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魔法使いは乱戦の果てに。
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思わぬ協力要請。いやでもトロール相手って。
「承知した。ぼくらも協力する」
「って、ええええ!?」
勇ましく宣言したのは我らがリーダー、アルベルフトだった。
「無茶だよアルベルフト! わたしたちF級だし、今ので大分ダメージも負っているのよ!」
「なら回復してくれ。ミラ、頼む」
「アルベルフト!」
「目の前に困っている人がいるなら、助ける。それできみに受けた恩を返したい」
「え?」
アルベルフトの意外な言葉に、わたしは一瞬固まってしまった。
「ぼくはきみに、何度も助けられた。だからその恩を返したい。でもどうしたらいいかわからないから、誰かを助けることで少しでもその恩を返したいんだ。だめだろうか、ニーナ?」
ずるいよ、それは。
そんなこと言われたら、言い返せないじゃない。
そして。
「おう、アルベルフトの言う通りだ!」
「おれたちはまだ戦える。なら出来ることをするまでだ!」
これで血がたぎらない男の子もまたいない。やれやれ。
「非常事態だな。おれも手を貸そう」
ネブレクまで、ノリノリだなあ。C級の彼が加われば、勝算は大いに上がるからいいけどね。
「よし。これだけいれば百人力だ!」
D級のパーティが四人、C級がひとり。全員がトロールに向き直る。
「よし、ぼくらも行くぞ!」
「待ちなさいってば」
わたしはアルベルフトの首根っこを掴んで止めた。
「身のほどを考えなさい。わたしたちはF級なのよ。同じ前線に立てるわけないでしょ」
さすがに、やみくもに突っ込んでいい相手じゃない。
その間に戦闘が始まっていた。相手は大物、トロール。
対するD級パーティは戦士、剣士、弓術士、魔術師。いいバランスだ。アルベルフトのパーティは近接戦闘タイプが多いから、ここで飛び込むのは難しい。
「みんな、よけろ!」
魔術師が叫んで大技を発動する。業火がトロールを包み込む。
焼かれながらもトロールはじわじわと再生していく。
剣士のネブレクが飛びこんでトロールの足に斬りつける。ひざを突いたトロールに剣士が飛び上がって腕を斬り落とす。やった。だがすぐに再生が始まる。
トロールを狩るには、再生できなくなるまで斬って削って滅し尽くすしかない。根競べだ。だから焦りは禁物。
同時に自分の体力をいかに維持し続けるかなんだけど。
「こいつ!」
斬りかかった剣士の踏み込みが甘かった。トロールに弾き飛ばされる。
集中力が一瞬途切れただけでこの反撃だ。
剣士は軽々と吹き飛ばされて、木の根元に当たって止まる。わたしは血の気が引いた。
たった一撃が命のやり取りになる。一瞬一瞬が真剣勝負だ。
「前衛が欠けてしまった。ぼくが行く」
「アルベルフト! だから無茶は」
「大丈夫。無茶はしない」
ぐっと言葉に詰まった。ずいぶんいい表情をするようになったじゃない。
ミラに剣士の回復を任せて、男たちが駈け出していく。
アルベルフトの両側にギリアテとウルリク。三人がかりでもトロールは半端なかった。
振り回されるトロールの腕にひっかけられてウルリクが吹っ飛ぶ。うまいこと盾で斜めにいなして勢いは削いだものの、受け止め切るところまでは行かなかった。
後方から射られる矢に気を取られているすきにアルベルフトがトロールの腕を斬った。が、浅い。これも弾き飛ばされる。
傷はどんどん再生していく。まだ衰えはないようだ。なら、わたしたちも加勢しないと。
「ミラ、回復は終わった?」
「はい。だいたい」
「じゃ、こっちもお願い」
ミラを招き寄せて、わたしは後ろから肩を抱いた。
「今までやってきたことの総仕上げよ」
「はい」
「魔力を広げて。あなたのフィールドを作るのよ。魔力だけを深く、すみずみまで浸透させるイメージで」
「はい」
シャン!
杖が高らかに鳴り響く。力強い、迷いのない音。ミラの自信が響かせる音。
成長を遂げたミラが今、最大の能力を発揮する。
一心に呪文を詠じるミラ。わたしはそれに自分の歌を重ねた。
わたしが集めた力がミラの身体の裡に流れ込む。身体の負荷に、おもわず吐息を漏らすミラ。可愛らしい唇からこぼれるため息がなまめかしい。
ミラが杖を振るう。ミラの裡に集まった力がいっきに戦場全体に広がった。いまや戦場はミラの手の内。すごい。すごいよ、ミラ!
わたしの歌に合わせて、まるで舞を舞うようにミラは杖を振り、くるりと身をひるがえす。シャリ! と杖が鳴り、魔力のフィールドがしっかりとトロールを捉えた。今だ。
「【祝福】!」
トロールを中心に戦場全体の地面が輝いた。
祝福。
守るべきものには福音を、仇なす者には障碍をもたらす「聖女」の力。今なら味方の力はすべて底上げされる。その術式に乗って。
「【冷却】!」
まずわたしの魔法がトロールの中に深く沁み込んでいった。
トロールを冷やす。冷やして冷やして、身体活動を低下させ、再生速度をとことん遅くする。
ほとんど再生できないくらいに。
「魔術師!」
わたしは叫んだ。
「今なら何でも効くわ! ミラの力に乗って、魔術攻撃を!」
「お、おう!」
魔術師が慌てて呪文を詠唱する。
「みんな離れろ! 【氷槍】!」
中空に長大な氷の槍が幾本も浮かび上がり、トロール目がけて突き刺さった。槍が地面にまで貫通してトロールを縫い付ける。
それでも無理やり身体を引き剥がすトロール。槍の刺さった箇所を引きちぎって脱出した。だが再生の速度が遅い。あちこちちぎれたままだ。
「掩護します! もっと術を!」
ミラが叫び、魔術師が続けて魔法を繰り出す。
「【雹弾】!」
無数の尖った氷のつぶてがトロールの顔面を直撃し、トロールの悲鳴が響いた。頭が半分くらいなくなっている。それでも再生しようとするのは大したものだったが、わたしの魔法のせいで再生が極端に遅い。
「よし、前衛! 後衛に負けるな!」
「おう!」
アルベルフトの号令で、前衛の戦士たちの戦意がつき上がった。それぞれの技を尽くして、トロールを削りにかかる。剣で、メイスで、弓で、魔法で。
「やるじゃないか。これならC級のおれが手柄を横取りせずにすみそうだ」
いつの間にか剣を収めたネブレクが、ゆうゆうと歩いてきた。
「おまえの仲間たちもずいぶん頑張ってるな。技術もだが、いい根性をしている。悪くない」
「だってさ、ミラ。わたしたち、褒められてるよ」
「はい!」
嬉しそうにミラが笑う。
「その嬢ちゃんは聖女だったのか」
「いいえ。でも、未来の聖女さまは確実よね?」
わたしがからかうように言うと、ミラは顔を赤くして俯いてしまう。ああ、可愛いなあ。愛いやつめ。
でもこの娘は本当にそうなってしまうかも知れない。
もしかしたらわたしなんかじゃ手が届かない高みにまで、駆け上がってしまうかも知れない。
◇
トロールを完全に仕留めたころには、陽もずいぶん傾いていた。
全員戦い続けてぐったりだ。ずっと魔術で援護し続けたミラも例外じゃない。わたし? あんまり出番、なかったなあ。
その分、みんなに美味しいものを振る舞ってあげなくちゃね。今回は特に仲間たちをねぎらってやりたい。だってトロールだよ? 複合パーティとは言え、F級がD級相当の魔物を退治したんだよ? すごいじゃない。
今回の結果が査定にどう影響するかわからないけど、全力は尽くした。みんないい顔をしている。それを見ていると、わたしも自然と笑みがこぼれる。うん、やりきったね。みんな、グッジョブ!
特製肉団子のお鍋をみんなに褒めてもらって、わたしもさらにご機嫌。意気揚々とハルムスタッドの街まで帰ってきた。
「まったく、あんたのところは、最後までお騒がせよね」
カウンターに肘をついたノーラが、半ば呆れた眼を向けてくる。
「はは、別に狙ってやってるわけじゃないんだけど……」
この戦いを最後に、わたしたちのパーティは解散となった。
みんな、成長した。ひと皮もふた皮もむけた気がする。いい顔つきになった。冒険者の顔だ。
それでも、それぞれの道は大きく別れることになった。
アルベルフトは自分の領地に帰るそうだ。もっと領主としての研鑚を積みたいと、前向き発言。
「ニーナ。世話になった。ここでの経験は忘れない。でも冒険者を辞めるわけではないからな。必ず戻って来る」
握手を求めて手を差し出すアルベルフト。最初は貴族の御曹司なんてばかにしていたけど、ずいぶん男らしい顔つきになったもんだわ。ちょっときゅんとしちゃったわよ。
「あたしも、お世話になりました。今はアルベルフトさまについて戻りますけど、まだ教わりたいことがたくさんあって……」
「ミラあ。あんたと別れるのは淋しいよう」
「はいはい」
縋りつくわたしの頭を、ミラが小さい子供でもなだめるように苦笑しながら撫でてくれる。
この娘と別れるのは淋しい。ほんと、淋しい。同時に、惜しい。まだまだ伸びるのに。
ギルドからは、聖女として推薦し、王都での研修費用まで出すと言われたのだけれど、彼女はアルベルフトを取った。
でも本人たちが選んだ道だ。笑って送り出してあげなくちゃ。
「これで終わりではないですから。必ずまたご一緒したいです、ニーナさん」
うんうん。ほんとに可愛い娘だわ。
ギリアテとウルリクも、別のパーティを探している。ふたりはしばらく一緒に行動するようだ。せっかく息が合ってきたものね。今まではアルベルフトが指揮をとることが多かったけど、今度は自分たちの地力が試されることになだろう。
みんなそれぞれの道を目指す。
今回の道はさまざまだけれど、みなの未来に祝福あれ。心からそう思う。
その思いは嘘じゃないんだけど。
「ノーラああぁぁぁぁぁ……」
「あー、はいはい、あんたは一から出直しね」
仲間たちを盛大に送り出したあと、わたしは酒場でしゅんとしていた。
昇格の査定を受けた結果、全員E級に昇格。新たな門出を飾ったわけだが。
またもわたしだけが落ちこぼれたのだった。
しょぼくれているわたしを哀れと思ったのか、ノーラとネブレクが付き合ってくれていた。
「レポート読んだ限りじゃあんたってすごいのに、どうしてここ一番が駄目なのよ!?」
「それはわたしの方が知りたいです……」
「確かになあ」
ネブレクがのんびりとジョッキを口にしながら評する。
「あんな、誰もできないようなことができるのになあ。ほんと、変な奴」
うう、なんてひどい言われよう。
「もういっそ、F級固定でいいんじゃね? 最弱なのに最強の魔術師。なんかかっこいいじゃん」
「もう、人ごとだと思って。あと、魔法使いだから」
「はいはい」
くつくつと笑って、ネブレクがジョッキをあおる。もういたたまれない。
わたしはため息と共にジョッキをあおった。何が悪いのか、わたしの方が知りたい。
ここ何ヶ月かのクエストを思い返してみる。楽しい……より、はらはらどきどきの方が多かった気がする。ずいぶん命がけで働いたつもりなんだけどなあ。働けどなお我が等級、変わりもせずにじっと手を見る。この手はずいぶん、仲間を救ったはずなんだけどなあ。
やっぱり、派手な魔術が使えないから?
正統派じゃない、変な技ばっかり使っているから?
それとも、料理とか無駄なことにばかり労力を割いているから?
決して無駄じゃないはずなんだけどなあ。
戦力を上げるためには日々の鍛錬が欠かせないように、すべては結果を出すために必要な手順であるはず……なんだけど。
◇
「ねえネブレク、あんたこの子、どう思う?」
いつのまにか疲れて寝入ってしまったニーナを前に、ノーラが口を開く。
「ああ、悪くはない。いい働きをしているんだがな」
どちらともなくため息をつく。
ニーナが一所懸命なのはよくわかっていたし、頑張っている。成果も上げている。
それが今の仕組みでは、評価が極端に低い。友だちとしては少しは下駄をはかせてやりたいところだが、さすがにそういうわけにも行かず。
(報われないわよねえ)
ニーナが初めてこの酒場で宣言したことを思い出す。ものすごく真剣な目で「魔法使いになります!」と宣言した日。
その言葉通り、彼女は魔法使いになった。なった以上は成功してほしいし、実際頑張っているのもわかっている。
「やっぱり、魔法使いってのがよくないのかしらね」
「さあな。ずいぶんこだわりがあるみたいだが」
うっすら涙を浮かべて眠るニーナを見ながら、ノーラとネブレクも願う。
どうかこの子の未来にも祝福あれ、と。
「承知した。ぼくらも協力する」
「って、ええええ!?」
勇ましく宣言したのは我らがリーダー、アルベルフトだった。
「無茶だよアルベルフト! わたしたちF級だし、今ので大分ダメージも負っているのよ!」
「なら回復してくれ。ミラ、頼む」
「アルベルフト!」
「目の前に困っている人がいるなら、助ける。それできみに受けた恩を返したい」
「え?」
アルベルフトの意外な言葉に、わたしは一瞬固まってしまった。
「ぼくはきみに、何度も助けられた。だからその恩を返したい。でもどうしたらいいかわからないから、誰かを助けることで少しでもその恩を返したいんだ。だめだろうか、ニーナ?」
ずるいよ、それは。
そんなこと言われたら、言い返せないじゃない。
そして。
「おう、アルベルフトの言う通りだ!」
「おれたちはまだ戦える。なら出来ることをするまでだ!」
これで血がたぎらない男の子もまたいない。やれやれ。
「非常事態だな。おれも手を貸そう」
ネブレクまで、ノリノリだなあ。C級の彼が加われば、勝算は大いに上がるからいいけどね。
「よし。これだけいれば百人力だ!」
D級のパーティが四人、C級がひとり。全員がトロールに向き直る。
「よし、ぼくらも行くぞ!」
「待ちなさいってば」
わたしはアルベルフトの首根っこを掴んで止めた。
「身のほどを考えなさい。わたしたちはF級なのよ。同じ前線に立てるわけないでしょ」
さすがに、やみくもに突っ込んでいい相手じゃない。
その間に戦闘が始まっていた。相手は大物、トロール。
対するD級パーティは戦士、剣士、弓術士、魔術師。いいバランスだ。アルベルフトのパーティは近接戦闘タイプが多いから、ここで飛び込むのは難しい。
「みんな、よけろ!」
魔術師が叫んで大技を発動する。業火がトロールを包み込む。
焼かれながらもトロールはじわじわと再生していく。
剣士のネブレクが飛びこんでトロールの足に斬りつける。ひざを突いたトロールに剣士が飛び上がって腕を斬り落とす。やった。だがすぐに再生が始まる。
トロールを狩るには、再生できなくなるまで斬って削って滅し尽くすしかない。根競べだ。だから焦りは禁物。
同時に自分の体力をいかに維持し続けるかなんだけど。
「こいつ!」
斬りかかった剣士の踏み込みが甘かった。トロールに弾き飛ばされる。
集中力が一瞬途切れただけでこの反撃だ。
剣士は軽々と吹き飛ばされて、木の根元に当たって止まる。わたしは血の気が引いた。
たった一撃が命のやり取りになる。一瞬一瞬が真剣勝負だ。
「前衛が欠けてしまった。ぼくが行く」
「アルベルフト! だから無茶は」
「大丈夫。無茶はしない」
ぐっと言葉に詰まった。ずいぶんいい表情をするようになったじゃない。
ミラに剣士の回復を任せて、男たちが駈け出していく。
アルベルフトの両側にギリアテとウルリク。三人がかりでもトロールは半端なかった。
振り回されるトロールの腕にひっかけられてウルリクが吹っ飛ぶ。うまいこと盾で斜めにいなして勢いは削いだものの、受け止め切るところまでは行かなかった。
後方から射られる矢に気を取られているすきにアルベルフトがトロールの腕を斬った。が、浅い。これも弾き飛ばされる。
傷はどんどん再生していく。まだ衰えはないようだ。なら、わたしたちも加勢しないと。
「ミラ、回復は終わった?」
「はい。だいたい」
「じゃ、こっちもお願い」
ミラを招き寄せて、わたしは後ろから肩を抱いた。
「今までやってきたことの総仕上げよ」
「はい」
「魔力を広げて。あなたのフィールドを作るのよ。魔力だけを深く、すみずみまで浸透させるイメージで」
「はい」
シャン!
杖が高らかに鳴り響く。力強い、迷いのない音。ミラの自信が響かせる音。
成長を遂げたミラが今、最大の能力を発揮する。
一心に呪文を詠じるミラ。わたしはそれに自分の歌を重ねた。
わたしが集めた力がミラの身体の裡に流れ込む。身体の負荷に、おもわず吐息を漏らすミラ。可愛らしい唇からこぼれるため息がなまめかしい。
ミラが杖を振るう。ミラの裡に集まった力がいっきに戦場全体に広がった。いまや戦場はミラの手の内。すごい。すごいよ、ミラ!
わたしの歌に合わせて、まるで舞を舞うようにミラは杖を振り、くるりと身をひるがえす。シャリ! と杖が鳴り、魔力のフィールドがしっかりとトロールを捉えた。今だ。
「【祝福】!」
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祝福。
守るべきものには福音を、仇なす者には障碍をもたらす「聖女」の力。今なら味方の力はすべて底上げされる。その術式に乗って。
「【冷却】!」
まずわたしの魔法がトロールの中に深く沁み込んでいった。
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「魔術師!」
わたしは叫んだ。
「今なら何でも効くわ! ミラの力に乗って、魔術攻撃を!」
「お、おう!」
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「みんな離れろ! 【氷槍】!」
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それでも無理やり身体を引き剥がすトロール。槍の刺さった箇所を引きちぎって脱出した。だが再生の速度が遅い。あちこちちぎれたままだ。
「掩護します! もっと術を!」
ミラが叫び、魔術師が続けて魔法を繰り出す。
「【雹弾】!」
無数の尖った氷のつぶてがトロールの顔面を直撃し、トロールの悲鳴が響いた。頭が半分くらいなくなっている。それでも再生しようとするのは大したものだったが、わたしの魔法のせいで再生が極端に遅い。
「よし、前衛! 後衛に負けるな!」
「おう!」
アルベルフトの号令で、前衛の戦士たちの戦意がつき上がった。それぞれの技を尽くして、トロールを削りにかかる。剣で、メイスで、弓で、魔法で。
「やるじゃないか。これならC級のおれが手柄を横取りせずにすみそうだ」
いつの間にか剣を収めたネブレクが、ゆうゆうと歩いてきた。
「おまえの仲間たちもずいぶん頑張ってるな。技術もだが、いい根性をしている。悪くない」
「だってさ、ミラ。わたしたち、褒められてるよ」
「はい!」
嬉しそうにミラが笑う。
「その嬢ちゃんは聖女だったのか」
「いいえ。でも、未来の聖女さまは確実よね?」
わたしがからかうように言うと、ミラは顔を赤くして俯いてしまう。ああ、可愛いなあ。愛いやつめ。
でもこの娘は本当にそうなってしまうかも知れない。
もしかしたらわたしなんかじゃ手が届かない高みにまで、駆け上がってしまうかも知れない。
◇
トロールを完全に仕留めたころには、陽もずいぶん傾いていた。
全員戦い続けてぐったりだ。ずっと魔術で援護し続けたミラも例外じゃない。わたし? あんまり出番、なかったなあ。
その分、みんなに美味しいものを振る舞ってあげなくちゃね。今回は特に仲間たちをねぎらってやりたい。だってトロールだよ? 複合パーティとは言え、F級がD級相当の魔物を退治したんだよ? すごいじゃない。
今回の結果が査定にどう影響するかわからないけど、全力は尽くした。みんないい顔をしている。それを見ていると、わたしも自然と笑みがこぼれる。うん、やりきったね。みんな、グッジョブ!
特製肉団子のお鍋をみんなに褒めてもらって、わたしもさらにご機嫌。意気揚々とハルムスタッドの街まで帰ってきた。
「まったく、あんたのところは、最後までお騒がせよね」
カウンターに肘をついたノーラが、半ば呆れた眼を向けてくる。
「はは、別に狙ってやってるわけじゃないんだけど……」
この戦いを最後に、わたしたちのパーティは解散となった。
みんな、成長した。ひと皮もふた皮もむけた気がする。いい顔つきになった。冒険者の顔だ。
それでも、それぞれの道は大きく別れることになった。
アルベルフトは自分の領地に帰るそうだ。もっと領主としての研鑚を積みたいと、前向き発言。
「ニーナ。世話になった。ここでの経験は忘れない。でも冒険者を辞めるわけではないからな。必ず戻って来る」
握手を求めて手を差し出すアルベルフト。最初は貴族の御曹司なんてばかにしていたけど、ずいぶん男らしい顔つきになったもんだわ。ちょっときゅんとしちゃったわよ。
「あたしも、お世話になりました。今はアルベルフトさまについて戻りますけど、まだ教わりたいことがたくさんあって……」
「ミラあ。あんたと別れるのは淋しいよう」
「はいはい」
縋りつくわたしの頭を、ミラが小さい子供でもなだめるように苦笑しながら撫でてくれる。
この娘と別れるのは淋しい。ほんと、淋しい。同時に、惜しい。まだまだ伸びるのに。
ギルドからは、聖女として推薦し、王都での研修費用まで出すと言われたのだけれど、彼女はアルベルフトを取った。
でも本人たちが選んだ道だ。笑って送り出してあげなくちゃ。
「これで終わりではないですから。必ずまたご一緒したいです、ニーナさん」
うんうん。ほんとに可愛い娘だわ。
ギリアテとウルリクも、別のパーティを探している。ふたりはしばらく一緒に行動するようだ。せっかく息が合ってきたものね。今まではアルベルフトが指揮をとることが多かったけど、今度は自分たちの地力が試されることになだろう。
みんなそれぞれの道を目指す。
今回の道はさまざまだけれど、みなの未来に祝福あれ。心からそう思う。
その思いは嘘じゃないんだけど。
「ノーラああぁぁぁぁぁ……」
「あー、はいはい、あんたは一から出直しね」
仲間たちを盛大に送り出したあと、わたしは酒場でしゅんとしていた。
昇格の査定を受けた結果、全員E級に昇格。新たな門出を飾ったわけだが。
またもわたしだけが落ちこぼれたのだった。
しょぼくれているわたしを哀れと思ったのか、ノーラとネブレクが付き合ってくれていた。
「レポート読んだ限りじゃあんたってすごいのに、どうしてここ一番が駄目なのよ!?」
「それはわたしの方が知りたいです……」
「確かになあ」
ネブレクがのんびりとジョッキを口にしながら評する。
「あんな、誰もできないようなことができるのになあ。ほんと、変な奴」
うう、なんてひどい言われよう。
「もういっそ、F級固定でいいんじゃね? 最弱なのに最強の魔術師。なんかかっこいいじゃん」
「もう、人ごとだと思って。あと、魔法使いだから」
「はいはい」
くつくつと笑って、ネブレクがジョッキをあおる。もういたたまれない。
わたしはため息と共にジョッキをあおった。何が悪いのか、わたしの方が知りたい。
ここ何ヶ月かのクエストを思い返してみる。楽しい……より、はらはらどきどきの方が多かった気がする。ずいぶん命がけで働いたつもりなんだけどなあ。働けどなお我が等級、変わりもせずにじっと手を見る。この手はずいぶん、仲間を救ったはずなんだけどなあ。
やっぱり、派手な魔術が使えないから?
正統派じゃない、変な技ばっかり使っているから?
それとも、料理とか無駄なことにばかり労力を割いているから?
決して無駄じゃないはずなんだけどなあ。
戦力を上げるためには日々の鍛錬が欠かせないように、すべては結果を出すために必要な手順であるはず……なんだけど。
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それが今の仕組みでは、評価が極端に低い。友だちとしては少しは下駄をはかせてやりたいところだが、さすがにそういうわけにも行かず。
(報われないわよねえ)
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その言葉通り、彼女は魔法使いになった。なった以上は成功してほしいし、実際頑張っているのもわかっている。
「やっぱり、魔法使いってのがよくないのかしらね」
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【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
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