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コロネの婚約者?
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それはスライストが学生時代に、友人ヴィーガン・モンテカルロ伯爵(当時は令息)と交わしていた口約束からだった。
「私に子供が生まれたら、君の子供と婚約させないか?」
「それは良いな。親戚になれば、お互いの家で夜通し酒盛りができるぞ。ワハハッ」
なんて感じの軽いノリで。
スライストが忘れていたその言葉だが、ヴィーガンの方は何となく覚えていた。幸い?なことに、スライストには娘一人しかいないので、自分の息子が婿入りすれば、次期公爵になれるかもしれない。
裕福なワッサンモフ公爵家なら、それは限りなくありがたい。確かまだ、スライストの娘には婚約者もいないはず。だが肝心の彼は病気で、療養先も伏せられているので、見舞いにも行けないでいた。
「ここは彼の父である、ワッサンモフ前公爵に相談してみよう。もし断られても、こちらに損はないしな」
最早友人の健康状態より、息子の婿入りに目が向くヴィーガンは、セサミの住む王都のタウンハウスに先触れを出して訪れた。
そしてスライストの病状を心配した後に、本題の婚約話の件を切り出すのだった。
「ほう、息子がそんなことを? だが療養地は離れた場所にあるので、すぐに確認が取れんのじゃよ。悪いな」
その野心が透けて見えるのが面白くて、微笑みたいのを我慢し、やんわりと謝罪するセサミ。
ワッサンモフ公爵家の隠密は既にスライストの居場所を見つけていたが、セサミに伝えておらず、彼の認識では行方不明のままである。
だからこそ勝手な行動をした息子がいない間に、適当に場を荒そうと考えていたのだ。
(スライストには、暗殺者が数人来ても闘える術は身に付けさせている。崖から落ちたくらいで死ぬような体でもない。どうせそのうちに戻って来るだろう。その前に少し遊んでおくか? フッ♪)
隠居してから益々悪ふざけが過ぎる爺は、赤字にもクリム達の横暴な態度にも屈しない孫に退屈していた。反応が皆無で面白くなかったのだ。
(あの子が非凡なことには気付いていたが、さすがに子供の手でここまでされれば、今さら俺が手を出すのも憚られる。ならばまた、一手を踏み出すだけ♪)
孫に構って貰えない祖父のような発想で、相手のことも碌に調べぬうちに、飛び込んで来た駒の利用を考えるセサミ。
ヴィーガンの息子は幼いながら、美しい容貌を持っていた。艶々の青磁の髪と涼しげな目元の灰色の瞳、そして高く整った鼻梁は、女性達が放っておかないだろう。
「して、そちらが貴殿の息子殿か? 息子殿もこの婚約に前向きなのかな? 8歳か、ならばコロネの2つ上。年の頃は合うな」
「勿論で御座います、ワッサンモフ前公爵。いえセサミ様と呼ばせて下さい」
何を思ったのか、急に緊張を解いて微笑んでくるヴィーガン。息子の器量の良さで、認められたと勘違いしたのだろうか?
その距離の詰め方への不快さを隠し、ヴィーガンの息子であるミディアに声をかけるセサミ。
「君はどう考える? まだコロネと会ったこともないのに、婚約したいと思うか?」
その問いにミディアは、「う~ん」と胸の前で腕を組みながら「分からない」と言った後に、「お父様が……それが僕の幸せになると言うんだ。このまま大人になれば、次男の僕は家を継げず平民になるからと。だから婚約した方が良い気がする……します」と素直に答えた。
「これっ、ミディア。すみません、躾が出来ておらず……(トホホッ。こんなことなら、問答の練習をさせておけば良かった)」
セサミはそれに、ただただ微笑んだ。
「素直な良い子じゃないか。親がいる以上、孫のコロネに俺が直接どうこうはできん。……だから書類なしの仮婚約と言うのはどうだ? スライストが戻れば、きちんとどうするか決めるとして、取りあえず交流させて見るのはどうだろう?」
「それは、光栄なことです! よろしくお願いします。ほらお前も頭を下げなさい」
「……よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。コロネには俺から伝えておこう」
恭しく帰っていくモンテカルロ伯爵親子に、満面の笑顔を浮かべるセサミと、困惑する家令のバジル。
「なあ、バジルよ。『昔神童、今凡人』なんてことを聞いたことがあるか? 賢い子供も大人になれば、並の人間になると言う皮肉だ。残念ながら家の家系は賢いまま成長する者が多い。クリムはまあ、別だがね、フフッ。 コロネはこの事態に、どう反応するだろう? 今から楽しみだね」
「はあ」
親でないと言いながらも、勝手に事を進める主人に更に心が離れていくバジル。
(レイアー(ワッサンモフ公爵家の家令)に、情報送っておくか。こんなのが祖父で可哀想だな、コロネ様)
家令が憐れみの境地にいることに、気付いていない主人。
◇◇◇
雪のないこの国の教会裏(教会と孤児院は一体化しています)で、子供達とハーブを採取していたコロネ。
ハーブとは、香りや薬効を持ち、料理、薬、香り、美容などに役立つ有用植物の総称。バジル、ミント、ローズマリーなどの葉や花、根、実などが利用される。
食べて良し、頭痛・腹痛の薬や傷薬にしても良し、香り付けにも良し、化粧品などにしても重宝する民の味方で、この孤児院の宝物だ。
「次は傷の軟膏でも作ろうか?」
「うん、良いねえ。チェルシーとアイスは、水仕事で手が荒れているの。作ってあげたい」
「……そうだったのね。じゃあ、決まり!」
「わ~い。コロネ、ありがとう」
コロネの常識ではハンドクリームなどは、みんなが持つ必需品だと思っていた。なんせ公爵家にいる令嬢だから。
いくら母親から受けた知識があっても、全てをカバーすることはできない。ここに来て公爵家と外の世界の違いに気付く毎日なのだ。
そんな彼女に、余計な情報がもたらされる。
ミディア・モンテカルロとの仮婚約が。
「私に子供が生まれたら、君の子供と婚約させないか?」
「それは良いな。親戚になれば、お互いの家で夜通し酒盛りができるぞ。ワハハッ」
なんて感じの軽いノリで。
スライストが忘れていたその言葉だが、ヴィーガンの方は何となく覚えていた。幸い?なことに、スライストには娘一人しかいないので、自分の息子が婿入りすれば、次期公爵になれるかもしれない。
裕福なワッサンモフ公爵家なら、それは限りなくありがたい。確かまだ、スライストの娘には婚約者もいないはず。だが肝心の彼は病気で、療養先も伏せられているので、見舞いにも行けないでいた。
「ここは彼の父である、ワッサンモフ前公爵に相談してみよう。もし断られても、こちらに損はないしな」
最早友人の健康状態より、息子の婿入りに目が向くヴィーガンは、セサミの住む王都のタウンハウスに先触れを出して訪れた。
そしてスライストの病状を心配した後に、本題の婚約話の件を切り出すのだった。
「ほう、息子がそんなことを? だが療養地は離れた場所にあるので、すぐに確認が取れんのじゃよ。悪いな」
その野心が透けて見えるのが面白くて、微笑みたいのを我慢し、やんわりと謝罪するセサミ。
ワッサンモフ公爵家の隠密は既にスライストの居場所を見つけていたが、セサミに伝えておらず、彼の認識では行方不明のままである。
だからこそ勝手な行動をした息子がいない間に、適当に場を荒そうと考えていたのだ。
(スライストには、暗殺者が数人来ても闘える術は身に付けさせている。崖から落ちたくらいで死ぬような体でもない。どうせそのうちに戻って来るだろう。その前に少し遊んでおくか? フッ♪)
隠居してから益々悪ふざけが過ぎる爺は、赤字にもクリム達の横暴な態度にも屈しない孫に退屈していた。反応が皆無で面白くなかったのだ。
(あの子が非凡なことには気付いていたが、さすがに子供の手でここまでされれば、今さら俺が手を出すのも憚られる。ならばまた、一手を踏み出すだけ♪)
孫に構って貰えない祖父のような発想で、相手のことも碌に調べぬうちに、飛び込んで来た駒の利用を考えるセサミ。
ヴィーガンの息子は幼いながら、美しい容貌を持っていた。艶々の青磁の髪と涼しげな目元の灰色の瞳、そして高く整った鼻梁は、女性達が放っておかないだろう。
「して、そちらが貴殿の息子殿か? 息子殿もこの婚約に前向きなのかな? 8歳か、ならばコロネの2つ上。年の頃は合うな」
「勿論で御座います、ワッサンモフ前公爵。いえセサミ様と呼ばせて下さい」
何を思ったのか、急に緊張を解いて微笑んでくるヴィーガン。息子の器量の良さで、認められたと勘違いしたのだろうか?
その距離の詰め方への不快さを隠し、ヴィーガンの息子であるミディアに声をかけるセサミ。
「君はどう考える? まだコロネと会ったこともないのに、婚約したいと思うか?」
その問いにミディアは、「う~ん」と胸の前で腕を組みながら「分からない」と言った後に、「お父様が……それが僕の幸せになると言うんだ。このまま大人になれば、次男の僕は家を継げず平民になるからと。だから婚約した方が良い気がする……します」と素直に答えた。
「これっ、ミディア。すみません、躾が出来ておらず……(トホホッ。こんなことなら、問答の練習をさせておけば良かった)」
セサミはそれに、ただただ微笑んだ。
「素直な良い子じゃないか。親がいる以上、孫のコロネに俺が直接どうこうはできん。……だから書類なしの仮婚約と言うのはどうだ? スライストが戻れば、きちんとどうするか決めるとして、取りあえず交流させて見るのはどうだろう?」
「それは、光栄なことです! よろしくお願いします。ほらお前も頭を下げなさい」
「……よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。コロネには俺から伝えておこう」
恭しく帰っていくモンテカルロ伯爵親子に、満面の笑顔を浮かべるセサミと、困惑する家令のバジル。
「なあ、バジルよ。『昔神童、今凡人』なんてことを聞いたことがあるか? 賢い子供も大人になれば、並の人間になると言う皮肉だ。残念ながら家の家系は賢いまま成長する者が多い。クリムはまあ、別だがね、フフッ。 コロネはこの事態に、どう反応するだろう? 今から楽しみだね」
「はあ」
親でないと言いながらも、勝手に事を進める主人に更に心が離れていくバジル。
(レイアー(ワッサンモフ公爵家の家令)に、情報送っておくか。こんなのが祖父で可哀想だな、コロネ様)
家令が憐れみの境地にいることに、気付いていない主人。
◇◇◇
雪のないこの国の教会裏(教会と孤児院は一体化しています)で、子供達とハーブを採取していたコロネ。
ハーブとは、香りや薬効を持ち、料理、薬、香り、美容などに役立つ有用植物の総称。バジル、ミント、ローズマリーなどの葉や花、根、実などが利用される。
食べて良し、頭痛・腹痛の薬や傷薬にしても良し、香り付けにも良し、化粧品などにしても重宝する民の味方で、この孤児院の宝物だ。
「次は傷の軟膏でも作ろうか?」
「うん、良いねえ。チェルシーとアイスは、水仕事で手が荒れているの。作ってあげたい」
「……そうだったのね。じゃあ、決まり!」
「わ~い。コロネ、ありがとう」
コロネの常識ではハンドクリームなどは、みんなが持つ必需品だと思っていた。なんせ公爵家にいる令嬢だから。
いくら母親から受けた知識があっても、全てをカバーすることはできない。ここに来て公爵家と外の世界の違いに気付く毎日なのだ。
そんな彼女に、余計な情報がもたらされる。
ミディア・モンテカルロとの仮婚約が。
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