弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

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メイド長、タバサの姉。 その1

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『タバサ・ダンクワーズ伯爵令嬢』

 元メイド長、ルマンサー・ダンクワーズの三女にして、ワッサンモフ公爵家の現メイド長を勤めている。


 大体の者は生涯に渡って前世なんて思い出すことはなく、死ねば来世に生まれ変わっていくのが普通のこの世界。
 

 けれどこの伯爵家。
 ある意味女神の救済のように、後悔した気持ちを持つ魂が集まるようなのだ。
 その者達は前世の記憶を残したまま生まれ、あるきっかけでそれを思い出して生きていく。
 多くの者が後悔を繰り返さぬように、その知識を利用したり、戒めにするようだ。
 生まれ変わっても消えない悔恨は、大まかに次のようなものだった。


 例えば。
「私は夫のことが好きすぎて浮気も許したのに、再婚に邪魔だと言われ暗殺された」

「俺が男に乱暴される女性を助けたのに、『平民風情が煩いんだよ!』と逆ギレされ切られた。それが致命傷で死んだ」

「ミユなんて、何度も叩かれて死んだのよ。まだ3歳だったのに。大好きだったお母さんに」

「自分のことしか考えず、我が儘で家を潰してしまった。悔やんでも悔やみきれない……」


 親に、恋人に、兄弟姉妹に、友人に裏切られた辛い記憶。または自らの行動で、自分だけでなく回りを傷つけた記憶。



 辛い懺悔や復讐の記憶を受け止めるのは、長く教育を担当する教師達だ。

「もう思い出したのか、早いな」とか、「今回の子は思い出さなかったな。ここで大切に育てられて、傷が癒えたのかな?」と、彼らは子供達の変化を雇い主達に相談し、落ち着いて対応して来た。

 当主達はその教育者に必ず教えを受ける為、前世持ちにも僅かしか驚くことはない(少し動揺するけれど、顔に出さない教育を受けている)。

 
 メイド長タバサも、後悔の中で生を終えた一人だった。
 今世のタバサに生まれた(前世名)水前寺聖子すいぜんじ きよこは、まるでチーターの如く舞うように戦う無敗のレディース総長だった。スケバン(と言われる女番長)時代の喧嘩上等の黄金期で。


 武器や道具を使わず、タイマンの素手で殴り合う決闘ステゴロの際に裏切られ、大勢の相手に殴られて死んだのだ。

 タイマンで勝った聖子だが、相手は最初から彼女を潰す気だった。正当な闘いなら受け入れられたが、騙し討ちの死には納得がいかない。
 そんな訳で彼女の魂は、ここに連れて来られたらしい。


 
 彼女が覚醒したのは2人の実姉に物を取られ、掃除を押し付けられ、愚鈍だと小突かれ続けた時である。

 幼いながらも美しい薄橙の髪と愛らしい大きな桃色の瞳を持ち、父や祖父母に可愛がられた末っ子は姉達に酷く嫉妬された。

 実際に他の姉妹より美しく生まれたタバサは、すぐ上の姉ジャムレには特に苛められた。髪を引っ張られたり、意味もなく頬を打たれたり。

「お前が悪いのよ。だからそれを罰しているの。これは正当なことなのよ!」


 姉達だけに嫌われ、理不尽な態度を取られるタバサ。
「どうして私だけ、お姉様に嫌われるのかしら? 私がいけないことをしたの? もしそうなら直すから教えて欲しいの、お父様」

「そうかい? 気のせいに思えるけど」
 何も気付いていない、頭は良いが全体的に隙だらけで能天気な父パルダ。




 父親の膝に座らされ真剣に悩みを打ち明けるタバサは、それを見たジャムレにさらに嫉妬され苛めれるのだった。

「また……あの子だけ。一番年下で可愛いからって、良い気になってあんなに甘えて! 悔しいわ」


 ジャムレもジャムレで、苦しんでいた。
 自分は可愛くないから、愛されないのだと思い。
 彼女も幼い時には可愛がられていたのだが、すっかり忘れていたのだった。

 不幸にもその気持ちに気付ける者が、彼女の近くにはいなかった。
 


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