ホームズとワトソン

砕田みつを

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「それにしても、きれいな庭ですね~」

「あら、ありがとうございます。毎日手入れを欠かさない職人たちも喜びますわ。名探偵の助手ともなるとこれくらいのものは見慣れているかと思っていましたわ。」

「いやいや、そんなことないですよ。うちのホームズさんは案外貧乏性なので。・・・ところで、実際のところ維持するためにはどのくらいの費用がかかるんですか?」

「経理担当はわたくしではないので、はっきりと申し上げることはできませんが・・・500は難くないかと・・・」

「ほー、500ですか。それまた大層な金額ですねぇ。」

「あぁ、すみません、来客を前にして決して自慢をしたいというわけではないのですが。」

「構いませんよ、婦人。僕から聞いたことですし。それに、これだけの豪邸に住まわれている時点で自慢だとかそんな次元ではないですからね。」

「はは・・・」

「ただ・・・」

「ただ・・・?」

「それほどの金額がどこからわいて来ているのか、については疑問がありますね。」

「わたくしの夫が稼いだお金で」

「旦那さんは5年前に他界されていらっしゃいますが旦那さんの遺産だけでここまでのモノを維持、開発出来るのでしょうか?」

「そ、それは・・・」

「更に、この庭が増築され、華やかになったのは昨年のことです。資産は減る一方のはずなのにより多くのお金を『この庭』にかけることが出来るのはやや不自然じゃありませんかね?」

「・・・」

「サントス邸がここまで豪華で尚且つそれを維持できている理由はもっと別の所にあると僕は推測しているのですが、いかがでしょう?

そうですね・・・例えば、遺産の虚偽申告とか。 」

「なっっっっっ」


「旦那さんの遺産を少なく申告すれば税として納めなければならない金額は比例して少なくなります。そうなればより多くの金額を自由に動かせる。恐らく、昨年迄は申告した金額に見合うように少ない資産運用を行っていたようですが、もうばれないだろうと一気に使った結果が昨年の増築だった、といったところでしょう。」

「そ、そんなデタラメなことおっしゃらないでください!!!いくらなんでも酷すぎます!」

「デタラメなことだなんて強く出ますねぇサントス婦人。
僕は知ってますよ?この家にはまだまだ眠っている資産があることを・・」

「!?」

「ここ最近のサントス邸の使用人たちに話を聞きました。婦人がやけに気にしている邸宅内部の安全管理、婦人と親しい関係にある使用人の突然の解雇、その他もろもろ内部の悪事も。」

「・・・なんてこと・・・」

「安心してください婦人。まだこの件は警察に話していません。」 

「え?」

「言ったでしょう?僕は婦人の話を聞きに来ただけですって。」

「そ、それはおっしゃっていましたけど・・・」


「そもそも、僕の仕事じゃないんですよね、これ。ホントは名探偵ホームズが解決するのが筋ですから。」

「は、はぁ・・・」

「だからまあもう少しお話しましょう。婦人。この家に眠ってる資産について、とか正しい生き方についてとか。」

「それはできません!」

「強情だなぁ。まあいいですよ。時間はまだありますから。ほら、お茶いれるんで座っててください。」

「いや、わたくしの家で何を」

「まあまあそういわずに、これでも僕、お茶をいれるのには自信があるんですよ?」

「僕の正義を婦人に見せて差し上げます。」

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