弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

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助けた少女

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「取りあえず宿へ運ぼう。気管に水が入ったせいか、体が熱い。休ませて薬を飲ませないと」

 モロコシは気を失った少女を背負い、歩き出した。


「モロコシさん、私の洋品店へ運ぼう。裏の道を通ればすぐだから。モロコシさんの家やラディッシュ様の家は遠いから、その方が早いわ」

「そうだな。じゃあ、行こう。走るぞ!」

「「はいっ!」」


 ラディッシュは魔道具で道を照らす。

 コロネとラディッシュは、走るモロコシに必死で追い付いて行く。

 5分程で目的地に着き、コロネは洋品店の鍵を開けた。モロコシが仮眠用のベッドに彼女を寝かせた後、コロネは彼らを部屋から追い出し着替えを行う。

 時々孤児院で、子供達の汚れた服の着替えを手伝っていたので、それほど時間はかからなかった。
 幼子のように暴れないので、お手の物である。


「洗面器に水を入れてテーブルまで運んで。私はタオルを持ってくるから」

「分かった」


 コロネはラディッシュに洗面器を渡し、タオルを取りに2階へ向かう。
 モロコシは怪しい者がいないか、店の周囲を確認している。


「尾行の気配はないな。だが俺はもう少し外で見張ることにする。彼女は任せたぞ」

「うん、大丈夫。夜は寒いから、モロコシさんも無理しないで」

「おう、分かってる。ありがとうな」


 洋品店だけあり、売り物の服がたくさん置いてあるのが幸いした。

 額を冷やした後、ラディッシュに一時的に看病を任せ、庭に生えている薬草を抜き解熱剤を作るコロネ。

 少量ずつであるが、軟膏の材料や清涼感・冷却用、鎮静・鎮痛効果のあるものが、洋品店の庭に植えてある。



「っく……はぁはぁ……ふっ、くっ」

 少女の苦しげな呻き声が部屋に響く。


「頑張って。今、コロネ嬢が薬を作っているから。絶対楽になるからね」

 ラディッシュは彼女の手を握りしめ、聞こえていないだろう声をかけ続けた。

 そこにコロネが駆け込んで来る。


「お待たせ、薬できたよ。彼女の上体を少しだけ支えてくれる。スプーンで口に入れるから」

「分かった、任せて」


 ラディッシュはベッドの逆側にまわり、彼女の背に毛布を滑り込ませ肩を優しく支えた。
 コロネは彼女の口の端からスプーンを差し入れ、少しずつ薬を入れていく。

「っ、う…………」

 苦い薬のせいか、彼女の顔が歪む。
 それでも嚥下を確認しながら、規定量を含んで貰った。

「これで熱は少し下がると思うわ。後は額を冷やして汗を拭いていきましょう」

「そうか、良かった。一先ず安心だね」


 体を元に戻した後、呼吸しやすいように少し横に向けた。暫くして荒かった呼吸は落ち着き、呻き声もしなくなった。

 薬が効いたのかもしれない。


「ラディッシュ様、ありがとう。貴方は少し休んで」

「僕も起きているよ。心配だもの」

「じゃあ、交代で看病しましょう。ラディッシュ様が先に休んで、その後私も休むから」

「……そう? じゃあ、少しだけ。すぐに交代するからね」


 そう言って、隣のベッドに横になるラディッシュは、すぐに眠りに就いた。

「眠そうだったものね。それなのによく頑張ってくれたわ。おやすみなさい、ラディッシュ様」


 コロネは最初から、ラディッシュを休ませるつもりだった。夜中にたくさん歩いて、おまけに慣れない看病までしたのだ。
 いつもお店の中で過ごす彼は、すごく疲れただろう。それでも弱音を吐かずに頑張ってくれたのだ。



 その後にモロコシも部屋に入って来た。

「おう、任せて済まなかったな。外は大丈夫みたいだから、後は俺が見てるぞ。コロネも少し休むと良い。ソファーが隣にあるから、毛布持って行け」


 当然のように言うモロコシに、コロネは慌てた。

「そんな! モロコシさんはずっと外にいたのに、疲れたでしょ? 服はたくさんあるから、濡れた服を着替えて休んだ方が良いよ。風邪引いちゃう」

 そんなコロネに、モロコシは優しい顔を向けた。

「ばっか、お前。俺は大人だし、ダンジョン地下迷宮の敵がいる場所で、3日寝ないこともあったんだぞ。余裕だって! 6歳のお子ちゃまは甘えて寝とけ」

「でも……」

「良いんだって。じゃあ、2時間寝ろ。絶対起こすから。それから変わってくれれば助かる」

「……分かったわ。絶対起こしてね」

「おう、おやすみ♪」



 後ろ髪を引かれるように、コロネは隣室へ向かった。


 結局のところ。
 ラディッシュとコロネは、途中で起きれずに熟睡した。モロコシも起こすことなく、看病を続けた。


「2人とも良い子だな。貴族として育ったのに、人のことばかり心配して。おじさん泣けてきちゃうぜ」

 そんな独り言を言いながら、今後のことを考えるモロコシ。



 モロコシは暫く外で警戒していたが、敵の気配がなく、更にコロネの護衛の隠密がいたことで、見張りを任せて室内に入ったのだった。

(コロネの護衛が入れば、室内に怪しい者は入って来ない。恐らく現れれば、あいつらに連れて行かれるだろう。問題があるとすれば、この少女の方だな。さて、どうするか?)


 モロコシは気付かなかったが、少女は目が覚めていた。そして救助してくれた者達への感謝と困惑が、頭を占めていた。

 
(何で、こんな怪しい私を助けたの? それも寝ないで看病まで……。家族にだって疎まれている私を。どうして?)


 モロコシに声をかけることもできないまま、少女は纏まらない思考で、再び微睡みに落ちていった。





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