53 / 57
女槍つかいと決闘、で調略。
2.相思
しおりを挟む
稜水には戦士の訓練と、部隊の編成を。
鍛冶火には武器の製造と、特産品となる工芸品の試作を。
市場の青果卸の親父には、情報網の整備と情報の集積を。
紅乃には近代医療の教育とその拡散を。
もうひとつ、稜水には綿花を中心とした複合産業の構想も伝えてあった。
さらに勘定方には為替や交易などの金融を。
それぞれのアイディアを伝え、実行計画を作ってもらい、領主に進言してもらう。
そして、資金を捻出してもらう。
とは言え、それほど豊かな村ではない。資金にも限りがある。
どこにどれだけ配分するか。それをどう使うか。
優先順位と効率が問われる。調整の手腕が必要だった。
俊哉はそのための裏方に徹した。
功績を挙げ賞讃されるのは、それぞれの者たちでいい。じっさい、それに相当する苦労をするだろうし、それに見合った成果を挙げるはずだった。
「ご自分の功をひとに譲ってしまわれるなんて。おくゆかしいのでしょうけど、わたくしは残念ですわ。
どれも素晴らしいものばかりなのに」
功を誇らない俊哉を見て、しのぎはたいそう残念そうだった。歯がゆく思っているのかもしれなかった。
いまやすっかり傷も癒え、俊哉から夜ごとさまざまな構想を聞かされ、あらゆる草案を組み立てる話し相手になっているのが、他ならぬしのぎだ。
だからしのぎは、どの事業の本質もよく理解していた。利点も問題点も、あるいは俊哉より把握していたかもしれない。
毎夜間近で顔を付き合わせながら、むつごとのひとつすらないこの二人は、傍目にはどんな関係に見えるのだろうか。
少なくとも俊哉は、平静ではなかった。
目の前にいるのは、美しい少女。
見目うるわしく、聡明で、俊哉の言わんとすることをほぼ正確に理解できる、高い能力を持つ少女。
要約や、建白書の草案をまとめるのもうまく、また仕事を離れてもよく気が利いて、細やかな心配りを併せ持った少女。
惹かれるなというのが無理な注文というものだ。
俊哉の言に微笑み、驚き、うなずいて熱心に書きつけるこの少女は、自分のことをどう思っているのだろう。
それはしのぎも、同じだった。
目の前にいる、異世界からの来訪者は自分が知らないたくさんの事を知っている。
自分が思いもつかない事を次々と思いつき、説明し説得し、どんどんまとめて人を動かす。
かと言って決して上から目線ではなく、こんな自分を尊重して意見を訊いてくれたりもする。
話を聞いているだけでも楽しいし、役に立てるのはもっと嬉しい。
こんなに理知的で懐の深いこの人の瞳の奥には、いったいどんな思いがあるのだろう。
自分をどんな風に思ってくれているのだろう。
そう思いながら、間近に顔を付き合わせた二人の夜は更けてゆく。
鍛冶火には武器の製造と、特産品となる工芸品の試作を。
市場の青果卸の親父には、情報網の整備と情報の集積を。
紅乃には近代医療の教育とその拡散を。
もうひとつ、稜水には綿花を中心とした複合産業の構想も伝えてあった。
さらに勘定方には為替や交易などの金融を。
それぞれのアイディアを伝え、実行計画を作ってもらい、領主に進言してもらう。
そして、資金を捻出してもらう。
とは言え、それほど豊かな村ではない。資金にも限りがある。
どこにどれだけ配分するか。それをどう使うか。
優先順位と効率が問われる。調整の手腕が必要だった。
俊哉はそのための裏方に徹した。
功績を挙げ賞讃されるのは、それぞれの者たちでいい。じっさい、それに相当する苦労をするだろうし、それに見合った成果を挙げるはずだった。
「ご自分の功をひとに譲ってしまわれるなんて。おくゆかしいのでしょうけど、わたくしは残念ですわ。
どれも素晴らしいものばかりなのに」
功を誇らない俊哉を見て、しのぎはたいそう残念そうだった。歯がゆく思っているのかもしれなかった。
いまやすっかり傷も癒え、俊哉から夜ごとさまざまな構想を聞かされ、あらゆる草案を組み立てる話し相手になっているのが、他ならぬしのぎだ。
だからしのぎは、どの事業の本質もよく理解していた。利点も問題点も、あるいは俊哉より把握していたかもしれない。
毎夜間近で顔を付き合わせながら、むつごとのひとつすらないこの二人は、傍目にはどんな関係に見えるのだろうか。
少なくとも俊哉は、平静ではなかった。
目の前にいるのは、美しい少女。
見目うるわしく、聡明で、俊哉の言わんとすることをほぼ正確に理解できる、高い能力を持つ少女。
要約や、建白書の草案をまとめるのもうまく、また仕事を離れてもよく気が利いて、細やかな心配りを併せ持った少女。
惹かれるなというのが無理な注文というものだ。
俊哉の言に微笑み、驚き、うなずいて熱心に書きつけるこの少女は、自分のことをどう思っているのだろう。
それはしのぎも、同じだった。
目の前にいる、異世界からの来訪者は自分が知らないたくさんの事を知っている。
自分が思いもつかない事を次々と思いつき、説明し説得し、どんどんまとめて人を動かす。
かと言って決して上から目線ではなく、こんな自分を尊重して意見を訊いてくれたりもする。
話を聞いているだけでも楽しいし、役に立てるのはもっと嬉しい。
こんなに理知的で懐の深いこの人の瞳の奥には、いったいどんな思いがあるのだろう。
自分をどんな風に思ってくれているのだろう。
そう思いながら、間近に顔を付き合わせた二人の夜は更けてゆく。
0
あなたにおすすめの小説
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる