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第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す

43:行方はグローリア『たち』の手に

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「うそ、全部よけられてる」

 カルラー王国の兵士、特に護衛となると『最強の男たち』の名にふさわしかった。
 私が放つ火の玉をすべて見極めて避け、しかも敵を倒している。
 避けられているものの、仲間が倒れるペースはかなり抑えられている。そんな感じである。

「グローリア、回復魔法を!」

 騎士団長からの命令で、さっきと同じ方法で回復させる。しかし、それ以上に護衛が倒していくスピードの方が速かった。

「もっと速く!」
「すみません、間に合いません!」
「ぐっ……分かった! 攻撃魔法に戻せ!」

 それぞれかかる時間は傷が治るのは十秒、護衛が斬って倒すのは一秒。桁違いである。
 いくら風で広範囲に癒しの力を流しても、カバーしきれなかった。いたちごっこのレベルでもない。

 私はマーチを吹きながら無数の火の玉を飛ばし、前進していく。
 すると、頭上を『何か』が通過していき、軍のはるか後ろの方で爆発した。

 どうやら爆弾を発射する装置も持っているようだ。馬には専用の耳栓をさせていたおかげで、暴れ出す馬は一頭もいなかった。

「まだ持っていたのか……! 騎士団全員で音楽隊を守れ! 体も楽器も傷つけさせるな!」
「「「オォォォォッ!!」」」

 後衛の騎馬隊がまるっと私たちを取り囲む。

「騎士団の名をかけ、誇りを持って進め! 音をよく聞け、物怖じするな!」
「「「オォォォォッ!!」」」

 私たちは再びファンファーレを吹き、前進していった。





 ついに王城の敷地内に入りこんでしまった。軍はついに一万人を切ったところだ。
 突然、王城の方から忘れもしないあの声が、耳に入ってくる。

「やっと来たな、平民からの成り上がり女、グローリア・プレノート!」
「勝手に王を名乗って、勝手に玉座に座るな、トリスタン・ヴェルナ!」

 今日倒す相手、トリスタンが王城の窓から顔を出していた。
 数十分も『フォルテ』で吹き続けた私は、さすがに息切れを起こしていた。

「軍の中に音楽隊を入れたそうだな。ただの音楽ごときで何ができるのかと思いきや、お前の魔法以外何もできないではないか! 私の最強の護衛の方が一枚、いや、何枚も上手うわてだな!」

 フハハハハハハッと、完全に勝利を確信したような笑いをするトリスタン。

 確かに警備や護衛に向かっていく兵士たちには、恐怖や迷いの色はなかった。私も兵士を鼓舞しながら火の魔法で協力したけど……。

 一人一人の力は弱かった。数でかなうほど、トリスタンの護衛は弱くなかった。

「まさか毒に侵されても復活するとは、このしぶとい女め。今度こそ二度と復活できないようにしてやろうか」

 私を苦しめた犯人がやはりトリスタンだと分かっても、ギリギリと歯をむことしかできなかった。





『やっと見つけたわ。私と同じ魂を持つ人間を』

 えっ?
 耳から聞こえるものではない。俗に言う、頭に直接語りかけてくるような声である。

 驚いて周りを見ると、みんなその表情やそのポーズから微塵みじんも動いていなかった。

「時が止まってる⁉︎」
『私の声、聞こえているようで?』

 私の目の前に人型らしきものが現れる。ふわふわとした霧状から、段々はっきりと姿を見せる。
 その姿が明確になった時、私の腰が抜けそうになった。

 純白の衣をまとい、美しいピンク色の髪を腰まで伸ばし、背中には大きな白い翼が生えている。その顔は何と私とそっくりなのだ。
 いや……もうちょっと向こうの方が大人っぽい顔かな。

「あなた様がもしや……音の神・グローリア様で?」
「ええ、人間からはそのように呼ばれているようね」

 そう言って微笑む女神の顔は、同じような顔とは思えないほど清らかなものだった。
 女神は私の手をとる。

『やっと見つけた。音のコンペテンシャンにふさわしい人間を。あなたほど、民の幸福にここまで奔走する人間は見たことがないわ。私の力を使って、その幸福に導いてやりなさい』

 鈴の音のような、澄んだ声のお告げだった。

「私が、かの『音のコンペテンシャン』でございますか」
『そう。あなたは楽器を演奏することで、あまたの人間を救ってきた。魔法を使えることが分かった上に貴族になっても、決して自分より弱者の人間を傷つけなかった。素晴らしいことよ』

 女神は私の背後に移動し、後ろからまた語りかけてくる。

『私はここにいるから、力を使いたければ私と魂を共鳴させなさい』
「魂を共鳴…………はい」

 どうやってやるのかは分からないけど……何とかなるかな。





 私がキッと前を見すえると、止まっていた時が元に戻る。
 さっきトリスタンに言われたことへの反論が思いついた。

「しぶといのはこっちのセリフ! 竜巻で吹っ飛ばしたのに、まさかあんなに早く戻ってくるとはね。王城を追い出されてるのなら、さっさと大人しく賠償金を払いなさい!」
「するわけがなかろう? 私はお前のせいで立場を失ったんだ」
「ともかく……あなたが私を倒したいのと同じで、私もあなたには消えてもらいたいの。私を倒したいなら、あなたのその手でやってみせなさいよ」

 私は手の平を上に向け、手招きをして挑発する。

「私は魔法を使えるし、私たちの大将は騎士団長。そちらの大将はどうなんですかね?」
「そこまで言うなら見せてあげよう。貴族たるもの、武術は誰でも身につけているからな」

 そう言うと、トリスタンは窓から消えた。
 向こうの護衛は指示がないのでもちろん、こちらも騎士団長は進軍の指示を出さなかった。ただ静かにトリスタンが地上に現れるのを待つ。

 しかし、私は静かに『想い』をペンダントにためていた。
 かつては貴族派と呼ばれたトリスタンだが、その貴族でさえ着服問題で嫌気がさしたのち、私の味方になった。

 初対面で私や農民を罵り、貴族だからと自分の融通を通してもらおうとし、やらかしが発覚しても国王の隣に居座り続け、しまいには私に毒を盛って殺そうとした。

 思い出すんじゃなかった。めっちゃムカついてきたんだけど!!

 約五十メートル先に、剣を持ち防具をしたトリスタンが出てきた。

「君たち、これから今日は私に一切手を出すな。守ろうとするならば、この剣で君たちの首を斬る」

 本気でトリスタンは一人で私を倒しにかかるようだ。

「それなら私も本気でいかせてもらうよ」

 私はこの目をトリスタンに向けてから、目を閉じる。はち切れそうなほどに『想い』をためたペンダントを握った。
 自然と口からつむがれる言葉に身を任せる。

「私は音の神の魂を持つ者・コンペテンシャン。今啓示を受け、あなた様と共鳴いたします」

 目を再び開いた時、私のほほには音符の刻印が浮かび上がり、体から『想い』という名の魔力があふれ出た。

「離れろ!」

 騎士団長が叫び、私を守ってくれていた騎士たちが逃げるように私と距離をとる。

「トリスタン、ケンカを売った相手がまさか、音の神と同じ魂を持つ『音のコンペテンシャン』だったとはね」

 私の周りにあふれる魔力で、空気中に火がつき始める。

「こ……コンペテンシャンだと……」
「私はあなたを倒す。みんなの幸せのために!」

 呆然ぼうぜんとするトリスタンをしっかり目で捉える。
 完全に負けを悟ったその目を。

「「『私たち』の想いよ、届け」」

 私の声に誰かの声が重なった。
 マウスピースをくわえ、ペンダントと心の中にためた怒りの『想い』を解き放つ。

 不気味な静寂に一つの艶やかな音が貫いた。音がトリスタンに届くのと同時に、私をまとっていた火が矢となり、一点集中でトリスタンに注がれた。
 風で火の矢を加速させ、火の矢で風を熱風に変え、トリスタンだけでなく護衛をも襲う。

 それとは裏腹に、美しくも荒いサックスの音が響き渡る。今までの鬱憤をためたがなり声のようだった。

「グッ、グァァァァァァァァァァッッッッ!!」

 断末魔の叫びとともに、トリスタンたちは木っ端微塵に跡形もなく消え失せた。
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