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第三話:消さない記憶
しおりを挟む朝6時。
スマホのアラームを止めるのと、同時に通知をチェックする。
昨晩の投稿、リアクションくれてるのは10人。
(まぁ、こんなもんか)
『寝る前はコレ♡』
ノンスイートのホットココアと、ジェラピケのパジャマの袖。
買ったばかりのネイルカラーとリップを自然に見切れさせて。
その画像にふんわりとしたフィルターをかけてメッセージを添えた投稿。
>「かわいい!やっぱジェラピケいいよね」
>「豆乳?美意識たか~」
>「優亜ちゃん、やっぱかわいい」
そんなコメントの中に、それを見つける。
>「やりすぎ笑」
優亜は黙ったままSNSを閉じた。
朝ご飯を食べて、歯を磨いて顔を洗ってメイク。
昨日、夜1時まで起きていたにしてはクマもないし肌の調子もいい。今朝はコンシーラーなしでいけそうだ。
メイクを終えて、その鏡に向かってスマホを構える。
グレーのカラコン、髪色の合っててやっぱかわいい。
『今日もがんばってこ~🌟』
学校ではいつも通り、優亜は優亜。
話しかけられれば明るく返す。
カメラを向けられれば、角度と光を計算して指ハートを作る。
「「おはよ~優亜」」
校門近くで、いつメンの萌と香奈子が声をかけてきた。
「おはよ」
「ねぇ、昨日の夜のやつに映ってたの、限定カラーのやつじゃん?」
「あ、分かった?買っちゃった~、今つけてる」
「やっぱでしょ?まじ似合ってる」
二人とやりとりをしながら。教室へ向かう途中、人波から離れた。
「トイレ寄ってく」
「「おっけー」」
トイレを通り過ぎ、空き教室へこっそりと忍び込む。
ドアを閉めた優亜はその場にしゃがみ込んだ。こうすればドアの窓からも見られることはない。
さっきの「おはよう」投稿へは、コメントが12件、♡が41個。
校内SNSを運営しているのはこの学校のプログラム部だ。
卒業生が作ったSNSを、校内の生徒用に動かしているらしい。
生徒は誰でもアカウントを作れる。
そして、裏技として、複アカを作る方法もある。
どれが誰の複アカかは分からない。
だから……
優亜はスマホを操作し、画像フォルダを開く。
何度かタップして、隠しフォルダを表示させる。
保存数:232
その中に、今朝の「やりすぎ」コメントのスクリーンショットを保存した。
入学してすぐ校内SNSを始めた。
なぜだか優亜のアップする画像やメッセージが人気を呼び、あっという間に全校生徒の半数以上のフォロワーがついた。
投稿すると、コメントや♡が飛んでくる。
優亜の投稿への反応ポストも多い。
その中には――
優亜の写りの悪い写真を載せられ、“メイク落としたら誰かわかんね”というコメントがつけられていたり
縦読みに仕込まれた本音、“か お か わ り す ぎ”
(ダッサ……。こんなんで勝ち誇ったつもり?)
こういうヤツって都合悪くなると自分の投稿を消す。
だから証拠は残しておかないと。
(ネットに出したものなんて、絶対消せないんだから)
リアルタイム投稿をスクロールする。
ネイルは自分でやっている。中学のときからコツコツ練習してきたんだから上達して当たり前。
なのに。
優亜が投稿した画像からネイルを切り取ったらしき画像、
添えられたコメントは
>「ネイルって金かかるよね。ダレカみたいにパパいればいいけど笑」
返信コメント
>「ダレカって ゆー?笑」
スクショフォルダの保存数は毎日増えていく。
夜23時。
自室のベッド。
今朝の投稿への♡は200を超えた。
コメント欄には、
> 「かわいい~天使すぎ」
> 「肌きれい!なに使ってるの」
埋もれるようにあったそれを、また見つけた。
> 「メイク濃すぎて草」
投稿者名はいつもデタラメだ。でも、いつも見てくるやつだ。
いつも見てくるなんてストーカーじゃん。マジ死ね。
口をついて出そうになった悪態を飲み込む。
即スクショ。フォルダへ。
「……消せばいいと思ってんのバカすぎ」
吐き出した瞬間、ラインの通知が浮かんだ。
>もう寝た~?
彼氏の康太からだった。
心に渦巻いてた黒い波が消えていく。
>起きてるよ🎀
即返事を返して電話をかけた。
(第三話・了)
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