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麻里菜のことをよく知るための付随情報
01:居眠りはだらしない?(前編)
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「よかった、受かってる! まぁ、そりゃあそっか」
一人の少女は、数字が羅列された掲示板の前で胸をなで下ろす。
部活のために伸ばした長い髪がポニーテールに結われている、この少女の名前は小林麻里菜。中学三年生だ。
家から電車で一時間の高校に、単願で合格した。
ここは県内で数えるほどしかない女子校で、最低でも偏差値六十二はないと入れないレベルである。一番上のクラスは偏差値七十以上だ。
「中二の学年末テストの数学で四十九点取った人が、一年後、こんな学校に受かってるとはね」
と、母が無駄口を挟む。
麻里菜自身も、こんな頭の良い高校を受験するなんて、一年前は思ってもいなかった。
「……ホントのことだから反論できん」
麻里菜は肩をすくめた。
合格祝いにスマホを買ってもらい、まずはLINEを入れてみた。が、友だちは家族と、クラスラインに入れてもらうために友だちになった人だけだ。
リアルの友だちは一人としていなかった。
スクロールせずに友だち全員が見られる画面を見つめて、「はぁ、魂を分ける前は誰かしらは友だちいたのになぁ」と、公式アカウントから来たメッセージを開ける。
定番のテンプレートの文章。
「……でも、あの高校に受かったし、うちの中学からは、他にあの高校に行く人いないって言ってたから」
麻里菜がわざわざ遠い高校を選んだ理由。それは『人生をリセットしたかったから』である。
◇ ◆ ◇
「楽器吹きながら寝るとか、特技通り越して尊敬だわ!」
「普通、楽器吹きながらとかムリっしょ! 集中力なさすぎじゃない?」
それは麻里菜が中一の時。麻里菜は吹奏楽部でクラリネットを吹いていた。
しかし、突然耐えきれないほどの眠気に襲われ、怖い先生の授業でも楽器を吹きながらでも寝てしまうというものに翻弄されていた。
「麻里菜ちゃん、しっかり起きてやって」
隣に座る先輩に起こされる始末。
「す、すみません」
寝てはいけないことは、もちろん分かっている。部活が終わった後も、宿題を済ませて、なるべく早く寝るようにはしている。が、日に日に悪化していると麻里菜自身も感じていた。
中二になり、麻里菜はオーディションを勝ち抜いて、コンクールメンバーに選ばれた。クラリネットパートで二年生が出るのは、麻里菜だけだった。
同級生は、そんな麻里菜をよく思わなかった。
「寝てるくせにメンバーとか、意味分かんないんだけど」
みんなで曲合わせをする『合奏』でも寝てしまう麻里菜に、顧問が怒鳴り声をあげる。
「小林! 集中できないならメンバーから外すぞ! 眠くて集中できないなら、今すぐ帰って寝ろ!」
この言葉で、麻里菜の心は完全に折れた。
自分でも寝ないように努力しているというのに、授業では毎時間居眠りしてしまう。部活でも、忙しければ疲れて寝てしまうし、やることがなくても退屈で寝てしまう。
他の人からは、怒られても改善できない「だらしない人」としか見られてない。
麻里菜は心身ともに疲れきってしまった。寝ないための苦労を知らずに、陰口・嫌がらせ・暴言を吐く人たちの言葉がグサグサと突き刺さる。
滅多に部活を休まなかった麻里菜だったが、二週間不登校になってしまった。
不登校の間、先輩や同級生が麻里菜の家に来て、「早く一緒に楽器吹こう!」と言ってくれたが、麻里菜は何せ人間不信である。
「どうせ、先生から言われて家に来たんだろ。手のひら返ししやがって」
しかし、長く休みすぎてもコンクールメンバーに迷惑がかかるため、二週間で復帰したのだ。その時に、先生と先輩に断りを入れた。
「授業中や部活中に寝てしまうのは、どう頑張っても治せないんです。なるべく早く、日付が変わるまでには寝るようにしているんですけど、それでも無理なんです」
決して、夜更かししていて居眠りしているのではないと伝える。
幸いにも先輩は分かってくれたようだが、頭の硬い『昔の人』の顧問は、イマイチ分かっていないようだった。
先輩の理解もあり、ギクシャクした雰囲気は収まった。コンクールでは県大会を突破し、西関東大会に出場することができた。
先輩引退前の最後の日、先輩は麻里菜に謝ってきてくれたのだ。
「麻里菜ちゃんが不登校になる前、あんなに怒っちゃってごめんね」
「せ、先輩、大丈夫ですよ! 傍から見れば、だらしないって思われても仕方ないです」
「よかった、ありがとぉぉぉぉおお! 一緒にファーストやれて楽しかったよぉぉぉぉおお!」
涙でぐちゃぐちゃになった先輩を、麻里菜は百四十八センチの小さな体で受け止める。
「私も、先輩の隣で吹けて楽しかったです」
「あぁ、やっぱり麻里菜ちゃん、小柄なのに包容力がある……! これからパートリーダーよろしくね!」
自分の背中をバンバン叩く先輩に、麻里菜は先輩の背中に手を回す。
何だかんだ、麻里菜は先輩から信頼されていたのだ。
麻里菜は先輩の跡を継ぎ、パートリーダーになった。
だが、困難はこれからである。
先輩が引退した今、麻里菜への理解者は誰もいない。
「あんなに寝ておいてあいつがパートリーダーとか、もうクラパート終わってるね」
「どうせ先輩に媚び売ってたんでしょ」
麻里菜がパートリーダーになったと伝わった日から、白い目を向けられるようになった。
同級生に断りを入れなかったわけは、『分かってもらえない』からだ。分かってくれる人がいたとしても少数で、分かってもらえない人たちに、結局流されてしまうことが目に見えている。
小学校中学校と七年半も毎日会っていれば、もう学年の雰囲気はつかめている。先生の前ではいい子ぶって、先生のいないところでいじめる、そんな奴らだ。だから、先生は口をそろえて「この学年はみんな真面目な生徒で仲がいい」と言う。
おかしいと思えよ。そういうのには、だいたい裏があるっていうのによ。
だから、手を出す人はほとんどおらず、逆に陰口や無視など、精神的に苦痛を与える人が大多数。男子でも他人のうわさ話は大好きで、すべてはターゲットを定めていじってやろうというものからだった。
麻里菜は居眠りしているわりに、常に百四十人中トップ二十位には入るほど頭がよかった。部活でも、居眠りしているのに他の同級生より良い音で吹けたり、難しい曲でも吹けるようになるのが早かったりする。
そんな麻里菜が気に食わないのか、その人たちは流されやすい奴らを巻きこんでいじめてくるのである。
一人の少女は、数字が羅列された掲示板の前で胸をなで下ろす。
部活のために伸ばした長い髪がポニーテールに結われている、この少女の名前は小林麻里菜。中学三年生だ。
家から電車で一時間の高校に、単願で合格した。
ここは県内で数えるほどしかない女子校で、最低でも偏差値六十二はないと入れないレベルである。一番上のクラスは偏差値七十以上だ。
「中二の学年末テストの数学で四十九点取った人が、一年後、こんな学校に受かってるとはね」
と、母が無駄口を挟む。
麻里菜自身も、こんな頭の良い高校を受験するなんて、一年前は思ってもいなかった。
「……ホントのことだから反論できん」
麻里菜は肩をすくめた。
合格祝いにスマホを買ってもらい、まずはLINEを入れてみた。が、友だちは家族と、クラスラインに入れてもらうために友だちになった人だけだ。
リアルの友だちは一人としていなかった。
スクロールせずに友だち全員が見られる画面を見つめて、「はぁ、魂を分ける前は誰かしらは友だちいたのになぁ」と、公式アカウントから来たメッセージを開ける。
定番のテンプレートの文章。
「……でも、あの高校に受かったし、うちの中学からは、他にあの高校に行く人いないって言ってたから」
麻里菜がわざわざ遠い高校を選んだ理由。それは『人生をリセットしたかったから』である。
◇ ◆ ◇
「楽器吹きながら寝るとか、特技通り越して尊敬だわ!」
「普通、楽器吹きながらとかムリっしょ! 集中力なさすぎじゃない?」
それは麻里菜が中一の時。麻里菜は吹奏楽部でクラリネットを吹いていた。
しかし、突然耐えきれないほどの眠気に襲われ、怖い先生の授業でも楽器を吹きながらでも寝てしまうというものに翻弄されていた。
「麻里菜ちゃん、しっかり起きてやって」
隣に座る先輩に起こされる始末。
「す、すみません」
寝てはいけないことは、もちろん分かっている。部活が終わった後も、宿題を済ませて、なるべく早く寝るようにはしている。が、日に日に悪化していると麻里菜自身も感じていた。
中二になり、麻里菜はオーディションを勝ち抜いて、コンクールメンバーに選ばれた。クラリネットパートで二年生が出るのは、麻里菜だけだった。
同級生は、そんな麻里菜をよく思わなかった。
「寝てるくせにメンバーとか、意味分かんないんだけど」
みんなで曲合わせをする『合奏』でも寝てしまう麻里菜に、顧問が怒鳴り声をあげる。
「小林! 集中できないならメンバーから外すぞ! 眠くて集中できないなら、今すぐ帰って寝ろ!」
この言葉で、麻里菜の心は完全に折れた。
自分でも寝ないように努力しているというのに、授業では毎時間居眠りしてしまう。部活でも、忙しければ疲れて寝てしまうし、やることがなくても退屈で寝てしまう。
他の人からは、怒られても改善できない「だらしない人」としか見られてない。
麻里菜は心身ともに疲れきってしまった。寝ないための苦労を知らずに、陰口・嫌がらせ・暴言を吐く人たちの言葉がグサグサと突き刺さる。
滅多に部活を休まなかった麻里菜だったが、二週間不登校になってしまった。
不登校の間、先輩や同級生が麻里菜の家に来て、「早く一緒に楽器吹こう!」と言ってくれたが、麻里菜は何せ人間不信である。
「どうせ、先生から言われて家に来たんだろ。手のひら返ししやがって」
しかし、長く休みすぎてもコンクールメンバーに迷惑がかかるため、二週間で復帰したのだ。その時に、先生と先輩に断りを入れた。
「授業中や部活中に寝てしまうのは、どう頑張っても治せないんです。なるべく早く、日付が変わるまでには寝るようにしているんですけど、それでも無理なんです」
決して、夜更かししていて居眠りしているのではないと伝える。
幸いにも先輩は分かってくれたようだが、頭の硬い『昔の人』の顧問は、イマイチ分かっていないようだった。
先輩の理解もあり、ギクシャクした雰囲気は収まった。コンクールでは県大会を突破し、西関東大会に出場することができた。
先輩引退前の最後の日、先輩は麻里菜に謝ってきてくれたのだ。
「麻里菜ちゃんが不登校になる前、あんなに怒っちゃってごめんね」
「せ、先輩、大丈夫ですよ! 傍から見れば、だらしないって思われても仕方ないです」
「よかった、ありがとぉぉぉぉおお! 一緒にファーストやれて楽しかったよぉぉぉぉおお!」
涙でぐちゃぐちゃになった先輩を、麻里菜は百四十八センチの小さな体で受け止める。
「私も、先輩の隣で吹けて楽しかったです」
「あぁ、やっぱり麻里菜ちゃん、小柄なのに包容力がある……! これからパートリーダーよろしくね!」
自分の背中をバンバン叩く先輩に、麻里菜は先輩の背中に手を回す。
何だかんだ、麻里菜は先輩から信頼されていたのだ。
麻里菜は先輩の跡を継ぎ、パートリーダーになった。
だが、困難はこれからである。
先輩が引退した今、麻里菜への理解者は誰もいない。
「あんなに寝ておいてあいつがパートリーダーとか、もうクラパート終わってるね」
「どうせ先輩に媚び売ってたんでしょ」
麻里菜がパートリーダーになったと伝わった日から、白い目を向けられるようになった。
同級生に断りを入れなかったわけは、『分かってもらえない』からだ。分かってくれる人がいたとしても少数で、分かってもらえない人たちに、結局流されてしまうことが目に見えている。
小学校中学校と七年半も毎日会っていれば、もう学年の雰囲気はつかめている。先生の前ではいい子ぶって、先生のいないところでいじめる、そんな奴らだ。だから、先生は口をそろえて「この学年はみんな真面目な生徒で仲がいい」と言う。
おかしいと思えよ。そういうのには、だいたい裏があるっていうのによ。
だから、手を出す人はほとんどおらず、逆に陰口や無視など、精神的に苦痛を与える人が大多数。男子でも他人のうわさ話は大好きで、すべてはターゲットを定めていじってやろうというものからだった。
麻里菜は居眠りしているわりに、常に百四十人中トップ二十位には入るほど頭がよかった。部活でも、居眠りしているのに他の同級生より良い音で吹けたり、難しい曲でも吹けるようになるのが早かったりする。
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