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野次馬の子ども・ホワイエ

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三十一人目の子ども

「野次馬の子ども・ホワイエ」

ホワイエは、馬の着ぐるみを着た、子どもです。

この着ぐるみが原因か、最近、お友達がいなくなることが多く、一人寂しくしています。

今日も、双眼鏡を片手に出掛けます。

高台から町を覗いて、いなくなった友だちを見つけるのです。

何か黒いものが町の上を飛び回っています。

とても大きな、黒いカマキリです。

図鑑には載らない珍しい虫なのでしょう。

黒いカマキリがいく所、人だかりができています。

黒いカマキリは、お針子の家の前で、カマを研ぎ、精肉店の裏で、カマを舐め、道路の真ん中で、眼をギョロリとさせて、ホワイエと眼が合います。

驚いて、双眼鏡を足下に落とし、黒いカマキリが、高台の方に飛んできます。

黒いカマキリは、ホワイエの目の前で舌なめずりをして、また飛び立ちます。

急いで双眼鏡を拾い、追いかけていくと、黒いカマキリは線路沿いを飛んでいます。

列車は、後ろからも前からも来ません。

原因は、線路の端、目の前の人だかりにあります。

聞き耳をたてると、どこかの子どもが、列車の真っ正面の顔を撮ろうとしたそう。

そんな時間ドロボウは、ホワイエの友だち。

なんだ、ここにいたんだ。

だけど、友だちは、何も言ってくれません。

黒いカマキリは、カマを舐めて、飛んでいきます。

また追いかけると、池に人だかりが出来ています。

人をかきわけると、川から友達が運び出されています。

その顔は、誰かに怒っています。

ホワイエは、ゾクリとします。

この黒いカマキリがいく所、いなくなっていた友達が見つかるのです。

だけど、誰一人遊んでくれません。

みんな、冷たいのです。

また、あの高台に上がり、双眼鏡で町を見渡します。

黒いカマキリが、町をせわしく飛び回り、この日も、また一人、人だかりをかきわけた先で、いなくなった友だちを見つけます。

その度に嬉しくて、たまりません。

ホワイエは、野次馬でいられる、しあわせな子どもでした。
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