38 / 46
第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す

38:アイツに占領されている王城に乗りこもう!

しおりを挟む
 私は騎士団領の窓から王城を見つめていた。久しぶりにグレーのスーツを着て。

「グローリア様、本当に王城に向かうんですね」
「今日から完全復活なので」

 実に一ヶ月ぶりだった。しかし、この一ヶ月で状況は大きく変わってしまった。
 宰相としての仕事をしに行こうとしても、王城にすら入れない。宮廷音楽家は王城ではなく、誰かの邸宅に集まって練習するしかない。

「お体は本当に大丈夫なんですか?」
「万全じゃなきゃここには来てませんね」

 私は騎士たちにボディーガードとなってもらい、王城に乗りこもうとしている。

「よし、行きましょう」

 たくさんの騎士に囲まれながら、私は王城に向かった。





 周りを警戒しながら、首にかかる八分音符の形をしたペンダントを、左手で握りしめている。
 王城まであと少しというところで気配を感じた。

「…………来るっ!」

 私が叫ぶのと同時に、異国のような服を着た人たちが私たちに飛びかかってきたのだ。
 スっと後ろに飛ぶと、さっきいたところにはナイフが突き立てられていた。

「誰!?」
「トリスタン様の家来だ。お前は宰相のグローリアだな」

 一対大勢。隙をついて騎士三人が、家来と名乗る人を捕まえようとするが――

「鈍いな」

 次の瞬間、三人は血を流してバタンと倒れてしまった。
 はっ、速い!

「私を殺しに来たんですよね?」
「そうだ。トリスタン様のご命令だ」

 なるほど。やっぱり私が邪魔なのね。
 私は握りしめているペンダントに、怒りの『想い』を注ぎこんでいく。
 このペンダント、実はサックスが取り出せない時のお守りである。

「私がサックスでトリスタンを吹っ飛ばしたのは、ご存知ではあると思いますけど。だから今のこの状態の私を狙ったんですね?」

 王城で楽器を吹く予定はないので、今日はサックスを持ってきていない。そもそも演奏もしないのに、サックスをぶら下げていることの方が不自然だからだ。

「サックスがないからって、安心しました? 残念」
「なにっ!」

 毒に侵され、なぜかパワーアップした動体視力と反射神経で、私は自称家臣の突きをよける。

「よく分かんないけど、音を発するものがあれば魔法使えちゃうんですよね」

 私は自称家臣の反応には答えず、さらに後ろに飛んで自称家臣と距離をとり、口角を上げた。

「例えば、自分の声」

 ペンダントを胸に押し当て、ためた『想い』を解き放った。

「せっかく復活したのに殺されるなんて、ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 自称家臣はどこかに逃げようとするが、それは絶対にできない。足元にピンポイントで急に竜巻が発生したからだ。

「な、なんだと!?」

 王城の目の前でできた竜巻は、すぐに自称家臣を飲みこんでどこかに飛ばされていく。
 サックスがなくとも、私は魔法を使うことに成功したのだ。

 自称家臣が見えなくなるまで天を仰ぐと、倒れている三人に駆けよる。

「大丈夫ですか!」

 よかった、意識はある。傷口は……あぁ、ここだから……。

 心の中に増えていく同情の『想い』をペンダントにためる。
 この前は助けてもらったから、今度は私が助ける番。

 私は再びペンダントを胸に押し当て、その上にもう片方の手も乗せる。私が歌うヴォルムス教の賛美歌にのせて、ペンダントから『想い』という名の魔力を、この三人に流しこんでいく。

 切りつけられた深い傷が光を帯び、みるみるうちに痕も残らずきれいに塞がった。

「すげぇ……ありがとうございました!」「「ありがとうございます!」」
「いえいえ~」

 うん、ちゃんと攻撃の方も治癒の方も使えるようになってる!
 体調が悪いと魔力が極端に減ってしまい、ほぼ使い物にならないのだ。

「それでは王城に乗りこみましょう」

 私はまた騎士たちを従えて歩き出す。
 門番をしていた人にまた襲いかかられるが、またも私の竜巻でどこかに吹っ飛んでいく。

 ついに王城の建物内に入ることができた。
 そこの警備たちは明らかに焦っており、私を見てたじろいでいる。

「あの二重警備を突破するとは……!」
「襲われたので吹っ飛ばしただけですよ。そちらがかかってこなければ、私たちから攻撃はしません」
「本当だな?」
「ええ」

 完全にビビっている警備たちに私は尋ねる。

「トリスタン・ヴェルナはどこにいらっしゃいますか」
「……『王の広間』だ」

 以外にもあっさりと、警備は自分の頭の居場所を教えてしまった。
 まぁ、私の口を使って強制的に吐かせるつもりだったけど。

「やっぱり。分かりました」

 私は警備の前を素通りして階段を上っていく。
 ついに五十日くらいぶりに、彼と顔を合わせることになった。





「グローリア・プレノートです。入室の許可をお願いいたします」

 重たい扉をノックし、声を張り上げて言うが……中からは高らかな笑い声。

「そんな素直に入れさせると思ったか?」
「そんなわけないですよね」

 今のトリスタンにも、ちょっとは『恩』みたいなのがあると思ったけど、期待した私がバカだったわ。

 私は扉を押し開け、玉座に座るトリスタンに標準を合わせる。

「まぁ勝手に入りますけど」

 十分な距離をとってトリスタンの真正面に立つ。もちろんひざまずきはしない。

「ここで開かれたパーティーで私が倒れてからというもの、かなりのことをやってくれましたね? 国王陛下を玉座から引きずり下ろし、勝手に王と名のり、国民に重税を課し……」
「そうだ、私が王だからな」
「おそらく国民のほとんどは、あなたが王とは認めていないでしょう。もちろん、私も」

 私は二歩、トリスタンに迫る。

「そうですよね。農民に重税を課していた真犯人はトリスタンだって、私が広めたからですね。その他にもあなたがしてきた悪行を言いふらしましたからね」

 一瞬だけ焦りの顔をしたトリスタンだが、「それ以上私をけなすようなことをいうものなら、不敬罪として捕らえるぞ」と、指をさしてきた。

「不敬罪? そんなものうちの国にはありませんよ?」
「私が作ったものだ」
「あなたに法律を作る権限はありません。この私にならありますけど」

 トリスタンはとうとう返す言葉がなくなったのか、ちらりと後ろを向いて言い放つ。

「……あの女を捕らえろ!」

 私がこの目で捉えたのは、五メートル先にいる十人ほどの、武器を持った男たちだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...