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幕間
ぼくの異世界スイーツ作り。
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王都も近づいてきて、ぼくらは久しぶりにちゃんとした宿屋に逗留していた。
首都圏に入ってきて、だいぶ賑やかになってきた。人も多いし、道もきちんと整備されている。大きな街もあるし、商店が軒を連ねる市場もある。
その市場で、ぼくは買い出しに勤しんでいた。
シエナの村を出るとき、雨乞いのご褒美にぼくらはいろいろなものを頂いたが、中にひとつ、サキが貰った小さな壷があった。
中味はメープルシロップ。この世界では貴重な甘味である。スイーツ大好きのサキにとっては、なによりのご褒美と言えた。
サキはそれを、パンにつけたり、時々直接舐めたりしていたが、やはり前の世界、日本に較べるとスイーツの質も量も圧倒的に少ないのが現実だった。できればサキに、少しでも満足のいく甘味を味わってほしかった。
そこで、宿に泊まれたのをさいわい、その厨房を借りて何かできないかと考え、今市場で材料を物色しているところだった。
メープルシロップと言えば、ホットケーキ。しかし当然ながらこの世界に、ホットケーキミックスなる便利なものはない。あのふっくらとしたホットケーキを再現するのは、ぼくの知識では途方もなく難しそうだ。
なにかいいものはないだろうか。
思案にくれつつ、市場を回る。意外と、と言っては失礼だが、それなりに物は豊かだ。野菜や果物もあるし、肉、穀物、牛乳や卵といったものもある。ぼくはあるものを思いついた。頭の中で材料をリストアップする。なんとかなりそうだ。
+ + + + +
「遼太さん。なにを作るですか?」
「さて、なんでしょー?」
「え~。教えてくださーい」
「ふふ、楽しみにしといてよ」
調理台の上に材料を並べるぼくを、サキは興味津々で眺めている。クルルも同様だ。
「またリョウタが面白いもの見せてくれるんだ?」
おうともさ。今度はこないだみたいな、黒歴史になるようなチートじゃないぞ。
小麦粉を器にあけて水で溶き、卵と牛乳を混ぜる。ほんとは砂糖がほしいところだけど、残念ながら砂糖は超絶貴重品。あるにはあるが、それこそ王さまへの献上品くらいでしか手に入らない。
混ぜ合わせた生地を寝かせている間に、フルーツを準備する。
野いちごみたいな赤い実。けっこう甘味がある。
ブルーベリーみたいな丸い果実。甘いが、ちょっと酸味が強い。
みかんみたいな、オレンジみたいな果物。だいぶ酸っぱい。やっぱり日本のみかんは相当よく作られているんだな。農家のみなさん、ありがとう。またあれ、食べられるかな。
準備が終わったら、熱した鉄板で生地を焼く。
生地を丸く薄く伸ばし、手早く焼き上げる。
サキの目が輝き出した。なにを作っているかわかったようだ。
あとはお好み次第。脂肪分が少ないので、クリーム代わりにバターを薄く塗り、その上にフルーツを並べ、メープルシロップをかけて折りたたむ。
「できた! クレープの完成です!」
サキが大喜びで歓声をあげる。隣で見ていたクルルは鼻をひくひくさせながら、
「いいにおい……すごく美味しそう!」
その間にぼくは生地をどんどん焼き上げ、クルルもサキに倣ってフルーツを包み始める。
クレープのいいところは、少しの生地でもたくさん数ができることだ。フルーツもたっぷり用意してある。旅の一行が満足いくだけの個数を確保するのは、それほどむずかしくない。
やがて、テーブルの上に色とりどり、さまざまなクレープが所せましと並んだ。
「いただきます!」
真っ先にかぶりついたのはサキ。あとのみんなは、初めて見る食べ物をしげしげと眺めている。が、その美味しそうなにおいに、我慢もそう続くものではない。次々と食べ始めた。
「ん~~~~! おいしい!」
サキはほっぺたを押さえて満面の笑み。
いい笑顔だな。この笑顔が見たかったんだ。
ひと口食べて、驚きの声を上げたのはクルル。
「なにこれ!? あま~い!! もっちりした生地が……不思議な味。それに果物が……こんな味になるなんて!」
猫耳が嬉しそうにぴょこぴょこと、髪の中で跳ねている。
その向こうではディベリアが、おそるおそるひと口、ぱくり。
「!」
目を丸くして、瞬く間に食べ尽くしてしまう。
「なんですかこの食べ物は!」
「クレープと言うんだ」
「すごく美味しいですう。とっても甘くて、とろけちゃいそう」
うっとりといった表情で、ディベリアは次のクレープに手を伸ばす。
「おいしい~。
こんな美味しいものを作れるなんて、リョウタどのって、ただの女たらしじゃなかったんですね」
いつもおまえはひと言よけいだ。
それがなければ、銀髪のきれいな、それなりに可愛い女の子なのに。
さらにその向こうでは、司祭さまがものも言わずにむしゃむしゃ食っている。ひと言も褒めることはないが、相変わらず誰よりも食べるのが早い。評価は訊くまでもないだろう。
「遼太さん、すごいです。まさかこの世界でクレープが食べられるなんて」
「リョウタも食べてみなよ。とってもおいしいよ」
サキもクルルも大喜びだ。
よかった。ふたりに喜んでもらいたくて作ったんだ。こんなに喜んでもらえて、ほんと、作ったかいがあったよ。それだけでも大満足だ。
『これは不当な差別だ!』
脇にとまっていた鴉が鳴き声を上げた。
『ボクだけその珍味を味わうことができないなんて! 見ているだけしかできないとは、なんたる拷問!』
「はいはい。ナユタも食べる?」
『この使い魔に味覚は連結していない。痛恨の失態だ』
まあ、毛虫やミミズの味覚を味わいたいなら接続しておいてもよかったと思うけどね。
それでも鴉にひと口あげてから、ぼくはクレープをほおばった。
「うん。うまい」
欲を言えば、生地に甘味がないのが悔やまれる。砂糖がないから仕方がない。
「あとは、クリームがあれば最高だったなあ」
「だけど、フルーツの酸味にシロップの甘味が思いのほかマッチして、すごく美味しいです」
サキが嬉しそうに褒めてくれた。
確かに、素朴だけどいい味わいになっている。
これは予想以上だ。今度のチートは大成功だな。
おだやかな午後の茶会は、上々の評判だった。
今はこの恵みを、目いっぱい楽しもう。未来にはきっとさらなる過酷な戦いが待っているだろうから。
首都圏に入ってきて、だいぶ賑やかになってきた。人も多いし、道もきちんと整備されている。大きな街もあるし、商店が軒を連ねる市場もある。
その市場で、ぼくは買い出しに勤しんでいた。
シエナの村を出るとき、雨乞いのご褒美にぼくらはいろいろなものを頂いたが、中にひとつ、サキが貰った小さな壷があった。
中味はメープルシロップ。この世界では貴重な甘味である。スイーツ大好きのサキにとっては、なによりのご褒美と言えた。
サキはそれを、パンにつけたり、時々直接舐めたりしていたが、やはり前の世界、日本に較べるとスイーツの質も量も圧倒的に少ないのが現実だった。できればサキに、少しでも満足のいく甘味を味わってほしかった。
そこで、宿に泊まれたのをさいわい、その厨房を借りて何かできないかと考え、今市場で材料を物色しているところだった。
メープルシロップと言えば、ホットケーキ。しかし当然ながらこの世界に、ホットケーキミックスなる便利なものはない。あのふっくらとしたホットケーキを再現するのは、ぼくの知識では途方もなく難しそうだ。
なにかいいものはないだろうか。
思案にくれつつ、市場を回る。意外と、と言っては失礼だが、それなりに物は豊かだ。野菜や果物もあるし、肉、穀物、牛乳や卵といったものもある。ぼくはあるものを思いついた。頭の中で材料をリストアップする。なんとかなりそうだ。
+ + + + +
「遼太さん。なにを作るですか?」
「さて、なんでしょー?」
「え~。教えてくださーい」
「ふふ、楽しみにしといてよ」
調理台の上に材料を並べるぼくを、サキは興味津々で眺めている。クルルも同様だ。
「またリョウタが面白いもの見せてくれるんだ?」
おうともさ。今度はこないだみたいな、黒歴史になるようなチートじゃないぞ。
小麦粉を器にあけて水で溶き、卵と牛乳を混ぜる。ほんとは砂糖がほしいところだけど、残念ながら砂糖は超絶貴重品。あるにはあるが、それこそ王さまへの献上品くらいでしか手に入らない。
混ぜ合わせた生地を寝かせている間に、フルーツを準備する。
野いちごみたいな赤い実。けっこう甘味がある。
ブルーベリーみたいな丸い果実。甘いが、ちょっと酸味が強い。
みかんみたいな、オレンジみたいな果物。だいぶ酸っぱい。やっぱり日本のみかんは相当よく作られているんだな。農家のみなさん、ありがとう。またあれ、食べられるかな。
準備が終わったら、熱した鉄板で生地を焼く。
生地を丸く薄く伸ばし、手早く焼き上げる。
サキの目が輝き出した。なにを作っているかわかったようだ。
あとはお好み次第。脂肪分が少ないので、クリーム代わりにバターを薄く塗り、その上にフルーツを並べ、メープルシロップをかけて折りたたむ。
「できた! クレープの完成です!」
サキが大喜びで歓声をあげる。隣で見ていたクルルは鼻をひくひくさせながら、
「いいにおい……すごく美味しそう!」
その間にぼくは生地をどんどん焼き上げ、クルルもサキに倣ってフルーツを包み始める。
クレープのいいところは、少しの生地でもたくさん数ができることだ。フルーツもたっぷり用意してある。旅の一行が満足いくだけの個数を確保するのは、それほどむずかしくない。
やがて、テーブルの上に色とりどり、さまざまなクレープが所せましと並んだ。
「いただきます!」
真っ先にかぶりついたのはサキ。あとのみんなは、初めて見る食べ物をしげしげと眺めている。が、その美味しそうなにおいに、我慢もそう続くものではない。次々と食べ始めた。
「ん~~~~! おいしい!」
サキはほっぺたを押さえて満面の笑み。
いい笑顔だな。この笑顔が見たかったんだ。
ひと口食べて、驚きの声を上げたのはクルル。
「なにこれ!? あま~い!! もっちりした生地が……不思議な味。それに果物が……こんな味になるなんて!」
猫耳が嬉しそうにぴょこぴょこと、髪の中で跳ねている。
その向こうではディベリアが、おそるおそるひと口、ぱくり。
「!」
目を丸くして、瞬く間に食べ尽くしてしまう。
「なんですかこの食べ物は!」
「クレープと言うんだ」
「すごく美味しいですう。とっても甘くて、とろけちゃいそう」
うっとりといった表情で、ディベリアは次のクレープに手を伸ばす。
「おいしい~。
こんな美味しいものを作れるなんて、リョウタどのって、ただの女たらしじゃなかったんですね」
いつもおまえはひと言よけいだ。
それがなければ、銀髪のきれいな、それなりに可愛い女の子なのに。
さらにその向こうでは、司祭さまがものも言わずにむしゃむしゃ食っている。ひと言も褒めることはないが、相変わらず誰よりも食べるのが早い。評価は訊くまでもないだろう。
「遼太さん、すごいです。まさかこの世界でクレープが食べられるなんて」
「リョウタも食べてみなよ。とってもおいしいよ」
サキもクルルも大喜びだ。
よかった。ふたりに喜んでもらいたくて作ったんだ。こんなに喜んでもらえて、ほんと、作ったかいがあったよ。それだけでも大満足だ。
『これは不当な差別だ!』
脇にとまっていた鴉が鳴き声を上げた。
『ボクだけその珍味を味わうことができないなんて! 見ているだけしかできないとは、なんたる拷問!』
「はいはい。ナユタも食べる?」
『この使い魔に味覚は連結していない。痛恨の失態だ』
まあ、毛虫やミミズの味覚を味わいたいなら接続しておいてもよかったと思うけどね。
それでも鴉にひと口あげてから、ぼくはクレープをほおばった。
「うん。うまい」
欲を言えば、生地に甘味がないのが悔やまれる。砂糖がないから仕方がない。
「あとは、クリームがあれば最高だったなあ」
「だけど、フルーツの酸味にシロップの甘味が思いのほかマッチして、すごく美味しいです」
サキが嬉しそうに褒めてくれた。
確かに、素朴だけどいい味わいになっている。
これは予想以上だ。今度のチートは大成功だな。
おだやかな午後の茶会は、上々の評判だった。
今はこの恵みを、目いっぱい楽しもう。未来にはきっとさらなる過酷な戦いが待っているだろうから。
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