【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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ぽってりマカロン1

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 大成功に終わった山盛りクッキーで仲良し大作戦から二日後の月曜日。
 僕はまた晴人と一緒に児童館に向かっていた。

 放課後、彼の部活動が終わるまで待ったからいつもより遅い時間の下校であるが、疲労感はまったくない。
 教室で宿題をしたりレシピ帳を眺めたりしながら、時々グラウンドを走る晴人を探していると、あっという間に最終下校の音楽が鳴った。
 それでサッカーコートの近くまで彼を迎えに行こうと階段を下りれば、他のチームメンバーと思しき生徒たちとすれ違った。

「晴人のやつ、ここんとこ付き合い悪いよな」
「土曜だって片付け全部押しつけやがって」
「その代わり今日の分は任せたし別にいいじゃん」

 土曜日。土曜日はナオくんと大志くんを心配して早く帰って来てくれた日だ。
 そのことに気がついた瞬間、反射的に「僕のせいだ」という文言が頭に響いた。
 
 晴人は僕を気遣ってくれただけなのに。そのためにこんなことを言われなきゃならないなんて。

「勉強も一人だけできるからってスカしてクールぶってんのもノリ悪いよな」
「それな~共学だったら女子にキャーキャー言われてそうなタイプ」
「実際中学ではそうだったじゃん?」
「なんで男子校にいるんかね? もしかしてホモとか」
「いやいや、あのスペックはさすがに彼女いるっしょ!」

 良い意味の言葉でないことはさすがに僕でもわかった。
 中にはいつも教室で騒いでいるクラスメイトの声も混じっていて、ずんっと胸が重くなる。
 さっきまで軽やかだった足取りは途端に失われ、トボトボと歩くだけで精一杯。

 いったい彼らは何が気に食わないのだろう。晴人が可哀想だ。

 普段はみんな彼に群がって、彼の素敵なところをめいっぱい享受しているのに、いざちょっと不満が生まれてみれば好き勝手悪し様に扱うなんて。あまりの言われように晴人が気の毒でならない。

 このことを彼は知っているのだろうか。

 わざわざ不快にさせるような出来事を伝えるつもりはないけれど、知っていても知らなくても不憫であることには変わりない。
 せめて僕だけでも裏表のない態度で接しよう。今さっき見聞きしたことを晴人に察せられないようにしよう。

 そう密かに決意すると、顔を上げ意識して少し歩幅を広くしたはずなのに、

「志音、なんか聞いたんでしょ」

 サッカーボールを かたす晴人の元へ辿り着くなり、開口一番彼は図星を突いてきた。

「えっ、いや、その……」

 もしかして顔に出ていた?

 ギクリ、と身体が固まる。

 馬鹿正直に答えるには耐えがたく、忍ばせるにはあからさまな挙動。
 何をどう弁明するのが正しいのか。人間関係下手な僕にはさっぱりで、口ごもることしかできない。

 しかし、晴人はさして傷ついた風でもなく、

「知っているから大丈夫だよ」

 至極あっさりと言ってのける。

 その間も手を休めることはなく、ボールを拾い終えると今度はトンボで土を ならし始めた。

 暗がりのグラウンドに射す人工的な白熱灯が、寂しげな彼の輪郭をくっきりと浮き彫りにして、僕はその横顔の美しさに見惚れる以外何もできなかった。
 向こうの方からはランニング中らしき野球部の野太い声がして、それだけがここを現実だと示す標のような、どこか寄る のない情景だった。

 綺麗なのに重苦しい。

 そんな息が詰まっちゃいそうな空気を、

「どうせノリが悪いとか、ホモだとか、そんなんだろ」

 吐き捨てるように破り去った彼の声は清々しいほど真っ直ぐに核心を突く。
 僕が知らなかっただけで、きっとこれまでにも影口を叩かれてきたのだろう。

「いいんだよ、言わせておけば。根拠も何もないんだから」

 いくら鈍くても彼が強がっていることくらいすぐにわかった。
 毅然とした言葉の、ちょっとしたところに不安定な揺らめきを感じる。
 そして、その閃きはあながち間違いなどではなかったらしい。

「それとも、志音も俺を気持ち悪いと思う?」

 探られるような眼差し。普段、人と視線を交らわせることなんてほとんどないから恥ずかしくて目を逸らしそうになってけど、それは晴人を傷つけることに繋がる気がして必死に耐えた。

 立ち止まって見つめ合う中で、

「ううん! そんなことない。晴人はいつもかっこいいよ」

 いつぞや伝えられなかった言葉がこの時ばかりは自然と喉から まろび出た。
 僕なりに必死だったからかもしれない。今ここで否定しないと晴人が僕の元から去ってしまうような気がしたのだ。

「晴人は本当に王子様みたいに完璧で、きっとみんな晴人をやっかんでいるだけだよ」

 口下手なりに尽くした語彙が寒空に響く。

「よくわかんないけど、あんな人たちの言うことなんて気にしなくていいよ。少なくとも僕にとっての晴人は素敵な人だから」

 できるだけ彼の心に留まるようにゆっくり話したつもりだったが、わずか数秒しか間は持たなかった。
 しかし、それで充分だったらしい。

 冷たそうな彼の頬に微かな血色が射した。

「王子様って、何それ」

 おかしいと言わんばかりにクスクス愉快そうに笑うと、

「志音ってばそんなこと思ってたの?」

 晴人が揶揄うような調子で尋ねる。
 空気が変わったのがわかった。

「俺が王子様なら志音はお姫様してみる?」

 いつもの晴人に戻ったようでホッとしたのも束の間、先ほどの失言を思い出し、今度は僕が顔を赤くする番だった。

「しません!」

 お姫様なんて、男子高校生しかもおデブな僕には不釣り合いな単語すぎて、ムキになって否定する。

「お姫様っていうのは、もっとこう可愛くなくちゃ」

 僕には合わない。それなのに、なぜだか晴人は圧力をかけてくる。

「シオちゃん可愛いって直人も言ってたじゃん。俺も可愛いって言ったよね?」
「いや、だから、あれは可愛いの種類が違うって話で」

 いつまで続くんだ、そのムーブ。
 もう終わったことを持ち出されてしまい、冗談と理解していても真面目に弁解してしまう。

「だいたい俺だって王子様とは程遠いよ」
「晴人は、その、かっこいいから……」

 お互い何を言い合っているんだと段々恥ずかしくなって、

「もう終わったから部室に荷物取ってくる」

 最後は有耶無耶にして切り上げた。
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