【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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ずんぐりスイートポテト3

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 そんな晴人からお願いがあったのは、その週の金曜日。
 朝のホームルーム前のことだった。

 週末の予兆に浮かれた雑踏を掻い くぐって、月曜日の朝と同じように訪ねてきた彼は「おはよう」の挨拶もそこそこに開口一番、

「また直人と遊んでやってくれない?」

 と告げてきた。

 学校でナオくんの話題が出るのはこれで二度目。晴人が最初に話しかけてきた時を除けば初めてのこと。
 そのため常に新しい出来事で満たされた小学生の記憶から、ちっぽけな僕の存在なんてすっかり消えちゃっているのだろうとか、陰キャらしく卑屈なことを考えていたわけなのだが、実際はどうも違ったらしい。

「毎日のようにシオちゃん、シオちゃんってうるさくてさ。迷惑になるからって説得したんだけど、お兄ちゃんばかりずるいって」

 同じクラスだって自慢しすぎた、と眉尻を下げてこぼす様子に思わず目を瞬かせる。
 いやいやいや、だってまさか晴人がナオくんとそんなこと話しているなんて想定外だし。

「そんなこと……!」

 もっと早く言ってよ、なんて気持ちと、まさかね、という不安定な期待が い交ぜになって胸に広がっていく。

「気にしなくていいのに」

 あんな可愛い子の誘いを断る方がどうかしている。

 触れ合ったのはわずか数時間程度だけど、共に爆盛りスイーツを嗜んだ仲。僕の中でナオくんはすでに心を許せる対象という認識になっている。

「本当に? 明日とか空いている?」
「うん、家にいるよ」

 晴人は部活で、ご両親がお仕事。今週の土曜日もナオくんはお家で一人の予定だったらしく、

「助かる!」

 僕の快諾に晴人は言葉に喜色を乗せた。

 小学一年生のお留守番事情には明るくないけれど、朝から夕方まで一人にしておくのは他人事ながら気が引けるし、どうせ僕も一人なのだから一緒にご家族の帰りを待つのはいい考えだと思う。
 話し相手ができることは僕にとってもありがたい。

 いくら爆盛りスイーツ好きとはいえども、あの広い家で孤独に週末を過ごすのは多少なりとも寂しさがあるものだ。
 それをナオくんが緩和してくれたらどんなにいいだろう。

 休日がいつも以上に楽しみになってくる。
 しかも、今度は晴人の許可つき。誘拐犯のレッテルが貼られる恐れなんて微塵もなく、先週のような心配をする必要もないときた。

 ただ、唯一懸念すべきことがあるとしたら、

「ナオくんってスイートポテト好き?」

 今週の爆盛りスイーツのことだろう。

*
 せっかくだから大量にあるサツマイモを使いたい。
 前回プリンアラモードを作ってしまったから、今回サツマイモのプリンをチョイスするのは芸がなさすぎる。
 プリンに似たブリュレも却下。芋羊羹は気分じゃないし、もっと洋風なものが食べたい。大学芋や芋けんぴなんて小さなものじゃなく、もっとこう爆盛りにできそうなもの。
 そうなると、選択肢は多くなく――脳内に浮かんだのは結局スイートポテトだけだった。

 翌日に備え金曜日、放課後のうちに買い出しをしておいて、寝る前に調理器具をダイニングテーブルに並べるのは、もはやお決まりの流れ。
 そうしておくと朝からスムーズにお菓子作りを開始できるのだ。

 家にあるサツマイモをメインで使うので、昨日新たに買い揃えたものはほとんどなかったが、今回はちょっとだけ足を延ばして百円均一ショップで子供用エプロンを入手しておいた。

 僕のエプロンを貸してあげるのでももちろん構わないけど、さすがに長すぎると邪魔になって危ないし衛生的でない。
 その点、これならナオくんでも問題なく着けられる。もちろん洗濯乾燥済だ。

 お店になかったら諦めようと思っていたけれど、最近の商品展開は思っていた以上に幅広く、キッズ包丁のみならずキッチンバサミやピーラーなんかまで子供用を謳ったグッズが数多くあって驚いた。
 今のところ刃物を使った作業をさせる気はないものの、そのうちナオくんがもっと大きくなったらこういうのを活用するのもありかも、とかなんとか。

 僕が気を回すことじゃないだろうってことにまで妄想が及んでいるのはまずいのではなかろうか。
 これだから距離感を測れないボッチはいけない、と自制を試みるが、チャイムが鳴った瞬間にそんな考えはすっ飛んだ。

「シオちゃーん!」

 玄関を開けると晴人に連れられたナオくんが早速、僕の腹めがけて直撃したのだ。

 うぐっ、小学生の弾丸って勢いがすごい。

 お行儀のいい彼がこんなことをするなんて。よほど楽しみにしてくれていたみたいで僕も嬉しいんだけどね。

 幼い背中にそっと腕を回すと、

「まったく、元気すぎてまいっちゃうよ」

 制服姿の晴人が呆れたように苦笑いをしながら、ナオくんの荷物を差し出した。

 お兄ちゃんだ。

 学校ではそんな雰囲気を感じさせないのに、学び舎の外では弟の世話を焼く兄の顔をしている。
 その切り替えスイッチってどこにあるのかな。
 一人っ子の僕には到底わからなくて視線を彷徨わせると、晴人は思い出したかのように「そう言えば」と小さく声を上げた。

「前に直人の迎えに来た時も制服だったのに、志音ってば同じ学校だって気づきもしていなかったよな」
「それは、緊張していたからで。それどころじゃなかったし」

 不審者扱いされるかどうかの瀬戸際だったんだから。

 しどろもどろになりながらも応えれば、

「いやいや、普通は気づくって」

 晴人は教室でするような軽口の応酬を繰り広げる。

 それはさっきまでの兄としての面持ちとはやっぱり違っていて、それが僕には不思議でならなくて、ついつい彼の顔を真正面から覗き込んでしまう。

「ちょっ、志音」

 顔を赤らめて逸らすところは兄の姿ではなさそう……?

 僕が「お兄ちゃん」って呼んでもスイッチって切り替わるのかな。でも、それはナオくんの特権だし、いきなり同級生の口からそんな単語がでたら絶対変に思うよね。

 ダメだ、到底試せそうにない! 

 おかしな思考を脳内でダダ流しつつも、謎を探り当てるべく僕が晴人ばかりをジッと見つめているものだから蔑ろにされていると感じたのか、

「シオちゃん、まだ?」

 痺れを切らしたナオくんが催促し始めて、僕はようやく正気を取り戻し――それと同時に晴人観察も強制終了させられたのだった。
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