青い春は霞まない

砕田みつを

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プロローグ

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また、春がやって来た。

部屋の窓に映る桜の木が揺れている。

夕焼けと共に花びらが散る様子は正に眼望絶佳といったところだろうか。とにかく、美しい。

『桜の花びらが落ちる速度は秒速5センチメートル・・・』

自分の部屋で、無意識のうちに呟いていた。

昔、瑛太に教えられた豆知識だ。

思い返せば、中学の頃から瑛太は自信家で、ことあるごとに何処で仕入れた
かも分からない知識を披露していたっけ。

埃を被った勉強机に飾られている額を手に取る。

―あれからもう5年か―

俺が過ごした時間を一瞬だったと感じてしまうのと同じように、桜の花びらも秒速5センチで落ちた過去を一瞬だったと感じてしまうこともあるに違いない。かつて、かの有名なオリンピック―――――

『龍兄~ちょっと手伝って~』

はっ――――――
文学者被れな自分に酔っているところを妹に呼び戻される。

だがしかし、突然脳内で文学者を気取ってしまうという難儀な癖を患っている俺を、案外俺は嫌いじゃない。

『はーやーくー』

催促されている。

妹のことだ、きっと髪の毛を結うのを手伝ってほしいのだろう。若干気合いが入っている様子だ。

かくいう俺も懐かしい友達と会う手前、服装には細心の注意を払い、『THE・大学生』風な服装を心がけてしまってはいるのだが。

『はいよ~、ちょっと待ってろ。』

もう一度写真をじっくりと見つめた後、中学校の卒業写真が入れられた額を机に戻す。

俺の転機は、あの一年間に詰まっていた。
もうやり直すことは出来ない。
そう思うと、当時のことを思い出して、少し悲しくなる。
けど、後悔はない。今こうして自分らしく生きていけるのは、あの一年があったお陰だから。

ちょっと、あの頃のことを思い返すことにしよう。

ノスタルジーに浸るのは野暮ったいが、文学者であるならば、それもまた必要なことに違いない。
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