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第一章 現役女子高生、異世界で超能力に目覚める

08:都の外へ! まさかの敵だらけ?

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 私はまた地図を手に、ケースを背負って、石畳の道を進んでいる。
 転生してから、私はまだ王都から出たことがなかった。王都は城壁で囲まれているらしく、通行証がないと向こう側には行けないのだ。

 商人であるベルから借りた通行証を持って、城壁の近くに着いた。

「ここが南門かな?」

 ゲートの上に『南』と書かれた看板があるので、ここで合っているだろう。
 通行証を取り出し、門番に見せる。

「どうぞ」

 感情のない声色で告げる門番。
 私は生まれて初めての世界に踏みこんだ。





 どうして王都の外に用があるのかというと、王都を出てすぐの農民の村に用があるからだ。そこの長に定期的に麻布を届けているらしい。
 服すら買えない貧しい人たちの集まりなので、布だけでもと無償であげている。
 ちなみに私はおとといから、自分が稼いだお金で綿生地の服を買って着ている。近々、ベルが織った より上質なものを着れそうなのだ。それはいいとして。

 城壁を越えるとすぐに農村が見えた。王都用の食料を生産してくれているところらしい。……王都の人間に恨みを持っている人もいるかもしれない。

「誰だ? あれは男か? 女か?」
「ワンピース着てるから女だろ。胸でかくねぇか?」
「俺らみてぇに髪短いぞ。面白い髪の色してんな」

 む、胸の話は聞かなかったことにして……私の髪の話をしてる? ピンクの髪は普通に意味わかんないけど、この髪型だよ。王都にいる女の人でこんなに髪が短い人いないもんね。
 まぁ、短い方がお手入れしやすいって気づいちゃったんだけど。

「こんにちは」

 自分のことを言っていた男三人組にあいさつしてみる。

「お、王都から来たやつが自分からあいさつしたぞ……」
「あいさつって基本じゃないんですか?」

 前世では吹奏楽部に入っていたのもあって、歯切れのいい大きな返事が必須だった。

「しかも敬語使ってきたぞ……」
「王都から来た人って、そんなに態度が大きいんですか?」
「知らねぇのか⁉︎ 俺ら農民は、王都のやつらに奴隷扱いされてんのによ」

 やばいっ! 反感買っちゃったかな……。とりあえずアンマジーケから来たってことは言っておかないと。

「ごめんなさい。私、前世はアンマジーケに住んでいて、転生してこの世界に来たばかりなんです。まだここの社会の仕組みとかよく分からなくて」
「おいおいっ、転生とか本当にあるのかよ!」

 いつも驚かれるけど、これからもこの話をするとみんな同じ反応するんだろうなぁ。

「それならしょうがねぇな。他の王都のやつより優しそうだしな」

 警戒していた三人組の顔が和らいだところで、私は尋ねてみる。

「それで……お仕事中申し訳ないんですけど、ここの長のお家を教えてくださいますか?」
「ああ、分かった」

 よしよし、いい調子!
 三人組のうちの一人が、私に付き添ってくれることになり、無事に大量の麻布を村長に届けられた。

「ありがとう。そなたがベルのところで暮らしているグローリアかな?」
「はい。はじめまして」

 白いひげを長く伸ばした、いかにも長らしい見た目の人だった。私は村長と両手で握手をする。

「ベルから聞いているかもしれませんが、私はアンマジーケ出身なので、この世界のことがよく分からなくて。身分制度とか、詳しく教えてくださいますか?」
「ああ、承知した」

 農民に聞くのはタブーかもしれないけど、村長なら教えてくれるよね。よかった!

「まず、この国はアールテム王国の国王陛下が治められておる。陛下がもちろん一番お偉い。次に王室や王室とつながりを持つ貴族がおり、その次に王都に住む都の民じゃな。そなたのことだ」

 私って貴族の次に偉いってこと? ……偉いとかよく分かんないけど。

「そこまでが自由な暮らしが保証されている身分だ。ワシらはその下の農民、そして戦争に負けて捕虜になった奴隷と続く」
「そうは言ってもよ、俺らもほぼ奴隷じゃねぇか?」

 ここに連れてきてくれた男がグチをこぼす。
 前世で習った世界史をふと思い出した。

「あの、農民と奴隷の違いって、人か人じゃないかってことですかね……?」
「……そういうことじゃな」

 村長は重く、うんとうなずく。
 自分の知らないところで、この農民たちは肉体的にも精神的にも大変な思いをしてるんだろうな……。

「しかも今年はなかなか暖かくならねぇから、作物の成長が遅くて困ってるんだよ」

 村長に聞いたとはいえ、村長も苦い顔をするなんて。やっぱり失礼だったかな。

「えっと……私、ストリートミュージシャンっていう、屋外で演奏してお金をもらうっていうのをやっていて……せっかくなんで、この村のみなさんに私の演奏を聴いてもらいたくて」
「どうせ金取るんだろ?」

 男が、さっき会った時の疑り深い表情に戻って、吐き捨てるように言う。

「いつもは演奏がいいと思ったら、好きな金額を入れてもらってますけど、今日はお代いりませんよ」

 私は慌てて否定する。
 当たり前だって! こっちからわざわざお金をぶん取ることはしないって!

「『みんなに』と言われても、ケガをしている人や病気の人には聴いてもらえないのう……」
「あ、集まれる人だけでいいですよ!」
「農民が音楽に触れられるなんて、こんな機会はないのじゃが……」

 どうしよう。そんなにみんなに聴いてほしいって頼まれちゃあ、こっちも考えないと。

「それなら、演奏しながら村の中を歩きましょうか? そうしたら家から出られない人も聴けますよね?」
「おおっ、いい考えじゃな!」

 前世も王都でもこれをやったら間違いなく迷惑だけど、ここならいいのかな? 病気だと寝てる人もいるんじゃ?
 まぁ、いっか。





 私はサックスを組み立てながら、ふと村長が言っていたことを思い出す。
 ケガや病気の人……。もしかしたらこの前の常連さんやリリーを治した時のように、その人たちも治せたりして!

 村長の家に案内してくれた、あの男の人の顔が浮かぶ。あの様子だと、私たち都の民に対しての先入観が激しいようだ。あいさつはしないし、身分が違うからって初対面でもタメ口で、大きな態度を取るって言ってたし。

 そりゃあ、ああいう反応するに決まってるか。

「よし」

 楽器を左手で支えながら立ち上がり、目を閉じて五感を集中させる。同情の念から生まれたエネルギーが、今にも体からあふれんとしていた。

「道案内、よろしくお願いします」
「こちらこそ! 演奏楽しませていただきます」

 案内役の女の人が手を挙げた。演奏開始の合図である。
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