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第三章 風の鍵の乙女
16.戦いは風に吹かれて。
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「ミア。今のきみなら、もうひとつ高みに昇ることができる。ぼくと一緒にこの世界を救うんだ。出来るね?」
今度はエルミアも拒まなかった。黙ってうなずき、ぼくを見返す。その眼の奥に金色の光が閃いている。
ぼくは例の本を取り出した。またも片手。ページがめくりにくい。急にめまいを感じて、ぼくはひざをついた。
「リョウタさま!」
「だ……大丈夫」
極度の疲労にあやうく倒れそうになり、エルミアに支えられる。流血のせいか。慣れない魔法を使いすぎたせいか。それとも、安心して気が抜けたか。だが、もう少しだ。
「風の鍵の乙女よ。金の姫よ。汝を今ここに開き、世の理をここに導かん。汝の身は清浄の身、汝の操るは解放の技、しかして汝の業は世界を開く。願わくば汝に捧ぐる贄によりて、身を修め、心を鎮め、汝が業をもちて世界を救わんことを」
ぼくに合わせて両膝を付き、手を組んでいるエルミア。その身体の裡に徐々に力が高まっていくのを感じる。そこから吹き始める、これは風。この世界が永らく忘れていたエレメントだ。
「その名は畏きものなれば、あだなす敵に知らしめよ。その名は尊きものなれば、字名は秘して守りおき、汝が主にたてまつれ。汝は金の姫、風の鍵の乙女」
「! 止めろ!」
遠くで宰相が叫ぶのが聞こえた。何をしようとしているのか分かったのだろう。だがもう遅い。
宰相が血相を変えて叱咤し、兵士たちが最後の力を振るって攻めかかるも、猛り狂うふたりの姫、サキとクルルにはまったく歯が立たなかった。
「鍵の乙女をして、世の理をここに開かしめよ」
風がどんどん強くなっていく。
「鍵の乙女の力をもちて、仇なす者どもを打ち払わしめよ」
半目に開いたエルミアの目の奥の光がどんどん強くなる。
裡から湧き出る力を受けて、長い髪がたゆたい始める。
「その身に捧げられたる名に命じよ。されば世界は汝に開かれん!」
+ + + + +
風が、まるで液体のように質感を持ってぼくを押しのけた。ぼくはよろめいて後ろに倒れ、エルミアを見上げた。
風をまとっている。そんな表現が頭をよぎった。エルミアの周りにたくさんの風が渦巻き、流れている。
頭を振って髪をゆすると、橙色の髪がさらに明るい色になった。そして眼は、サキやクルルと同じ。大人びた表情で、背丈すら伸びたような印象を受ける。
「あの者を捕らえよ!」
宰相の声はうろたえていた。対して、背筋を伸ばして傲然と立つエルミアは余裕たっぷりだ。
「ずいぶんとリョウタさまをいたぶってくれましたわね」
エルミアが手を伸ばすと爆発音がするほど密度の高い風が打ち出され、目の前の兵士が吹き飛んだ。
「リョウタさまに悪さする人は、わたくしが懲らしめて差し上げます」
腕を引いて、振る。目に見えない凶悪な刃が無数に飛び出し、手当たり次第に兵士たちを斬り裂いた。
残る兵士たちも蒼白になってあとじさる。剣を立てて身を守ろうとするが、何から身を守ればいいのか彼ら自身も分かっていなかった。サキやクルルの技と違い、エルミアの技は風。目に見えないから防ぎようがない。
すっかり委縮している兵士たちを尻目に、エルミアはゆっくりとぼくを振り返った。
ぶざまにへたり込んでいるぼくに笑って手を差しのべる。
「リョウタさま。わたくしはあなたに、ひらかれました。どうぞ存分にお使いくださいまし」
ぼくはその手をとって立ち上がった。身体がつらい。だがここが最後のだめ押しだ。
「聞け! グエンラルデの人々よ! 今この国に風がもたらされた。ここにいる、エルミア・フランチェスカ・モリガンがこの国に風を取り戻したことを知るがよい!!」
ひょうと空が大きく鳴り、強い風が吹きつけた。風はそのまま吹き続け、人々の髪を乱す。かつてはこの国にも当たり前にあった、風。今度こそ戻ってきたと、ここにいる全ての人が実感するには充分だった。
だが今はそれが破滅につながる人もいる。宰相はなおも部下を叱咤し奮い立たせ、幾度めかの吶喊を指示していた。まだ人数でははるかに勝っている。勝機は充分にあった。
エルミアは余裕の笑みで両手を前に突き出すと、「サキ姉さま。手を貸してくださいまし」と声をかけた。
「ん」
サキが小走りに近寄り、エルミアの後ろから手を添える。
「はっ!」
気合いとともに、エルミアが鋭いつむじ風を生み出す。そこへサキが炎を加えた。
「煉獄の旋流!」
強風に巻き込まれた炎は渦巻く巨大な竜巻となって吹き上がり、見る間に人々を巻き込んだ。
威力も視覚効果も、恐怖を覚えるには充分すぎる力だった。
「宰相閣下!」
ぼくは再び声を張った。
「すでに勝負は決しました。風は私の手の内にあります。まだ戦うのですか?」
宰相は、なにも言わなかった。
ぼくにはその表情を読み取ることはできなかった。
+ + + + +
小さな孤島、クローマ島での決戦は終わった。
戦闘での決着とは言いがたい。だがともかくも戦闘フェーズはひと区切りついた。
しかし戦いはまだ終わっていない。王位継承権をめぐる争いに決着をつけなければ、ぼくらの安泰もない。
ぼくらは大義名分を手に入れた。この国の風。それをもたらした救世主は今、ここにいる。ぼくのとなりに。エルミアがどう動くかで争いの行方は決する。
「やれやれ。生き残れてよかったよ」
ちっとも大変そうな様子も見せず、笑ったのはアメリア。
「きみのおかげで助かったよ、魔導士くん。さすがミアの眼に狂いはなかったな」
「恐縮ですが、頑張ったのはミアさまですよ。ぼくは何もしていません」
「謙遜するなよ。こんな傷だらけで頑張ったじゃないか」
笑いながらぼくの腕をぽんぽんと叩いた。
「ミアを頼むよ。ふつつか者だが、わたしの可愛い妹なんだ」
そう言った目は、歳の離れた妹をいつくしむように、優しさにあふれていた。
「ミア。リョウタどのにちゃんとついていくんだぞ。逃しちゃ駄目だからな」
「な、なにを一体、リア姉さまったら」
エルミアはあたふたとうろたえ、でもしっかり「わかってます」と答えてぼくを見た。
逆にぼくの方が気恥ずかしくて、エルミアをまともに見られなかった。
そしてぼくらは今、王都に向かっている。
家のことは夫人とアメリア、シンシアに託し、モリガン子爵とエルミアはベルリアン王子に会うべく、道を急いでいた。ぼくも同行している。
ここではっきり決着をつけないと、火種がくすぶり続けることになる。気の進まない仕事だが、やるしかなかった。
火急の用件であったとしても、王子に面会するには通常相当の時間を要する。だが今回はそれほど待たされなかった。もちろんその途上で、側近の人々には事情をたっぷりと周知してまわっている。
「すると、早急に即位を宣言してしまえと申すのだな?」
「はい、さようにございます、殿下」
ベルリアン王子は三十前後だろうか。見た目は若い部類だと思うけれど、国を背負っている責任感からか、雰囲気には威厳があった。
「これなるわが娘、エルミアが我が国の風を取り戻しました。これを公言し、早々に即位を表明してしまえば、ジョアン殿下の動きを封じることができると思われます」
「ふむ」
王子は側近を呼び寄せて、なにか話している。
「その娘が風を取り戻したと言うが、それを証明できるのか?」
王子の側に立つ男が訊いてきた。
控えたままのエルミアが片手を軽く動かす。
「うわっ!?」
部屋の中をかなりの強さの風が吹き抜けた。風向きからしてエルミアの手から風が生まれているのがわかった。風はさらに吹き続けている。
「これはそなたが?」
「はい」
王子の問いにエルミアは短く答え、手を動かすと今度は風が逆方向に吹き始めた。
「風を自在に操れるのか。恐ろしい力だな」
王子の表情からは、好意や好奇は感じ取れなかった。強いて言うなら畏怖。もっと言えば嫌悪だった。
エルミアの印象はあまりよくない。それがぼくには少し気になった。
ところでぼくがなぜそんな仔細を知っているかというと、ぼくもその場に控えていたのだ。鍵の乙女を開いた導師として後方にいたものの、ぼくに興味が向くことはあまりなかった。
そのため、わりとゆっくり観察できたのだが、その場はモリガン子爵の意向が通ったようだった。王子は行動を起こすことを決意し、そう宣ったが、あまり熱意を感じていないようだった。
別に子供のようにはしゃげ、とは言わないが、なんだろうこの温度差。妙に醒めた目でエルミアを見ている。
「これで私の王位は安泰、というわけだな」
王子は言った。
「卿には感謝する」
「もったいなきお言葉にございます」
「いや、多大な功績だ。これで兄上に先んじることができる。卿にはどう報いたらいいだろうか?」
「このような貧乏貴族には、お褒めにあずかっただけでも過分な褒美にございます。ですが、厚顔を承知でお願いするならば、なにとぞ我が領地を安堵して下さいますよう、お願い申し上げます」
「ふむ。そなたは欲がないな」
王子と子爵は特段親しいという間柄でもない。政治的な、腹の探り合いといった会話になってしまうのはやむを得ないのかも知れない。
「なれば、我が国に風を取り戻したもう一人の功労者、これなる導師に充分に報いてやって下さいますよう」
うわ、さりげなくぼくをダシにしてきた。さすがちっちゃくても貴族さま。侮れない。
「ええと、ぼくはただの流れ者です。ですから……褒美をいただけるならありがたく受け取りますが、領地とか地位とか、そんなものは望みません。それとこの地にいる間の安全を保証していただければ充分です」
あまり遠慮するのもよくない。この功績をタネに政治的野心を持っているのではないかと疑われる恐れがある。ある程度報酬を無心して――それも財貨とか宝石とか、一時的な支払いで済むもの――なんだこの程度の小者か、と思われておくのが無難だった。政治的な思惑は肩がこる。
「そうか。わかった。褒美は存分につかわそう」
ぼくは黙って頭を下げた。
「それと、娘。エルミアといったか。そなたにも報いねばならんな。妃にはしてやれぬが、我が側室でどうだ?」
「へっ?」
突然の申し出に変な声が出てしまったのは仕方ないだろう。それに気づいたエルミア本人は真っ赤になってしまい、「え? あの、その……」と口ごもって縮こまってしまう。
「そんな……おそれ多いです。わたくしのようなものがそんな大それたこと……」
エルミアの反応は素だったが、田舎者の貴族の娘と印象づけるには申し分なかった。
「そんなことはないぞ。そなたの功績は計り知れない。側室程度では不満だろうが、まずはそれで収めてくれぬか? もちろん財貨も宝石も充分につかわそう」
「わたくしのようなものに、そんな、もったいないです。どうかご勘弁を」
エルミアは泣きそうな顔で答えた。結果的にはそれがよかったのだろう。
ぼくらは『田舎者の、世情にうとい人々』という印象でまとめられることになり、無事退出することができた。
謁見の間を後にして、ぼくは大きくため息をつき、モリガン子爵に笑われた。
「笑いごとじゃありませんよ」
ある意味、戦闘よりきつかった。宮廷闘争というものの片鱗を見た気がした。正直に言って、できれば関わりたくなかった。勝てる気がしない。
「かくいう私も、王族に直接お目見得などなかったからな。緊張したよ」
それでも笑っていられるのは、大人の余裕か。
だがその表情を改めて、子爵は言う。
「むしろこれからが正念場かも知れないな。わたしたちは思ったより大きな力を手にしてしまったのかも知れない」
ほどなく報せがきて、二日後に宣言式を行うので出席するようにとの指示があった。
その場で、エルミアの力を見せてほしいという。風の鍵の乙女のお披露目だった。
+ + + + +
ベルリアン王子が王位に就く意志を明らかにした。
これはつまり、対抗者の可能性の芽を摘んだ、ということになる。
夜中になってから、ぼくらは今度はジョアン王子に会いに行った。
もちろん非公式である。宵闇のなか、さらに暗い影をつたって進んでいく。
モリガン子爵とエルミアはすいすいと影をつたって先に行ってしまう。ぼくは必死でついていかなければならなかった。前に言っていた暗殺の技には、こういった隠密行動のスキルも含まれるらしい。
王宮は広い。招かれずして中を探るのは大変だったが、モリガン子爵はほどなくジョアン王子の居所を探り当てた。
ジョアン王子の居室。おそらく場所は変わっていないが、監視がついていた。公言こそされていないがもう公然の敵になっているのだろう。その警戒厳重な部屋に入り込むには。
「こちらですわ」
モリガン子爵に続いてエルミアが天井裏にあがり、ぼくに手を差し出してきた。
「ちょっと、その身軽さはなんなの……」
相当な訓練を積んでいる。どこが「守られるだけの存在」なんだか。ぼくよりよほどすごいじゃないか。
心の中で不満を述べながら、ぼくも何とか天井裏に上がった。
再びジョアン王子の居室に、今度は上から差し掛かった。そしてモリガン子爵はこともなげに部屋に降りた。
「失礼。ジョアン殿下であらせられますな?」
突然の不審者にも、ジョアン王子は興味を示さなかった。
「なんだい? 私を暗殺しにきたのか? 今の私には殺す価値もないよ。いや、やるなら暗殺より公開処刑の方がいいだろう」
自分の運命を受け入れている。そんな風に見えた。つまりは、もうあきらめていた。言葉も、態度も。
モリガン子爵が半身を引いて道を開け、ぼくを見た。ジョアン王子に質問する権利を譲ってくれようとしている。
「殿下。あなたのもとに、異世界の者たちがいましたよね?」
「ああ。いたよ」
「あなたは彼らとどんな話を? 何か取り引きをしたのですか?」
「彼らの望みは……風だった。彼らも風を求めていると。それができるのがマルキアだと言った。だから風を取り戻してほしいと、彼らは望んだ。そのかわりにどんな助力もすると」
「そうまでして王位がほしかったのですか?」
「王位か……」
ぼくの質問にジョアン王子は遠くを見るような回答だった。
「なぜ私は、王位など欲したのだろうな。私はただ、マルキアを幸せにしてやりたかった。それだけだったのに……。どこで道を違えてしまったのだろうな。何もしてやれなくて……」
王子の目から涙があふれた。
ああ、そうか。
この人もぼくと同じだ。
最初は自分のためじゃなかった。大切な人を幸せにしてあげたいと思っただけ。
そこに付け込まれてしまった。たまたまぼくは鍵の乙女たち以外に何も持っていなかったけれど、この人は持てるものが多すぎた。
「私は浮かれていたのかも知れないな。大事なものを見失っていた。
これが神罰というものか? だったら私に降してくれればいいものを。マルキア……」
ぼくはとても責める気にはなれなかった。彼の姿は、明日のぼくの姿だ。そう思えてならなかった。
「リョウタどの。まだ訊きたいことはあるかね?」
モリガン子爵の静かな問いに、ぼくはかぶりを振った。
「ぼくにどうこう言える資格なんてありませんよ。それより閣下はどうなんです?」
モリガン子爵は王子の野心のとばっちりを受けた、言ってみれば被害者だ。それもあやうく一族みなごろしになるところだった。報復の理由は充分にある。
「私にも言う資格はないな。後は政治が決着をつけてくれる」
子爵は軽く肩をすくめた。欲がないのかも知れないが、その度量を感じられたことがぼくは嬉しかった。
哀しみにくれる王子を取り残しぼくらは退出することにしたが、その前にぼくはひとつだけ、魔法をほどこした。自己満足と言われればその通りだけど、ほうっておけなかったのだ。
---------------------
涙にくれる王子の耳に、声が届いた。
(殿下)
はっとして王子は顔をあげる。
(ジョアン殿下)
「……マルキア?」
(ありがとうございます、殿下。殿下はこんなわたくしに、とてもよくして下さいました。今度は殿下が、わたくしの代わりに幸せになって下さい)
「待ってくれ! 私はまだなにもできていない! 挙句におまえを巻き込んでしまった。すべてをおまえに押し付けて、私だけがのうのうと生きてゆくなど……」
(いいえ。わたくしはもう充分に受け取りました。とてもとても、幸せでした。
ですからジョアンさま。これからはどうか、あなたさまの人生を生きて下さい)
「マルキア……」
(あなたさまの幸せがわたくしの幸せです。いつも、いつまでも、見守っていますから。
つらくなったらお呼び下さい。でも、あなたさまはまだこちらに来てはいけません。
どうかわたくしのために、幸せになって下さいまし)
「…………」
とめどなく涙が流れた。言葉など見つからなかった。
こんな自分でも赦してくれるというのか。
こんな自分の幸せを願ってくれるというのか。
「マルキア……」
今はまだ無理だ。自分で自分が許せない。
だがそれに囚われてここに立ち止まってしまったら、おまえは悲しむのだろうな。だったら生き残った者は、その務めを果たさなければならない。
わかっている。だがもう少しだけ、おまえのために涙を流すことを許してくれ……。
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「なんだかんだ言っても、リョウタさまはお優しいですね」
「……ぼくは偽善者だから」
わざとぶっきらぼうに言ったぼくを、ふふっと笑ってエルミアは受け止める。
「ほら、そうやって悪ぶって」
わかってますよ、と言わんばかりのエルミアに、ぼくは恥ずかしくて顔が向けられない。
ジョアン王子のところに置いてきたものは、幻惑魔法だった。もちろんぼくは死者を呼び寄せることなどできない。幻を見せただけだ。それも声だけ。
ぼくはマルキアという人を知らない。王子の記憶からその人の映像を呼び出して再構築するなど、ぼくには無理だった。だから声だけ、それっぽくなるように仕込んだのだけれど、果たしてどう聞こえただろうか。
死んだ人の心中を忖度するなんておこがましい。だけどきっとそう思っていたと思うのだ。なにより自分のために王子が苦しんでいるのなんか見たくないはずだ。余計なおせっかいだと承知している。だから偽善者呼ばわりしてくれていい。
「早く帰って休みましょう。人は夜は寝るものでしょう?」
照れ隠しに言ったぼくの言葉を、年長者はそれに相応しい度量で受け止めてくれた。
「そうだな。闇夜の烏の出番はここまでにしたいものだ」
ジュリ・イングラミティア・モリガン子爵の笑顔は、大人の度量を感じさせてくれた。
今度はエルミアも拒まなかった。黙ってうなずき、ぼくを見返す。その眼の奥に金色の光が閃いている。
ぼくは例の本を取り出した。またも片手。ページがめくりにくい。急にめまいを感じて、ぼくはひざをついた。
「リョウタさま!」
「だ……大丈夫」
極度の疲労にあやうく倒れそうになり、エルミアに支えられる。流血のせいか。慣れない魔法を使いすぎたせいか。それとも、安心して気が抜けたか。だが、もう少しだ。
「風の鍵の乙女よ。金の姫よ。汝を今ここに開き、世の理をここに導かん。汝の身は清浄の身、汝の操るは解放の技、しかして汝の業は世界を開く。願わくば汝に捧ぐる贄によりて、身を修め、心を鎮め、汝が業をもちて世界を救わんことを」
ぼくに合わせて両膝を付き、手を組んでいるエルミア。その身体の裡に徐々に力が高まっていくのを感じる。そこから吹き始める、これは風。この世界が永らく忘れていたエレメントだ。
「その名は畏きものなれば、あだなす敵に知らしめよ。その名は尊きものなれば、字名は秘して守りおき、汝が主にたてまつれ。汝は金の姫、風の鍵の乙女」
「! 止めろ!」
遠くで宰相が叫ぶのが聞こえた。何をしようとしているのか分かったのだろう。だがもう遅い。
宰相が血相を変えて叱咤し、兵士たちが最後の力を振るって攻めかかるも、猛り狂うふたりの姫、サキとクルルにはまったく歯が立たなかった。
「鍵の乙女をして、世の理をここに開かしめよ」
風がどんどん強くなっていく。
「鍵の乙女の力をもちて、仇なす者どもを打ち払わしめよ」
半目に開いたエルミアの目の奥の光がどんどん強くなる。
裡から湧き出る力を受けて、長い髪がたゆたい始める。
「その身に捧げられたる名に命じよ。されば世界は汝に開かれん!」
+ + + + +
風が、まるで液体のように質感を持ってぼくを押しのけた。ぼくはよろめいて後ろに倒れ、エルミアを見上げた。
風をまとっている。そんな表現が頭をよぎった。エルミアの周りにたくさんの風が渦巻き、流れている。
頭を振って髪をゆすると、橙色の髪がさらに明るい色になった。そして眼は、サキやクルルと同じ。大人びた表情で、背丈すら伸びたような印象を受ける。
「あの者を捕らえよ!」
宰相の声はうろたえていた。対して、背筋を伸ばして傲然と立つエルミアは余裕たっぷりだ。
「ずいぶんとリョウタさまをいたぶってくれましたわね」
エルミアが手を伸ばすと爆発音がするほど密度の高い風が打ち出され、目の前の兵士が吹き飛んだ。
「リョウタさまに悪さする人は、わたくしが懲らしめて差し上げます」
腕を引いて、振る。目に見えない凶悪な刃が無数に飛び出し、手当たり次第に兵士たちを斬り裂いた。
残る兵士たちも蒼白になってあとじさる。剣を立てて身を守ろうとするが、何から身を守ればいいのか彼ら自身も分かっていなかった。サキやクルルの技と違い、エルミアの技は風。目に見えないから防ぎようがない。
すっかり委縮している兵士たちを尻目に、エルミアはゆっくりとぼくを振り返った。
ぶざまにへたり込んでいるぼくに笑って手を差しのべる。
「リョウタさま。わたくしはあなたに、ひらかれました。どうぞ存分にお使いくださいまし」
ぼくはその手をとって立ち上がった。身体がつらい。だがここが最後のだめ押しだ。
「聞け! グエンラルデの人々よ! 今この国に風がもたらされた。ここにいる、エルミア・フランチェスカ・モリガンがこの国に風を取り戻したことを知るがよい!!」
ひょうと空が大きく鳴り、強い風が吹きつけた。風はそのまま吹き続け、人々の髪を乱す。かつてはこの国にも当たり前にあった、風。今度こそ戻ってきたと、ここにいる全ての人が実感するには充分だった。
だが今はそれが破滅につながる人もいる。宰相はなおも部下を叱咤し奮い立たせ、幾度めかの吶喊を指示していた。まだ人数でははるかに勝っている。勝機は充分にあった。
エルミアは余裕の笑みで両手を前に突き出すと、「サキ姉さま。手を貸してくださいまし」と声をかけた。
「ん」
サキが小走りに近寄り、エルミアの後ろから手を添える。
「はっ!」
気合いとともに、エルミアが鋭いつむじ風を生み出す。そこへサキが炎を加えた。
「煉獄の旋流!」
強風に巻き込まれた炎は渦巻く巨大な竜巻となって吹き上がり、見る間に人々を巻き込んだ。
威力も視覚効果も、恐怖を覚えるには充分すぎる力だった。
「宰相閣下!」
ぼくは再び声を張った。
「すでに勝負は決しました。風は私の手の内にあります。まだ戦うのですか?」
宰相は、なにも言わなかった。
ぼくにはその表情を読み取ることはできなかった。
+ + + + +
小さな孤島、クローマ島での決戦は終わった。
戦闘での決着とは言いがたい。だがともかくも戦闘フェーズはひと区切りついた。
しかし戦いはまだ終わっていない。王位継承権をめぐる争いに決着をつけなければ、ぼくらの安泰もない。
ぼくらは大義名分を手に入れた。この国の風。それをもたらした救世主は今、ここにいる。ぼくのとなりに。エルミアがどう動くかで争いの行方は決する。
「やれやれ。生き残れてよかったよ」
ちっとも大変そうな様子も見せず、笑ったのはアメリア。
「きみのおかげで助かったよ、魔導士くん。さすがミアの眼に狂いはなかったな」
「恐縮ですが、頑張ったのはミアさまですよ。ぼくは何もしていません」
「謙遜するなよ。こんな傷だらけで頑張ったじゃないか」
笑いながらぼくの腕をぽんぽんと叩いた。
「ミアを頼むよ。ふつつか者だが、わたしの可愛い妹なんだ」
そう言った目は、歳の離れた妹をいつくしむように、優しさにあふれていた。
「ミア。リョウタどのにちゃんとついていくんだぞ。逃しちゃ駄目だからな」
「な、なにを一体、リア姉さまったら」
エルミアはあたふたとうろたえ、でもしっかり「わかってます」と答えてぼくを見た。
逆にぼくの方が気恥ずかしくて、エルミアをまともに見られなかった。
そしてぼくらは今、王都に向かっている。
家のことは夫人とアメリア、シンシアに託し、モリガン子爵とエルミアはベルリアン王子に会うべく、道を急いでいた。ぼくも同行している。
ここではっきり決着をつけないと、火種がくすぶり続けることになる。気の進まない仕事だが、やるしかなかった。
火急の用件であったとしても、王子に面会するには通常相当の時間を要する。だが今回はそれほど待たされなかった。もちろんその途上で、側近の人々には事情をたっぷりと周知してまわっている。
「すると、早急に即位を宣言してしまえと申すのだな?」
「はい、さようにございます、殿下」
ベルリアン王子は三十前後だろうか。見た目は若い部類だと思うけれど、国を背負っている責任感からか、雰囲気には威厳があった。
「これなるわが娘、エルミアが我が国の風を取り戻しました。これを公言し、早々に即位を表明してしまえば、ジョアン殿下の動きを封じることができると思われます」
「ふむ」
王子は側近を呼び寄せて、なにか話している。
「その娘が風を取り戻したと言うが、それを証明できるのか?」
王子の側に立つ男が訊いてきた。
控えたままのエルミアが片手を軽く動かす。
「うわっ!?」
部屋の中をかなりの強さの風が吹き抜けた。風向きからしてエルミアの手から風が生まれているのがわかった。風はさらに吹き続けている。
「これはそなたが?」
「はい」
王子の問いにエルミアは短く答え、手を動かすと今度は風が逆方向に吹き始めた。
「風を自在に操れるのか。恐ろしい力だな」
王子の表情からは、好意や好奇は感じ取れなかった。強いて言うなら畏怖。もっと言えば嫌悪だった。
エルミアの印象はあまりよくない。それがぼくには少し気になった。
ところでぼくがなぜそんな仔細を知っているかというと、ぼくもその場に控えていたのだ。鍵の乙女を開いた導師として後方にいたものの、ぼくに興味が向くことはあまりなかった。
そのため、わりとゆっくり観察できたのだが、その場はモリガン子爵の意向が通ったようだった。王子は行動を起こすことを決意し、そう宣ったが、あまり熱意を感じていないようだった。
別に子供のようにはしゃげ、とは言わないが、なんだろうこの温度差。妙に醒めた目でエルミアを見ている。
「これで私の王位は安泰、というわけだな」
王子は言った。
「卿には感謝する」
「もったいなきお言葉にございます」
「いや、多大な功績だ。これで兄上に先んじることができる。卿にはどう報いたらいいだろうか?」
「このような貧乏貴族には、お褒めにあずかっただけでも過分な褒美にございます。ですが、厚顔を承知でお願いするならば、なにとぞ我が領地を安堵して下さいますよう、お願い申し上げます」
「ふむ。そなたは欲がないな」
王子と子爵は特段親しいという間柄でもない。政治的な、腹の探り合いといった会話になってしまうのはやむを得ないのかも知れない。
「なれば、我が国に風を取り戻したもう一人の功労者、これなる導師に充分に報いてやって下さいますよう」
うわ、さりげなくぼくをダシにしてきた。さすがちっちゃくても貴族さま。侮れない。
「ええと、ぼくはただの流れ者です。ですから……褒美をいただけるならありがたく受け取りますが、領地とか地位とか、そんなものは望みません。それとこの地にいる間の安全を保証していただければ充分です」
あまり遠慮するのもよくない。この功績をタネに政治的野心を持っているのではないかと疑われる恐れがある。ある程度報酬を無心して――それも財貨とか宝石とか、一時的な支払いで済むもの――なんだこの程度の小者か、と思われておくのが無難だった。政治的な思惑は肩がこる。
「そうか。わかった。褒美は存分につかわそう」
ぼくは黙って頭を下げた。
「それと、娘。エルミアといったか。そなたにも報いねばならんな。妃にはしてやれぬが、我が側室でどうだ?」
「へっ?」
突然の申し出に変な声が出てしまったのは仕方ないだろう。それに気づいたエルミア本人は真っ赤になってしまい、「え? あの、その……」と口ごもって縮こまってしまう。
「そんな……おそれ多いです。わたくしのようなものがそんな大それたこと……」
エルミアの反応は素だったが、田舎者の貴族の娘と印象づけるには申し分なかった。
「そんなことはないぞ。そなたの功績は計り知れない。側室程度では不満だろうが、まずはそれで収めてくれぬか? もちろん財貨も宝石も充分につかわそう」
「わたくしのようなものに、そんな、もったいないです。どうかご勘弁を」
エルミアは泣きそうな顔で答えた。結果的にはそれがよかったのだろう。
ぼくらは『田舎者の、世情にうとい人々』という印象でまとめられることになり、無事退出することができた。
謁見の間を後にして、ぼくは大きくため息をつき、モリガン子爵に笑われた。
「笑いごとじゃありませんよ」
ある意味、戦闘よりきつかった。宮廷闘争というものの片鱗を見た気がした。正直に言って、できれば関わりたくなかった。勝てる気がしない。
「かくいう私も、王族に直接お目見得などなかったからな。緊張したよ」
それでも笑っていられるのは、大人の余裕か。
だがその表情を改めて、子爵は言う。
「むしろこれからが正念場かも知れないな。わたしたちは思ったより大きな力を手にしてしまったのかも知れない」
ほどなく報せがきて、二日後に宣言式を行うので出席するようにとの指示があった。
その場で、エルミアの力を見せてほしいという。風の鍵の乙女のお披露目だった。
+ + + + +
ベルリアン王子が王位に就く意志を明らかにした。
これはつまり、対抗者の可能性の芽を摘んだ、ということになる。
夜中になってから、ぼくらは今度はジョアン王子に会いに行った。
もちろん非公式である。宵闇のなか、さらに暗い影をつたって進んでいく。
モリガン子爵とエルミアはすいすいと影をつたって先に行ってしまう。ぼくは必死でついていかなければならなかった。前に言っていた暗殺の技には、こういった隠密行動のスキルも含まれるらしい。
王宮は広い。招かれずして中を探るのは大変だったが、モリガン子爵はほどなくジョアン王子の居所を探り当てた。
ジョアン王子の居室。おそらく場所は変わっていないが、監視がついていた。公言こそされていないがもう公然の敵になっているのだろう。その警戒厳重な部屋に入り込むには。
「こちらですわ」
モリガン子爵に続いてエルミアが天井裏にあがり、ぼくに手を差し出してきた。
「ちょっと、その身軽さはなんなの……」
相当な訓練を積んでいる。どこが「守られるだけの存在」なんだか。ぼくよりよほどすごいじゃないか。
心の中で不満を述べながら、ぼくも何とか天井裏に上がった。
再びジョアン王子の居室に、今度は上から差し掛かった。そしてモリガン子爵はこともなげに部屋に降りた。
「失礼。ジョアン殿下であらせられますな?」
突然の不審者にも、ジョアン王子は興味を示さなかった。
「なんだい? 私を暗殺しにきたのか? 今の私には殺す価値もないよ。いや、やるなら暗殺より公開処刑の方がいいだろう」
自分の運命を受け入れている。そんな風に見えた。つまりは、もうあきらめていた。言葉も、態度も。
モリガン子爵が半身を引いて道を開け、ぼくを見た。ジョアン王子に質問する権利を譲ってくれようとしている。
「殿下。あなたのもとに、異世界の者たちがいましたよね?」
「ああ。いたよ」
「あなたは彼らとどんな話を? 何か取り引きをしたのですか?」
「彼らの望みは……風だった。彼らも風を求めていると。それができるのがマルキアだと言った。だから風を取り戻してほしいと、彼らは望んだ。そのかわりにどんな助力もすると」
「そうまでして王位がほしかったのですか?」
「王位か……」
ぼくの質問にジョアン王子は遠くを見るような回答だった。
「なぜ私は、王位など欲したのだろうな。私はただ、マルキアを幸せにしてやりたかった。それだけだったのに……。どこで道を違えてしまったのだろうな。何もしてやれなくて……」
王子の目から涙があふれた。
ああ、そうか。
この人もぼくと同じだ。
最初は自分のためじゃなかった。大切な人を幸せにしてあげたいと思っただけ。
そこに付け込まれてしまった。たまたまぼくは鍵の乙女たち以外に何も持っていなかったけれど、この人は持てるものが多すぎた。
「私は浮かれていたのかも知れないな。大事なものを見失っていた。
これが神罰というものか? だったら私に降してくれればいいものを。マルキア……」
ぼくはとても責める気にはなれなかった。彼の姿は、明日のぼくの姿だ。そう思えてならなかった。
「リョウタどの。まだ訊きたいことはあるかね?」
モリガン子爵の静かな問いに、ぼくはかぶりを振った。
「ぼくにどうこう言える資格なんてありませんよ。それより閣下はどうなんです?」
モリガン子爵は王子の野心のとばっちりを受けた、言ってみれば被害者だ。それもあやうく一族みなごろしになるところだった。報復の理由は充分にある。
「私にも言う資格はないな。後は政治が決着をつけてくれる」
子爵は軽く肩をすくめた。欲がないのかも知れないが、その度量を感じられたことがぼくは嬉しかった。
哀しみにくれる王子を取り残しぼくらは退出することにしたが、その前にぼくはひとつだけ、魔法をほどこした。自己満足と言われればその通りだけど、ほうっておけなかったのだ。
---------------------
涙にくれる王子の耳に、声が届いた。
(殿下)
はっとして王子は顔をあげる。
(ジョアン殿下)
「……マルキア?」
(ありがとうございます、殿下。殿下はこんなわたくしに、とてもよくして下さいました。今度は殿下が、わたくしの代わりに幸せになって下さい)
「待ってくれ! 私はまだなにもできていない! 挙句におまえを巻き込んでしまった。すべてをおまえに押し付けて、私だけがのうのうと生きてゆくなど……」
(いいえ。わたくしはもう充分に受け取りました。とてもとても、幸せでした。
ですからジョアンさま。これからはどうか、あなたさまの人生を生きて下さい)
「マルキア……」
(あなたさまの幸せがわたくしの幸せです。いつも、いつまでも、見守っていますから。
つらくなったらお呼び下さい。でも、あなたさまはまだこちらに来てはいけません。
どうかわたくしのために、幸せになって下さいまし)
「…………」
とめどなく涙が流れた。言葉など見つからなかった。
こんな自分でも赦してくれるというのか。
こんな自分の幸せを願ってくれるというのか。
「マルキア……」
今はまだ無理だ。自分で自分が許せない。
だがそれに囚われてここに立ち止まってしまったら、おまえは悲しむのだろうな。だったら生き残った者は、その務めを果たさなければならない。
わかっている。だがもう少しだけ、おまえのために涙を流すことを許してくれ……。
---------------------
「なんだかんだ言っても、リョウタさまはお優しいですね」
「……ぼくは偽善者だから」
わざとぶっきらぼうに言ったぼくを、ふふっと笑ってエルミアは受け止める。
「ほら、そうやって悪ぶって」
わかってますよ、と言わんばかりのエルミアに、ぼくは恥ずかしくて顔が向けられない。
ジョアン王子のところに置いてきたものは、幻惑魔法だった。もちろんぼくは死者を呼び寄せることなどできない。幻を見せただけだ。それも声だけ。
ぼくはマルキアという人を知らない。王子の記憶からその人の映像を呼び出して再構築するなど、ぼくには無理だった。だから声だけ、それっぽくなるように仕込んだのだけれど、果たしてどう聞こえただろうか。
死んだ人の心中を忖度するなんておこがましい。だけどきっとそう思っていたと思うのだ。なにより自分のために王子が苦しんでいるのなんか見たくないはずだ。余計なおせっかいだと承知している。だから偽善者呼ばわりしてくれていい。
「早く帰って休みましょう。人は夜は寝るものでしょう?」
照れ隠しに言ったぼくの言葉を、年長者はそれに相応しい度量で受け止めてくれた。
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