【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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ずんぐりスイートポテト4

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 気を取り直して。改過自新。
 今日はお待ちかね、スイートポテト。

 先週に引き続きナオくんもいるし、先ほど「遅刻する!」と慌てて出かけていった晴人も食欲旺盛みたいだから普段の分量で挑戦するつもり。
 プリンで学んだんだ。運動しているから痩せているだけで、あの二人は僕よりも食べると。

 そういうわけで、変な気を回して控えめに作るよりも本来の爆盛りスイーツ街道を歩むべきだと悟った僕に迷いはない。すでに手洗いを済ませたナオくんもやる気だ。
 
 と、その前に、

「はい、これ」

 昨晩洗濯しておいた子供用エプロンを手渡す。

「もしかして僕の!?」
「そうだよ」

 まさかそんなものが用意されていると思っていなかったのか、目が丸く見開かれる。

「いいの? やったあ!」
可愛い
 安物だけどないよりは全然良いし、多少汚れたとしてもダメージは皆無。
 それに、新品のエプロンを身に着けたナオくんは可愛い。

「すごーい! ぴったり」

 なんてクルクルしながら、ピカピカの笑顔で「ありがとう!」を振りまかれるのは悪い気がしないどころか、もっと貢ぎたくなってしまう。
 もちろん、僕にまだそんな経済力はないんだけどね。
 ここまで喜んでくれるのならプレゼントの甲斐があるってもの。
 
 だけど、メインはこれじゃない。

「ナオくん、それじゃあ早速そのエプロンでお料理しよっか」
「うん!」

 これより楽しいスイーツ作りの幕開けとする、なんてさすがに大げさだろうか。
 それでも、三角巾をしめると気が引き締まって「やるぞ!」いう気になる。

 そして、それはナオくんも同じらしく、

「シオちゃん、何するの?」

 テーブルの上を陣取る器具に興味津々のご様子。

 しかし、スイートポテトの作業工程は切ったり煮たりがどうしても多くなる。
 できる限り火も包丁もナオくんには使わせたくない僕は多少の不安はあるものの策を立てておいた。

「ナオくん、これなーんだ」
「僕わかるよ! サツマイモでしょ」
「ピンポン! 正解」

 幼稚園の行事でお芋掘りをしたことがあるというナオくんには簡単すぎた問題だったらしい。おかげでさっくり次に進めそうだ。

「じゃあ、これは?」

 水を張ったボウルにつけたクリーム色の物体を見せる。
 ちょっと難しかったかも。そう心配したのも束の間。

 ナオくんは「うーん、うーん」としばらく頭を悩ませていたが、

「もしかしてサツマイモとか?」

 小首をコテンと傾げつつも見事に答えを導き出してみせた。

「すごい! よくわかったね」

 こんなところでも賢さって発揮されるんだ。

 感心して褒めるとすかさずナオくんは、

「さっきの続きかなって思ったから」

 見た目ではわからなかったけど、前段階があったから推測できたのだと教えてくれた。

「これはね、さっきもサツマイモの皮を剥いて切ってお水にさらしているものだよ」

 灰汁取りなんて僕にも上手く説明できないから「なんで?」と突っ込まれる前に、

「こうすると苦いのがなくなって甘くなるんだって」

 とか、てきとうなことを付け加えるのも忘れない。

 だいたいこんな感じだったと薄っすら記憶しているし、あながち間違いではないはず。ここは勢いで押す作戦だ。下手に詳しくを要求される前に次の手順に入ってしまえ!

「じゃあ、このお芋さんたちをお水から出してくれるかな?」
「いいよ」

 気のいい返事をしてくれたナオくんには悪いが、剥く・切るといった諸々はこれでサラッとすっ飛ばし成功。
 ついでに灰汁抜きの待ち時間までショートカットできて万々歳。

「今からこれにラップをかけてチンッするからね」

 一つのボウルからサツマイモ全てが救出されたら水を捨て、空になったその中に再び先ほどのサツマイモだけを入れ直してもらって、五分を目安に温める。竹櫛が通ればオッケーらしいけど、今回はどうせ後で使うからとフォークで代用する。

「シオちゃん、これで終わり?」

 うちの電子レンジはオーブン機能付きで皿が回ることもなければ、オレンジ色に光りもしないので中が覗けるわけでもない。

 手持無沙汰になったと思ったのか、ナオくんが呆気なさそうに尋ねてくるが、まさかまさか。

「まだあるよ」

 もちろんボウルは一つじゃない。
 なんたって爆盛りスイーツなのだ。こんな普通の量に収まる器ではない。
 一般的なレシピの三倍を想定しているから、同じ工程を三度踏む。
 なんで三なのかというと、それは至って簡単なことで単に耐熱ボウルが家には三つしかなかったからだ。決して一人につき一つなんて浅はかな考えではない。

 いや、どっちもどっちか。

「ボウル一個にサツマイモ二本ね。じゃあ、三個あるから何本?」
「六本!」

 最後のレンジ待ちは暇であろうとクイズをしてみたけど瞬殺され、そうこうしているうちに火が通った。

 ここからが一番楽しいところ。
 一つのボウルにサツマイモをまとめてフォークで潰してもらう。

 ナオくんが疲れたら手を貸そうと思っているはものの、まずは見学に徹することにした。ただ、一人で全部させるのは不安で、ナオくんの背後に回って横から手を支えてはいるから、これがお役目と言っても過言でないのかもしれない。

「大丈夫?」

 時々様子を見ながら声をかけてみるけれど、それも特に必要なさそうで、

「うん! へーきだよ」

 目線はボウルに釘付けのまま自信満々の返事があるだけだった。

 ナオくんが潰してくれたサツマイモに十グラムのバターを九つと、砂糖六十グラム、そして牛乳を大匙九杯加える。プリンよりも正確な分量が求められないので、砂糖は大体の感じで。

 フォークをヘラに持ち替えたナオくんの体力もまだまだ健在。力強くも溢すことなく夢中になって混ぜている。

「上手上手」
「えへへ」

 子供特有の柔い頬が緩むのが後ろからでもわかる。

 生地が滑らかになったところで再度レンジにかけ三十秒ほど加熱。余分な水分を飛ばすために今度はラップの覆いはしない。

 それが終われば後は成形するだけ。
 普通なら手のひらサイズに分けて丸めたり、アルミカップに分けたりするところだが、これは爆盛りスイーツ。
 当然そんなチマチマした作業はしない。

 男なら豪快に! というわけで使い捨てのポリ手袋を装着して一気に捏ねる。

 量が量なのでここはナオくんと協力。彼の小さい手だけだと大きな塊にするのはなかなか困難そうだし、共同作業も醍醐味のうちだよね。

「グニグニ楽しいね」

 ナオくんも下手に手を出されたという気はしていないらしく、天真爛漫な笑みを向けてくれる。

 こういう真っ直ぐな表情は晴人にはほとんどない、と思う。
 まだ短い付き合いだけれど、あまり見たことがない。
 いつもクラスの中心にいる彼はもっと飄々とした感じで、なんというか軽い。

 ナオくんの笑顔は一つ一つの意味があるとしたら、晴人のものは理由なんてなくても周囲の空気に合わせて顔の筋肉を動かしているだけのような。
 そんな楽しくもないのに形だけ笑っているようなことが多いんじゃないだろうかって、それはあまりにも失礼か。

 似ている兄弟の似ていないところを探すのは、好奇心が刺激され、一人っ子の僕には面白いのだけれど、どこか引っかかる。

 単なる成長過程なのかもしれないが、ナオくんも将来こんな風ににこやかな顔をしなくなっちゃうのかな、とか。晴人も昔はナオくんみたいな無垢な喜びを全面に押し出していたのかな、とか。
 とにかく気になることばかりだ。

 本当に陰キャはいけない。懐に入れたと思ったら、すぐ馴れ馴れしくしてしまいそうになるんだから。
 何度目かの戒めをしたところでタネがいい感じに纏まって、全体的に丸っこくなってきた。

 一応サツマイモに火は通っているけど、このまま焼くのはどうだろうということで、クッキングペーパーを敷いた天板に移して更に形を整える。

「もうちょっとだけ薄くしたいから横に長くしようか」
「うんっと、こう?」
「そうそう、その調子」

 結果的に試行錯誤しながら辿り着いたのは大きなサツマイモみたいな形。
 ナオくん本人も「お芋に戻ったね」と認めるくらいには「お芋」って感じだ。
 不格好なのがまたそれらしい。
 これはこれでよさげだけど、こうも原材料そっくりなら細部までこだわりたくなる。

「ナオくん、これをかけたらもっとお芋っぽくなるんじゃない?」

 ハロウィンのクッキーに使おうと思って、お店で見かけた時に買っておいた秘蔵の紫芋パウダーを取り出すと、ナオくんの瞳が一層輝いた。

「お芋、お芋!」

 ステンレスのバットにパウダーを敷いて、その上にそっとタネを転がし、紫の色をまぶしていくと、もう本当に巨大なサツマイモでしかない物体が出来上がる。

「すごい……」

 その完成度といったら思わず感嘆の声が漏れてしまうほど。オーブンに入れれば焼き芋っぽくなるかもしれない。

 ナオくんに割ってもらった卵の黄身だけタネに塗って、二百度で十五分ほど焼けばスイートポテトの完成だ。
 プリンと違って待ち時間は短いけど、後片付けにはちょうどいい。洗った料理道具を拭いてくれる子もいて大助かりだ。

 最後のフォークを戸棚に片したところでタイミングばっちりのオーブンが焼き上がりを知らせた。

「もうできたの?」

 飾りつけがないぶん物足りなかったかな。
 そんな心配したのは取り越し苦労だったらしい。

 ミトンを使って熱々なスイートポテトを取り出したら、

「お芋だ!」

 すぐさま歓声が上がり、興味津々にナオくんが天板に顔を寄せようとした。

「あ、危ないから!」

 それを必死に制し事なきを得てホッとする前に、

「冷めるまで触っちゃダメだよ」

 わかっているとは思いつつも、念のため子供の手の届かないところに避難させる。
 好奇心は猫をも殺すのだから。これは意地悪なんかじゃない。なんて、人のこと言えないか。
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