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第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる
30:前世からの念願の夢、音楽隊の誕生!
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今、私は三十数人を目の前にして話そうとしている。ちなみに演説ではない。とある貴族の邸宅を貸してもらって、この人数を入れている。
「お集まりいただき、ありがとうございます。本日をアールテム音楽隊の結成の日とし、活動をスタートします」
宣誓するように声高らかに言うと、拍手とともに「よっ、待ってました!」と祝福の声が上がった。
「この会場を貸してくださったケイトさん、ありがとうございます」
ケイトとは、サックスパートの初練習の日に、率先して話しかけて場を明るくしてくれた、あのバリトンサックスの女性である。
「まずご覧のとおり、ここには農民や平民の方もいらっしゃいますが、私は『新しい音楽』を作りたくてこの音楽隊を創立しました」
農民出身の二人がビクビクしているのが、こちらからでも分かる。
「ほとんどの弦楽器を抜いた『吹奏楽』という新しい編成で演奏することもそうですし、何より『音楽は身分関係なく楽しめるものだ』というのを、私たちで証明したいんです」
平民やケイトがうんうんとうなずいてくれた。
「それは私が宰相で政治的に絡めたいからとかではなく、私が平民の時からそう思っていましたので、誤解なさらず」
「私たちに音楽を教えてくれたのは、平民の時のグローリアさんだからね」
農民でクラリネットを吹く予定の女性が証言してくれる。
「まぁ、私の理念はあくまで表向きなので。みなさんで吹奏楽を楽しみましょう!」
まるでいい演奏をし終わった後のような全力の拍手が、吹き抜けのこの部屋全体に響き渡った。
一方その頃、管弦楽団の方は弦楽器奏者しか集まっていなかった。管楽器と打楽器奏者がまとめて練習に遅れる理由は、あれしかない。
「グローリアが音楽隊を作ったらしいけれど、もう僕たちとは演奏しないのかな?」
「それはないんじゃない。両国国王会談の時みたいに宮廷音楽家が演奏することもあるでしょうよ」
「グローリアが宰相だから、自分の方の音楽隊に頼むんじゃ?」
「あくまでも宰相よ。しっかり使い分けはできる人間だと思うわ」
そこで悪いように言われないのがグローリアだ。
使い分けができる、というのは本当である。なぜなら、前世でオーケストラと吹奏楽が両立できることを分かっているからだ。両方とも現役でやっている人は少なくない。
どちらも疎かにすることなく、どちらもバランスよくやっていく。グローリアはしっかり分かっていた。
「問題はグローリアじゃなくて、他の人たちだね」
そう言って、個人練習を始めてしまった。
一通り、音楽隊のあれこれを説明し終わった。
「よし、じゃあリリー。準備してきて」
「はーい」
「みなさん、少々お待ちください」
私はリリーを追いかけるように部屋を出ていく。すでに組み立てて床に置いていたサックスを持って、リリーと再び部屋に入る。
「みなさんに、サックスのデュエットを披露したいと思います」
「「「おぉっ」」」
「私のサックスのソロはお聴きになったことも多いと思いますが、二重奏は初めてですよね」
今世の中では一番弟子のリリーとともに。一つの目標でもあったことを、今ここで達成しようとしている。
「私の代表曲と言ってもいい『まどろみのむこうに』を、二重奏バージョンで演奏します」
緊張して足が震えているリリー。その肩を包みこむと「大丈夫だから」とうなずいてみせる。
目配せをしてリリーに合図を出した。
今までメロディしかなかったこの曲に、伴奏やハモリが繊細に加えられた。
高い天井のてっぺんまで届くよう、私は音を届ける。
リリーの音は震えているものの、演奏していくうちに震えなくなっていた。
「あの子すごい……」
「さすが師匠がグローリアだけあるな」
互いが呼吸や目線で感じ合い、ハーモニーが一番きれいに響くところに合わせていく。まだリリーはサックスを始めて二ヶ月半くらいだが、中学生顔負けの演奏といってもいいだろう。
あっ、親バカでもシスコンでもないからね? これはマジで言ってる。
最後のハーモニーまで気を使って、二人ぴったりに音を切った。
「ブラボー!」
「二人で吹くとよりきれいな曲ね」
「リリーちゃんすごい!」
私たちがおじぎをすると、割れんばかりの拍手が広がった。その中に感想がいくつか混ざって耳に届く。
ふとリリーの顔をのぞきこむ。ホッとしたのか、さっきまでガチガチに緊張していた顔は、いつもの笑顔に戻っていた。
「すっごい緊張してたでしょ?」
「うん、足がずっとガクガクってしてた」
「みんな、始めての時はそうなるって」
私はみんなの方に向き直る。
「今の演奏がリリーの初めての発表でした! みなさん、大きな拍手を!」
私はサックスを持たない右手でリリーを指し示すと、あたたかい拍手が送られた。
貴族の子供なら、小さいころから音楽教育として楽器をやらせたり、オーケストラの演奏を聴かせたりしている。初めての発表でも「こんな感じなんだ」と感覚で分かっているらしい。
しかし元平民のリリーは、楽器経験はこのサックスが初めて。オーケストラの演奏も二回ほどしか見せられていない。
そう考えたら、リリーよく頑張ったよ。まだ七歳だもんね。前世だとランドセル背負ったばっかの歳だし。
私はこの『アールテム音楽隊 初顔合わせ』が終わって楽器を片づけてすぐ、リリーをぎゅっと抱きしめた。
「音楽隊はどうだ」
午後、『王の広間』で行政について話し合った後、国王と余談として音楽隊の話になった。
「まだ個人や同じ楽器どうしで練習しています」
「そうか、そなたが言っていた『騎士団への鼓舞ができる』とはどういうことなんだ?」
あれ、まだ話してなかったっけ? まっ、いっか。
「音楽って、人の心に大きく影響を与えるんです。癒やしたり元気にしてくれたり、わくわくしてやる気が出てきたり。それをするのに音楽隊はぴったりなんです」
「確かに、私もそう感じたことはある」
「前世で吹奏楽は、そういう理由でスポーツ競技の応援としても使われていました」
「ほう。楽器だけでなく、役割も違うのだな」
吹奏楽が好きすぎてついベラベラとしゃべりそうになるが、自制をしておく。
……伝わったかな?
「私も一度、吹奏楽というものを聴いてみたい。オーケストラとどのように違うのか、この耳と心で感じたいのだ。発表ができるようになるまで、楽しみにしておるぞ」
国王にまたも別の方向から期待をされてしまった。でも、音楽で期待されるのは全然いいもんね! 頑張らないと!
今日私は、宰相 兼 宮廷音楽家 兼 アールテム音楽隊隊長 兼 サックスパートパートリーダー 兼 プレノート家当主のアルトサックス奏者となったのだ。
ええっと…………いくらなんでも肩書き多すぎない? 私、この世界に来てまだ半年とちょっとくらいしか経ってないのに⁉︎
「お集まりいただき、ありがとうございます。本日をアールテム音楽隊の結成の日とし、活動をスタートします」
宣誓するように声高らかに言うと、拍手とともに「よっ、待ってました!」と祝福の声が上がった。
「この会場を貸してくださったケイトさん、ありがとうございます」
ケイトとは、サックスパートの初練習の日に、率先して話しかけて場を明るくしてくれた、あのバリトンサックスの女性である。
「まずご覧のとおり、ここには農民や平民の方もいらっしゃいますが、私は『新しい音楽』を作りたくてこの音楽隊を創立しました」
農民出身の二人がビクビクしているのが、こちらからでも分かる。
「ほとんどの弦楽器を抜いた『吹奏楽』という新しい編成で演奏することもそうですし、何より『音楽は身分関係なく楽しめるものだ』というのを、私たちで証明したいんです」
平民やケイトがうんうんとうなずいてくれた。
「それは私が宰相で政治的に絡めたいからとかではなく、私が平民の時からそう思っていましたので、誤解なさらず」
「私たちに音楽を教えてくれたのは、平民の時のグローリアさんだからね」
農民でクラリネットを吹く予定の女性が証言してくれる。
「まぁ、私の理念はあくまで表向きなので。みなさんで吹奏楽を楽しみましょう!」
まるでいい演奏をし終わった後のような全力の拍手が、吹き抜けのこの部屋全体に響き渡った。
一方その頃、管弦楽団の方は弦楽器奏者しか集まっていなかった。管楽器と打楽器奏者がまとめて練習に遅れる理由は、あれしかない。
「グローリアが音楽隊を作ったらしいけれど、もう僕たちとは演奏しないのかな?」
「それはないんじゃない。両国国王会談の時みたいに宮廷音楽家が演奏することもあるでしょうよ」
「グローリアが宰相だから、自分の方の音楽隊に頼むんじゃ?」
「あくまでも宰相よ。しっかり使い分けはできる人間だと思うわ」
そこで悪いように言われないのがグローリアだ。
使い分けができる、というのは本当である。なぜなら、前世でオーケストラと吹奏楽が両立できることを分かっているからだ。両方とも現役でやっている人は少なくない。
どちらも疎かにすることなく、どちらもバランスよくやっていく。グローリアはしっかり分かっていた。
「問題はグローリアじゃなくて、他の人たちだね」
そう言って、個人練習を始めてしまった。
一通り、音楽隊のあれこれを説明し終わった。
「よし、じゃあリリー。準備してきて」
「はーい」
「みなさん、少々お待ちください」
私はリリーを追いかけるように部屋を出ていく。すでに組み立てて床に置いていたサックスを持って、リリーと再び部屋に入る。
「みなさんに、サックスのデュエットを披露したいと思います」
「「「おぉっ」」」
「私のサックスのソロはお聴きになったことも多いと思いますが、二重奏は初めてですよね」
今世の中では一番弟子のリリーとともに。一つの目標でもあったことを、今ここで達成しようとしている。
「私の代表曲と言ってもいい『まどろみのむこうに』を、二重奏バージョンで演奏します」
緊張して足が震えているリリー。その肩を包みこむと「大丈夫だから」とうなずいてみせる。
目配せをしてリリーに合図を出した。
今までメロディしかなかったこの曲に、伴奏やハモリが繊細に加えられた。
高い天井のてっぺんまで届くよう、私は音を届ける。
リリーの音は震えているものの、演奏していくうちに震えなくなっていた。
「あの子すごい……」
「さすが師匠がグローリアだけあるな」
互いが呼吸や目線で感じ合い、ハーモニーが一番きれいに響くところに合わせていく。まだリリーはサックスを始めて二ヶ月半くらいだが、中学生顔負けの演奏といってもいいだろう。
あっ、親バカでもシスコンでもないからね? これはマジで言ってる。
最後のハーモニーまで気を使って、二人ぴったりに音を切った。
「ブラボー!」
「二人で吹くとよりきれいな曲ね」
「リリーちゃんすごい!」
私たちがおじぎをすると、割れんばかりの拍手が広がった。その中に感想がいくつか混ざって耳に届く。
ふとリリーの顔をのぞきこむ。ホッとしたのか、さっきまでガチガチに緊張していた顔は、いつもの笑顔に戻っていた。
「すっごい緊張してたでしょ?」
「うん、足がずっとガクガクってしてた」
「みんな、始めての時はそうなるって」
私はみんなの方に向き直る。
「今の演奏がリリーの初めての発表でした! みなさん、大きな拍手を!」
私はサックスを持たない右手でリリーを指し示すと、あたたかい拍手が送られた。
貴族の子供なら、小さいころから音楽教育として楽器をやらせたり、オーケストラの演奏を聴かせたりしている。初めての発表でも「こんな感じなんだ」と感覚で分かっているらしい。
しかし元平民のリリーは、楽器経験はこのサックスが初めて。オーケストラの演奏も二回ほどしか見せられていない。
そう考えたら、リリーよく頑張ったよ。まだ七歳だもんね。前世だとランドセル背負ったばっかの歳だし。
私はこの『アールテム音楽隊 初顔合わせ』が終わって楽器を片づけてすぐ、リリーをぎゅっと抱きしめた。
「音楽隊はどうだ」
午後、『王の広間』で行政について話し合った後、国王と余談として音楽隊の話になった。
「まだ個人や同じ楽器どうしで練習しています」
「そうか、そなたが言っていた『騎士団への鼓舞ができる』とはどういうことなんだ?」
あれ、まだ話してなかったっけ? まっ、いっか。
「音楽って、人の心に大きく影響を与えるんです。癒やしたり元気にしてくれたり、わくわくしてやる気が出てきたり。それをするのに音楽隊はぴったりなんです」
「確かに、私もそう感じたことはある」
「前世で吹奏楽は、そういう理由でスポーツ競技の応援としても使われていました」
「ほう。楽器だけでなく、役割も違うのだな」
吹奏楽が好きすぎてついベラベラとしゃべりそうになるが、自制をしておく。
……伝わったかな?
「私も一度、吹奏楽というものを聴いてみたい。オーケストラとどのように違うのか、この耳と心で感じたいのだ。発表ができるようになるまで、楽しみにしておるぞ」
国王にまたも別の方向から期待をされてしまった。でも、音楽で期待されるのは全然いいもんね! 頑張らないと!
今日私は、宰相 兼 宮廷音楽家 兼 アールテム音楽隊隊長 兼 サックスパートパートリーダー 兼 プレノート家当主のアルトサックス奏者となったのだ。
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