11 / 49
第一章 元冒険者、真の実力を知る

11:あの人たちの翌々日

しおりを挟む
 時はクリスタルを追放した二日後まで戻る。

「ディエゴのところに入ってやってもいいけど」

 昨日、ディエゴたち三人にそう言い放ったのは、クリスタルの姉であるクロエだった。昨日の討伐ではダンジョンの奥にすら辿たどりつけなかった三人。

「久しぶりのパーティ討伐、精一杯頑張るから!」

 クロエだけがノリノリで討伐への準備をしている。

「そもそもあんたの出番なんてないわよ。うちら三人だけで十分」
「そう? それはこれから行ってのお楽しみじゃない?」

 昨日の夜からずっと、ジェシカとクロエとの間に火花が散っている。
 イアンは「……何だ、こいつ」と冷めた目でクロエを眺めているだけである。

「ほら、行くぞ」

 リーダーのディエゴは、張り合うジェシカとクロエをせかすように、部屋をあとにしようとしている。
 新しいメンバーを迎えての討伐が始まった。





 昨日、上級者向けのダンジョンでボコボコにされたのは気にもとめず、今日もまた上級者向けダンジョンに入っていった。

「今日はゴブリンか」

 ゴブリンといっても大軍で襲いかかってくるので、一人で大量にさばかないといけない。ダンジョンに入ってすぐにこの状況なのは、上級者向けである所以だ。

「はい、あとは地面にいるやつだけー」

 ゴブリンと対峙たいじしてからたった数十秒で、クロエは地面以外にいたゴブリンを倒しきってしまったのだ。
 しかし、他の三人は誰も反応しない。

「……残り一匹、よし」

 最後のゴブリンをイアンがしとめると、ディエゴは「どんどんいくぞ」と、そそくさと前に進んでいく。

「アウバールだな」

 一息つく暇もなく、次のモンスターが襲ってきた。昨日コテンパンにされたアウバールである。昨日と同じく剣で突いて倒そうとするが、三人ともなかなかアウバールに刺せないでいた。

 クロエは様子を見ていた。飛行モンスターはもちろん弓使いが有利である。しかし、さっきジェシカに「あんたの出番なんてない」と言われている。だが、一向にアウバールを倒せそうにない。
 昨日あんなにボロボロだったのは、やっぱりアウバールだったのかと確信したクロエ。

「あー見てらんない」

 見かねたクロエは矢を放ち、アウバールに命中させる。
 フラフラと落ちていくアウバールをディエゴが剣で突き、仕留めた。うまいところを持っていったディエゴは、上から目線でクロエを褒める。

「さすがはアーチャー家のヤツ。やるじゃないか」
「それはどうも」
「いや、アーチャー家のヤツでも使えないヤツはいたか」
「そういえばそうだったね」

 身内がいじられても淡々と返すクロエ。むしろ、嫌そうな顔ひとつしない。

「あ、お先に失礼」

 鋭い目になったクロエは、ディエゴが前を向き直すのと同じタイミングで矢を放った。

 グエッ

「よそ見したら危ないじゃない。ね、ジェシカ?」

 ジェシカにたった三十センチくらいまで迫っていた、別のアウバールに気づいて射抜いたのだ。

「視界の隅では気づいてたわよ。すぐに剣で攻撃するつもりだったのに」
「ふーん、あっそう。せっかくの機会を奪っちゃったね」
「何よ、ちょっとパーティに貢献したからって調子に乗ってるの?」
「ただ普通に討伐をやってるだけ」

 またもジェシカとクロエが言い合いを始めたところで、ディエゴがため息をつく。

「また厄介な弓使いを入れてしまった……」
「……だな」

 イアンも静かに賛成する。二人は背中合わせになると、モンスターが出てこないか見張りながら、女子二人には聞こえないくらいでグチをこぼす。

「……俺、こんな状況が続くなら、クリスタルの方がマシくらいに思えてきたな。新入りはただうざい」
「それはない。今の方がこのパーティの評判は下がらないからな」
「……そうだな」

 ディエゴ、イアン、ジェシカの三人は知らなかった。クロエはまだ本気を出していないことを……。





 クリスタルを追放してからちょうど一週間が経つころには、三人はほぼ『用なし』状態になっていたのだ。
 クロエはソロで上級者向けダンジョンに入っていたのだから、そうなることは誰もが予想できていたはずだ。だが三人は「ソロで行けるくらい優秀なら、自分たちをうまい具合に手伝ってくれる」と思っていた。

「今日はほとんど私の手柄ね。特にジェシカなんて、今日モンスター倒してた?」
「と、トドメは刺してないけど、倒す手助けはしたわよ」
「その前に私が当てたから、ジェシカは攻撃できてたけどね」
「……ふんっ!」

 ぐうの音も出ない。
 三人はほとんど成果を出さなかったため、モンスターを換金したあとのお金の分配で、ここ数日ディエゴともめている。

「今日は私が九割持っていっていい?」
「何を言ってる、四人で平等に分配するだけだ」
「えー、私がほとんど活躍したのにー」

 あからさまに駄々をこねるクロエだが、あることを思いつく。

「そうだ、ディエゴ。あの下手な妹にはどれくらいお金あげてたの?」
「あんなのには少し――」

 ディエゴは質問の意味を悟ったのか、言いかけたものを飲みこんだ。これを聞いていたイアンとジェシカも凍りつく。

「あれ、平等分配じゃないの?」
「……」
「……」
「……」

 三人は完全に黙りこんでしまった。まさか、まったくあげない日もあっただなんて言えないだろう。

「何でみんな黙っちゃうの? どういうこと?」

 再び尋ねられても、三人は一切答えようとしない。

「分かった! 私には、自分たちの取り分が少なくなるからって平等分配させたのに、妹には少ししかあげなかったってこと? そうだよね?」
「…………うるせぇ」
「で、結局、どれくらい妹にあげてたの?」
「…………銅貨五枚ほど」
「すっくな!!」

 上級者パーティなので、平均で一日に金貨二、三枚ほどは稼げる。平等分配なら一人銀貨五~七枚の取り分になるが、単位が銀貨どころか銅貨なのだ。

「ギルドの決まりで、『上級者パーティは、最低でもメンバー一人に銀貨一枚は分配しなければならない』ってなってるよね。もう妹は冒険者をやめたらしいけど、管理人に告げ口してもいい?」

 脅しをかけるクロエに、震えあがりながら「やめてくれ」とディエゴは懇願する。

「それか、今日はいっぱい稼げたから、口止め料込みで私が九割持っていっていい?」

 今日は金貨四枚稼げたので、自分が九割持っていっても決まりを破ることはないと、もちろんクロエは分かって提案している。

「どうする?」

 アーチャー家の子どもということもあり、痛いところを突かれたというのもあり、ディエゴはしぶしぶ金貨三枚と銀貨六枚をクロエに渡したのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

異世界に無一文投下!?鑑定士ナギの至福拠点作り

花垣 雷
ファンタジー
「何もないなら、創ればいい。等価交換(ルール)は俺が書き換える!」 一文無しで異世界へ放り出された日本人・ナギ。 彼が持つ唯一の武器は、万物を解析し組み替える【鑑定】と【等価交換】のスキルだった。 ナギは行き倒れ寸前で出会った、最強の女騎士エリスと出会う。現代知識とチート能力を駆使して愛する家族と仲間たちのために「至福の居場所」を築き上げる、異世界拠点ファンタジーストーリー!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

処理中です...