31 / 79
ミディアとのお茶会 その1
しおりを挟む
セサミに決められたお茶会は、ワッサンモフ公爵邸の温室で行われていた。
巨大温室の中央にお茶席がセッティングされ、可憐な花々に囲まれたそこは、まるで絵本の世界に入り込んだような神秘的な空間だ。
普通の乙女なら『素敵ね。まるで花の国の王女様みたい』なんて、思わず口ずさむかもしれない。
でも今日も金策に励むコロネは、『あのバラの花びらが綺麗なうちに、何とか精製できないかしら』くらいにしか思っていない。「夢でお腹は膨れないから」と言って、自身に贈られたアクセサリーを既に売却している彼女だもの。
花から作られるオイルは、主に精油(エッセンシャルオイル)や植物油(キャリアオイル)として利用されている。
芳香植物の花、茎、葉などから抽出される天然の液体で、香りの成分が凝縮されたもの。主にアロマテラピーや香水などに使用される。
ローズオイル:バラの花びらから抽出され、非常に貴重で高価なオイル。
ラベンダーオイルは、ラベンダーの花と葉から。
カモミールオイルは、カモミールの花から。
イランイランオイルは、イランイランの黄色い花から。
ジャスミンオイルは、ジャスミンの花から抽出される。
植物油とは、植物(種子・果実・胚芽など)から搾り取って精製した油の総称で、大規模な作付が必要だ。けれどコロネには、領地にそれらを植える権限は今のところないので、公爵邸の周囲でできることだけを考えていた。
(でも……精油って(バラ等の花びら)が大量に必要だから、この温室の分では小瓶に10本取れれば良いほうよね。花を植える、広大な場所が必要だわ)
そんなことを考えつつ、微笑みながらミディアの様子を窺うコロネ。彼の方も花が好きなのか、温室を見渡して目を輝かせていた。
(あの花は熱帯にはヒスイカズラ、タッカ・シャントリエリも! あれはリュウゼツラン(数十年に一度しか咲かない幻の花)じゃないか! 月下美人まである。全て温室がないと咲かない熱帯の花達だ。すごい、すごいよ!!!)
「美しいですね。それに珍しい植物がたくさんあります。ワッサンモフ公爵令嬢は、花がお好きなんですか?」
彼は温室の端の方にある植物へも、わざわざ目を向けていたようなので、本当に興味があるようだ。
青磁の髪と煌めくような灰色の瞳で、真剣に尋ねてくる彼に、コロネは正直に答える。
「この温室は、私の父が母の為に建てたのです。母はバラの花が好きだったので。珍しいものがあるのは、父が母を喜ばせようとして、取り寄せたみたいですね。専門の庭師が必要となり、その時雇い入れたナップラルは薬草にも詳しくて、私もたくさん学ばせて頂きましたわ」
家族で庭で遊んだことを思い出し、笑顔になるコロネ。ミディアは2つ上のせいかとても落ち着いており、教養が深いように思えた。
勿論年齢と人柄は別だろう。けれど話す速度や声音、受け答えの内容は、コロネを年下だと侮ることはなく、優しさを含んでいた。
「そうなのですか? それはとても羨ましいです。僕も植物には興味があって、よく本を読みますから。あ、えーと、男らしくないですよね、こんな趣味なんて。面白い話でもないし……」
言い終えてから気まずげに俯く彼に、「そんなことないですよ。実際に植物は、毒にも薬にもなりますし、いろいろ奥が深いですから。(お金になりやすいので)私もいろいろと勉強中なんです」と、コロネは食いぎみに声をかけた。
ミディアは一瞬ポカンとしたが、その後嬉しげに破顔していた。
「ありがとう。じゃあこれからも、植物の話をさせて貰うね」
「はい。私もいろいろ教えて欲しいです。モンテカルロ伯爵令息様」
お互いの共通点が見つかり、婚約者と言うよりは友人のように心が通う2人。
そんな彼らに甲高くて、甘ったるい声が響く。
「ミディア様~。私もご一緒させて下さい。たくさんお話したいです♡♡♡」
温室には似つかわしくない服装で現れたブルーベル(8歳)は、コロネを無視してミディアに走り寄って来たのだ。
彼女の白いドレスにはドピンクのレースとリボンがふんだんに縫い付けられ、桃色の髪にもドデカい宝石付きのストライプ(ピンクと黄緑の)リボンが、ツインテールの髪に揺れていた。
その勢いにドン引くミディアと、彼の前に立って守ろうとするコロネ。
「何よ、邪魔する気なの? 超うざいんですけどぉ。ミディア様だって地味なあんたより、私と話がしたい筈よ。そこを退きなさいよ!」
「いいえ、退きませんわ。モンテカルロ伯爵令息様に失礼ですよ」
「何よ、気取った言い方なんてして。知ってるのよ、親無しの癖に! もうあんたの親は、帰ってこないんでしょ?」
「…………(分からないわ。でもその可能性はあるのかも?)」
俯くコロネに気を良くするブルーベルと、困惑するミディア。
そこにアンナに呼ばれた家令のレイアーが、場を収集する為に急いで駆けて来た。
「ブルーベル様。この時間は、お二人の為にお約束されたものですので、何卒お部屋にお戻り下さい!」
ブルーベルの声だけが温室に響いていた。
巨大温室の中央にお茶席がセッティングされ、可憐な花々に囲まれたそこは、まるで絵本の世界に入り込んだような神秘的な空間だ。
普通の乙女なら『素敵ね。まるで花の国の王女様みたい』なんて、思わず口ずさむかもしれない。
でも今日も金策に励むコロネは、『あのバラの花びらが綺麗なうちに、何とか精製できないかしら』くらいにしか思っていない。「夢でお腹は膨れないから」と言って、自身に贈られたアクセサリーを既に売却している彼女だもの。
花から作られるオイルは、主に精油(エッセンシャルオイル)や植物油(キャリアオイル)として利用されている。
芳香植物の花、茎、葉などから抽出される天然の液体で、香りの成分が凝縮されたもの。主にアロマテラピーや香水などに使用される。
ローズオイル:バラの花びらから抽出され、非常に貴重で高価なオイル。
ラベンダーオイルは、ラベンダーの花と葉から。
カモミールオイルは、カモミールの花から。
イランイランオイルは、イランイランの黄色い花から。
ジャスミンオイルは、ジャスミンの花から抽出される。
植物油とは、植物(種子・果実・胚芽など)から搾り取って精製した油の総称で、大規模な作付が必要だ。けれどコロネには、領地にそれらを植える権限は今のところないので、公爵邸の周囲でできることだけを考えていた。
(でも……精油って(バラ等の花びら)が大量に必要だから、この温室の分では小瓶に10本取れれば良いほうよね。花を植える、広大な場所が必要だわ)
そんなことを考えつつ、微笑みながらミディアの様子を窺うコロネ。彼の方も花が好きなのか、温室を見渡して目を輝かせていた。
(あの花は熱帯にはヒスイカズラ、タッカ・シャントリエリも! あれはリュウゼツラン(数十年に一度しか咲かない幻の花)じゃないか! 月下美人まである。全て温室がないと咲かない熱帯の花達だ。すごい、すごいよ!!!)
「美しいですね。それに珍しい植物がたくさんあります。ワッサンモフ公爵令嬢は、花がお好きなんですか?」
彼は温室の端の方にある植物へも、わざわざ目を向けていたようなので、本当に興味があるようだ。
青磁の髪と煌めくような灰色の瞳で、真剣に尋ねてくる彼に、コロネは正直に答える。
「この温室は、私の父が母の為に建てたのです。母はバラの花が好きだったので。珍しいものがあるのは、父が母を喜ばせようとして、取り寄せたみたいですね。専門の庭師が必要となり、その時雇い入れたナップラルは薬草にも詳しくて、私もたくさん学ばせて頂きましたわ」
家族で庭で遊んだことを思い出し、笑顔になるコロネ。ミディアは2つ上のせいかとても落ち着いており、教養が深いように思えた。
勿論年齢と人柄は別だろう。けれど話す速度や声音、受け答えの内容は、コロネを年下だと侮ることはなく、優しさを含んでいた。
「そうなのですか? それはとても羨ましいです。僕も植物には興味があって、よく本を読みますから。あ、えーと、男らしくないですよね、こんな趣味なんて。面白い話でもないし……」
言い終えてから気まずげに俯く彼に、「そんなことないですよ。実際に植物は、毒にも薬にもなりますし、いろいろ奥が深いですから。(お金になりやすいので)私もいろいろと勉強中なんです」と、コロネは食いぎみに声をかけた。
ミディアは一瞬ポカンとしたが、その後嬉しげに破顔していた。
「ありがとう。じゃあこれからも、植物の話をさせて貰うね」
「はい。私もいろいろ教えて欲しいです。モンテカルロ伯爵令息様」
お互いの共通点が見つかり、婚約者と言うよりは友人のように心が通う2人。
そんな彼らに甲高くて、甘ったるい声が響く。
「ミディア様~。私もご一緒させて下さい。たくさんお話したいです♡♡♡」
温室には似つかわしくない服装で現れたブルーベル(8歳)は、コロネを無視してミディアに走り寄って来たのだ。
彼女の白いドレスにはドピンクのレースとリボンがふんだんに縫い付けられ、桃色の髪にもドデカい宝石付きのストライプ(ピンクと黄緑の)リボンが、ツインテールの髪に揺れていた。
その勢いにドン引くミディアと、彼の前に立って守ろうとするコロネ。
「何よ、邪魔する気なの? 超うざいんですけどぉ。ミディア様だって地味なあんたより、私と話がしたい筈よ。そこを退きなさいよ!」
「いいえ、退きませんわ。モンテカルロ伯爵令息様に失礼ですよ」
「何よ、気取った言い方なんてして。知ってるのよ、親無しの癖に! もうあんたの親は、帰ってこないんでしょ?」
「…………(分からないわ。でもその可能性はあるのかも?)」
俯くコロネに気を良くするブルーベルと、困惑するミディア。
そこにアンナに呼ばれた家令のレイアーが、場を収集する為に急いで駆けて来た。
「ブルーベル様。この時間は、お二人の為にお約束されたものですので、何卒お部屋にお戻り下さい!」
ブルーベルの声だけが温室に響いていた。
111
あなたにおすすめの小説
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。
乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。
そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。
(小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)
拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。
ハーフのクロエ
恋愛
公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。
彼のいない夏
月樹《つき》
恋愛
幼い頃からの婚約者に婚約破棄を告げられたのは、沈丁花の花の咲く頃。
卒業パーティーの席で同じ年の義妹と婚約を結びなおすことを告げられた。
沈丁花の花の香りが好きだった彼。
沈丁花の花言葉のようにずっと一緒にいられると思っていた。
母が生まれた隣国に帰るように言われたけれど、例え一緒にいられなくても、私はあなたの国にいたかった。
だから王都から遠く離れた、海の見える教会に入ることに決めた。
あなたがいなくても、いつも一緒に海辺を散歩した夏はやって来る。
婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる