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第三章 風の鍵の乙女
01.馭者と鴉と戦略会議。
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馬車は王都へと近づいている。
のんびりと進む道は変化に富んだ眺めになっていた。大きな森は、だが長い水不足で茶色が目立つ。向かいには岩山もあり、その間を街道が通っていた。割と大きな道だが、行き交う人にはしばらく出会っていない。
ぼくは馭者台、ディベリアのとなりに座っていた。狭い馬車の中、居場所といえば、荷台か馭者台しかない。
ぼくの肩には鴉がとまっていた。さっきまで、ゆうべ掘り返したミミズをあげていたので、鴉は上機嫌、かどうかはぼくにはわからない。
だがそうやって、虫やらミミズやらいろいろ与えていたので、鴉はサキの次にぼくに懐いていた。その辺は女の子にはできない芸当だろう。
「リョウタどのって、そういうところマメですねえ」
ディベリアの声にはわずかに呆れ成分が混じっていた。が、そう非難するような口調でもない。
『きみの意外な一面だな。リョータ。ボクにとっても新鮮だ』
鴉がしゃべる。言葉の主は、今どこにいるかもわからない、ナユタという人物。ぼくはまだ会ったことがない。
「あなたは女性なんでしょ、ナユタさん? なんで『ボク』なんですか?」
『うん、話せば長くなるが、聞きたいかい?』
「べつに、どっちでも」
『女性に対してその扱いはないんじゃないか?』
女性って、今は鴉だし。
『きみの世界のこの一人称が気に入ったんだ。適切ではないと思われる表現を敢えて使う、実に面白い習慣だ。だからボクも使ってみることにした。「ボクっ娘」と言うのかな。どうだろう、似合っているかい?』
似合うも何も、鴉だし。
だいたいあなたは年いくつよ? どんな背格好で髪や目の色はどうなのさ?
『ちなみにボクの年齢は二十歳だ』
「そうなの? じゃぼくとおんなじだ」
「え? そうなんですか? リョウタどのってもっと若いものかと。アタシと同い年だったんですねえ」
『「え?」』
ディベリアの言葉に、ぼくと鴉は同時にのけぞった。うそでしょ?
てっきりサキと同い年くらいかと思っていた。だって、てんで頼りないし。
「なんでそんなに驚いてるんですかあ?」
雰囲気を察して、ディベリアがじっとり目になる。
「どうせアタシは頼りない、役立たずですよう」
「いやいや、そんなことないよ。こうやって馬車を操ってるし、そうそう、食事の手配も。いつも助かってるよ」
ちょっと焦りながら、ぼくは言い訳した。確かに今はいろいろ世話になっているし、頼りないなどと言ってはバチが当たる。
戦いの場では、まあ相手が悪かった。あんな豪傑ども相手ではびびってしまっても無理はない。ぼくだって怖くて仕方なかったんだから。
「ええと、そうだ、だからこの鴉、ナユタさん。あなたに会ったら絶対文句言ってやろうと思ってたんだ」
『どんな文句だい?』
「そりゃあもう、いろいろと」
いきなり非日常に放り込まれて、命を狙われる羽目になったこと。どことも知れない異世界に飛ばされてしまったこと。そこでも命を賭ける羽目になってしまったこと。そして体温や色覚を失ったこと。
どれほど怖い思いをして、びくびくしてはらはらして、ない知恵を絞って傷だらけになって駆けずり回ったと思っているのか。
『それはすまなかったね。それで、サキやクルルに出会ったことは不服かい?』
その言い方はずるい。
不服があるわけないじゃないか。
だがこれだけは言っておきたかった。
「だいたいサキをほったらかして、あなたは今どこにいるんですか?」
独りぼっちで敵に追われて、サキがどれほど心細い思いをしたか、想像するだけでも胸が痛くなる。
『ボクにもやることがあったんだ。戦いは複数の異世界を巻き込んだ、エレメントの争奪戦になってしまった。この先、鍵の乙女たちを巡って、戦いはさらに続くだろう』
ナユタの言葉に、ぼくは暗い気分になった。
昨夜感じた重圧を思い返す。力は得たものの、ささやかなものだ。サキとクルルの強大な力があるとはいえ、敵も必死だろう。どんな手でくるかわからない。
それでもぼくは、サキとクルルを守らなければならない。
できるのか? やり通せるのか? 思わず両手を見てしまう。
『ボクはこの戦いを終わらせなければならない。戦いが終われば、サキやクルルの命が狙われることはなくなる』
「どうやって?」
『そのための鍵は、リョータ、きみだ』
は?
『鍵の乙女は全部で6人いる。その全てをきみがひらけば、争奪戦終結の条件が揃うんだ』
再びぼくは、言葉を失った。
『きみはこれから異世界を巡り、鍵の乙女を探し出し、それをひらかねばならない。全員をひらき、全ての能力が揃ったとき、新しい能力が使えるようになる。エレメントを生成できるんだ』
「なんだって?」
エレメントは作れるのか?
『そうなれば世界の足りないエレメントは全て補完できる。争いはおしまいだ』
「でもそれならあ」
ぼくの代わりに疑問を口にしたのはディベリアだ。
「なぜ最初からそうしないのですかあ? 奪い合って争う必要、ありませんよねえ?」
そのとおりだ。
知らない者同士が憎しみ合うことも、血を流すこともない。
今までの争いはなんだったんだ?
『その間、アスガール国はエレメントを奪われ続けることになる。最悪の場合、国ごと滅ぶかも知れない。そうと知って、黙っていられるかな?』
さらに、ナユタであるところの鴉はぼくを見た。
『そして開錠の施術者は、代償を支払い続ける。それでも続ける覚悟はあるかな、リョータ?』
ぼくは答えられなかった。うつむいたまま、顔を上げられない。
ナユタの言葉は、遠慮もなしにぼくの心を突き刺し、えぐる。
『我がニルヴァーナの一族でも永年必死に研究したんだがね。この方法しかなかった。
そして絶対に成功するとも言い切れない。あくまで可能性が高いというだけだ』
「……それをぼくにやれと」
『そうだよ』
酷薄、と言っていい返事が返ってくる。
覚悟、とナユタは言った。
身を捨てる覚悟。一国を滅ぼす覚悟。
そんなもの、あるわけない。
ディベリアが心配そうにぼくをのぞき込んでいる。けれど、ぼくは顔を上げられない。いたって平凡な、ただの大学生に過ぎない自分に、何ができる? そんな能力も、覚悟もない。
「……無理だよ」
やっとぼくは、声を絞り出した。
「だいたい、なんでぼくなんだよ。もっといくらでもすごい奴がいるじゃないか?」
そう、たとえば、キリエのような。
館で斬り結んだときあの騎士は言った。「我らが国民の安寧のためだ」と。
すごいと思う。ちゃんと国と国民の命運を正面から受け止めて、国を背負って戦っている。技量も胆力も申し分ない。
何の因果か敵味方として出会ってしまったけれど、あんなすごい人間こそがこの役目に相応しいんじゃないだろうか? それを差し置いて、なぜにぼく?
『きみにしかできないんだ。預言の書を使いこなせたのはきみしかいないのだから』
あの本。
ただの白い表紙の、地味な書物。
『あれはボクが書いたんだけれど、それなりの数を流通させたんだよ。だけど使えたのはきみだけだった。ただ読むだけではだめなんだ。きみの手元に届いたのは偶然だが、それを開いたのは必然なんだよ』
まだ納得できない。
だいたいぼくの何が必要とされているのか、未だによくわからない。
だけどこの鴉、ナユタはぼくの力が必要だと言う。
ぼくに、ほかの鍵の乙女もひらけと言う。
サキとクルル、二人だけでも大変な苦労をしたのに、文字通り命がけだったのに、それをあと四人だって?
そしてぼくはその間、さらに自分の何かを失い続けることになる。
今度は何を奪われるのだろう?
ぼくはそれに耐えられるのか?
鴉が驚いて羽を広げる。ぼくが身震いしたからだ。だが続けて、鴉は言った。
『リョータ、きみはもっと、自分に自信を持っていい』
声に幾分かいたわるような色を感じたのは、自分がそれを求めていたからだろうか。
相変わらず鴉は身じろぎしながら語り続ける。
『きみはふたりの姫に、幸せと喜びを与えたじゃないか。きみだからこそ出来たことだよ。目の前の少女を幸せにしてあげることも、価値あることだと思うがね』
ぼくは後ろを見た。
サキが可愛らしくあくびをしている。
クルルが何かを編んでいる。
二人をひらいた夜を思い返す。
真っ暗な部屋の中で初めてサキを抱き寄せた時のこと。
クルルの無事を知って思わず抱きしめてしまったこと。
胸を締め付けるような甘酸っぱい感情がよみがえる。
この二人を守ることができるなら。
命を狙われる恐怖から解放し、幸せにしてあげられるなら。
ナユタ。
つくづくあんたは、ずるい人だ。
『だからきみを選んだんだ。書は適任者を選んでくれたみたいだね』
鴉が天に向けてくちばしを開いたのが、笑ったようにぼくには見えた。
何かうまいこと踊らされているような気がして、ちょっとおもしろくない。
「二人してわかり合ってて、なんとなく面白くないですう」
ディベリアがぼくに、じっとり目を向けてくる。
「なんかよくわかりませんけど、つまりリョウタどのはやっぱり女たらしってことでいいですかあ?」
「よくない! まったくよくない!」
毎回思うが、その言い方はあんまりじゃないか?
「このさいはっきり言っておくけど、ぼくは断じてそんなもんじゃない!」
「えー、だってあんな可愛い女の子ふたりもはべらしてぇ」
だからその言い方はやめろ。
「いつもべったりじゃないですかあ。はあ、アタシも慰めてくれる人ほしいですう。司祭さまのお世話は大変なんですから」
その点はすごく同情する。
その世話を頑張っているのは健気だなと思う。ちょっとだけだけど。
「もうすぐ目的地に着くし、そしたらお役目も終わりだろ。あと少しがんばりなよ」
ぼくはディベリアを慰めた。雨乞い成功の関係者ということで、ディベリアにもきっとあり余る恩恵があるはずた。苦労が報いられるといいな。それだけは素直に思う。
だが残念ながら、王都にはすんなりとは着けなかった。
のんびりと進む道は変化に富んだ眺めになっていた。大きな森は、だが長い水不足で茶色が目立つ。向かいには岩山もあり、その間を街道が通っていた。割と大きな道だが、行き交う人にはしばらく出会っていない。
ぼくは馭者台、ディベリアのとなりに座っていた。狭い馬車の中、居場所といえば、荷台か馭者台しかない。
ぼくの肩には鴉がとまっていた。さっきまで、ゆうべ掘り返したミミズをあげていたので、鴉は上機嫌、かどうかはぼくにはわからない。
だがそうやって、虫やらミミズやらいろいろ与えていたので、鴉はサキの次にぼくに懐いていた。その辺は女の子にはできない芸当だろう。
「リョウタどのって、そういうところマメですねえ」
ディベリアの声にはわずかに呆れ成分が混じっていた。が、そう非難するような口調でもない。
『きみの意外な一面だな。リョータ。ボクにとっても新鮮だ』
鴉がしゃべる。言葉の主は、今どこにいるかもわからない、ナユタという人物。ぼくはまだ会ったことがない。
「あなたは女性なんでしょ、ナユタさん? なんで『ボク』なんですか?」
『うん、話せば長くなるが、聞きたいかい?』
「べつに、どっちでも」
『女性に対してその扱いはないんじゃないか?』
女性って、今は鴉だし。
『きみの世界のこの一人称が気に入ったんだ。適切ではないと思われる表現を敢えて使う、実に面白い習慣だ。だからボクも使ってみることにした。「ボクっ娘」と言うのかな。どうだろう、似合っているかい?』
似合うも何も、鴉だし。
だいたいあなたは年いくつよ? どんな背格好で髪や目の色はどうなのさ?
『ちなみにボクの年齢は二十歳だ』
「そうなの? じゃぼくとおんなじだ」
「え? そうなんですか? リョウタどのってもっと若いものかと。アタシと同い年だったんですねえ」
『「え?」』
ディベリアの言葉に、ぼくと鴉は同時にのけぞった。うそでしょ?
てっきりサキと同い年くらいかと思っていた。だって、てんで頼りないし。
「なんでそんなに驚いてるんですかあ?」
雰囲気を察して、ディベリアがじっとり目になる。
「どうせアタシは頼りない、役立たずですよう」
「いやいや、そんなことないよ。こうやって馬車を操ってるし、そうそう、食事の手配も。いつも助かってるよ」
ちょっと焦りながら、ぼくは言い訳した。確かに今はいろいろ世話になっているし、頼りないなどと言ってはバチが当たる。
戦いの場では、まあ相手が悪かった。あんな豪傑ども相手ではびびってしまっても無理はない。ぼくだって怖くて仕方なかったんだから。
「ええと、そうだ、だからこの鴉、ナユタさん。あなたに会ったら絶対文句言ってやろうと思ってたんだ」
『どんな文句だい?』
「そりゃあもう、いろいろと」
いきなり非日常に放り込まれて、命を狙われる羽目になったこと。どことも知れない異世界に飛ばされてしまったこと。そこでも命を賭ける羽目になってしまったこと。そして体温や色覚を失ったこと。
どれほど怖い思いをして、びくびくしてはらはらして、ない知恵を絞って傷だらけになって駆けずり回ったと思っているのか。
『それはすまなかったね。それで、サキやクルルに出会ったことは不服かい?』
その言い方はずるい。
不服があるわけないじゃないか。
だがこれだけは言っておきたかった。
「だいたいサキをほったらかして、あなたは今どこにいるんですか?」
独りぼっちで敵に追われて、サキがどれほど心細い思いをしたか、想像するだけでも胸が痛くなる。
『ボクにもやることがあったんだ。戦いは複数の異世界を巻き込んだ、エレメントの争奪戦になってしまった。この先、鍵の乙女たちを巡って、戦いはさらに続くだろう』
ナユタの言葉に、ぼくは暗い気分になった。
昨夜感じた重圧を思い返す。力は得たものの、ささやかなものだ。サキとクルルの強大な力があるとはいえ、敵も必死だろう。どんな手でくるかわからない。
それでもぼくは、サキとクルルを守らなければならない。
できるのか? やり通せるのか? 思わず両手を見てしまう。
『ボクはこの戦いを終わらせなければならない。戦いが終われば、サキやクルルの命が狙われることはなくなる』
「どうやって?」
『そのための鍵は、リョータ、きみだ』
は?
『鍵の乙女は全部で6人いる。その全てをきみがひらけば、争奪戦終結の条件が揃うんだ』
再びぼくは、言葉を失った。
『きみはこれから異世界を巡り、鍵の乙女を探し出し、それをひらかねばならない。全員をひらき、全ての能力が揃ったとき、新しい能力が使えるようになる。エレメントを生成できるんだ』
「なんだって?」
エレメントは作れるのか?
『そうなれば世界の足りないエレメントは全て補完できる。争いはおしまいだ』
「でもそれならあ」
ぼくの代わりに疑問を口にしたのはディベリアだ。
「なぜ最初からそうしないのですかあ? 奪い合って争う必要、ありませんよねえ?」
そのとおりだ。
知らない者同士が憎しみ合うことも、血を流すこともない。
今までの争いはなんだったんだ?
『その間、アスガール国はエレメントを奪われ続けることになる。最悪の場合、国ごと滅ぶかも知れない。そうと知って、黙っていられるかな?』
さらに、ナユタであるところの鴉はぼくを見た。
『そして開錠の施術者は、代償を支払い続ける。それでも続ける覚悟はあるかな、リョータ?』
ぼくは答えられなかった。うつむいたまま、顔を上げられない。
ナユタの言葉は、遠慮もなしにぼくの心を突き刺し、えぐる。
『我がニルヴァーナの一族でも永年必死に研究したんだがね。この方法しかなかった。
そして絶対に成功するとも言い切れない。あくまで可能性が高いというだけだ』
「……それをぼくにやれと」
『そうだよ』
酷薄、と言っていい返事が返ってくる。
覚悟、とナユタは言った。
身を捨てる覚悟。一国を滅ぼす覚悟。
そんなもの、あるわけない。
ディベリアが心配そうにぼくをのぞき込んでいる。けれど、ぼくは顔を上げられない。いたって平凡な、ただの大学生に過ぎない自分に、何ができる? そんな能力も、覚悟もない。
「……無理だよ」
やっとぼくは、声を絞り出した。
「だいたい、なんでぼくなんだよ。もっといくらでもすごい奴がいるじゃないか?」
そう、たとえば、キリエのような。
館で斬り結んだときあの騎士は言った。「我らが国民の安寧のためだ」と。
すごいと思う。ちゃんと国と国民の命運を正面から受け止めて、国を背負って戦っている。技量も胆力も申し分ない。
何の因果か敵味方として出会ってしまったけれど、あんなすごい人間こそがこの役目に相応しいんじゃないだろうか? それを差し置いて、なぜにぼく?
『きみにしかできないんだ。預言の書を使いこなせたのはきみしかいないのだから』
あの本。
ただの白い表紙の、地味な書物。
『あれはボクが書いたんだけれど、それなりの数を流通させたんだよ。だけど使えたのはきみだけだった。ただ読むだけではだめなんだ。きみの手元に届いたのは偶然だが、それを開いたのは必然なんだよ』
まだ納得できない。
だいたいぼくの何が必要とされているのか、未だによくわからない。
だけどこの鴉、ナユタはぼくの力が必要だと言う。
ぼくに、ほかの鍵の乙女もひらけと言う。
サキとクルル、二人だけでも大変な苦労をしたのに、文字通り命がけだったのに、それをあと四人だって?
そしてぼくはその間、さらに自分の何かを失い続けることになる。
今度は何を奪われるのだろう?
ぼくはそれに耐えられるのか?
鴉が驚いて羽を広げる。ぼくが身震いしたからだ。だが続けて、鴉は言った。
『リョータ、きみはもっと、自分に自信を持っていい』
声に幾分かいたわるような色を感じたのは、自分がそれを求めていたからだろうか。
相変わらず鴉は身じろぎしながら語り続ける。
『きみはふたりの姫に、幸せと喜びを与えたじゃないか。きみだからこそ出来たことだよ。目の前の少女を幸せにしてあげることも、価値あることだと思うがね』
ぼくは後ろを見た。
サキが可愛らしくあくびをしている。
クルルが何かを編んでいる。
二人をひらいた夜を思い返す。
真っ暗な部屋の中で初めてサキを抱き寄せた時のこと。
クルルの無事を知って思わず抱きしめてしまったこと。
胸を締め付けるような甘酸っぱい感情がよみがえる。
この二人を守ることができるなら。
命を狙われる恐怖から解放し、幸せにしてあげられるなら。
ナユタ。
つくづくあんたは、ずるい人だ。
『だからきみを選んだんだ。書は適任者を選んでくれたみたいだね』
鴉が天に向けてくちばしを開いたのが、笑ったようにぼくには見えた。
何かうまいこと踊らされているような気がして、ちょっとおもしろくない。
「二人してわかり合ってて、なんとなく面白くないですう」
ディベリアがぼくに、じっとり目を向けてくる。
「なんかよくわかりませんけど、つまりリョウタどのはやっぱり女たらしってことでいいですかあ?」
「よくない! まったくよくない!」
毎回思うが、その言い方はあんまりじゃないか?
「このさいはっきり言っておくけど、ぼくは断じてそんなもんじゃない!」
「えー、だってあんな可愛い女の子ふたりもはべらしてぇ」
だからその言い方はやめろ。
「いつもべったりじゃないですかあ。はあ、アタシも慰めてくれる人ほしいですう。司祭さまのお世話は大変なんですから」
その点はすごく同情する。
その世話を頑張っているのは健気だなと思う。ちょっとだけだけど。
「もうすぐ目的地に着くし、そしたらお役目も終わりだろ。あと少しがんばりなよ」
ぼくはディベリアを慰めた。雨乞い成功の関係者ということで、ディベリアにもきっとあり余る恩恵があるはずた。苦労が報いられるといいな。それだけは素直に思う。
だが残念ながら、王都にはすんなりとは着けなかった。
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