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第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる

19:ついに来た! 隣国の国王と直接対決!

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 ハルドンが窓から落とした手帳の切れ端は、挙兵の合図だったのだ。

「ちょっと、グローリア! 大変だよ!」
「ハルドン国王がこの国を支配するとか言い出したわよ!」

 団長と副団長を先頭に、王城から団員たちが全速力で飛び出してきた。

「グローリアの演奏で、一旦は落ち着いてくれたんだけど、トゥムルからうちに逃げてきた人がいたらしくて、それでまたハルドン国王がお怒りに……」

 上がった息でそう伝える副団長。
 団長は城門を指さして叫ぶ。

「みんな、ここは危ないかもしれないから、早く外へ!」
「そうなることも考えて、騎士団に伝えておきました。外に騎士団がいるはずです」

 私は、騎士団長にお願いしたあのことを知らせた。

「じゃあ僕が伝えにいきます!」

 私の言葉を聞いて真っ先に名乗り出たのは、さっき「出番だ」と伝えてくれた、楽団最年少の人である。
 しかし。

「うわぁぁぁぁっ!?」

 ダッシュし始めて約二十秒後、その人の悲鳴が響いてきたのだ。
 反射で城門の方を振り返り、必死の形相で逃げ帰るスプリンター。

「やばいですやばいです! 包囲されてます! トゥムル軍に!」
「「「ええっ!?」」」
(うそ……どうしよう!?)

 このままじゃ今日のこれを提案した私は……じゃなくて、普通に痛い思いして死ぬかもしれない……!
 私がなんとかしなくちゃ!

「みんなは王城の地下から逃げてください! 私が演奏しておとりになります!」
「ダメだ、グローリア!」
「いいから早く逃げて!」

 最後の手段――とりあえずトゥムル軍を蹴散らす。
 私は王城を背に立ち、何度も後ろを振り返って楽団のみんなが逃げたことを確認した、その時。

「そこにいるのは『サクソフォン』とやらの楽器を演奏していた女か。フハハハハハハハ! 他の団員に見捨てられたか!」

 会談をしていたあの部屋から、ハルドンがこちらを見下ろしていたのだ。

「お前は逃げなくていいのか? ここはもう私の手中にある!」
「団員は『私が』逃がしました。いや……」

 私は鋭い目つきで振り返ってハルドンを凝視した。

「アールテムを乗っ取ろうとしている奴に、私の相棒をばかにした奴に敬語なんて使う必要はない! ハルドン、あなたにその報いを受けてもらう!」

 私の言葉で、王城を包囲している軍までも凍りついたのが分かる。ほぼ敵なしで逆らえないハルドンに、初めてタメ口を使ったからである。

「ただの音楽家が何ができる。不敬罪であの女を捕らえろ!」

 懐から取り出した指揮棒らしきもので、ビシッと私をさしたその瞬間、王城の囲いを突き破ってトゥムル軍が雪崩のように侵攻してきた。

 目を閉じて聴覚に意識を集中させ、同時にハルドンへ湧き上がる怒りの『想い』をためていく。
 おもむろにサックスを構えた。

「……音波砲」

 私はハルドンに抱いた怒りの『想い』を凝縮し、一瞬で『音』として解き放った。

 ピィッ!

 リコーダーを吹いた時に穴がふさげてないと鳴る、あのような音が聞こえたのもつかの間。

 ――見えない壁によって、トゥムル軍が一斉に数十メートルほど飛ばされた。

「五十メートル走のゴール付近にいる、タイムを計る先生との距離くらい吹っ飛んじゃった」
「何が起こった!?」

 王城から見下ろすハルドンがぼう然としている。
 前の方にいた兵士は直接音波砲にやられ、後ろの方にいた兵士は音波砲に加えて、兵士の山の下敷きになってしまった。

「えぇいっ、何のびている! 私を侮辱したあの女を早く捕まえろ!」

 指揮棒はまたも私を指し示すが……誰一人動かなかった。
 王城を包囲していたトゥムル軍は、ただのしかばねと化していた。

「ハルドン! 今度はあなたの番だからね! 降りてこないとそもそも、愛しい自分の国に帰れないけど?」
「この私も倒そうとしているのか。いいだろう、上等だ」

 あれ、指図されたから怒るかなーって思ったけど、意外と乗り気?

 ハルドンはおとなしく、ボディーガードとともに王城の外に姿を現す。ボディーガードはジリジリと私につめより、サーベルの切っ先を向けてきた。

「ハルドン、さっき私は『愛しい自分の国に帰れない』って言ったけど、今トゥムル王国は国王がいないってことだよね?」
「そうだ」
「その絶対的な権力をふるって国を治めてるのに、今、国にいないってことは?」

 己を過信しすぎているハルドンに目覚めてもらおうね!

「戦争で無理やり奴隷にしたり祖国を滅ぼされた人が、黙っていないはずだけど?」

 ボディーガードの目つきはより鋭く、サーベルの切っ先は目前に迫っている。

「ケッ、他人に言われるまでもあるまい。私がそれはそれは信頼をおいている家臣に任せている」
「あなたが信頼していても、その家臣から信頼はされてるのかなぁ?」
「おのれっ……!」

 ハルドンの怒り声に呼応してかすかに動いたサーベルを、サッとよける。
 怒るってことは、もしかして自信ない?

「さっき私たちが演奏した時、このサクソフォンを『野蛮なおもちゃかと思った』ってばかにしたよね? 音楽を誇りに思って仕事してる人に一番言っちゃいけない! しかも、私を平民から貴族にしてくれたこの国を……」

 私は自ら、向けられているサーベルに歩みを進める。
 楽器を持っていることもあり、手が出ないボディーガード。

「このアームテムを支配して『あげよう』だなんて、絶対許さない!」

 そう叫んだとたん、私の目に火がついた。心の中で怒りの『想い』がうず巻き、私の中に眠る魔力にエネルギーを注いでいく。

「あの女に……な、何が起きている!?」

 ただならぬ気迫とあふれ出る魔力とにらみつける目に圧倒され、一歩一歩とハルドンは退いていく。

「炎と竜巻のイリュージョン……くらえっ!」

 思いっきり息を吸ってお腹に息をためる。怒りの『想い』を音に乗せてサックスに息を吹きこんだ。
 サックスの荒々しい音が、巨大な竜巻を召喚した。

 ゴォォォォォォォォォォッ!!

 あの大公爵を吹き飛ばした時とはケタ違いの竜巻が、火の粉をまとってハルドンとボディーガードに襲いかかる。

「なんだっ!?」

 捨て台詞を吐く暇もなく、態度も見た目もデカいハルドンは軽々と飛ばされていく。ボディーガードもあっけなく竜巻に飲まれる。

 遠くの方でなんか断末魔の叫びが聞こえるけど、まぁいいや。

 私は途切れとぎれの息で、楽器から口を離した。
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