あの角を曲がれば、美少女とモンスター

桐坂数也

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あの角の先には、異世界と少女。

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 それはささいな違いだった。

 高校からの帰り道。自動販売機でジュースを買って、お釣りの十円玉を志朗はあらためていた。特に意味があったわけではない。が、何故か気になる不思議な違和感。
 (なんだろう?)

 よくある古ぼけた茶色の十円玉だ。昭和65年の。
 (昭和って、ええと、63年までじゃなかったっけ?)

 珍品?
 事故品?
 偽造品?

 イレギュラーなものであるのは間違いない。
 だがよいものなのか?悪いものなのか?見せびらかして自慢したらいいのか?捨てたらいいのか?


 考えながら角を曲がる。

 しばらく歩いて志朗は足を止めた。
 そこはいつもの道ではなかった。いや、曲がったのは確かにいつもの角。だがそこから先が全然違う。何かがおかしい。いろいろとおかしい。

 まず道がおかしい。ところどころ波打って、虹色のような不思議な光を放っている。
 次に木がおかしい。不自然なほど巨大な枝に生い茂った葉っぱは、この世のものとは思えないカラフルな原色。
 さらに人がおかしい。目の前には後ろ姿の女の子。制服姿でも、スカートでもない。裾の長い異国風の服。その上には……鎧?そして髪は長い金髪だ。
 そして物体がおかしい。女の子の正面には、この世のものとは思えない不気味なモンスター。

 「はあっ!」
 女の子が剣を振り上げ、モンスターに斬りかかった。モンスターが太い腕を振るう。それをかいくぐって剣がモンスターに届く。モンスターは怒りの咆哮をあげて腕を振り上げる。その隙に女の子の第二撃。だが皮膚が固いのか、傷はあまり深くない。

 「ニーナ!援護!」
 「インドラ!」

 稲妻がモンスターを撃った。閃光と轟音に驚いて、志朗は腕で目をかばった。
 (なんだ?何が起こってるんだ?)

 「ユーリ。とどめよ」
 「分かってる!」

 女の子の剣が光り始めた。稲妻に撃たれて硬直しているモンスターめがけて、女の子は突撃した。
 「はあああっ!!」
 大きく振りかぶって全力で斬撃。
 
モンスターが文字通り真っ二つになって倒れた。
 倒れたモンスターの身体は光り出し、やがて無数の小さな光の玉に分かれて、散り散りになっていった。後に残ったのは幾つかの、何かのアイテムっぽいもの。


 「はあ、終わった終わった」
 女の子はそう言いながらアイテムを拾って振り返った。

 ツーサイドアップの金髪がふわりと揺れる。ノースリーブの、ひざ下まである裾の長いジャケットにホットパンツとロングブーツ。まあ志朗のボキャブラリーで表現すればそんなところだ。
 手足には申し訳程度に、鎧らしきもの。

 直前の死闘が似つかわしくない、可愛い女の子だ。
 志朗は思わず見とれた。可愛かったから、だけではない。その顔に見覚えがあったのだ。
 向こうも志朗に気がついた。

 「あれ? あんた誰? また別の日本から来た人?」


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