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こんもりムースタルト7
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だいたいの構造は我が家と同じ。
奥からキッチン、ダイニング、リビングとなっていて、明確な境目がわかりにくい。全体が同じ空間に収まっている感じ。
「それじゃあ、さっそく始めようか」
晴人の号令で僕たちはそれぞれ持ち場につく。といっても、別にそんな大層なことではない。
晴人がお米を研いで洗っている間に、僕とナオくんと大志くんでスイーツの用意をするだけだ。
「今日はね、これを使うんだよ」
得意げに先ほど調達してきたものを袋から取り出すと、真っ先に反応したのはナオくん。
「あっ! クッキーだ!」
続いて大志くんが冷静なツッコミを入れる
「もう完成してんじゃん」
だけど、その指摘は鋭いところを的確に突いている。
「そうなんだけど、そうじゃないんだな~」
意味深に笑ってみせれば単純なナオくんは、
「えー!」
と声を上げる。
本当に良いリアクションをしてくれるなあ。
考えた甲斐があるというもの。
「今日はね、ムースタルトを作るんだよ」
「タルト?」
「そう、下が固いクッキーみたいになっているケーキ」
食べたことある? と尋ねると揃って二人は首を傾げた。
「俺ないかも」
「僕も!」
かく言う僕も小学生の頃はタルトなんて知らなかったかも。
気がついたら認識していたなんてよくある話だ。
とりあえず、まずは作ってみなきゃね。
そう思って説明を再開するけれど、
「それでね、この間はクッキーを作ったけど、今日はこれを割るの」
子供たちはこの言葉にかなりの衝撃を受けてしまったらしい。
「怒られない?」
「もったいなくね?」
怯えるナオくんと怪訝そうな大志くん。
言わんとすることはわかる。
僕だってお菓子作りを始める前なら、きっと同じような感想を抱いていた。
でも、これが一番時短なんだ。
「大丈夫! 僕を信じて!」
後ろで晴人の笑う声が聞こえるけど、今は無視無視。
箱を開けて個包装になったチョコレートクッキーを袋から出してフリーザーバッグに入れていく。
「一箱全部使うから摘まみ食いはダメだよ」
冗談交じりにそう注意したけれど、ナオくんと大志くんは罪悪感があるのか、おっかなびっくりしつつも、真剣にクッキーを剥いていてブーイングも湧かなかった。
だけど、こんなの序の口。
「じゃあ、次はこのクッキーをコップの裏で潰してね」
今日一番の大仕事が待っている。
ただ、二人にはちょっと難易度が高かったらしい。
特にナオくんはお手本を見せると、背筋をビクッと震わせた。
この方法は失敗だった?
そう心配したのも束の間、
「俺、やってみる」
度胸試しとばかりに大志くんが名乗りを上げた。
そのまま透明な袋の上からコップを押し当て、グググッと力を入れると、ちょっと固くはあるもののクッキーが一枚、真ん中から割れた。
「上手、上手、その調子。もっと砕いて良いからね」
僕が褒めると大志くんは二枚、三枚と丸いクッキーを壊していった。
しだいに面白くなってきたらしい。
「ほら、直人もやってみろよ」
などと途中からはノリノリだった。
だけど、ナオくんは後でご両親に怒られるかもしれないと一歩引いている。
代わりに炊飯器のスイッチを押し終わった晴人が、
「じゃあ、俺がしてみようかな」
そんな弟を見かねて参戦を宣言。
「意外と固いね」
「その割にはあっさりいってたけど」
「ほら、この中では一番力持ちだから」
軽口ばかりだが、そんな彼の勇姿を受けて、ようやっとナオくんが、
「僕も」
と言い出したのだから、兄というのはすごい。
そのままの流れで、試しにすでに割れたものをさらに細かくしてみると、ナオくんの中で何かが吹っ切れたのか、その後は大志くんと代わりばんこでクッキーを砕いている。
「これ、いつまでやるの?」
もう完全にいつもの調子だ。
「サラサラになるまでだよ」
「わかった!」
そうして完全にクッキーが元の形を失ったところで、今度は電子レンジで溶かしたバター七〇グラムを袋に加える。
「今度は袋ごと捏ねてみて」
子供たちはこちらも交互に揉むことにしたらしい。
「手が疲れたら交代ね!」
「疲れねえし」
「えーじゃあ、十回ずつ」
こんな可愛らしいやり取りの末に、少しずつ生地がしっとりしてきた。
もうそろそろ良いだろう。
ありがとう、と袋ごと譲り受けたら今度は僕の番。持参したタルト型に生地を敷き詰めていく。
背後からジィーッと興味津々に覗かれると、ちょっと緊張するけれど、練習通りにすれば問題ない。
スプーンでギュギュッと押しつけるのがポイント。
底が外れるタイプなので、多少緩くても崩れはしないだろうが、念には念を入れて、しっかり固めていく。
それが終わるとタルトには少し休んでもらう。
冷蔵庫で十分以上冷やせば土台の出来上がりだ。
奥からキッチン、ダイニング、リビングとなっていて、明確な境目がわかりにくい。全体が同じ空間に収まっている感じ。
「それじゃあ、さっそく始めようか」
晴人の号令で僕たちはそれぞれ持ち場につく。といっても、別にそんな大層なことではない。
晴人がお米を研いで洗っている間に、僕とナオくんと大志くんでスイーツの用意をするだけだ。
「今日はね、これを使うんだよ」
得意げに先ほど調達してきたものを袋から取り出すと、真っ先に反応したのはナオくん。
「あっ! クッキーだ!」
続いて大志くんが冷静なツッコミを入れる
「もう完成してんじゃん」
だけど、その指摘は鋭いところを的確に突いている。
「そうなんだけど、そうじゃないんだな~」
意味深に笑ってみせれば単純なナオくんは、
「えー!」
と声を上げる。
本当に良いリアクションをしてくれるなあ。
考えた甲斐があるというもの。
「今日はね、ムースタルトを作るんだよ」
「タルト?」
「そう、下が固いクッキーみたいになっているケーキ」
食べたことある? と尋ねると揃って二人は首を傾げた。
「俺ないかも」
「僕も!」
かく言う僕も小学生の頃はタルトなんて知らなかったかも。
気がついたら認識していたなんてよくある話だ。
とりあえず、まずは作ってみなきゃね。
そう思って説明を再開するけれど、
「それでね、この間はクッキーを作ったけど、今日はこれを割るの」
子供たちはこの言葉にかなりの衝撃を受けてしまったらしい。
「怒られない?」
「もったいなくね?」
怯えるナオくんと怪訝そうな大志くん。
言わんとすることはわかる。
僕だってお菓子作りを始める前なら、きっと同じような感想を抱いていた。
でも、これが一番時短なんだ。
「大丈夫! 僕を信じて!」
後ろで晴人の笑う声が聞こえるけど、今は無視無視。
箱を開けて個包装になったチョコレートクッキーを袋から出してフリーザーバッグに入れていく。
「一箱全部使うから摘まみ食いはダメだよ」
冗談交じりにそう注意したけれど、ナオくんと大志くんは罪悪感があるのか、おっかなびっくりしつつも、真剣にクッキーを剥いていてブーイングも湧かなかった。
だけど、こんなの序の口。
「じゃあ、次はこのクッキーをコップの裏で潰してね」
今日一番の大仕事が待っている。
ただ、二人にはちょっと難易度が高かったらしい。
特にナオくんはお手本を見せると、背筋をビクッと震わせた。
この方法は失敗だった?
そう心配したのも束の間、
「俺、やってみる」
度胸試しとばかりに大志くんが名乗りを上げた。
そのまま透明な袋の上からコップを押し当て、グググッと力を入れると、ちょっと固くはあるもののクッキーが一枚、真ん中から割れた。
「上手、上手、その調子。もっと砕いて良いからね」
僕が褒めると大志くんは二枚、三枚と丸いクッキーを壊していった。
しだいに面白くなってきたらしい。
「ほら、直人もやってみろよ」
などと途中からはノリノリだった。
だけど、ナオくんは後でご両親に怒られるかもしれないと一歩引いている。
代わりに炊飯器のスイッチを押し終わった晴人が、
「じゃあ、俺がしてみようかな」
そんな弟を見かねて参戦を宣言。
「意外と固いね」
「その割にはあっさりいってたけど」
「ほら、この中では一番力持ちだから」
軽口ばかりだが、そんな彼の勇姿を受けて、ようやっとナオくんが、
「僕も」
と言い出したのだから、兄というのはすごい。
そのままの流れで、試しにすでに割れたものをさらに細かくしてみると、ナオくんの中で何かが吹っ切れたのか、その後は大志くんと代わりばんこでクッキーを砕いている。
「これ、いつまでやるの?」
もう完全にいつもの調子だ。
「サラサラになるまでだよ」
「わかった!」
そうして完全にクッキーが元の形を失ったところで、今度は電子レンジで溶かしたバター七〇グラムを袋に加える。
「今度は袋ごと捏ねてみて」
子供たちはこちらも交互に揉むことにしたらしい。
「手が疲れたら交代ね!」
「疲れねえし」
「えーじゃあ、十回ずつ」
こんな可愛らしいやり取りの末に、少しずつ生地がしっとりしてきた。
もうそろそろ良いだろう。
ありがとう、と袋ごと譲り受けたら今度は僕の番。持参したタルト型に生地を敷き詰めていく。
背後からジィーッと興味津々に覗かれると、ちょっと緊張するけれど、練習通りにすれば問題ない。
スプーンでギュギュッと押しつけるのがポイント。
底が外れるタイプなので、多少緩くても崩れはしないだろうが、念には念を入れて、しっかり固めていく。
それが終わるとタルトには少し休んでもらう。
冷蔵庫で十分以上冷やせば土台の出来上がりだ。
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