弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

文字の大きさ
23 / 79

『無いものは作る』は、常識? その1

しおりを挟む
 まだミカヌレが、隠密の仕事をしていた時のこと。


 ミカヌレ達、ハニートラップ要員(ミズーレン伯爵の抱える隠密達)も、生き残る為に必死に策を練ってきた。

 アクセサリー1つ取っても、仲間で使い回せば、よっぽどのボンクラ達でなければ、周囲の者が気付いて怪しみ、そこから足がつきかねない。

 だからこそ、与えられた資金をどう使うかは、多くの意見を聞いて検討する必要があった。

 金や銀製品を加工し変形させるのは、比較的軟らかくなりやすく容易だが、如何せん高額である。その為ミカヌレ達は真鍮を購入し、武器部門の炉を借りて変成や金や銀のメッキを張り付けて、代用することにした。


 金属を変形させることを鍛造たんぞうと言う。これは、金属をハンマーやプレスで叩いたり圧力を加えたりして「鍛えながら」目的の形に成形する塑性加工技術で、その種類は大きく3つに分けられる。


①熱間鍛造とは、金属を再結晶温度以上(高温)に加熱し、柔らかくなった状態で金型などを用いて叩いたり圧力をかけたりして成形する金属加工法。

②冷間鍛造とは、金属を加熱せず常温(室温)のまま金型でプレス・圧力を加えて塑性変形させ、目的の形状に成形する加工技術。

③温間鍛造(おんかんたんぞう)とは、金属を「熱間鍛造」(高温)と「冷間鍛造」(常温)の中間の温度域(約300~900℃)に加熱して成形する金属加工法で、複雑な形状を高精度に加工できる。


 冷間鍛造は熱を加えない分、力を直接加えることが必要。精巧に完成させることが出来る反面、この時代では技術的に労力が酷くかかる。いわゆる力業だからである。


 武器の|《鍛冶炉》かじろは、鍛造プロセスで中心的に使われる小さな炉のこと。
 刀工(刀鍛冶)はこの炉で鋼材を熱し、金槌で叩いて不純物を取り除き、折り返し鍛錬を繰り返す。

 その場所で鍛冶師に教えを乞い、装飾品作りをしていたのだ。

 最初の頃はハニートラップ(戦闘ではなく、単純に相手をタラシ込む者だと思われて)要員だと話すと、「神聖な場所を貸せねえ!」と断られた。
 けれど熱心に仕事のことや予算のことを説明し、やっと何とか受け入れて貰えたのだ。
 
 一度受け入れて貰うと、ミカヌレ達は寝食を忘れてに細工作りを行う為、その熱心さに鍛冶師達は驚嘆した。

「ハニートラップなんざフザケタ仕事は辞めて、ここで俺達の弟子になれば良い。きっと良い職人になれるぞ」と、真剣な表情で言わしめる程に。

 物作りは楽しく、弟子になれたらと思う者もいたが、所詮は叶わぬ夢でしかなかった。本当に抜けたいと言い出せば、鍛冶師にまで迷惑がかかることだろう。
 鍛冶師とて、ミズーレン伯爵に雇われているのだ。逆らうことは出来ないだろう。


「ありがとう、親方。そんな風に褒めて貰えて、すごく嬉しいよ」
「私も楽しかった。まるでお父さんみたいに、たくさんのことを教えて貰って」

 厳しい教えに食らいついたミカヌレや隠密達は、鍛冶師に認められた。その後何度もここに訪れ、使ったアクセサリーを流行品に似せて作り直すのである。

 
 隠密達にとっての装飾品は、憧れではない。メッキをうまく加工して真鍮を金や銀のように高級品に見せ、相手を欺く仕事道具のようなものでしかなかった。

 ミカヌレが公爵夫人になった時も、装飾品には心が動かず、ご馳走にだけ(相手にも分かりやすく)満足感を覚えていた。

「生きてて良かった。こんな美味しいものがこの世界にあったのね!」と、満面の笑顔で。
 それを知るスライストからの贈り物は、もっぱら高級菓子であった。


 ミカヌレが笑えば、彼も微笑みを返す。
(良かった。君の嬉しそうな顔を見られて)

 

 温度差はあれども、二人はお互いの気持ちを大事にして過ごしていたのだ。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。  乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。  そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。   (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)  

拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。

ハーフのクロエ
恋愛
 公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。

彼のいない夏

月樹《つき》
恋愛
幼い頃からの婚約者に婚約破棄を告げられたのは、沈丁花の花の咲く頃。 卒業パーティーの席で同じ年の義妹と婚約を結びなおすことを告げられた。 沈丁花の花の香りが好きだった彼。 沈丁花の花言葉のようにずっと一緒にいられると思っていた。 母が生まれた隣国に帰るように言われたけれど、例え一緒にいられなくても、私はあなたの国にいたかった。 だから王都から遠く離れた、海の見える教会に入ることに決めた。 あなたがいなくても、いつも一緒に海辺を散歩した夏はやって来る。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

処理中です...