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タバサの指導 実践編
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あの後ブルーベルは、気絶している間に自室のベッドに寝かされていた。
クリム一家は、一人ずつ部屋が与えられている。その為、新たなアクセサリーを見せびらかしに茶会に参加しているコーラスと、高級酌婦のいる店に通い詰めるクリムは、ブルーベルが不在だったことに気付いていなかった。そもそも、気にも止めているかどうか?
人の金で外出し、楽しんでいたのである。
ワッサンモフ公爵家の資金で豪遊する彼らは、立派な服や装飾具に身を包み、羨望を向けられて気分が良い。
子供のことなど考える暇もなく、これから続く栄華を誇るように。
思えばブルーにが味方のいない公爵邸に残され、格下だと(両親が嘲る為)見下していたコロネに絡んだのは必然だった。
大人達は勝手に散財して楽しんでいたが、ブルーベル単独では何もできない。
チェロスト子爵家にいた時のように、家庭教師もいないし、幼い時からいてくれた乳母や侍女もおらず。いつもは気にかけてくれた人が、誰もいないのだ。
(子供であるブルーベルは、それほど子爵家の使用人に疎まれていなかった。可愛かったし、ちょっと我が儘だなくらいの扱いだった。サイダーとジンジャーとは、親の関係で疎遠気味だったが)
公爵家の使用人は洗練されているが、いつも笑顔で必要以上に会話もしてくれない。
寂しかった。
だからこそ両親が居ない、哀れな従妹のコロネに絡んだ。彼女なら大人しそうだから、きっと自分を苛めない。もし私達が公爵家を継いでも、追い出さないで侍女にして置いてあげようと思っていた。
たまたまミディアのことは、両親が話していて知っていた。お父様が公爵家を継げば、彼の婚約者は私になるかもしれない。
とても綺麗な男の子だから、私も話してみたかった。
けれど……言い返されたら頭にきて、つい酷いことを言ってしまった。
「コロネ、泣いてたわ。私が親が戻って来ないと言ったから。庇われたミディアも、辛そうにしていた……」
私はどうして何も考えずに、あんなことが言えたのだろう。たぶん自分の方が、彼女より優位だと思っていたからだ。
本当は身動きできないほど、追い詰められた人間だったのに…………。
「何も知らなかったの……。ただの言い訳よね。知ろうともしないで」
ブルーベルの思考は整理され、逃げられないだろう今後のことを考える。
彼女は翌日、両親が家を出るとタバサの元へ訪れた。
◇◇◇
ブルーベルは貴族の黒歴史や、自分達の(主に借金等の)状況、スライストとミカヌレが生きていることを、タバサから聞かされた。
そもそもミカヌレやスライスト達の情報は、ワッサンモフ公爵家が制限をかけていた。間違ってもクリムに知られる訳がないのだ。
裏にいる者のことはとっくの昔に把握され、泳がされていたクリム一家。それでもその名を、正確に確認しておく必要がある。
「お前に、お前の両親に、それを伝えたのは誰だ? 顔を知っている貴族だったか?」
タバサの問いに、ブルーベルは頷く。
「子爵家に訪れたのはクルル・ミズーレン伯爵だった。普通有力な貴族は田舎に来ないから、覚えていたの。その後からお父様が、ワッサンモフ公爵家を継げるかもしれないって、機嫌が良くなって。お母様もはしゃいでいたの。
私がハッキリと、コロネの両親が戻って来ないとお父様に聞いたのは、ここに来てからよ」
「そうか。有力な情報だった。ありがとう」
クルル・ミズーレン伯爵が直接赴いたのは、信憑性を持たせて、愚かなクリムを動かす為だろう。
フォカッチャー・クロダイン公爵も、きっとこの件に絡んでいる筈だ。
◇◇◇
「それよりお前、これからどうする気だ? チェロスト子爵家に戻るか? ここに留まるなら私が手助けしてやるぞ。お前限定だが、最悪な末路にならないようにな」
「最悪な末路を避けられる……本当に?」
腰に手を当てて、大きく頷くタバサ。
昨日のような、意地悪な顔はもうしていない。
「その代わり、コロネお嬢様とついでにミディア様に謝罪して、両頬にビンタ貰うことから始まるがな。あとは土下座だな? これは必須だ!」
「土下座って、何?」
「地に正座して額を地に突ける、最大級の謝罪方法だ。知らんのか?」
「うん、初めて聞いたわ」
「だから貴族はダメなんだよ。ちゃんと覚えておけよ」
「分かったわ、ありがとう」
「じゃあ、謝罪するよな」
「ええ。私だけでもするわ。許して貰えないかもしれないけど」
「そうだ。一度で許されると思うな。お百度参りと言う、神仏に百度参拝する方法もあるくらいだ。気持ちが伝わるまで行くんだ。許されるまでな」
「はい、タバサさん」
迷いが吹っ切れて、キリッと良い顔になったブルーベル。
「じゃあ、まず。ビンタされても揺るがないように、体幹と全身の体作りだ。今日は孤児院裏の草刈りがあるから、一緒に行くぞ」
「へっ、草刈り?」
「そうだ。ランニングでも良いが、ただ走るのは勿体ないからな。大丈夫だ、ちゃんと草刈り用の服は用意してやる。親には絵画を見て勉強する為に、外出してたとでも言っとけ。良いな。後、先に手紙で謝罪文を送ろう。私に書いて持って来るように。内容は確認してやる」
「は、はい。分かりました。よろしくお願いします」
「ちゃんと気持ち込めろよ。お前酷かったって、アンナとレイアーがキレてたからな」
「はい、スイマセン……」
項垂れて頭を下げるブルーベルと、彼女に見えないように満面の笑顔をするタバサ。
そんな感じで、ちょっとズレたタバサ式の教育方が開始されたのだ。
クリム一家は、一人ずつ部屋が与えられている。その為、新たなアクセサリーを見せびらかしに茶会に参加しているコーラスと、高級酌婦のいる店に通い詰めるクリムは、ブルーベルが不在だったことに気付いていなかった。そもそも、気にも止めているかどうか?
人の金で外出し、楽しんでいたのである。
ワッサンモフ公爵家の資金で豪遊する彼らは、立派な服や装飾具に身を包み、羨望を向けられて気分が良い。
子供のことなど考える暇もなく、これから続く栄華を誇るように。
思えばブルーにが味方のいない公爵邸に残され、格下だと(両親が嘲る為)見下していたコロネに絡んだのは必然だった。
大人達は勝手に散財して楽しんでいたが、ブルーベル単独では何もできない。
チェロスト子爵家にいた時のように、家庭教師もいないし、幼い時からいてくれた乳母や侍女もおらず。いつもは気にかけてくれた人が、誰もいないのだ。
(子供であるブルーベルは、それほど子爵家の使用人に疎まれていなかった。可愛かったし、ちょっと我が儘だなくらいの扱いだった。サイダーとジンジャーとは、親の関係で疎遠気味だったが)
公爵家の使用人は洗練されているが、いつも笑顔で必要以上に会話もしてくれない。
寂しかった。
だからこそ両親が居ない、哀れな従妹のコロネに絡んだ。彼女なら大人しそうだから、きっと自分を苛めない。もし私達が公爵家を継いでも、追い出さないで侍女にして置いてあげようと思っていた。
たまたまミディアのことは、両親が話していて知っていた。お父様が公爵家を継げば、彼の婚約者は私になるかもしれない。
とても綺麗な男の子だから、私も話してみたかった。
けれど……言い返されたら頭にきて、つい酷いことを言ってしまった。
「コロネ、泣いてたわ。私が親が戻って来ないと言ったから。庇われたミディアも、辛そうにしていた……」
私はどうして何も考えずに、あんなことが言えたのだろう。たぶん自分の方が、彼女より優位だと思っていたからだ。
本当は身動きできないほど、追い詰められた人間だったのに…………。
「何も知らなかったの……。ただの言い訳よね。知ろうともしないで」
ブルーベルの思考は整理され、逃げられないだろう今後のことを考える。
彼女は翌日、両親が家を出るとタバサの元へ訪れた。
◇◇◇
ブルーベルは貴族の黒歴史や、自分達の(主に借金等の)状況、スライストとミカヌレが生きていることを、タバサから聞かされた。
そもそもミカヌレやスライスト達の情報は、ワッサンモフ公爵家が制限をかけていた。間違ってもクリムに知られる訳がないのだ。
裏にいる者のことはとっくの昔に把握され、泳がされていたクリム一家。それでもその名を、正確に確認しておく必要がある。
「お前に、お前の両親に、それを伝えたのは誰だ? 顔を知っている貴族だったか?」
タバサの問いに、ブルーベルは頷く。
「子爵家に訪れたのはクルル・ミズーレン伯爵だった。普通有力な貴族は田舎に来ないから、覚えていたの。その後からお父様が、ワッサンモフ公爵家を継げるかもしれないって、機嫌が良くなって。お母様もはしゃいでいたの。
私がハッキリと、コロネの両親が戻って来ないとお父様に聞いたのは、ここに来てからよ」
「そうか。有力な情報だった。ありがとう」
クルル・ミズーレン伯爵が直接赴いたのは、信憑性を持たせて、愚かなクリムを動かす為だろう。
フォカッチャー・クロダイン公爵も、きっとこの件に絡んでいる筈だ。
◇◇◇
「それよりお前、これからどうする気だ? チェロスト子爵家に戻るか? ここに留まるなら私が手助けしてやるぞ。お前限定だが、最悪な末路にならないようにな」
「最悪な末路を避けられる……本当に?」
腰に手を当てて、大きく頷くタバサ。
昨日のような、意地悪な顔はもうしていない。
「その代わり、コロネお嬢様とついでにミディア様に謝罪して、両頬にビンタ貰うことから始まるがな。あとは土下座だな? これは必須だ!」
「土下座って、何?」
「地に正座して額を地に突ける、最大級の謝罪方法だ。知らんのか?」
「うん、初めて聞いたわ」
「だから貴族はダメなんだよ。ちゃんと覚えておけよ」
「分かったわ、ありがとう」
「じゃあ、謝罪するよな」
「ええ。私だけでもするわ。許して貰えないかもしれないけど」
「そうだ。一度で許されると思うな。お百度参りと言う、神仏に百度参拝する方法もあるくらいだ。気持ちが伝わるまで行くんだ。許されるまでな」
「はい、タバサさん」
迷いが吹っ切れて、キリッと良い顔になったブルーベル。
「じゃあ、まず。ビンタされても揺るがないように、体幹と全身の体作りだ。今日は孤児院裏の草刈りがあるから、一緒に行くぞ」
「へっ、草刈り?」
「そうだ。ランニングでも良いが、ただ走るのは勿体ないからな。大丈夫だ、ちゃんと草刈り用の服は用意してやる。親には絵画を見て勉強する為に、外出してたとでも言っとけ。良いな。後、先に手紙で謝罪文を送ろう。私に書いて持って来るように。内容は確認してやる」
「は、はい。分かりました。よろしくお願いします」
「ちゃんと気持ち込めろよ。お前酷かったって、アンナとレイアーがキレてたからな」
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