あなたの人生、なまくらですか?

桐坂数也

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女槍つかいと決闘、で調略。

4.鴇色

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やしろの敷地内。

俊哉がいつも稽古している場所だ。そこで俊哉とほむらは向き合った。


ふたりとも、それぞれの奉じる色の陣羽織をまとっていた。

ほむらはその下に、簡素な皮鎧を付けている。本当に簡素なものだ。

その下はむき出しの腕や足、胸もと。

よほど刃を受けない自信があるものと見える。俊哉と目を合わせると、またもにやりと笑った。

その余裕が癪にさわった。

(何としても、へこましてやる……)


「俊哉さま……」

小さな声は、しのぎだった。彼女は立会人だ。

「どうぞ、お気を楽になさってください。朝の修練が必ず御身を助けます」

「しのぎ……」


誰にも気づかれていないと思っていた。

知られたら気恥ずかしいというのもあったし、吹聴してまわるようなことでもない。

むしろ、そんなことに苦心しているとは、やいばの名折れだと思っていた。

だが、しのぎは、しのぎだけは、承知してくれていたのだ。

そのうえで、穏やかに力づけてくれる。

これ以上の応援があるだろうか。


深呼吸して邪気まみれの心を鎮める。

(落ち着け。今こそ成果を見せるときだ)

ゆっくりと呼吸しながら、意識をより深いところへと向けていく。

実戦で試すのは初めてだったが、むしろちょうどいい機会だ。



「それでは」

しのぎが表情をあらためる。

「茜の神の刃、俊哉。ときの神の刃、ほむら」

凛とした声で、しのぎが両者の名を挙げた。

「いざ尋常に、立ち会わん!」


「せえぇぇぇぇい!!」

いきなりほむらが、槍を大きく振り回しながら打ちかかってきた。

穂先を上から叩きつける。

俊哉は全力でとびすさる。一歩、足りずに二歩。

かろうじて刃を避け、空を切った槍先は地面を大きくえぐって土煙をあげた。


「やるね。あたしの初撃をよけるとは」

「そっちこそ、その得物さばきは見事なものだ」

極太の槍は重さも相当なものだろうが、まるで重さなどないかのように軽々と振り回す。

ほむらの膂力に、俊哉は内心舌を巻いた。

(なるほど、うぬぼれというわけでもないようだな)

どうやって間合いに入るか。


槍はリーチが長い。剣では不利だ。

懐に飛び込むしか活路はない。

そう決意するが、そうはさせじと槍がうなりをあげて旋回する。

うかつに触れれば骨まで砕かれそうだ。


「せいっ!」

飛んでくる棍棒を剣の柄で受ける。

下手に受けると手が潰されそうだが、うまいこときっちりと受け切った。が、そのまま横に飛ばされる。

圧倒的な力だった。


ひょいひょいと三、四歩飛び下がり、俊哉は剣を構え直す。

あせってはいなかった。

(ここで受ける)

ほむらはにやりと不敵に笑う。八重歯がのぞく口もとは、案外可愛いかもな、などと俊哉はぼんやり思った。

だが意識は落ち着いて、一挙手一投足を冷静に見ている。


槍が世界を横に切り裂く。

身を沈めて俊哉はよける。

さらに苛烈な突き。

跳び上がって槍の身に足をつき、さらに跳び上がって後ろに下がる。

「ちいっ。舐めたまねを!」

再度突き込まれる穂先を、わずかに身をひねって躱しつつ鋭く振りかぶり、

「むんっ!」

気合一閃。


穂先を見事に斬り落とした。


「やった!」

おもわずしのぎが、ちいさく叫ぶ。

普通なら斬れないような、丸太のような槍身である。

肉体の潜在力が、効率的に剣に伝えられた結果だった。


「ほお?」

だが、ほむらは怯むこともなく、平然と刃のない槍を突き出してきた。

「!」

「ははっ。まだ勝負は終わってないよ!」

(まだ負け惜しみを言うか?)

勝負はどちらかが戦闘不能になるか、負けを認めたとき、となっている。

得物の力は半減したものの、まだほむらは勝負をあきらめていない。

「ほらほら。うかうかしているとひどい目に遭うよ。刃のない槍になんて負けたら、かっこうがつかないだろ!」

まったくその通りなのだが、と、旋回する棍棒をよけながら、俊哉は忌々しさを禁じ得ない。

(どうしてくれよう?)

さらに楽しそうに、ほむらは槍を繰り出してくる。

「それ!」

とっさに俊哉は剣を手放した。取り落としたように見えたかもしれない。

「今だ!」

そう思ったのは、どちらだったろうか。

突き出された穂先のない槍を、俊哉ははっしと両手でつかんだ。

「!」

そのまま力較べになる。しかし。

ほむらがまたもにやりと笑う。力較べならば、のぞむところ。

互いに一歩も譲らず、顔を真っ赤にして一本の棒をつかんでいるふたり。


「おい、ほむら」

「なんだ!」

「……おまえ、八重歯がかわいいな」

「は?」

いきなり俊哉が、全力で引いていた槍身を前に突き出した。

態勢を崩して、ほむらはよろめき、尻もちをついてしまう。

「しまっ……」

あっと顔を上げた時には、俊哉の顔が目の前に迫っていた。

そして俊哉は、ほむらの髪をぐいと掴むと。



いきなりほむらの唇をうばったのだった。



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