【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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ずんぐりスイートポテト2

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 そう、思っていたはずなのに。

 蝶の風まかせにも思える気まぐれはそれで終わらなかった。
 なんと彼は握手事件以降も度々声をかけてきたのだ。

 初めのうちはいい加減なやつだという印象しかなかったが、ナオくんのお兄さんというだけあって彼はかなり人好きのする人のようで、それもあっという間に覆えされた。

 下の名前で呼び合う気安さもさることながら、毎度あぶれてしまう体育のペアに名乗りをあげてくれ、二人一組の課題があると必ず誘ってくれる。
 しかし、むやみに纏わりついてくるということはなく、僕が放っておいてほしい時には決して現れない。
 逆に僕がちょっとくらい喋ってもいいかもと思っていると、みんなの輪から抜け出して会いに来る。
 空気を読んでいるのか、それとも単なる偶然なのかはわからない。それでも、人気者の実力は確からしく――ものの三日足らずで僕は彼にすっかり懐柔されてしまった。

 即落ち二コマ。そんなことある? ってくらいあっさり懐に入り込まれたわけだけど、あんなにかっこいい人に構われて落ちない方がどうかしている。

 あの悪印象は何だったのか。
 落として上げる作戦だったのかと疑いたくなってしまうほど。
 恩着せがましさもなければ、しつこくされることもない。

 晴人に話しかけられるようになってから、たまに彼のいる一団に目を向けるようになったが、うるさいのは彼を取り囲んでいる人たちだけで、その中心にいる彼自身は決して騒がしくしていないことに気がつくまでそう時間はかからなかった。

 だから彼が喧噪から飛び出して僕の方へ向かって来ても、あの賑やかなバカ騒ぎに変化はない。

 それをわかっていて、

「いいの?」

 目配せする僕はもしかしたらいい性格をしているのかもしれないけど、

「大丈夫」

 と返ってくることにすでに仄暗い喜びめいたものを感じ始めていた。

 久々にできた友達だからってちょっと独占欲が過剰に働いているだけかもしれないが、

「見てたでしょ」
「あ、バレてた?」
「志音はわかりやすすぎ」
「そんなことないでしょ」
「あるよ」

 長年こんな風に軽口を叩けるような存在なんていなかったために上手く距離感を掴みかねているだけなのかもしれない。

 それでも、晴人が僕を選んでくれたくれたという事実が嬉しくて、軽快な調子で会話がポンポンと続くのが楽しくて。
 普段は絶対に自分から話しかけに行かないたちなのに、彼が一人になるタイミングを見計らって、僕から晴人に近づいてみたりなんかして、少しずつ一緒に過ごす時間が増えていった。

 しかし、晴人と仲良くなったといっても、それは僕目線の話なわけで。
 彼には僕の他に友達も部活の仲間もたくさんいて、割と常に人に囲まれているものだから、多少一緒の時間ができたところで僕が基本的に一人でいるボッチだということには変わりなかった。

 つまり依然として爆盛りスイーツ計画は推進中ってこと。
 前回のプリンは大成功だったし、次は何にしようかな。
 祖父母が収穫したと言ってくれたサツマイモがあったからそれを使って……。

 休憩時間、お手製のレシピノートをパラパラ捲っていると、

「何見てんの?」

 人だかりから離脱してきたのだろう、前の座席を拝借した晴人が手元を覗き込んできた。

「レシピだよ。週末に作るやつ」

 それだけで彼は合点がいったらしい。

「ああ、あのドでかプリン!」

 端正な顔の整った口元から「ドでか」の三文字が導き出されたのには若干違和感があったものの、やはり相当印象に残っていたのだろう。その言葉尻からはプリンへのインパクトの大きさが伺える。

「あれはかなりやばかった」
「迫力あるもんね」
「見た目もそうだけど、味もちゃんとおいしかったし」

 巨大なプリンアラモードもどきを思い出しているのか、彼の薄い頬っぺたが唇と一緒に持ち上がる。

「なんていうか、最高だった!」

 ナオくんそっくりの満面の笑み。

 さすがに年齢的にも弟よりは落ち着いているからか、ノリのいい集団に属している割に晴人がこんなに風に笑うことは少ない。
 面白くて噴き出す、みたいなのはあるのかもしれないが、数日観察した限りピカピカ笑顔っていうのは一度もなかった。

 これはレアなのでは……?

 貴重な表情を独り占めする優越感に気をよくしながら、先週末のことを思い浮かべる。
 
 鍵を忘れて帰れなくなったナオくんを保護したあの日。お迎えに来た晴人を含めて三人でプリンを食べた。
 通常のおよそ十二倍もある巨大なそれをトッピングの果物もろとも景気よく胃袋に収めてくれたおかげで、本来二日がかりで食べきる予定だったそれはものの三十分足らずで綺麗に完食されてしまった。

 同じ食べ盛りの男子高校生であるはずなのにスポーツをしているだけあって、僕より頭一つ大きい彼の食欲には目を見張るものがあり、ナオくんもそんな兄に負けじと年の割にたくさん食べてくれたので、いつもよりチビチビ匙を進めたにも関わらず、あっさりと平らげるに至ったのだ。

 あの時はもっと話したくてゆっくり咀嚼していたはずなのに、結局大した会話をすることもなく、皿が空になると同時に十八時のチャイムが鳴ったために、慌ただしく帰ってしまったんだったけ。

 去り際にかけられた「ごちそうさま」と「ありがとう」の二言が週末の間中、くすぐるように僕の胸の中を駆け回ったことはやけに覚えているけれど、その晩の記憶はないに等しい。
 ただ夢見心地のうちに気づいたらお風呂に入っていて、眠っていて、起床していたらしかった。

「あの後、お夕飯大丈夫だった?」

 今更ながら気にかかっていたことを口にしてみるが、それはとんだ杞憂だったみたい。

「あれくらい余裕だよ」

 僕なんて余韻というか、深い満足感でお腹が膨れて日曜日の昼まで抜いたというのに。
 ピースサインまでしてみせてくれたところに真実味を感じる。僕に気を使っているわけではなさそうだ。

「よかった。お腹いっぱいで食べられなかったんじゃないかって心配していたんだ」

 他所様の家庭に悪いことをしてしまわなかったという安堵に内心ホッと溜息を吐くが、晴人は別のことに引っ掛かりを覚えていたらしい。

「ちょうど母さんの退勤時間だったから慌てていて、お礼もろくにできてなかったよな」

 今更だけど助かったよ、ありがとう。

 それは土曜の夜にも言ってもらったのに。晴人からしてみれば不十分だったのだろうか。

「プリンもさんきゅーな」
「そんな、いいのに」

 改まって伝えられると照れくさくて、赤くなる顔を少しでも隠そうと俯くが、僕の異変など気に留める様子もなく、晴人はサクッと再び爆盛りスイーツに思いを馳せ始める。

「にしても、やっぱロマンあるよな~ああいうの好きだわ」

 何気なく発せられた言葉なのだろう。だけど、誰にも秘密にしていた趣味をこうやって認めてもらえるっていうのは思っていたよりも嬉しいもので、お腹の奥から歓喜がじゅくじゅくと泡立ってくすぐったくなる。

「僕も好き。作るのも食べるのもワクワクするし」

 思春期なのかな。好きを人に表現するのはちょっと恥ずかしくて尻すぼみになってしまったけれど、晴人は馬鹿にすることなく、

「いいと思う」
 
 またなんか食べさせてよ、なんてリップサービスつきの優しい微笑みを以って肯定してくれたんだ。
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