青い春は霞まない

砕田みつを

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16年目の春(1-1)

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4月、少年は長く険しい一本道をただひたすらに歩き続けていた。いや、まあ、それは俺なんだけどね。
俺、堺龍樹が通う火野中学校は、家から徒歩20分程度の所にある。
毎日毎日、険しい道を20分も歩き続けなければならないのは中学3年生にもなれば慣れたものではあったが、それでも面倒なことには変わりなかった。

『火野』。
それが俺の住んでいる地区の名前である。都市部から少し離れ、山の上にあるものだから、標高は自然と高い。お陰で空気は澄んでいるし、騒音や異臭といった都市部特有の問題に悩まされることはない、と大人達は言うが、16年もこの土地で生きてきた俺は、外界との接触が限りなく阻まれた、正に辺境とでも言うべき場所だとして忌み嫌っている。

その証明というべきか、この地区は少子化が進み、俺が通う火野中学校の生徒数は年々減り続けている。昔は都市部と張り合うほど大きな中学校だったらしいが、今では全校生徒が100人を切ってしまったそうだ。まあ、3年しか在籍していない俺からすれば、そんな変化はさほど気にするべきことでもないだろう。

俺は、ただ平穏にこの中学校を卒業できれば何も文句はない。

というのも、火野には保育園、小学校、中学校は存在するが、高校は無い。つまり自然と中学校を卒業すると都市部の高校に行かざるを得なくなるのだ。しかも都市部には公立私立混ざりあいの多数の高校が存在しており、学力によっても様々なランク分けがされているほどである。

別に学力が高い所に行きたいわけではないが、中程度より上の学力層なら将来にも困らないだろうというのが俺の現時点での考えだ。

だから、中学校でのコミュニティなんて必要ない。友達が居たって高校で離ればなれになる確率が高いんなら意味がない。

こんな風に考えて生活してきた中学校生活も今日から三年目を迎える。
まあ、友達は居ないに等しいし、やや肩身が狭いと言うか、楽しいことなどない二年間だったが、それも残り一年だ。

これが、いわゆる新学期の訪れに胸を膨らませるというやつだろう。
自分でもキモいと思うくらいに、俺はニヤリと笑みを浮かべた。



登校中の自己正当化がひとしきり終わった頃、目的の火野中学校にたどり着いた。

入学した当初は右も左も分からなかったが、今となっては我が家のようなものである。―――――玄関はあっちだな。

新品の上履きを鞄から取り出し、歩き慣れた廊下を進む。

新学期のクラスでの立ち振舞いをイメトレしつつ歩をすすめると、『3-1』と頭上に掲げられた教室の前に着いた。

ふーっ。

一呼吸置き、気持ちを落ち着け、教室のスライドドアに手をかける。

さぁ、三年目を始めよ―――――――
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