事を任されるようになっていた。

「お疲れ様です。神谷さん今宜しいですか?」
「うん。どうした~?」

 本当この緩さは変わらない。最初は緊張させない為かと思って居たが、これがデフォルトらしい。

「A社に送る商品のサンプルなんですが……」
「あー、その時はここの……」

 色々アドバイスを貰い、お礼を伝え離れようとすると

「本当…お前は出会った頃と全然変わらないねぇ」と珈琲を飲みながら、唐突に言われた。

「……神谷さんも変わらないじゃないですか。どうされたんですか?いきなり」
 書類を持つ手に少し力が入る、何かやらかしてしまったのだろうか。

「んー、まぁ俺も変わらないけどさぁ」

 ポリポリと気まづそうに頭を掻きながら、何か考えているようだ。

「んー、見てて痛々しいっていうか、心配になるんだわ。毎日淡々と業務を行い、人付き合いも言われれば参加するけど、自分からは絡まないだろ?」
「自分からコミニケションを取れと仰っているんでしょうか?神谷さんがそう言うならそうします。ご心配おかけしました」

 人付き合いなんて不要なのに。
 お辞儀をし足早にその場を後にする。定時を過ぎている事もありオフィスには人が余り残っていない。

ーー早く帰ってゆっくりしたい。

「ちょっ、違う違う、そう言う事を言いたいんじゃなくて。神崎!」

 グッと腕を捕まれ後ろに引かれる。その瞬間あの日な光景がフラッシュバックする
 途端に呼吸が乱れ、顔から血の気が引いていく。

「……離して、下さい」
「あ、すまん」

 直ぐに手を離してくれたので距離を取る。

「神崎…本当にすまない、大丈夫か?」
「はい…大丈夫です。申し訳ありません」

ーー情けない、情けない、情けない…本当にいつまで囚われているんだ。
 こんな自分が大嫌いだ

「よし、お詫びに今日飯を奢る!その資料まとめるのは明日俺がするから行くぞ」
「いえ、そんな必要」
「……頼むよ。お詫びしたいんだ」

そんな弱々しく言われたら、拒否出来ない…。

*

*

「何飲むか~、神崎酒飲めたっけ?カクテルにしとくか?」

 ガヤガヤと賑わう店内。は半個室でゆったりと座れる座席タイプ。
 個室にならないようにとか、色々考えてくれたんだろうなぁ

「あ、そこまで強くないのでカルーアミルクを」
「……りょーかい。俺は生にすっかなぁ」

 注文を聞きに来た店員さんに適当に色々注文した後は、気遣ってくれているのか先程のことに触れず仕事の事とかを話して過ごし、穏やかな時間が過ぎる。食事も一段落したし、もうそろそろ解散になるだろうから謝っておかないと。漸く自分から話題にする決意をする。

「あの…神谷さん、オフィスでは」
「待て」

 いつもより僅かに低く響く声に、下げていた視線を目の前の人物に向ける。
 少し酔いが回っているのか、少し頬が赤くなっているが真剣な瞳をしていた。

「お前が…神崎が謝ることじゃないだろ?俺が不躾に変な話題を振ったからだ。すまん…そしてセクハラまがいの事までしてしまった…」

 両手で顔を覆い、ズーンと効果音が見えるほど落ち込んでいる姿に胸が痛む。

「そんな神谷さんのせいじゃないですよ。落ち込まないで下さい。…あれは私の問題なんです…」

 キュッと右腕を握りしめる。そう…あの日から右腕を触られると、条件反射のように拒否反応が出てしまう。

「…………その顔」
「えっ?」
「その顔をみて…忘れられなくてな。いつもは凛としてるのに、ふいにそんな顔をする時があるんだ。それが気になってなぁ。気付いたら目で追ってた」

 そう言うと神谷さんは、いやはや、と照れ隠しをするようにビールを口に含む。

「んでー、まぁ、どうしたら笑ってくれるかな?何かしてやれないか?とかって考えて居たら…神崎の事を好きになってた。」

 心臓がドクンと大きく高鳴る。
ーー私を…好き?

 私にあんな事をしたいと…思っているの?
 顔を見る事が出来ない…右腕を掴む手に更に力が入る

「……すまない。迷惑だったよな?」

「……あ、その、ごめんなさい」

 どうしよう…顔を上げると傷付いた神谷さんがいるのだろうか。
 そう、きっとあれが地獄の始まりだった。上手に傷付けないよう、断らないと

「神崎」

 グルグルと考え込んでいると、あまりにも穏やかで優しい声。
 反射的に顔を上げると、優しく笑う神谷さんの姿があった。

「すまん。困らせるつもり…は嘘だな。全く意識されてないのは知ってたから、困るって分かってたけど、意識して欲しくて言ったから。」
「…」
「あ、でも安心してくれ?振られたからって私情は仕事に持ち込まない。今まで通りだ。……ただ、嫌かもしれないが、アプローチはさせてくれないか?意外と俺は諦めが悪いからな。」

 頭をポリポリと掻きながら、いたずらっ子のように笑う姿に、無意識に涙が溢れた。
ーーまるで太陽みたいな人だと、漠然と思った。

「すまん…そんなに嫌だったとは」
「違います」
「……え?」

 こんなに優しく、2人きりでも嫌悪感を抱かず入れる人は他には居ない
 そして、こんなにも私の気持ちを優先して、想ってくれる人もきっと居ない

「…嬉しいですよ。その気持ちには答えられないんですが。…それでも良ければ」

 久々に心から笑えた気がする。
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