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第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す
35:鬼(グローリア)の居ぬ間に洗濯中?
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次の日、事態は大きく動いた。
「グローリア様がお使いになった食器から、ガヌメソウの成分が検出されました」
ガヌメソウとは、きれいな小さな紫色の花を咲かせる植物。しかし、その茎や根をすり潰したり絞ったりしたものには、毒が含まれているのだ。
それにかなり毒性が強く、毒が回るのも早い。
私はそれを騎士から聞いて青ざめた。もはや生きていることが奇跡で、お医者さんの処置が早かったおかげだと。
「疑いたくはないけど、食器を用意したのは王城の使用人だよね……。いったい誰が……」
誰かが私に恨みを持って、殺そうとしたんだもん。恐ろしすぎる。
「今後も精査をよろしくお願いいたします」
「かしこまりました」
解毒剤のポーションを投与されても、毒で体がだいぶむしばまれてしまった。プレノート邸を一周しようとしてもすぐに息切れしてしまう。
「しばらくはここで仕事をしなくちゃならなそうだなぁ。楽器も吹けないし、最悪」
私は壁につけるようにして置いてあるサックスのケースに目をやり、ため息をつくのだった。
「お姉ちゃん、国王陛下からお見舞いのお手紙だって」
いつもならこのような手紙は使用人が持ってきてくれるのだが、今日はリリーが持ってきてくれた。
「ありがと」
ペーパーナイフで時間をかけて封筒を開ける。中には手書きの文字が走る便箋が二枚入っていた。
リリーはそこのイスにちょこんと座り、手紙の感想を聞きたがっているようだ。
早速読んでみる。が、頭がクラクラしてきそうな内容だった。
もはやこれはラブレターなのではないかと。
「陛下って、面白い文章をお書きになるんだね」
どんな内容なのか要約すると、『早くよくなって、愛おしいサックスの音色を聴きたい』とか、『自分だけで政治をするのはとても不安でしょうがない。あなたのような優秀な人がいないのではなおさらだ』とか、しまいには『あなたと過ごす時間が減ってつまらない』と書かれてしまった。
最後のこれとか、完全にラブレターだよね? その気持ちがマジだったとしても、かなりの歳の差だけど⁉︎
「お姉ちゃん、何て書いてあったの?」
「私と早くお仕事をしたいんだって。だから早くよくなってね、だって」
国王が自ら筆をとって書いてるわけでしょ? けっこうすごいことだよね? 誰かに書かせたわけでもなく。
返信を書かなきゃだけど、手がしびれるからゆっくり書かないとだね。
「よし、じゃあサックスの練習を始めようか。ケース持ってきてー」
「はーい!」
ベッドにいながらできることといえば、これくらいしかない。
私はほぼ自分の部屋から出られなくても、音楽家であることの誇りや、音楽から離れないことを肝に銘じていた。
手がしびれるため、悪筆になりますことをお許し願います。
お手紙ありがとうございました。ご心配をおかけしております。
おかげさまで大事には至りませんでした。ですが後遺症で体力がなくなってしまい、歩くだけですぐに息が上がってしまいます。それにより、楽器もまだ吹けないでしょう。
気持ちとしてはすぐに復帰して、陛下と政をして、サックスを吹きたくてたまらないのですが、体が全然ついてこない状況です。
かなりもどかしいです。
ですが、リリアンへのサックスの指導は続けております。手本は見せられませんが、今の私にできることはそれくらいしかありません。
なるべく早く治るよう、私自身が祈るしかないです。またお会いできる日を楽しみにしております。
しかし、私はゆっくりと体を休めている場合ではなかった。
「グローリア様、速達でこれが」
ジェンナが急いだ様子で私の部屋に入ってくる。
「また陛下から?」
「どうやら秘密書類らしく……」
小声でそう告げるジェンナ。
中身はやはり国王直筆の文書だったが、この前より字体が崩れている。それだけ急いで書いたのだろう。
「どれどれ……」
は……はぁ? どういうこと?
「いかがなさいましたか」
「やばい、かなりやばい」
真っ青になった私の顔を見て、ジェンナはただ事でないことを察したようだった。
「と、トリスタン……!」
私が握れる全力のこぶしで、掛け布団を思い切り殴る。
なんと、謹慎期間中の上に王城から追放されたトリスタンが、なぜか王城にズカズカ入って国王にゴマすりをしているらしい。
目的はもちろん、以前の自分の権力を取り戻すためである。
「どんな手を使ってもダメだ」と国王はトリスタンを追い返そうとしているものの、粘りに粘ってなかなかうまくいかないという。
治ったはずの頭痛がぶり返してきそうな内容だった。
「私がいないからって、チャンスだと思ったんでしょ? ……早く治って王城に戻らないと!」
私は震える手を震える手で押さえこむ。
このままではまたトリスタンが、自己中な政治で国を混乱させるだろう。国王すら口出しできず、お飾り状態に逆戻りだ。
私自身はこんなに元気なのに。
「グローリア様、それならリハビリテーションはどうでしょう? お医者様がちらっと仰っていたのを思い出して」
「あっ、リハビリ! そっか、それやろう!」
あまりケガとかしたことなかったから。そうだね、それをすれば早く復帰できるかもね。
「よし、じゃあ頑張るか! 提案ありがとうございました」
私はしびれる不快感に歯をくいしばり、立ち上がる。壁つたいに部屋を出て、廊下を往復する練習から始めた。
「グローリア様がお使いになった食器から、ガヌメソウの成分が検出されました」
ガヌメソウとは、きれいな小さな紫色の花を咲かせる植物。しかし、その茎や根をすり潰したり絞ったりしたものには、毒が含まれているのだ。
それにかなり毒性が強く、毒が回るのも早い。
私はそれを騎士から聞いて青ざめた。もはや生きていることが奇跡で、お医者さんの処置が早かったおかげだと。
「疑いたくはないけど、食器を用意したのは王城の使用人だよね……。いったい誰が……」
誰かが私に恨みを持って、殺そうとしたんだもん。恐ろしすぎる。
「今後も精査をよろしくお願いいたします」
「かしこまりました」
解毒剤のポーションを投与されても、毒で体がだいぶむしばまれてしまった。プレノート邸を一周しようとしてもすぐに息切れしてしまう。
「しばらくはここで仕事をしなくちゃならなそうだなぁ。楽器も吹けないし、最悪」
私は壁につけるようにして置いてあるサックスのケースに目をやり、ため息をつくのだった。
「お姉ちゃん、国王陛下からお見舞いのお手紙だって」
いつもならこのような手紙は使用人が持ってきてくれるのだが、今日はリリーが持ってきてくれた。
「ありがと」
ペーパーナイフで時間をかけて封筒を開ける。中には手書きの文字が走る便箋が二枚入っていた。
リリーはそこのイスにちょこんと座り、手紙の感想を聞きたがっているようだ。
早速読んでみる。が、頭がクラクラしてきそうな内容だった。
もはやこれはラブレターなのではないかと。
「陛下って、面白い文章をお書きになるんだね」
どんな内容なのか要約すると、『早くよくなって、愛おしいサックスの音色を聴きたい』とか、『自分だけで政治をするのはとても不安でしょうがない。あなたのような優秀な人がいないのではなおさらだ』とか、しまいには『あなたと過ごす時間が減ってつまらない』と書かれてしまった。
最後のこれとか、完全にラブレターだよね? その気持ちがマジだったとしても、かなりの歳の差だけど⁉︎
「お姉ちゃん、何て書いてあったの?」
「私と早くお仕事をしたいんだって。だから早くよくなってね、だって」
国王が自ら筆をとって書いてるわけでしょ? けっこうすごいことだよね? 誰かに書かせたわけでもなく。
返信を書かなきゃだけど、手がしびれるからゆっくり書かないとだね。
「よし、じゃあサックスの練習を始めようか。ケース持ってきてー」
「はーい!」
ベッドにいながらできることといえば、これくらいしかない。
私はほぼ自分の部屋から出られなくても、音楽家であることの誇りや、音楽から離れないことを肝に銘じていた。
手がしびれるため、悪筆になりますことをお許し願います。
お手紙ありがとうございました。ご心配をおかけしております。
おかげさまで大事には至りませんでした。ですが後遺症で体力がなくなってしまい、歩くだけですぐに息が上がってしまいます。それにより、楽器もまだ吹けないでしょう。
気持ちとしてはすぐに復帰して、陛下と政をして、サックスを吹きたくてたまらないのですが、体が全然ついてこない状況です。
かなりもどかしいです。
ですが、リリアンへのサックスの指導は続けております。手本は見せられませんが、今の私にできることはそれくらいしかありません。
なるべく早く治るよう、私自身が祈るしかないです。またお会いできる日を楽しみにしております。
しかし、私はゆっくりと体を休めている場合ではなかった。
「グローリア様、速達でこれが」
ジェンナが急いだ様子で私の部屋に入ってくる。
「また陛下から?」
「どうやら秘密書類らしく……」
小声でそう告げるジェンナ。
中身はやはり国王直筆の文書だったが、この前より字体が崩れている。それだけ急いで書いたのだろう。
「どれどれ……」
は……はぁ? どういうこと?
「いかがなさいましたか」
「やばい、かなりやばい」
真っ青になった私の顔を見て、ジェンナはただ事でないことを察したようだった。
「と、トリスタン……!」
私が握れる全力のこぶしで、掛け布団を思い切り殴る。
なんと、謹慎期間中の上に王城から追放されたトリスタンが、なぜか王城にズカズカ入って国王にゴマすりをしているらしい。
目的はもちろん、以前の自分の権力を取り戻すためである。
「どんな手を使ってもダメだ」と国王はトリスタンを追い返そうとしているものの、粘りに粘ってなかなかうまくいかないという。
治ったはずの頭痛がぶり返してきそうな内容だった。
「私がいないからって、チャンスだと思ったんでしょ? ……早く治って王城に戻らないと!」
私は震える手を震える手で押さえこむ。
このままではまたトリスタンが、自己中な政治で国を混乱させるだろう。国王すら口出しできず、お飾り状態に逆戻りだ。
私自身はこんなに元気なのに。
「グローリア様、それならリハビリテーションはどうでしょう? お医者様がちらっと仰っていたのを思い出して」
「あっ、リハビリ! そっか、それやろう!」
あまりケガとかしたことなかったから。そうだね、それをすれば早く復帰できるかもね。
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