1 / 2
ローズナの場合
しおりを挟む
今日は私、ローズナ・グラバッドの誕生日。
………………16歳を迎えた。
その日は一日中雨が続き、厚く覆われた雲から光射すことはなかった。
「もうお別れだよ。今の萎れた君は、俺に相応しくない。…………潮時だ」
その日彼は、連絡もなしに邸に押し掛けて来た。
勝手な台詞を呟く唇の主は、婚約者である伯爵令息のエルラーク・ブライトン。
子爵家の一人娘である私、ローズナに何度も愛を呟き、父親を説得して結んだ婚約だったのに…………。
付き合ってから知ったのは、彼の本当の目的。
私の家の有り余る財産を手にし、最終的には子爵家を手に入れることだった。
彼はもう、それがいらなくなったらしい。
◇◇◇
話は婚約話が来た時に遡る。
私はこの婚約に反対だった。
けれど、父親であるフュードラには逆らえない。
「……ローズナ、分かっているね。これは必要な犠牲なのだ。辛いだろうが、すまない…………」
「良いのです、お父様。暗い顔をしてしまい、申し訳ありません。私ならば、大丈夫ですから」
『深窓の令嬢で体も弱く、滅多に社交にでない世間知らず』
それが私に付いてまわる噂だった。
私は、エルラークを見かけたことがあった。
断ることのできない王宮の夜会に参加した時、多くの男女がダンスホールで微笑み、クルクルと踊っていた。
その中でも人目を惹いていた二人。
可愛らしい王女殿下と優雅に踊る、美しくてスラリとした体躯の男性が彼だった。
周囲はお似合いのカップルだと囃し立てるが、伯爵家の次男に彼女を娶る力はない。
今踊っているのも、彼女の護衛騎士と言う立場に過ぎず、婚約者のいない彼女の我が儘で、踊っている体だった。
「悲恋でしょうね…………」
王女を降嫁させられる家格と財力等を持ち、年の近い年齢の子息は、この国にはいない。
かと言って20歳も年の離れた侯爵の後妻では、王女が可哀想だと嘆く国王ラルケ。
けれど家格を落として嫁がせるのは、国にとって益がなさ過ぎると言う王妃の意見も、無下には出来ない。
寵妃である側室の娘である王女は、きっと他国に嫁に出されるだろう。
家を継げないエルラークでは、相手にもならない。
だからこそ彼の父親である伯爵も、彼を平民にさせないように私を彼に薦めたのだろう。
社交に殆ど出ない私を、彼が知る機会など、ありはしなかったから。
世間慣れしていない、コントロールしやすい令嬢。
彼らから見ればきっと、そんな認識なのだろう。
◇◇◇
婚約して半年後のこと。
彼は私を食事や買い物に、頻繁に誘って来る。
3回に1回はその誘いに従う。
そしていつも、支払いは私なのだ。
「このドレスは君に似合うね。ついでに俺の夜会用の服も良いだろうか?」
「このアクセサリー、カフスボタン、指輪もお揃いにしよう」
「……いつもすまないね。俺の予算では支払えなくて。
結婚したら必ず尽くすからね」
これがいつもの台詞だった。
「……良いのですよ。私にはこれくらいしか出来ないですから」
「ありがとう、ローズナ。そう言ってくれて嬉しいよ」
満面の笑みの彼は、僅か微笑む私の顔を見つめる。
機嫌を探っているのだろうか?
そしてまた、優しく微笑むのだ。
まるで本当に愛しているかのように。
私の髪は紫紺色、瞳は紅色だ。
彼は藍の髪と、黒い瞳。
そしてアン王女は、金の髪と紫の瞳を持っていた。
彼が選ぶ物はいつも、紫色がメインになるものだった。
私は、それでも良いと思っていた。
だってこのままなら、私は16歳の誕生日にはこの世にいないはずだから。
せいぜいこの陳腐な、寸劇のエキストラを楽しもうと思う。
◇◇◇
13歳で婚約をして、私は15歳になった。
私はあまり体調が優れず、相変わらず家に籠っている。
定期的にエルラークは、気分転換にと私を外出に誘い、彼は欲しい物を強請り私が購入する。
「結婚したら必ず尽くすからね。出来ることなら何でもするよ。この命さえ差し出して」
そして、いつもの台詞を口にする。
出来ないことは、言わない方が良いのに。
「そうね。お願いするわ」
私も余計なことは言わず、微笑んで彼に微笑んだ。
私は茶会も、夜会にも行かないから、エルラークの装飾品はアン王女に合わせて、彼自身が購入したと思われている。
彼は私に私物を強請って、浮いた資金でアン王女にドレスをプレゼントしていた。
夜空のような藍色のドレスは、スパンコールや刺繍が丁寧に施され輝いている。
だから私が久々に王宮の舞踏会に参加しても、彼の指輪やカフスボタン等が紫紺色でも、誰も何とも思わないだろう。
だってその色は、エルラークとアン王女の色が併さった色だから。
私と合わせて買ったと思う者は皆無だ。
周囲から見れば良くて蔑ろにされて可哀想、悪くてお邪魔虫は神経が太いと言う程度だろう。
アン王女の為に、エルラークがその身に誂えたと思われる紫色の衣装。
生成り色のドレスを纏った私は、アン王女の代わりに彼の腕を取る。
さすがに婚約者を差し置いて、いつものように彼の手は取れないようだ。
いつもその場所には彼女がいるのに。
私は彼らの仲を裂く、冴えない邪魔者なのだ。
私は、藍と黒色の物を身に付けたりしない。
身の程は弁えているつもりだ。
彼が王女と話をする為に、私を伴ったままで王女の元へ挨拶へ行く。
私の知らない会話で盛り上がり、微笑み合う2人。
私もそつなく微笑むも、彼女から僅かに優越感の滲む、蔑んだ顔が刹那にかいま見えた。
彼に見えないように右口角を上げる、可愛らしい王女らしくない表情。
私はそれに気付かぬ振りをし、ずっと微笑んだままでいることを選ぶ。
いつものように。
でもそれで良いと思う。
他人のモノと言うスパイスは相手の嫉妬を呼び、ますます恋を燃え上がらせるだろう。
極少量で燃料となる、薪なようなもの。
王女達が本気で困らないように、小石のような障害であれば十分なのだ。
ただでさえ彼女は、この国の王女。
私が護衛騎士の婚約者であり続けるだけで、障害になるのだから。
その日、変わりない日常から役割を与えられた私は、それだけで少し楽しい気分なった。
◇◇◇
私が15歳になった少し後、アン王女の婚約が決まった。
少々気性が荒い、隣国の第二王子だと言う。
以前の婚約者は慰謝料を払ってまでも、その役を降りたと噂されていた。
隣国より国力が低い我が国は、王女への婚約の打診を断れないと言う。
きっとエルラークは、落ち込んでいるはずだ。
そんなある日。
私の父親が不在だと知っている日に、突然エルラークが訪問して来た。
いつも夜会の前、何かをねだる為に先触れを出して来るだけだから不思議だった。
「何かあったのかしら?」
応接室で待つ彼の元に訪れた私に、エルラークが悲しく告げる。
「……アン王女の婚約が決まったんだ。後1年で彼女は隣国へ渡り結婚する。
護衛騎士達は、当然解散だ。
配属先はたぶん騎士団となり、遠征にも行くはずだ。
でも俺は、卒業後にここに婿入りになるだろう?
だから王女が嫁いだら王宮の職を辞そうと思うが、良いだろうか?」
どう言うことかしら?
まあ王女の護衛騎士は解散するでしょうけど、結婚の日程も決まっていないのに、騎士を辞めても良いかなんて私に決められないわ。
私は困惑して、彼に伝える。
「申し訳ないけれど、私ではなくて貴方のお父様か、私の父に頼んだ方が良いのでは?
私はまだ何の権限もないですから」
けれど彼は諦めないで、言葉を重ねた。
「そこは……君が俺と離れたくないとか、傍にいて欲しいと言えば叶うんじゃないかな?
どの道、俺達は結婚するのだから!」
今日のエルラークは何か変だわ。
少し……焦っているような気がするもの。
気が付くと、いつの間にか私付きの侍女マリアが、私の傍からいなくなっていた。
そしてエルラークが、部屋の内鍵をカチリと閉めた。
「ローズナ、お願いだよ。俺を受け入れてくれ。
君は俺と王女のことに、微塵も嫉妬することがないよね。
俺を捨てて、他に婿を見つける気だろう。
そんなことはさせない!!!」
彼は応接室のソファーで、私を押し倒した。
急なことで困惑する私の腕を片手で固定し、スカートを無理矢理たくし上げる彼は、とても愛が溢れて結び付きを欲する態度ではなかった。
「嫌っ、止めて! お願いだから」
「どうせ夫婦になれば、することなんだ。
だから、ね」
(…………なんでよ……もう貴方を思いたくないのに)
◇◇◇
私の力では抵抗叶わず、あっさりと純潔を散らされた後は気絶していたようだ。
エルラークは私の目が覚めるのを待たず、邸を後にしたと侍女から聞いた。
「お嬢様、申し訳ありません。私はお嬢様の了解も得ずに、勝手なことを致しました…………。
どうぞ殺して下さい。
覚悟は出来ておりますから」
私がソファーで目を覚ますと、土下座したまま何度も何度も謝罪をするマリアの姿があった。
既に私の体は清拭され、綺麗な衣装に取りかえられていた。きっと起こさないように、丁寧に行ってくれたのだろう。
マリアが離れたのは勝手な判断ではあった。
けれどそれも、私を思ってやったことなのだろう。
だから私は、「分かってるから、もう良いのよ。罪になんて問わないから、頭をあげて頂戴。ね、マリア」そう言って彼女の背を撫でたのだ。
「お嬢様、私はお嬢様に生きて、生きて欲しいのです。
お嬢様が生き残れるなら、私は何でも致します。
だから、諦めないで下さい……。
お願いです。うっ、うっ」
泣きじゃくる彼女に、私も少し考えて答えた。
「マリア……私は運命を受け入れようとしていたのだけど、どうやら穏やかには終われないみたい。
少しだけ足掻いてみることにするわ」
「お嬢様。是非そうしてください。
私も命がけで手伝わせて頂きますから!」
がばりと顔を上げたマリアの顔からは止めどなく涙が溢れ、私は跪いて彼女を抱きしめた。
「ありがとう……大好きよ、マリア」
自分が泣きながら震えていることに気付いたのは、少し時間が経ってからだった。
(あぁ、本当は私も怖かったんだ)
目を逸らし誤魔化してきた感情が、溢れ出した瞬間だった。
◇◇◇
ローズナの父、フュードラは、マリアから報告を聞いて嘆息していた。
「そうか……でも少し乱暴だったな。ローズナの様子はどうだ」
特に叱責を受けることもなく、マリアはフュードラに状況を伝えていく。
「エルラークはローズナを愛していると、声に出して言ったんだな?」
「はい、何度も……。エルラーク様の方は、婚約解消されることを異様に恐れているようでした。
それを愛と言う言葉で、誤魔化しているようにも思えたのですが…………」
「そうか……。あやつはきっと、王女の護衛騎士の職を失えば、再編隊された場所で勤まらないことを知っているのだろう。
仮にも騎士であるのに、良いのは顔だけで鍛練もしない怠惰な男だ。
兄に子が生まれれば、職を失っていても伯爵家を出されて平民となるから、後がないのだろう。
それならば彼が望む通り、結婚を進めようじゃないか」
「はい、それが良いかと。たぶんもう、エルラーク様は◯◯様に存在を認められたでしょうから」
「ローズナは巻き込みたくないと言っていたが、今さらだろうな」
「恐らくお嬢様も、覚悟をお決めになったかと」
「そうか……。ありがとう、マリア」
「滅相もございません。私の命は、とうの昔にローズナ様の物なのですから」
安堵した様子のフュードラとマリアは、ただただローズナのことを案じていた。
◇◇◇
翌日になると、エルラークが子爵邸に訪ねて来た。
ローズナへの思いが昂り、彼女の純潔を散らしたことをフュードラへ謝罪する為に。
「申し訳ありません、お義父さん。
ローズナが愛しくて、つい先走ってしまいました。
責任を取る意味でも、早期に婿入りをさせて下さい。
彼女の為に、誠心誠意尽くすとお約束しますから」
応接室で薄っぺらな謝罪をする彼に、フュードラは些か嫌悪したが、それを顔には出さなかった。
「……残念なことに、君が娘を好きとは思えない。
君とアン王女の噂を知らない者は、少ないだろう。
事実か否かは、噂をする者から見ればどうでも良いことだから、面白おかしく尾ひれも付いているしな。
こちらとしては、君の有責で婚約破棄しても構わないんだ」
「そんな……傷物になったローズナは、今後まともな家へは嫁げないですよ。それでも良いんですか?」
どの口がと、憤りそうになるが堪えるフュードラだが、ローズナのことを考えて怒りを抑えた。
「君は何故、家に婿入りを望む? 伯爵令息の立場なら、もっと上の爵位の婿入りも望めるだろうに。
その整った顔は、令嬢に人気があるだろう?」
フュードラは、すぐに許すとは言わなかった。
それどころかたとえ婚約者とは言え、強引に体を繋げてしまったことに、激しく抗議をした。
「それは…………本当に申し訳ありません。
愛しい気持ちが強すぎたせいです。
何れ結婚するのですから、許して頂けませんか?」
彼がローズナを望むのは、アン王女のことを知っていても責めたりしないことと、思うまま貢いでくれる都合の良い存在だからだ。
他の令嬢では悋気ゆえに、婿は好き勝手出来なそうだが、ローズナならば浮気も愛人も許してくれそうな、甘い打算があった。
アン王女のことも彼女が黙っているからこそ、世間から責められないどころか、憐れみさえ向けられているのだから。
体が弱く社交もしないローズナは、簡単に操れそうな優良物件だった。
今さら手放すことは出来ない。
訪問して来た時のようなヘラヘラした様子は霧散し、エルラークの顔に焦りが生じたのを、フュードラは見逃さなかった。
「そうか。ならば誓約書を書けば、信じてみようじゃないか」
「誓約、ですか?」
「ああ、そうだ。娘を愛しているのだろう?」
「勿論です。愛を書面に残せば、信じて頂けるのですか?」
「……信じてみよう。書かなければ、婚約は破棄として話を進める」
「か、書きます。ここで書けば良いのですか?」
「そうしてくれ。用紙はこれを使え」
「はい、ありがとうございます。
でも……愛する気持ちを文字にするなんて、なんか照れますね。ははっ」
誤魔化すような愛想笑いで、ローズナの愛を綴っていくエルラーク。
フュードラは横目でチラリと見ただけで、彼から目を逸らして窓の下を眺めた。
2階から庭を眺めれば、日傘をしたローズナと付き従うマリアが目に入った。
ローズナは脆弱だ。
理由は体内の魔力量が多すぎて、体の負担になっていたからだ。
そしてもう一つの理由もあった。
日の光でさえ負荷となり、日傘と遮光手袋は欠かせないアイテムだ。
(あの子は優しい子だから、他者の犠牲を嫌う。
私はお前さえ幸せになるなら、どんな非難を浴びても構わないのに。
ほんに、儘ならぬものだ)
そんなフュードラに気づくはずもないエルラークは、言われるままに誓約書と言う名のラブレターを書き上げ、最後にサインをした。
「出来ました、お義父さん」
「そうか。じゃあ、婚約は継続するとしよう。
ただ昨日のことで、娘はそういう行為に恐怖心があるようだ。
結婚式を挙げるまでは、もう止めてくれないか?」
「あ、はい。そうですよね、スミマセン。
もう、無体なことはしないと誓います。
これから愛を伝えて、心を開いて貰えるように努力します」
「…………頑張ってくれ。悪いがこれから客が来る。
今日はそのまま帰ってくれ」
「分かりました。また窺います」
「今度は先触れを出してくれ、必ずな」
「はい、承知しました。では……失礼します」
首の皮一枚が繋がったと、ほくほくと笑顔のエルラーク。
「契約書じゃなくて、たかが誓約書を書かせるなんて甘いな。
さすがは下位貴族だ。あははっ」
彼はフュードラを甘く見ていた。
爵位のこともそうだが、アン王女のことを言って来ないのは、自分の父であるブライトン伯爵を恐れているのだと考えていた。
◇◇◇
エルラークの早期の婿入りは果たされないも、彼はアン王女に侍り続け、ローズナにも愛を囁く生活を送っていた。
だが、転機は訪れた。
アン王女の婚約者である隣国の第二王子が、暴力沙汰で廃嫡になり、婚約が白紙となった。
歓喜したアン王女は父である国王ラルケに、エルラークとの結婚を強請った。
数年の婚約期間でもうすぐ20歳になる王女は、行き遅れに差し掛かる。
隣国との婚約を断れずに受け、さらに相手が問題を起こして白紙となれば、愛娘だけに瑕疵が付き憐れに思うラルケ。
愛娘の願いを拒むことが出来ず、王命でアン王女とエルラークの婚約を結ぼうとした。
王妃への許可取りも水面下で調整を行い、さあ王命を出す直前となり、アン王女は「まだ王命は使わないでいて。王命にしたら、政略結婚だと思われてしまうから」と言うのだ。
「だが……それではグラバッド嬢が傷付く。それくらいなら王命にした方が良いではないか?」
「私、グラバッド嬢が嫌いなの。だって私とエルラークが仲良くしても、全然嫉妬しなくて余裕でいたのよ。
最後は自分のところに戻って来るって、婚約者づらしてさ。
きっと私が政略結婚させられるのを、良い気味だと嘲笑っていたに決まってるわ。
だからギャフンと言わせたいのよ!」
愛娘の醜い嫉妬を垣間見て、ラルケは押し黙った。
こんなことは認められない。
王妃だって、忠心に背くことはきっと許さないだろう。
なのに可愛くねだられて、理性がとんだラルケは、その希望を叶えてしまった。
◇◇◇
その頃のローズナは王家主催の夜会も休むほど、体調が悪化していた。
エルラークが何度訪問の打診をしても、引き籠った彼女には会わせて貰えない。
エルラークは思った。
(きっと俺とアン王女のことを聞いて、ショックを受けたのだろう。
食事も喉を通さぬくらいに、窶れているのかもな?
意地を張らずに、俺を婿に迎えていれば良かったのに。
まあでもアン王女の願いなら、結局離婚したか。
面倒事にならなくて良かったのか?
はははっ)
◇◇◇
さらに数日が経ち。
エルラークはまた、打診せずに子爵家を訪れた。
彼からすれば、たとえ婚約破棄をしてグラバッド子爵に睨まれても、アン王女と言う後ろ楯でカバー出来ると考えたのだ。
「そうか。王女と婚約……か。君有責の婚約破棄だから、慰謝料を貰うぞ」
「ええ、そのくらいなら払いますよ。
今までお世話になりました、お義父さん」
やはりエルラークは、グラバッド子爵を下に見ていたのだろう。悪びれもせず、誓約書の時とは態度が変わり、高圧的だった。
(本当に寄生虫のような男だな。これで私の罪悪感も薄くなる)
呆気ないほど簡単に婚約破棄は成立し、エルラークとローズナは他人となったのだ。
ローズナは、エルラークと会うつもりはなかった。
けれど先触れがなかったことで、彼の来訪を知らなかった彼女は、楽器部屋でピアノを弾いて部屋へと戻る途中、彼に出会してしまった。
「え、なんでエルラーク様が…………」
「ああ。久しぶりだね、ローズナ。
もうお別れだよ。今の萎れた君は、俺に相応しくない。…………潮時だ」
その冷たい言葉に、ローズナは満面の笑顔で応えた。
「ええ、その通りですわ。エルラーク様、私の婚約者になって頂きありがとうございました。
とても楽しい時間でしたわ」
「え、あぁ、うん。それじゃあ、元気で……」
「はい。エルラーク様もお体に気をつけて」
いつも表情の乏しい彼女は、窶れているが輝く表情をエルラークに見せた。
元から美しい顔である彼女から、眩しい生命力を感じた。
とても婚約破棄で、悩んでいたようには見えない。
(やせ我慢には見えないし、本当に体調が悪かったのか。
これから婚約者探しも大変だな。
まあ具合が悪いなら、それどころじゃないか)
こうして一組の婚約が破棄されたのだ。
◇◇◇
「ああ、ローズナ。お前生きているね。妖精の呪縛が解けたのだな!」
「はい、そのようです。今までよりも体も軽くて。
ずっと死ぬのが怖かった。
でも愛してくれる人を犠牲に出来ないと、生きることに執着しなかった……つもりでした。
なのに、エルラーク様が私を抱いて下さって、愛していると囁かれて、死にたくなくて…………。
生きたいと願ってしまいました」
「お嬢様、よう御座いました。
生きていて下さって、ありがとうございます!」
父フュードラと侍女のマリアは、ローズナを抱きしめて泣いていた。
ローズナも堪えきれず、嗚咽を漏らす。
「わ、わたし、エルラーク様を犠牲に、ひぐっ、うぐっ」
「あいつは自分で選んだのだ。気にするんじゃない」
「でも、でも…………。それでももう、私は黙って死を受け入れることは出来ないのです」
「それで良いんだ、ローズナ。絶対に私がお前達を守るから、安心しろ!」
「ありがとうございます、お父様」
「私も守りますわ、お嬢様」
「ありがとう、マリア。私、頑張って生きるわ!」
婚約破棄で落ち込むと思われた子爵邸だが、そんな様子は微塵もなくて、使用人達は安心した。
だがさすがに、元婚約者であるエルラークが王女と結婚することになり、この国にいるのは肩身が狭いと考えたフュードラは、彼の従弟が住む別の国へ移住することになった。
急なことであり、使用人達には給金の1年分の退職金と健全で働きやすい職場への紹介状を渡した。
フュードラとローズナは大変優しくて貴族らしくないので、使用人達は心から別れを惜しんだ。
ただグラバッド子爵家は、領地がなく商売が中心だったので、貴族家よりも平民と関わりが多い。
その為国を去る際には、パーティーが行われることもなく、大変静かなものになった。
国への届け出もスムーズだった。
国王はローズナに罪悪感があったし、略奪婚の噂で騒がれて困るのは被害者のローズナと、加害者のエルラークとアン王女なのだ。
彼女がいないことは、大変に助かるのだった。
だが国王は、グラバッド子爵が貴族になった成り立ちを忘れていた。そこが王妃から、愚かだと言われる由縁だった。
エルラークは「慰謝料を貰う」と、フュードラから言われていたが、請求を待っているうちに彼らは国を離れた。
たぶんもう、戻っては来ないだろう。
「やっぱり父の力と、アン王女の力に畏れをなしたのだろう。所詮下位貴族だな。言えば、ローズナの純潔を奪った分だけでも払ったのに」
いやらしく笑うエルラークからは、ローズナが好きだった時の面影は確実に消えていた。
早期に国を離れて正解だった。
◇◇◇
ローズナとエルラークは、2歳違いである。
ローズナと婚約破棄をした彼は、1年後にアン王女と婚約した。
その1年後にはエルラークに伯爵位を持たせ、グラバッド子爵が住んでいた、王都の邸に住むことが決まっている。
王領から領地も貰えることになり、至れり尽くせりの状態は結婚予定の2人を幸福で満たしていた。
けれど…………。
エルラークが19歳になった頃から、彼は不調を訴えることが多くなり、寝たり起きたりを繰り返す生活になった。
アン王女は半狂乱になって国王ラルケに泣きつくも、医者は原因が分からないと匙を投げ、魔導師は妖精の祝福だと言った。
眉も髭もぼうぼうに伸びた、白髪の爺姿の魔導師は、背丈ほどの木の杖を突きながら、ラルケの前で話し始めた。
「祝福ですって! じゃあどうして彼は動けなくなったの? ねぇ!」
「祝福には、良いものも悪いものもあるのです。
今回で10回目。契約最終と出ています。
これは妖精に王家の者が犯した咎を、グラバッド子爵家が犠牲になって来た回数。
おおよそ300年前に、妖精の住む地を奪おうとして、返り討ちになった王子がいました。
彼は王太子で、その家臣である騎士が自分が罰を受けるとして、悪い方の祝福を受けました。
それが今のグラバッド子爵の成り立ちです。
いやもう、他国に移住したのでしたな。
グラバッド家では代がわりごとに、魔力が一番強い子供が16歳となる日に亡くなる祝福。
それはその子供の魔力を、妖精が奪うからです。
その見返りとして彼らの領地が潤うように、妖精が別の祝福も授けました。
ただ子爵には領地がないので、商売の方に運気が配分されたようですが。
それ以外にも子爵邸周囲の、他領地がいつも豊作なのは、妖精の力が漏れ出したからなのです。
グラバッド子爵に領地が与えられたなら、どんなに肥沃な土地になったことか。惜しいですな。
あまりにも憐れだと思った妖精王は、一つグラバッド子爵に提案をしました。
『悪い祝福を持つ者を心から愛する者が現れた時、悪い祝福を代わりにその者が変わることが出来るようにした。
代わりの者は、20歳の誕生日に亡くなることになるだろう』
愛する者が代わりに亡くなるのは、とても悲しいこと。でも子爵家の祝福を知る者は、知っていてもなおその多くが対象者を愛して命を捧げました。
中には子爵の一人息子の悪い祝福を引き継ぎ、子を2人成してから亡くなった奥方もおられました。
妖精は救済のつもりでも、そこら辺が人の感覚と違うようでした。
過去には、16歳の寿命を受け入れて亡くなる者も、勿論いました。
夫婦として結ばれなくとも、片想いで対象者を愛して寿命を変わった者もおりました。
これこそ、無償の愛なのでしょう。
そして今回の対象者ローズナ様は、誰にも会わず愛することもなく、寿命を終えようとなさっていました。
けれどそこにいるエルラーク様は彼女を愛し、彼女の純潔を奪い、誓約書にも愛の言葉を綴られていました。
今は婚約破棄をされたそうですが、妖精には関係がありません。心の中は分かりませんので、表面で判断します。
見張りの妖精は、エルラーク様が真実の愛を捧げたと確認しました。
残念ながらエルラーク様は、20歳の誕生日に亡くなることが決定しています。
そのことは今、ローズナ様が生きていることが証明になるでしょう」
「そ、そんな、嘘よ。お父様はこのことを知っていたの?
知っていてローズナとエルラークを婚約させたの?
どうしてそんな酷いことをしたの?」
「私は知らん。いや、歴史で学んだと思うのだが、よく覚えていなかった」
「そんなぁ。祝福を破ることは出来ないのですか?
魔導師様ぁ!」
「無理じゃよ。もうローズナは祝福から逃れたし、妖精は長年尽くしてくれたグラバッド家の味方なのだ。
不義理な男の味方はせんじゃろうな。
諦めなされ」
「嘘だろ? 俺死ぬの? こんなはずじゃなかったのに。
全部うまくいくと思ったのに…………うっ、うっ、うっ」
「死んじゃうなんて嘘よ。彼はまだ、こんなに若いのよ。
何か方法があるはずよ。お父様、何とかして探してよ、ねえ、ねえってば! お母様も方法を探してよ!
うわあぁん」
騒然とする中を去っていく魔導師。
アンとラルケを見て、呆れ顔の王妃。
王妃は全てを知っていて、我が儘なアンに見切りを付けていた。
見た目の条件を付けなければ、とっくに嫁げていたアンだが、美しいエルラークに執着して婚期を逃していた。
せめて隣国で引き取ってくれたら良かったのにと、何度思ったことか。
婚約者のいる護衛騎士を、恋人のように振る舞い恥を晒す義娘を、王妃は嫌悪していた。
アンに諫言をしても聞かず、甘やかすだけのラルケにも愛想が尽きていた。
アンの実母の側妃も、言うことを聞かない娘を持て余していた。そのせいで王妃に、何度も苦言を呈されて来たのだから。
この国には王妃が生んだ、長男、次男、三男がいる。
政略に使えない、愚かな王女はいらないのだ。
「エルラークが好きなの。誰でも良いから助けてよ。
あの女、ローズナに代わりをさせれば良いわ。
兵士達に捕まえさせてよ。
お父様!!!」
「俺、俺は、もう、後1か月で20歳になるのに…………。
もう、お仕舞いだ。嫌だ、イヤだよ。
助けてくれーーーー!」
アン王女の金切り声と、エルラークのボソボソと囁くような呪詛のような呟き。
城で治療を受けていたエルラークは、王妃の命令で離宮に押し込められた。
医師だけは定期的に点滴に向かうが、他に出来る治療はなかったのだ。
そしてエルラークが20歳になると共に、天に召されたと噂が流れた。
その噂は移住したローズナ達にも届いたのだった。
『あの国の王女は、婚約していた隣国の王子は廃嫡になるし、次に婚約した伯爵令息は病気で亡くなるしで、疫病神と呼ばれているそうだぜ。
誰も貰い手がなくて、修道院に入れられたそうだ』
『まあ、そうなの? 王族に生まれても大変なのね』
『王族だからだろ? 下手に他国に嫁いで、旦那が亡くなったら国が責められる』
『なるほどねぇ。平民で良かったよ』
『『『違いねぇ、ハハハハッ』』』
どうやら歳の離れた侯爵にも嫌われて、結婚出来なかったようだ。アン王女は修道女アンとなり、厳しい戒律の中で生涯を終えた。
「なんで、こうなるのよ。せめてお城にいさせてよ!」
それには王妃も、実母である側妃も却下したらしい。
王子達も我が儘王女と王子妃達の折り合いが悪く、修道院行きを止めなかった。
国王だけが止めても無理だったのだ。
城に現れた魔導師は、精霊王の変化した姿だった。
300年の貢献に応じて、この国を豊かにしようと思って出てきたが、悪い祝福の対象者が粗雑に扱われていたことで、不快に思ったのだ。
「元々は王族の無礼だったのに。ローズナが可哀想じゃないか!」
精霊王は面食いだった。
100年ぶりに起きたので、ローズナを追っかけてこの国から出て行った。
他の妖精達はまだ残っているけど、ローズナの周辺に緑溢れる山脈があれば引っ越すかもしれない。
ちなみに悪い祝福をかけたのは、精霊王ではない普通の精霊なので、精霊王の命令には従うのだった。
◇◇◇
「ほら、エルンスト。今日はこの絵本を読みましょう」
「はい。おかしゃま(お母様)」
「本当にエルンスト様は、ローズナ様が大好きですね。
私では駄目だとフラれました。トホホ」
「まあ、エルンストったら。マリアを困らせては駄目よ」
「はい、おかしゃま(お母様)」
「困ってはおりませんよ。麗しいだけでございます」
「ほほっ。エルンストはモテモテだな」
「あ、お帰りなさい、お父様」
「じじ、おかえりぃ」
「お帰りなさいませ、フュードラ様」
「町のお土産は、マカロンじゃよ。久しぶりじゃろ。
マリアも一緒に食べよう。お茶を頼むよ」
「はい。ただいまご用意しますね。
外で召し上がりますか?」
「うむ。今日は暖かいから、そうしよう」
「わー、きれいね。じじ」
「そうだろう。好きなのをお食べ。
味も色で違うらしいぞ」
「あんがと、じじ」
「良いってことさ。お前が喜ぶと、じじが嬉しいんじゃ」
「まあ、お父様ったら。甘やかして」
「可愛いから仕方ないのぉ。でも食べたら剣術を教えるぞ。護身術も兼ねるから、お前も参加すると良い」
「はい。お願いします!」
「うむ」
甘やかすだけではないフュードラなら、きっとエルンストは、キリリとした紳士になれるだろう。
ローズナもエルンストもマリアも、ペタンコ靴で、蜜柑畑を走り回っている。
家庭菜園も最近充実していて、しかも美味しく実りだした。ミニトマトを摘まんで食べるエルンストが、「おいしいね」と綻ぶのもまた可愛いのだ。
純潔を奪われた日にローズナに宿った命は、元気に育っていた。フュードラに、『エルンスト』と命名されて。
エルラークが婚約破棄に来た時は、丁度つわりの最中で少し窶れていたのだった。
彼のことは、既に吹っ切っていた。
「私を生かしてくれてありがとう」ってな感じだった。
ローズナ達は3年前に緑溢れる土地を購入し、酪農と蜜柑の栽培をしている。
丁度この国に移り住んで、フュードラの従弟に紹介されこの地を拠点にした。
元々住んでいた老夫婦も元貴族で、屋敷も広く立派な建物だった。
仕事から手を退いて、老後は南の島に行こうと考えていたところに、ローズナ達が来たらしい。
渡りに船ととても喜ばれた。
雇っていた従業員もそのまま労働してくれることになり、特に苦もなく経営が行えている。
みんな気の良い、優しい人達だ。
彼女達が住み始めると、土地の状態がさらに肥沃になり、美味しい草を食べた牛の牛乳は、濃くて美味と評判になり、収入もうなぎ登りだ。
蜜柑の木も同じ物なのに、糖度が高くデザート用に購入され、さらに収入があがった。
いつの間にか若木もすぐに成長し、収穫量もさらに増えるおまけ付きである。
時々山の方から、牛乳を買いに美形な男性が来ることが、最近の変化であった。
もう貴族でないグラバッド家は、周囲の村人達とも協力して仲良く暮らしている。
◇◇◇
ローズナの父フュードラは、ローズナの前の悪い祝福の対象者だった。
彼を愛したのがローズナの母リズで、ローズナを生んだ後に20歳で命を落としている。
命をかけて自分を守ってくれたリズを愛していたフュードラは、再婚もせず未だにリズだけを愛していた。
ローズナが他人を犠牲にしない気持ちは知っていたが、エルラークはローズナの初恋だった。
魔力で不調が強く邸にいるローズナは、物語の王子のようにエルラークを愛していた。
フュードラは、エルラークがローズナを愛さなくても傍にいて欲しいと思っていた。
それが娘の唯一の慰めになると思って。
もしエルラークがローズナを愛しても愛さなくても、ローズナ亡き後は親戚から女性を引き取り、エルラークに子爵を継がせても良いと思っていた。
けれどエルラークの不誠実な態度に、妖精のずれた感覚の話を参考にして、愛を強調して妖精に誤認させようとしたのだ。
もし失敗して妖精の罰が自分にあたっても、フュードラは構わないと思っていた。
今回は、まんまと成功したのである。
「エルラークには慰謝料は貰うと言ってあった。
あやつの不誠実さ。
主に強姦と、強受り(ローズナにすべて支払いをさせていた)と、不貞と侮りと、まあいろいろあるが、慰謝料分を寿命で支払って貰ったと思えば良いじゃろ。ハッハッハッ」
良いじゃろではない。
「けどな。最初は悪い祝福のことを話して、婚約の継続をどうするか聞こうと思ったんだぞ。
それをする前に、王女と恋仲にはなるわ。
来たと思ったら、ローズナとは買い物とか外出が多いし、私がいない時ばかり邸に来るしで、避けられとったんだよ。
きっと小言を言われると思ったんだろうよ。
卑怯な奴だ。
ローズナには内緒だぞ」
それを聞いて、ただただ笑うだけのマリアだ。
マリアもローズナの気持ちを知っていて、席をはずしたら、抱きしめるくらいするかなって思って失敗したのだった。
応接室に鍵をかけて盛るとは、考えてもいなかった。
ローズナの呼ぶ声が聞こえたら、中に入ろうとして待機していたのに、いつになってもそれがなく、まさか盛っていたなんて!
ドアから出てきたエルラークは服が乱れながら帰っていくし、お嬢様は気絶しているしでてんやわんやだった。
泣きながらタオルで体を清めていると、お嬢様の意識が戻り、嬉しそうに恥じらっているので、戸惑ってしまった。
けれど嫁入り前に純潔を奪われたお嬢様に、申し訳なくて死のうかと思って止められたのだった。
「本当にあの時は、生きた心地がしませんでした。
申し訳ありません」
「もう謝るな、マリアよ。
それがあって、エルンストがいるのだから。
もう言うでないぞ」
「はい。そう致します」
そう言って頭を下げるマリアだ。
もうマリアはグラバッド家の一員なのだ。
◇◇◇
元々マリアは、ローズナの母リズの侍女だった。
リズが亡くなった後クビになれば、生家の男爵家の借金返済の為に、高齢で好色の金持ちの後妻にされるところだった。
ローズナの侍女として雇用が継続し、給金の殆どを家に送ることで後妻行きを免れていたマリア。
その後にフュードラが大金を払い、マリアの籍を男爵家から抜き、フュードラの妹として籍に入れたのだ。
マリアは心から感謝し、グラバッド家の為に生き、そして死ぬと誓っている。
2人の間に恋愛感情はなく、本当の兄と妹のような暖かい関係である(赤毛の◯ンのマシューとマリラ的な)。
16歳で死を迎える恐怖に1人で震えていた少女は、その年を越えることが出来た。
今は元気になり、家族で仲良く生きている。
※平民も名字があるので、グラバッド姓はそのままです。
………………16歳を迎えた。
その日は一日中雨が続き、厚く覆われた雲から光射すことはなかった。
「もうお別れだよ。今の萎れた君は、俺に相応しくない。…………潮時だ」
その日彼は、連絡もなしに邸に押し掛けて来た。
勝手な台詞を呟く唇の主は、婚約者である伯爵令息のエルラーク・ブライトン。
子爵家の一人娘である私、ローズナに何度も愛を呟き、父親を説得して結んだ婚約だったのに…………。
付き合ってから知ったのは、彼の本当の目的。
私の家の有り余る財産を手にし、最終的には子爵家を手に入れることだった。
彼はもう、それがいらなくなったらしい。
◇◇◇
話は婚約話が来た時に遡る。
私はこの婚約に反対だった。
けれど、父親であるフュードラには逆らえない。
「……ローズナ、分かっているね。これは必要な犠牲なのだ。辛いだろうが、すまない…………」
「良いのです、お父様。暗い顔をしてしまい、申し訳ありません。私ならば、大丈夫ですから」
『深窓の令嬢で体も弱く、滅多に社交にでない世間知らず』
それが私に付いてまわる噂だった。
私は、エルラークを見かけたことがあった。
断ることのできない王宮の夜会に参加した時、多くの男女がダンスホールで微笑み、クルクルと踊っていた。
その中でも人目を惹いていた二人。
可愛らしい王女殿下と優雅に踊る、美しくてスラリとした体躯の男性が彼だった。
周囲はお似合いのカップルだと囃し立てるが、伯爵家の次男に彼女を娶る力はない。
今踊っているのも、彼女の護衛騎士と言う立場に過ぎず、婚約者のいない彼女の我が儘で、踊っている体だった。
「悲恋でしょうね…………」
王女を降嫁させられる家格と財力等を持ち、年の近い年齢の子息は、この国にはいない。
かと言って20歳も年の離れた侯爵の後妻では、王女が可哀想だと嘆く国王ラルケ。
けれど家格を落として嫁がせるのは、国にとって益がなさ過ぎると言う王妃の意見も、無下には出来ない。
寵妃である側室の娘である王女は、きっと他国に嫁に出されるだろう。
家を継げないエルラークでは、相手にもならない。
だからこそ彼の父親である伯爵も、彼を平民にさせないように私を彼に薦めたのだろう。
社交に殆ど出ない私を、彼が知る機会など、ありはしなかったから。
世間慣れしていない、コントロールしやすい令嬢。
彼らから見ればきっと、そんな認識なのだろう。
◇◇◇
婚約して半年後のこと。
彼は私を食事や買い物に、頻繁に誘って来る。
3回に1回はその誘いに従う。
そしていつも、支払いは私なのだ。
「このドレスは君に似合うね。ついでに俺の夜会用の服も良いだろうか?」
「このアクセサリー、カフスボタン、指輪もお揃いにしよう」
「……いつもすまないね。俺の予算では支払えなくて。
結婚したら必ず尽くすからね」
これがいつもの台詞だった。
「……良いのですよ。私にはこれくらいしか出来ないですから」
「ありがとう、ローズナ。そう言ってくれて嬉しいよ」
満面の笑みの彼は、僅か微笑む私の顔を見つめる。
機嫌を探っているのだろうか?
そしてまた、優しく微笑むのだ。
まるで本当に愛しているかのように。
私の髪は紫紺色、瞳は紅色だ。
彼は藍の髪と、黒い瞳。
そしてアン王女は、金の髪と紫の瞳を持っていた。
彼が選ぶ物はいつも、紫色がメインになるものだった。
私は、それでも良いと思っていた。
だってこのままなら、私は16歳の誕生日にはこの世にいないはずだから。
せいぜいこの陳腐な、寸劇のエキストラを楽しもうと思う。
◇◇◇
13歳で婚約をして、私は15歳になった。
私はあまり体調が優れず、相変わらず家に籠っている。
定期的にエルラークは、気分転換にと私を外出に誘い、彼は欲しい物を強請り私が購入する。
「結婚したら必ず尽くすからね。出来ることなら何でもするよ。この命さえ差し出して」
そして、いつもの台詞を口にする。
出来ないことは、言わない方が良いのに。
「そうね。お願いするわ」
私も余計なことは言わず、微笑んで彼に微笑んだ。
私は茶会も、夜会にも行かないから、エルラークの装飾品はアン王女に合わせて、彼自身が購入したと思われている。
彼は私に私物を強請って、浮いた資金でアン王女にドレスをプレゼントしていた。
夜空のような藍色のドレスは、スパンコールや刺繍が丁寧に施され輝いている。
だから私が久々に王宮の舞踏会に参加しても、彼の指輪やカフスボタン等が紫紺色でも、誰も何とも思わないだろう。
だってその色は、エルラークとアン王女の色が併さった色だから。
私と合わせて買ったと思う者は皆無だ。
周囲から見れば良くて蔑ろにされて可哀想、悪くてお邪魔虫は神経が太いと言う程度だろう。
アン王女の為に、エルラークがその身に誂えたと思われる紫色の衣装。
生成り色のドレスを纏った私は、アン王女の代わりに彼の腕を取る。
さすがに婚約者を差し置いて、いつものように彼の手は取れないようだ。
いつもその場所には彼女がいるのに。
私は彼らの仲を裂く、冴えない邪魔者なのだ。
私は、藍と黒色の物を身に付けたりしない。
身の程は弁えているつもりだ。
彼が王女と話をする為に、私を伴ったままで王女の元へ挨拶へ行く。
私の知らない会話で盛り上がり、微笑み合う2人。
私もそつなく微笑むも、彼女から僅かに優越感の滲む、蔑んだ顔が刹那にかいま見えた。
彼に見えないように右口角を上げる、可愛らしい王女らしくない表情。
私はそれに気付かぬ振りをし、ずっと微笑んだままでいることを選ぶ。
いつものように。
でもそれで良いと思う。
他人のモノと言うスパイスは相手の嫉妬を呼び、ますます恋を燃え上がらせるだろう。
極少量で燃料となる、薪なようなもの。
王女達が本気で困らないように、小石のような障害であれば十分なのだ。
ただでさえ彼女は、この国の王女。
私が護衛騎士の婚約者であり続けるだけで、障害になるのだから。
その日、変わりない日常から役割を与えられた私は、それだけで少し楽しい気分なった。
◇◇◇
私が15歳になった少し後、アン王女の婚約が決まった。
少々気性が荒い、隣国の第二王子だと言う。
以前の婚約者は慰謝料を払ってまでも、その役を降りたと噂されていた。
隣国より国力が低い我が国は、王女への婚約の打診を断れないと言う。
きっとエルラークは、落ち込んでいるはずだ。
そんなある日。
私の父親が不在だと知っている日に、突然エルラークが訪問して来た。
いつも夜会の前、何かをねだる為に先触れを出して来るだけだから不思議だった。
「何かあったのかしら?」
応接室で待つ彼の元に訪れた私に、エルラークが悲しく告げる。
「……アン王女の婚約が決まったんだ。後1年で彼女は隣国へ渡り結婚する。
護衛騎士達は、当然解散だ。
配属先はたぶん騎士団となり、遠征にも行くはずだ。
でも俺は、卒業後にここに婿入りになるだろう?
だから王女が嫁いだら王宮の職を辞そうと思うが、良いだろうか?」
どう言うことかしら?
まあ王女の護衛騎士は解散するでしょうけど、結婚の日程も決まっていないのに、騎士を辞めても良いかなんて私に決められないわ。
私は困惑して、彼に伝える。
「申し訳ないけれど、私ではなくて貴方のお父様か、私の父に頼んだ方が良いのでは?
私はまだ何の権限もないですから」
けれど彼は諦めないで、言葉を重ねた。
「そこは……君が俺と離れたくないとか、傍にいて欲しいと言えば叶うんじゃないかな?
どの道、俺達は結婚するのだから!」
今日のエルラークは何か変だわ。
少し……焦っているような気がするもの。
気が付くと、いつの間にか私付きの侍女マリアが、私の傍からいなくなっていた。
そしてエルラークが、部屋の内鍵をカチリと閉めた。
「ローズナ、お願いだよ。俺を受け入れてくれ。
君は俺と王女のことに、微塵も嫉妬することがないよね。
俺を捨てて、他に婿を見つける気だろう。
そんなことはさせない!!!」
彼は応接室のソファーで、私を押し倒した。
急なことで困惑する私の腕を片手で固定し、スカートを無理矢理たくし上げる彼は、とても愛が溢れて結び付きを欲する態度ではなかった。
「嫌っ、止めて! お願いだから」
「どうせ夫婦になれば、することなんだ。
だから、ね」
(…………なんでよ……もう貴方を思いたくないのに)
◇◇◇
私の力では抵抗叶わず、あっさりと純潔を散らされた後は気絶していたようだ。
エルラークは私の目が覚めるのを待たず、邸を後にしたと侍女から聞いた。
「お嬢様、申し訳ありません。私はお嬢様の了解も得ずに、勝手なことを致しました…………。
どうぞ殺して下さい。
覚悟は出来ておりますから」
私がソファーで目を覚ますと、土下座したまま何度も何度も謝罪をするマリアの姿があった。
既に私の体は清拭され、綺麗な衣装に取りかえられていた。きっと起こさないように、丁寧に行ってくれたのだろう。
マリアが離れたのは勝手な判断ではあった。
けれどそれも、私を思ってやったことなのだろう。
だから私は、「分かってるから、もう良いのよ。罪になんて問わないから、頭をあげて頂戴。ね、マリア」そう言って彼女の背を撫でたのだ。
「お嬢様、私はお嬢様に生きて、生きて欲しいのです。
お嬢様が生き残れるなら、私は何でも致します。
だから、諦めないで下さい……。
お願いです。うっ、うっ」
泣きじゃくる彼女に、私も少し考えて答えた。
「マリア……私は運命を受け入れようとしていたのだけど、どうやら穏やかには終われないみたい。
少しだけ足掻いてみることにするわ」
「お嬢様。是非そうしてください。
私も命がけで手伝わせて頂きますから!」
がばりと顔を上げたマリアの顔からは止めどなく涙が溢れ、私は跪いて彼女を抱きしめた。
「ありがとう……大好きよ、マリア」
自分が泣きながら震えていることに気付いたのは、少し時間が経ってからだった。
(あぁ、本当は私も怖かったんだ)
目を逸らし誤魔化してきた感情が、溢れ出した瞬間だった。
◇◇◇
ローズナの父、フュードラは、マリアから報告を聞いて嘆息していた。
「そうか……でも少し乱暴だったな。ローズナの様子はどうだ」
特に叱責を受けることもなく、マリアはフュードラに状況を伝えていく。
「エルラークはローズナを愛していると、声に出して言ったんだな?」
「はい、何度も……。エルラーク様の方は、婚約解消されることを異様に恐れているようでした。
それを愛と言う言葉で、誤魔化しているようにも思えたのですが…………」
「そうか……。あやつはきっと、王女の護衛騎士の職を失えば、再編隊された場所で勤まらないことを知っているのだろう。
仮にも騎士であるのに、良いのは顔だけで鍛練もしない怠惰な男だ。
兄に子が生まれれば、職を失っていても伯爵家を出されて平民となるから、後がないのだろう。
それならば彼が望む通り、結婚を進めようじゃないか」
「はい、それが良いかと。たぶんもう、エルラーク様は◯◯様に存在を認められたでしょうから」
「ローズナは巻き込みたくないと言っていたが、今さらだろうな」
「恐らくお嬢様も、覚悟をお決めになったかと」
「そうか……。ありがとう、マリア」
「滅相もございません。私の命は、とうの昔にローズナ様の物なのですから」
安堵した様子のフュードラとマリアは、ただただローズナのことを案じていた。
◇◇◇
翌日になると、エルラークが子爵邸に訪ねて来た。
ローズナへの思いが昂り、彼女の純潔を散らしたことをフュードラへ謝罪する為に。
「申し訳ありません、お義父さん。
ローズナが愛しくて、つい先走ってしまいました。
責任を取る意味でも、早期に婿入りをさせて下さい。
彼女の為に、誠心誠意尽くすとお約束しますから」
応接室で薄っぺらな謝罪をする彼に、フュードラは些か嫌悪したが、それを顔には出さなかった。
「……残念なことに、君が娘を好きとは思えない。
君とアン王女の噂を知らない者は、少ないだろう。
事実か否かは、噂をする者から見ればどうでも良いことだから、面白おかしく尾ひれも付いているしな。
こちらとしては、君の有責で婚約破棄しても構わないんだ」
「そんな……傷物になったローズナは、今後まともな家へは嫁げないですよ。それでも良いんですか?」
どの口がと、憤りそうになるが堪えるフュードラだが、ローズナのことを考えて怒りを抑えた。
「君は何故、家に婿入りを望む? 伯爵令息の立場なら、もっと上の爵位の婿入りも望めるだろうに。
その整った顔は、令嬢に人気があるだろう?」
フュードラは、すぐに許すとは言わなかった。
それどころかたとえ婚約者とは言え、強引に体を繋げてしまったことに、激しく抗議をした。
「それは…………本当に申し訳ありません。
愛しい気持ちが強すぎたせいです。
何れ結婚するのですから、許して頂けませんか?」
彼がローズナを望むのは、アン王女のことを知っていても責めたりしないことと、思うまま貢いでくれる都合の良い存在だからだ。
他の令嬢では悋気ゆえに、婿は好き勝手出来なそうだが、ローズナならば浮気も愛人も許してくれそうな、甘い打算があった。
アン王女のことも彼女が黙っているからこそ、世間から責められないどころか、憐れみさえ向けられているのだから。
体が弱く社交もしないローズナは、簡単に操れそうな優良物件だった。
今さら手放すことは出来ない。
訪問して来た時のようなヘラヘラした様子は霧散し、エルラークの顔に焦りが生じたのを、フュードラは見逃さなかった。
「そうか。ならば誓約書を書けば、信じてみようじゃないか」
「誓約、ですか?」
「ああ、そうだ。娘を愛しているのだろう?」
「勿論です。愛を書面に残せば、信じて頂けるのですか?」
「……信じてみよう。書かなければ、婚約は破棄として話を進める」
「か、書きます。ここで書けば良いのですか?」
「そうしてくれ。用紙はこれを使え」
「はい、ありがとうございます。
でも……愛する気持ちを文字にするなんて、なんか照れますね。ははっ」
誤魔化すような愛想笑いで、ローズナの愛を綴っていくエルラーク。
フュードラは横目でチラリと見ただけで、彼から目を逸らして窓の下を眺めた。
2階から庭を眺めれば、日傘をしたローズナと付き従うマリアが目に入った。
ローズナは脆弱だ。
理由は体内の魔力量が多すぎて、体の負担になっていたからだ。
そしてもう一つの理由もあった。
日の光でさえ負荷となり、日傘と遮光手袋は欠かせないアイテムだ。
(あの子は優しい子だから、他者の犠牲を嫌う。
私はお前さえ幸せになるなら、どんな非難を浴びても構わないのに。
ほんに、儘ならぬものだ)
そんなフュードラに気づくはずもないエルラークは、言われるままに誓約書と言う名のラブレターを書き上げ、最後にサインをした。
「出来ました、お義父さん」
「そうか。じゃあ、婚約は継続するとしよう。
ただ昨日のことで、娘はそういう行為に恐怖心があるようだ。
結婚式を挙げるまでは、もう止めてくれないか?」
「あ、はい。そうですよね、スミマセン。
もう、無体なことはしないと誓います。
これから愛を伝えて、心を開いて貰えるように努力します」
「…………頑張ってくれ。悪いがこれから客が来る。
今日はそのまま帰ってくれ」
「分かりました。また窺います」
「今度は先触れを出してくれ、必ずな」
「はい、承知しました。では……失礼します」
首の皮一枚が繋がったと、ほくほくと笑顔のエルラーク。
「契約書じゃなくて、たかが誓約書を書かせるなんて甘いな。
さすがは下位貴族だ。あははっ」
彼はフュードラを甘く見ていた。
爵位のこともそうだが、アン王女のことを言って来ないのは、自分の父であるブライトン伯爵を恐れているのだと考えていた。
◇◇◇
エルラークの早期の婿入りは果たされないも、彼はアン王女に侍り続け、ローズナにも愛を囁く生活を送っていた。
だが、転機は訪れた。
アン王女の婚約者である隣国の第二王子が、暴力沙汰で廃嫡になり、婚約が白紙となった。
歓喜したアン王女は父である国王ラルケに、エルラークとの結婚を強請った。
数年の婚約期間でもうすぐ20歳になる王女は、行き遅れに差し掛かる。
隣国との婚約を断れずに受け、さらに相手が問題を起こして白紙となれば、愛娘だけに瑕疵が付き憐れに思うラルケ。
愛娘の願いを拒むことが出来ず、王命でアン王女とエルラークの婚約を結ぼうとした。
王妃への許可取りも水面下で調整を行い、さあ王命を出す直前となり、アン王女は「まだ王命は使わないでいて。王命にしたら、政略結婚だと思われてしまうから」と言うのだ。
「だが……それではグラバッド嬢が傷付く。それくらいなら王命にした方が良いではないか?」
「私、グラバッド嬢が嫌いなの。だって私とエルラークが仲良くしても、全然嫉妬しなくて余裕でいたのよ。
最後は自分のところに戻って来るって、婚約者づらしてさ。
きっと私が政略結婚させられるのを、良い気味だと嘲笑っていたに決まってるわ。
だからギャフンと言わせたいのよ!」
愛娘の醜い嫉妬を垣間見て、ラルケは押し黙った。
こんなことは認められない。
王妃だって、忠心に背くことはきっと許さないだろう。
なのに可愛くねだられて、理性がとんだラルケは、その希望を叶えてしまった。
◇◇◇
その頃のローズナは王家主催の夜会も休むほど、体調が悪化していた。
エルラークが何度訪問の打診をしても、引き籠った彼女には会わせて貰えない。
エルラークは思った。
(きっと俺とアン王女のことを聞いて、ショックを受けたのだろう。
食事も喉を通さぬくらいに、窶れているのかもな?
意地を張らずに、俺を婿に迎えていれば良かったのに。
まあでもアン王女の願いなら、結局離婚したか。
面倒事にならなくて良かったのか?
はははっ)
◇◇◇
さらに数日が経ち。
エルラークはまた、打診せずに子爵家を訪れた。
彼からすれば、たとえ婚約破棄をしてグラバッド子爵に睨まれても、アン王女と言う後ろ楯でカバー出来ると考えたのだ。
「そうか。王女と婚約……か。君有責の婚約破棄だから、慰謝料を貰うぞ」
「ええ、そのくらいなら払いますよ。
今までお世話になりました、お義父さん」
やはりエルラークは、グラバッド子爵を下に見ていたのだろう。悪びれもせず、誓約書の時とは態度が変わり、高圧的だった。
(本当に寄生虫のような男だな。これで私の罪悪感も薄くなる)
呆気ないほど簡単に婚約破棄は成立し、エルラークとローズナは他人となったのだ。
ローズナは、エルラークと会うつもりはなかった。
けれど先触れがなかったことで、彼の来訪を知らなかった彼女は、楽器部屋でピアノを弾いて部屋へと戻る途中、彼に出会してしまった。
「え、なんでエルラーク様が…………」
「ああ。久しぶりだね、ローズナ。
もうお別れだよ。今の萎れた君は、俺に相応しくない。…………潮時だ」
その冷たい言葉に、ローズナは満面の笑顔で応えた。
「ええ、その通りですわ。エルラーク様、私の婚約者になって頂きありがとうございました。
とても楽しい時間でしたわ」
「え、あぁ、うん。それじゃあ、元気で……」
「はい。エルラーク様もお体に気をつけて」
いつも表情の乏しい彼女は、窶れているが輝く表情をエルラークに見せた。
元から美しい顔である彼女から、眩しい生命力を感じた。
とても婚約破棄で、悩んでいたようには見えない。
(やせ我慢には見えないし、本当に体調が悪かったのか。
これから婚約者探しも大変だな。
まあ具合が悪いなら、それどころじゃないか)
こうして一組の婚約が破棄されたのだ。
◇◇◇
「ああ、ローズナ。お前生きているね。妖精の呪縛が解けたのだな!」
「はい、そのようです。今までよりも体も軽くて。
ずっと死ぬのが怖かった。
でも愛してくれる人を犠牲に出来ないと、生きることに執着しなかった……つもりでした。
なのに、エルラーク様が私を抱いて下さって、愛していると囁かれて、死にたくなくて…………。
生きたいと願ってしまいました」
「お嬢様、よう御座いました。
生きていて下さって、ありがとうございます!」
父フュードラと侍女のマリアは、ローズナを抱きしめて泣いていた。
ローズナも堪えきれず、嗚咽を漏らす。
「わ、わたし、エルラーク様を犠牲に、ひぐっ、うぐっ」
「あいつは自分で選んだのだ。気にするんじゃない」
「でも、でも…………。それでももう、私は黙って死を受け入れることは出来ないのです」
「それで良いんだ、ローズナ。絶対に私がお前達を守るから、安心しろ!」
「ありがとうございます、お父様」
「私も守りますわ、お嬢様」
「ありがとう、マリア。私、頑張って生きるわ!」
婚約破棄で落ち込むと思われた子爵邸だが、そんな様子は微塵もなくて、使用人達は安心した。
だがさすがに、元婚約者であるエルラークが王女と結婚することになり、この国にいるのは肩身が狭いと考えたフュードラは、彼の従弟が住む別の国へ移住することになった。
急なことであり、使用人達には給金の1年分の退職金と健全で働きやすい職場への紹介状を渡した。
フュードラとローズナは大変優しくて貴族らしくないので、使用人達は心から別れを惜しんだ。
ただグラバッド子爵家は、領地がなく商売が中心だったので、貴族家よりも平民と関わりが多い。
その為国を去る際には、パーティーが行われることもなく、大変静かなものになった。
国への届け出もスムーズだった。
国王はローズナに罪悪感があったし、略奪婚の噂で騒がれて困るのは被害者のローズナと、加害者のエルラークとアン王女なのだ。
彼女がいないことは、大変に助かるのだった。
だが国王は、グラバッド子爵が貴族になった成り立ちを忘れていた。そこが王妃から、愚かだと言われる由縁だった。
エルラークは「慰謝料を貰う」と、フュードラから言われていたが、請求を待っているうちに彼らは国を離れた。
たぶんもう、戻っては来ないだろう。
「やっぱり父の力と、アン王女の力に畏れをなしたのだろう。所詮下位貴族だな。言えば、ローズナの純潔を奪った分だけでも払ったのに」
いやらしく笑うエルラークからは、ローズナが好きだった時の面影は確実に消えていた。
早期に国を離れて正解だった。
◇◇◇
ローズナとエルラークは、2歳違いである。
ローズナと婚約破棄をした彼は、1年後にアン王女と婚約した。
その1年後にはエルラークに伯爵位を持たせ、グラバッド子爵が住んでいた、王都の邸に住むことが決まっている。
王領から領地も貰えることになり、至れり尽くせりの状態は結婚予定の2人を幸福で満たしていた。
けれど…………。
エルラークが19歳になった頃から、彼は不調を訴えることが多くなり、寝たり起きたりを繰り返す生活になった。
アン王女は半狂乱になって国王ラルケに泣きつくも、医者は原因が分からないと匙を投げ、魔導師は妖精の祝福だと言った。
眉も髭もぼうぼうに伸びた、白髪の爺姿の魔導師は、背丈ほどの木の杖を突きながら、ラルケの前で話し始めた。
「祝福ですって! じゃあどうして彼は動けなくなったの? ねぇ!」
「祝福には、良いものも悪いものもあるのです。
今回で10回目。契約最終と出ています。
これは妖精に王家の者が犯した咎を、グラバッド子爵家が犠牲になって来た回数。
おおよそ300年前に、妖精の住む地を奪おうとして、返り討ちになった王子がいました。
彼は王太子で、その家臣である騎士が自分が罰を受けるとして、悪い方の祝福を受けました。
それが今のグラバッド子爵の成り立ちです。
いやもう、他国に移住したのでしたな。
グラバッド家では代がわりごとに、魔力が一番強い子供が16歳となる日に亡くなる祝福。
それはその子供の魔力を、妖精が奪うからです。
その見返りとして彼らの領地が潤うように、妖精が別の祝福も授けました。
ただ子爵には領地がないので、商売の方に運気が配分されたようですが。
それ以外にも子爵邸周囲の、他領地がいつも豊作なのは、妖精の力が漏れ出したからなのです。
グラバッド子爵に領地が与えられたなら、どんなに肥沃な土地になったことか。惜しいですな。
あまりにも憐れだと思った妖精王は、一つグラバッド子爵に提案をしました。
『悪い祝福を持つ者を心から愛する者が現れた時、悪い祝福を代わりにその者が変わることが出来るようにした。
代わりの者は、20歳の誕生日に亡くなることになるだろう』
愛する者が代わりに亡くなるのは、とても悲しいこと。でも子爵家の祝福を知る者は、知っていてもなおその多くが対象者を愛して命を捧げました。
中には子爵の一人息子の悪い祝福を引き継ぎ、子を2人成してから亡くなった奥方もおられました。
妖精は救済のつもりでも、そこら辺が人の感覚と違うようでした。
過去には、16歳の寿命を受け入れて亡くなる者も、勿論いました。
夫婦として結ばれなくとも、片想いで対象者を愛して寿命を変わった者もおりました。
これこそ、無償の愛なのでしょう。
そして今回の対象者ローズナ様は、誰にも会わず愛することもなく、寿命を終えようとなさっていました。
けれどそこにいるエルラーク様は彼女を愛し、彼女の純潔を奪い、誓約書にも愛の言葉を綴られていました。
今は婚約破棄をされたそうですが、妖精には関係がありません。心の中は分かりませんので、表面で判断します。
見張りの妖精は、エルラーク様が真実の愛を捧げたと確認しました。
残念ながらエルラーク様は、20歳の誕生日に亡くなることが決定しています。
そのことは今、ローズナ様が生きていることが証明になるでしょう」
「そ、そんな、嘘よ。お父様はこのことを知っていたの?
知っていてローズナとエルラークを婚約させたの?
どうしてそんな酷いことをしたの?」
「私は知らん。いや、歴史で学んだと思うのだが、よく覚えていなかった」
「そんなぁ。祝福を破ることは出来ないのですか?
魔導師様ぁ!」
「無理じゃよ。もうローズナは祝福から逃れたし、妖精は長年尽くしてくれたグラバッド家の味方なのだ。
不義理な男の味方はせんじゃろうな。
諦めなされ」
「嘘だろ? 俺死ぬの? こんなはずじゃなかったのに。
全部うまくいくと思ったのに…………うっ、うっ、うっ」
「死んじゃうなんて嘘よ。彼はまだ、こんなに若いのよ。
何か方法があるはずよ。お父様、何とかして探してよ、ねえ、ねえってば! お母様も方法を探してよ!
うわあぁん」
騒然とする中を去っていく魔導師。
アンとラルケを見て、呆れ顔の王妃。
王妃は全てを知っていて、我が儘なアンに見切りを付けていた。
見た目の条件を付けなければ、とっくに嫁げていたアンだが、美しいエルラークに執着して婚期を逃していた。
せめて隣国で引き取ってくれたら良かったのにと、何度思ったことか。
婚約者のいる護衛騎士を、恋人のように振る舞い恥を晒す義娘を、王妃は嫌悪していた。
アンに諫言をしても聞かず、甘やかすだけのラルケにも愛想が尽きていた。
アンの実母の側妃も、言うことを聞かない娘を持て余していた。そのせいで王妃に、何度も苦言を呈されて来たのだから。
この国には王妃が生んだ、長男、次男、三男がいる。
政略に使えない、愚かな王女はいらないのだ。
「エルラークが好きなの。誰でも良いから助けてよ。
あの女、ローズナに代わりをさせれば良いわ。
兵士達に捕まえさせてよ。
お父様!!!」
「俺、俺は、もう、後1か月で20歳になるのに…………。
もう、お仕舞いだ。嫌だ、イヤだよ。
助けてくれーーーー!」
アン王女の金切り声と、エルラークのボソボソと囁くような呪詛のような呟き。
城で治療を受けていたエルラークは、王妃の命令で離宮に押し込められた。
医師だけは定期的に点滴に向かうが、他に出来る治療はなかったのだ。
そしてエルラークが20歳になると共に、天に召されたと噂が流れた。
その噂は移住したローズナ達にも届いたのだった。
『あの国の王女は、婚約していた隣国の王子は廃嫡になるし、次に婚約した伯爵令息は病気で亡くなるしで、疫病神と呼ばれているそうだぜ。
誰も貰い手がなくて、修道院に入れられたそうだ』
『まあ、そうなの? 王族に生まれても大変なのね』
『王族だからだろ? 下手に他国に嫁いで、旦那が亡くなったら国が責められる』
『なるほどねぇ。平民で良かったよ』
『『『違いねぇ、ハハハハッ』』』
どうやら歳の離れた侯爵にも嫌われて、結婚出来なかったようだ。アン王女は修道女アンとなり、厳しい戒律の中で生涯を終えた。
「なんで、こうなるのよ。せめてお城にいさせてよ!」
それには王妃も、実母である側妃も却下したらしい。
王子達も我が儘王女と王子妃達の折り合いが悪く、修道院行きを止めなかった。
国王だけが止めても無理だったのだ。
城に現れた魔導師は、精霊王の変化した姿だった。
300年の貢献に応じて、この国を豊かにしようと思って出てきたが、悪い祝福の対象者が粗雑に扱われていたことで、不快に思ったのだ。
「元々は王族の無礼だったのに。ローズナが可哀想じゃないか!」
精霊王は面食いだった。
100年ぶりに起きたので、ローズナを追っかけてこの国から出て行った。
他の妖精達はまだ残っているけど、ローズナの周辺に緑溢れる山脈があれば引っ越すかもしれない。
ちなみに悪い祝福をかけたのは、精霊王ではない普通の精霊なので、精霊王の命令には従うのだった。
◇◇◇
「ほら、エルンスト。今日はこの絵本を読みましょう」
「はい。おかしゃま(お母様)」
「本当にエルンスト様は、ローズナ様が大好きですね。
私では駄目だとフラれました。トホホ」
「まあ、エルンストったら。マリアを困らせては駄目よ」
「はい、おかしゃま(お母様)」
「困ってはおりませんよ。麗しいだけでございます」
「ほほっ。エルンストはモテモテだな」
「あ、お帰りなさい、お父様」
「じじ、おかえりぃ」
「お帰りなさいませ、フュードラ様」
「町のお土産は、マカロンじゃよ。久しぶりじゃろ。
マリアも一緒に食べよう。お茶を頼むよ」
「はい。ただいまご用意しますね。
外で召し上がりますか?」
「うむ。今日は暖かいから、そうしよう」
「わー、きれいね。じじ」
「そうだろう。好きなのをお食べ。
味も色で違うらしいぞ」
「あんがと、じじ」
「良いってことさ。お前が喜ぶと、じじが嬉しいんじゃ」
「まあ、お父様ったら。甘やかして」
「可愛いから仕方ないのぉ。でも食べたら剣術を教えるぞ。護身術も兼ねるから、お前も参加すると良い」
「はい。お願いします!」
「うむ」
甘やかすだけではないフュードラなら、きっとエルンストは、キリリとした紳士になれるだろう。
ローズナもエルンストもマリアも、ペタンコ靴で、蜜柑畑を走り回っている。
家庭菜園も最近充実していて、しかも美味しく実りだした。ミニトマトを摘まんで食べるエルンストが、「おいしいね」と綻ぶのもまた可愛いのだ。
純潔を奪われた日にローズナに宿った命は、元気に育っていた。フュードラに、『エルンスト』と命名されて。
エルラークが婚約破棄に来た時は、丁度つわりの最中で少し窶れていたのだった。
彼のことは、既に吹っ切っていた。
「私を生かしてくれてありがとう」ってな感じだった。
ローズナ達は3年前に緑溢れる土地を購入し、酪農と蜜柑の栽培をしている。
丁度この国に移り住んで、フュードラの従弟に紹介されこの地を拠点にした。
元々住んでいた老夫婦も元貴族で、屋敷も広く立派な建物だった。
仕事から手を退いて、老後は南の島に行こうと考えていたところに、ローズナ達が来たらしい。
渡りに船ととても喜ばれた。
雇っていた従業員もそのまま労働してくれることになり、特に苦もなく経営が行えている。
みんな気の良い、優しい人達だ。
彼女達が住み始めると、土地の状態がさらに肥沃になり、美味しい草を食べた牛の牛乳は、濃くて美味と評判になり、収入もうなぎ登りだ。
蜜柑の木も同じ物なのに、糖度が高くデザート用に購入され、さらに収入があがった。
いつの間にか若木もすぐに成長し、収穫量もさらに増えるおまけ付きである。
時々山の方から、牛乳を買いに美形な男性が来ることが、最近の変化であった。
もう貴族でないグラバッド家は、周囲の村人達とも協力して仲良く暮らしている。
◇◇◇
ローズナの父フュードラは、ローズナの前の悪い祝福の対象者だった。
彼を愛したのがローズナの母リズで、ローズナを生んだ後に20歳で命を落としている。
命をかけて自分を守ってくれたリズを愛していたフュードラは、再婚もせず未だにリズだけを愛していた。
ローズナが他人を犠牲にしない気持ちは知っていたが、エルラークはローズナの初恋だった。
魔力で不調が強く邸にいるローズナは、物語の王子のようにエルラークを愛していた。
フュードラは、エルラークがローズナを愛さなくても傍にいて欲しいと思っていた。
それが娘の唯一の慰めになると思って。
もしエルラークがローズナを愛しても愛さなくても、ローズナ亡き後は親戚から女性を引き取り、エルラークに子爵を継がせても良いと思っていた。
けれどエルラークの不誠実な態度に、妖精のずれた感覚の話を参考にして、愛を強調して妖精に誤認させようとしたのだ。
もし失敗して妖精の罰が自分にあたっても、フュードラは構わないと思っていた。
今回は、まんまと成功したのである。
「エルラークには慰謝料は貰うと言ってあった。
あやつの不誠実さ。
主に強姦と、強受り(ローズナにすべて支払いをさせていた)と、不貞と侮りと、まあいろいろあるが、慰謝料分を寿命で支払って貰ったと思えば良いじゃろ。ハッハッハッ」
良いじゃろではない。
「けどな。最初は悪い祝福のことを話して、婚約の継続をどうするか聞こうと思ったんだぞ。
それをする前に、王女と恋仲にはなるわ。
来たと思ったら、ローズナとは買い物とか外出が多いし、私がいない時ばかり邸に来るしで、避けられとったんだよ。
きっと小言を言われると思ったんだろうよ。
卑怯な奴だ。
ローズナには内緒だぞ」
それを聞いて、ただただ笑うだけのマリアだ。
マリアもローズナの気持ちを知っていて、席をはずしたら、抱きしめるくらいするかなって思って失敗したのだった。
応接室に鍵をかけて盛るとは、考えてもいなかった。
ローズナの呼ぶ声が聞こえたら、中に入ろうとして待機していたのに、いつになってもそれがなく、まさか盛っていたなんて!
ドアから出てきたエルラークは服が乱れながら帰っていくし、お嬢様は気絶しているしでてんやわんやだった。
泣きながらタオルで体を清めていると、お嬢様の意識が戻り、嬉しそうに恥じらっているので、戸惑ってしまった。
けれど嫁入り前に純潔を奪われたお嬢様に、申し訳なくて死のうかと思って止められたのだった。
「本当にあの時は、生きた心地がしませんでした。
申し訳ありません」
「もう謝るな、マリアよ。
それがあって、エルンストがいるのだから。
もう言うでないぞ」
「はい。そう致します」
そう言って頭を下げるマリアだ。
もうマリアはグラバッド家の一員なのだ。
◇◇◇
元々マリアは、ローズナの母リズの侍女だった。
リズが亡くなった後クビになれば、生家の男爵家の借金返済の為に、高齢で好色の金持ちの後妻にされるところだった。
ローズナの侍女として雇用が継続し、給金の殆どを家に送ることで後妻行きを免れていたマリア。
その後にフュードラが大金を払い、マリアの籍を男爵家から抜き、フュードラの妹として籍に入れたのだ。
マリアは心から感謝し、グラバッド家の為に生き、そして死ぬと誓っている。
2人の間に恋愛感情はなく、本当の兄と妹のような暖かい関係である(赤毛の◯ンのマシューとマリラ的な)。
16歳で死を迎える恐怖に1人で震えていた少女は、その年を越えることが出来た。
今は元気になり、家族で仲良く生きている。
※平民も名字があるので、グラバッド姓はそのままです。
28
あなたにおすすめの小説
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?
もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。
政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。
王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。
王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。
オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
いや、無理。 (本編完結)
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。
一旦完結にしましたが、他者視点を随時更新の間連載中に戻します。
もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、
「わかってくれるだろう?ミーナ」
と手を差し伸べた。
だから私はこう答えた。
「いや、無理」
と。
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
〔2026/02・大幅加筆修正〕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる