弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

文字の大きさ
64 / 79

夜空の下で

しおりを挟む
 そんな感じで話をしながらてくてく歩き、ラディッシュの店まで着いた。


「いらっしゃい、コロネ嬢。付き合って貰って悪いね、モロコシ」

 店の中から外を眺めていたラディッシュは、まだ遠くにいるコロネ達をみつけて、店から飛び出して手を振る。


 嬉しそうな顔のラディッシュは、店にあった光を灯す魔法具を片手に携えていた。

 店のドアに鍵をかけ、魔道具を作動する。

 途端に黒に染まっていた、彼の周囲の景色が色付いていく。


 灯り部分の上には取ってが付いており、腕を振りながらコロネの元まで駆けてくるラディッシュ。


 まるで光だけが動いているようだ。
 遠くにいる者が見れば、持っている人の姿なんて闇に紛れて見えないから、怪奇のように映るだろう。

 だって松明の火ではない、直径3m程を照らす光など見たことがない。

 それが今、昼とは違う街の様子を照らしていた。太陽がないだけで、なんて幻想的なのだろう。


「こんばんは、ラディッシュ様」
「こんばんは、コロネ嬢。暗い道は怖くなかった?」

「ええ。モロコシさんがいるから平気だったわ」
「そうなの?  なら、良かった。ねえ、モロコシ。これ重いんだ、持って貰っても良い?」

「良いですよ。これは移動用には作られていないから、ラディッシュには到底無理だ。そもそもこれ、取ってなんて付いてたか?」

「それは僕が付けたんだ。せめてものお手伝いのつもりで」

「そうか、すごいな。さすがノームの愛弟子。元からのデザインを壊さない綺麗な継ぎ目と、持ち安さだ」

「そうか? ありがとう」



 道を照らしながら、3人はテクテク歩いていく。

 夜行性の鳥や狐などの目が、灯りに反射し逃げて行く。彼らも魔道具の光に驚いているのだろう。

「動物達に悪いことをしたわね」

「そうだね。きっと大きな獣だと思っただろう」

「二人とも、あんまり大きい声は出すなよ。みんな寝てる時間だからな」

「うん、気をつけるね」

「そうだよね、ごめん」

「別に怒ってる訳じゃないぞ。俺だって冒険みたいで楽しいからな」

「「モロコシ(さん)♪」」

「まあ気にするな。漁港を見たら今日は帰るぞ。お子様に夜ふかしは毒だからな」

「まあ、酷いわ」
「もう、子供扱いは止めてくれよ。僕は10歳になるのに」

「私は……ふふっ、そうね。モロコシさんから見たら子供くらいの年齢ですもんね。早く漁港に行きましょう」

「……何か少し、ダメージが。どうせ俺は爺ですよ。ミカヌレ様より年上だしな。はあぁ~、早く結婚してぇ」

「大丈夫だぞ、モロコシ。いつかきっと、お前の良さに気付く奴もいるから。諦めるな!」

「慰めるなよ。よけい惨めになるっ」



 子供達をシュンとした顔から、瞬時に笑顔に変えたモロコシ。彼の声音と優しさには、誰もが安堵を覚える。
 結果友人となり、年下からもナメられてしまうことに繋がる。本人は特に気にしない為、問題にもならないけれど。

 
 モロコシだけ多少落ち込みながら、漁港まで到着した彼ら。





◇◇◇
「夜の空はキラキラして綺麗ねえ。たくさんの星が私のところに落ちてきそう」

「そうだね。僕も護衛なしで外には出ないし、普段景色なんか見ないから、空を眺めるなんて久し振りだよ。……確かにね。いろんな種類の宝石を散りばめたみたいだ」

「この空は、ずっーと向こうの国まで繋がってる。こっちは夜だけど、反対の位置にある国は昼だぞ」


「じゃあラディッシュ様。この夜景は、私達だけのものってことね」

「まあ、そうだな。この景色は今、夜の国しか見れないことになる。(順繰り順繰りと流れていくから、結局は同じようなものだが)」

「そんなこと知らなかったよ。国によって昼夜が違うなんて」

「近隣は同じだから、気付かなくて当然だよ。僕達は空間転移魔法を使って移動するから、そんなことがあると認識はしていたけど、普通にゆっくり移動すれば違和感はないからね」


「そうだぞ、コロネ。俺も移動は徒歩か船だから、魔法で他国に行った時は驚いたもんだ。まあさ、俺達にとって魔法自体が不思議なものだけどな」


「うん、不思議。分からなくても困らなかったけど、知るとビックリする。でもラディッシュ様にとっては普通のことなのよね。私が知っている知識なんて、本当に少ないのかもしれないわね」



 光を灯す魔道具を消し、夜空を眺める3人。水面に星が映り込み、世界が星に包まれているようだった。時々跳び跳ねる小魚も、月明かりでキラキラと煌めいている。


「ボチャッ、バチャ、バチャバチャ」
 そんな彼ら耳に、大きな水音が響いた。

「また魚か? イルカでも迷い混んだか?」
 音に近付く3人だが、それが人間だと気付いた。


 声も出せず溺れていたのだ。
「大変、助けなきゃ!」

「でもこんな夜に海にいるなんて、怪しいぞ」

「なんでよ。そんなこと言ってる場合じゃないでしょ? 私、行くわ!」

「ちょっと待て。それなら俺が行く。お前らは拐われたりしないように、周囲を警戒して待ってろ!」

「あぁ、モロコシ。気を付けて」



 コロネの啖呵で、冷たい海に飛び込んだモロコシ。程無く彼が連れ戻ったのは、赤い髪の少女だった。


「おい、あんた。目を覚ませ、おい!」

 ぐったりして目を開けない、彼女の呼吸は止まっていた。
 モロコシは必死で、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。


 そして……5分後。

「がはっ、ごほっ、くはっ」

 少女は水を吐き出し、目を開けた。
「…………ここは、どこ? 私は、どうなったの?」


 彼女は、まだ枯れた微かな声で尋ねる。


「溺れていたから、助けたんだが。何であんなところに一人でいたんだ? 他に一緒にいた者はいるのか?」

 モロコシの質問に、絶望した表情の彼女は呟いた。


「……乗っていた小船から、突き落とされたの。味方だと思っていた者から………………」


 そう告げた後、彼女は意識を失ったのだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。  乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。  そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。   (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)  

拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。

ハーフのクロエ
恋愛
 公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。

彼のいない夏

月樹《つき》
恋愛
幼い頃からの婚約者に婚約破棄を告げられたのは、沈丁花の花の咲く頃。 卒業パーティーの席で同じ年の義妹と婚約を結びなおすことを告げられた。 沈丁花の花の香りが好きだった彼。 沈丁花の花言葉のようにずっと一緒にいられると思っていた。 母が生まれた隣国に帰るように言われたけれど、例え一緒にいられなくても、私はあなたの国にいたかった。 だから王都から遠く離れた、海の見える教会に入ることに決めた。 あなたがいなくても、いつも一緒に海辺を散歩した夏はやって来る。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

処理中です...