弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

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不思議なお店

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 コロネは食堂の2階に借りている部屋で、ゆっくりと目を覚ました。


「ふわぁ。う~ん、よく寝た。アンナがいたら、こんなに大あくびをしたら、「お嬢様、はしたないですよ!」って、怒られていたわね。ふふっ」


 使い込まれた家具に囲まれ、自分の選んだ布団や枕カバーに包まれながら、ゆっくりと起き上がる。
 公爵家で使う物のような、立派な刺繍やレースはないが、肌触りが良くて気持ちが良かった。洗濯しやすくて乾きも早い。

 洗濯物は、階に付属している共用の洗面所で手荒いして、ベランダの物干しにかければ自然と乾く。洗濯板と洗剤は、この宿の主である食堂の女将さんから借りられる。


 今日は商会に行く前に時間がある為、街歩きをするつもりだ。


 一般人が足を踏み入れると危険な場所は、予め聞いて頭に入れている。

 それに今日覗いてみたい場所は、ギルドが管理している場所の範囲内にある。

 特に緊張感もなく、身支度を整えて1階へ降りて行けば、女将さんが日替り定食を出してくれた。

 モロコシから聞いてコロネの事情を知っているので、気兼ねなく接することができた。
 全体的にふっくらしてて手もプクプクして、見た目と同じで優しい人だ。
 女将さんの作る食事は全部美味しくて、お手伝いすると褒めてくれてお小遣いもくれる。
 いらないと言っても、「子供は遠慮するんじゃないよ! これからまだまだ生きていくのだから、貯めときなさい」と微笑んで。


 お盆に乗せた焼きたてのパンに野菜サラダ、大根おろしをたっぷり乗せた猛獣肉のハンバーグだ。

「女将さん、今日も美味しいよ。最高です!」

「そうかい、ありがとうね。今日の鹿肉は、神父のチャーシが狩ってきた新鮮なやつよ。夜はシチューにするから、楽しみにしててよ」

「うん。すごく嬉しいな。今日も頑張れそうだよ!」



 開店前のお店で、料理の下準備を終えた女将さんと一緒に食べる朝食。心から落ち着くし、話も弾んで楽しい時間。
 血の繋がった、本当のおばさんみたいだ。


 旦那さんは午前中、数人の男性と一緒に街の警備に回っている。怪しい人物が入って来ていないか、困っていることはないかの確認だ。

 警ら隊は時々来るのだが、大きな街だから手が回らないところを街の人達で補っている。
 元冒険者で体格も良く、強面だけど頼りがいがある。話すと印象と違い、すごく優しい人なのだ。


「じゃあ、行ってきます」 
「気をつけてね。頑張んなさいよ!」
「うん、頑張るよ!」


 元気に手を振って、コロネは宿を後にした。


 
◇◇◇
 そして今日も、新たな店を探検する。
 軒先に薬草や花を干している、建物全体が黒いペンキで塗られた建物が目に入る。

(今日はここに入ってみよう)


 コロネはいかにも薬師がいそうな、その建物のドアを開けた。


「ごめん下さい。お店を見ても良いですか?」

 私が声をかけると、薄暗い店内の奥から声が聞こえた。

「えー、店に入れたの? 嘘っ! ちょっと待ってて、今行くから!」


(まだ準備中だったのかな? 鍵がかかってないから入ったけれど、出直した方が良いかしら?)

 少し後悔しながら、申し訳ないと思っていると声の主が現れた。


「ああ、ごめんね。ここに入れる人が少ないから、油断してたよ。君は初顔だね。
 僕はラディッシュ・カルコームで、この店の店主をしています。今日は何をお探しですか?」


 店主と名乗るラディッシュは、銀色の長い髪を腰まで揺らし、涼しげな目元の水色の瞳をコロネに向けて微笑んだ。

(クールビューティって感じの美青年、まだ少年かしら?)

 黒いトラウザーズズボンと襟と袖にレースがあしらわれた白シャツを着た姿は、とても平民とは思えなかった。よく見ると服のあちこちに、金糸の刺繍も施されている。


「えーと、お店を見てみたくて。将来自分のお店を持つ時の参考にしたくて」

 とっさに嘘をついてしまったコロネ。
 だって冷やかしで入ったとは、とても言えなくて。


「そうなんだ。たくさん見て行って。あ、僕、お茶でも入れて来るよ」

「ああっ、おかまいなく。あ、行っちゃったわ」


 そこには今まで見たこともない、何に使うか分からない道具や綺麗な煌めく大きな石、薬草や野菜がところ狭しと置かれていた。

 
「この国のものではない……。それだけは分かるわ。彼はいったい何者なのかしら?」


 疑問は湧いてくるが、好奇心の方が優先したコロネ。

「わあ! これ、どうやって使うのかしら? 不思議な形ね~」

 思わず声を出した時に戻って来たラディッシュは、目を細めて嬉しそうだった。


「言ってくれれば説明しますよ。ワッサンモフ公爵令嬢」

「!」



 平民の服を着ているコロネを、貴族だと知っていたラディッシュ。彼は平民には思えないが、今までカルコームの姓を聞いたことはなかった。


(どうして、私のことを知っているの?)

 僅か混乱したコロネは、知らずと苦い顔を浮かべたのだった。


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