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前世を思い出しました
しおりを挟む毎年開かれる「カイザード王立学園」の卒業パーティーで第二王子率いる生徒会役員数名が、挨拶をするため壇上に集まりました。
ん?……あの令嬢も生徒会役員でしたかしら…?
「フォスティナ・ヴァリス公爵令嬢!」
第二王子が高らかにわたくしの名を呼びました。
「私サイラス・カイザードは今この場を持ってフォスティナ・ヴァリス公爵令嬢との婚約を破棄するっ!」
「婚約を……破棄…?ですか……」
ここは前世でプレイした乙女ゲーム『~あなたに惹かれて~』の世界…
3年前、入学式当日に原因不明の高熱で1週間意識不明で寝込み目覚めると、前世の暮林 美紗の記憶を思い出した。
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「う……ん…」
見慣れない天井……ここは…?
「フォスティナお嬢様っ!!」
フォスティナ? 私は美紗よ?
「お目覚めになられたのですねっ!」
メイド服を着た少女が目に涙を浮かべて駆け寄ってきた。
起き上がろうとしたら…
「いけませんっ! お嬢様は1週間意識不明だったのですよっ!」
「1週間も……」
メイド服を着た少女はとても心配そうに見つめ、声を掛けてきた。
「お嬢様、体調は如何ですか?」
「あなたは、誰…?」
「っ!?……え?……お嬢様…私が分からないのですかっ?」
「ええ…いえ……アンナ…?」
「!! はいっ、アンナですっ、よかった…今旦那様と奥様を呼んでまいりますっ」
わたくしは……フォスティナ・ヴァリス。
ヴァリス公爵家の長女。
でも、この記憶は? わたくしじゃないもう1人の『暮林 美紗』という女性のもの?
あぁ、 そうか、 そうなのね、 これはわたくしの前世の記憶なのね……。
カイザード王立学園を見た瞬間、頭が割れんばかりの頭痛に襲われて、意識を失ったんだわ。
ここはカイザード王国、今年カイザード王立学園に入学し、乙女ゲーム『~あなたに惹かれて~』が開始されるのね。
「ふっ……ふふっ」
わたくしは、悪役令嬢フォスティナ・ヴァリスなのね。
「どうせなら10歳の時に記憶が戻って欲しかったわね……
そうしたらそもそも婚約などしなかったのに」
「ティナっ!!」
お父様が寝室へ飛び込んで来られました。
「大丈夫かいっ!? どこも痛くないかい?」
この男性はロベルト・ヴァリス……わたくしの父親です。とても心配性なのですわ。
「大丈夫です、お父様…ご心配お掛けしました」
「フォスティナ……良かったわ」
「お母様…」
この女性はシルヴィアーナ・ヴァリス……わたくしの母親ですわ。はらはらと涙を溢されています。
「ティナ、まだ顔色が良くないね?」
「お兄様…もう平気よ?心配しないで?」
この青年は兄のフェルナン・ヴァリス……わたくしの頬に手を添えて下さいます。
「さあさあ、診察しますよ? 皆さん席を外してくだされ」
「む……もう少し側に…」
「あなた、行きましょう」
「父上…」
心配性のお父様に、お母様もお兄様も呆れ顔です。 ふふっ。
「さて…お嬢様、どこまで覚えておられますか?」
「学園の門を通り抜けた辺りまで……かしら…」
「その時、何があったのでしょうか?」
「分かりません…突然酷い頭痛がして、気が付いたらここに……」
前世の記憶を思い出した事は…言わない方が良いわね………
「倒れられてから2日前まで高熱が続いていたのですよ、今もまだ頭痛はしておりますかの?」
「今は無いわ、ただ少し頭が重く感じるだけね」
「そうですか……では念のため、あと1週間はこちらの薬で様子を見ましょう。 2日程したら少しずつ運動して体力をつけて行くんじゃよ?」
「はい」
「では、旦那様方には伝えておきますからの、消化の良い物を食べてゆっくりしておきなされ」
「はい、ありがとうございます」
お医者様がアンナにいくつか指示をして部屋を出ていかれました。
「フゥ…」
これからの事考えなきゃね…
でも、美紗の記憶ではそれほどこの乙女ゲームは詳しく無いみたいなのだけど、どうしましょうか…
他の乙女ゲームや小説では、ヒロインが転生者でさえなければ嫉妬して虐めない限りある程度大丈夫だと思いますけれど…やはり強制力というものが働くのかしら……?
でも確かバッドエンドは国外追放だけだったですわよねぇ…
ならば、わたくしの身分を考えるとそこまで困る事にはなりませんかしら…?
「これはゲームなどではなく、命ある現実世界ですものねぇ?」
現実ではエンディングなど流れませんもの。
まぁ、もともとあまり気乗りしない婚約でしたし?
婚約者にも全く好意など持ってはおりませんし?
あら? わたくし何も困る事ございませんわねぇ。
サイラス様がヒロインに心惹かれるのであれば応援して差し上げましょう。
ヒロインがお花畑転生者かどうかと冤罪だけ気を付けておきましょうか。
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