遅咲きの魔法使いが伝説になるまで~わたし、魔法使いになります!

桐坂数也

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魔法使い、再生に取り組む。

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 あんなすごい人たちが、なぜ魔女を目の敵にしているのか。やっぱりよくわからなかった。
 魔術師の教義に反するものだから? そういうのはよくある話だけど、わたしたち誰とも競争したことなんてないし。

 わたしたち、人畜無害な存在なんだけど、あの人の目を見た限りじゃすぐに説得するのは無理そうだ。今はひっそりこっそり、自分にできることをするしかない。

 ギルドを訪ねて、わたしはノーラに会った。はあ、万年F級とか言われないように頑張らないと。

「今回はメンバーを、こっちからあっせんするわ。ちょっと面倒を見てほしい子たちがいてね」

 あ、今回は何か条件つき?

「そのメンバーを育ててほしいのよ」
「うう、なんか怖い。よっぽど札付きの冒険者とか?」
「そうじゃないわ。みんなそれぞれ、腕はいいんだけどいまひとつ伸び悩んでるのよね。それでなかなか上がれなくて……。あんたならなんとかしてくれるんじゃないかと思って」
「でもわたしもF級だよ? 役に立つかなあ?」
「大丈夫」

 やけに自信たっぷりに、ノーラは請け合った。

「今までのあんたのパーティ、みんな目覚ましい進歩だったわ。あんたにはきっと、人の長所を見出して伸ばす才能があるのよ」
「そんなもんかなあ?」

 全然自覚がない。わたし、そんなすごいことしてたっけ?
 どうせ伸ばすなら自分の才能を伸ばしたいんだけど。

「だいたいあんた、ちゃんとやってればD級くらい行ってるはずでしょ? 少しは自覚しなさいよ」

 うひゃあ、やぶへびでした。
 ともかく、クエストを受けるのにパーティは必要だ。わたしは紹介された人材に会ってみることにした。

 女の子の剣士、ペリト。
 盗賊のルネー。
 魔術師の少年、エクル。

「ちょっと役割が被ってるわね。でもまあ、やってみましょうか」

 本当は前衛がもう一人ほしいところだ。でもみんなまったくの初心者というわけではなく、そこそこキャリアを積んでいた。ある程度はなんとかなるだろう。
 上に上がれない原因を、ひとりひとり見てみましょうかね。


 ◇


 まず目を引いたのは、ペリトの剣だった。

 でかい。ものすごくでっかい。
 クレイモアっての? それにしても、でかい。

 華奢な身体の背に、男でも振り回さないような大剣を背負っている。長さも剣幅も半端ない。あれ、わたしじゃ多分持ち上がらない。

「すごい剣だねえ」
「ニーナもこんなの、不釣り合いだと思う?」

 わたしはただ感想を口にしただけなのだが、何故かずいぶんと反発するような口調が返ってきた。

「いえ、べつに。人それぞれでいいと思うよ」

 そう言っても、ペリトは納得した様子ではなかった。
 普通に考えて、明らかに体に合っていない。あれでは満足に取り回せないんじゃないかな。
 それでも敢えてそれを使うこだわりがあるのだろう。どう使うつもりなのかは、実戦で確認しよう。

「ルネーは得物は何を使うの?」
「短剣の他には、これだよ」

 彼は輝く金属の環をいくつも取り出した。

「円形刃。円形の剣だ」
「へえ、めずらしい」

 環の外側にぐるりと刃が付いている。これは扱いが難しそうだ。

「それだけじゃないぜ」

 ルネーはそれを、宙に向けて勢いよく投げた。
 飛んでいった環は、そのうちぐぐっと軌道を変え、やがて弧を描いてこっちに向かってきた。

「ええっ?」

 ぱしっ! と音を立てて、飛んできた円形刃をルネーは器用に受け止める。

「と、こんな使い方もできるんだ」
「すごいじゃない、これ!」

 相当練習したのだろう。だいぶ扱いに慣れている感じがする。
 これはいろいろな使い方ができそうだ。前だけじゃなく、横や後ろからも攻撃ができる。

「ふん、だが実戦では使い物にならないな」
「えっ?」

 冷たい声で言ったのはペリトだった。
 一瞬怒気を発しかけたルネーだったが、すぐに肩を落とし、

「残念だがその姉ちゃんの言う通りだ」
「なんで?」

 わたしの疑問に、腕を組んだペリトが説明してくれる。

「その環は投げてから戻って来るまで時間がかかる。戦闘中ならその間に敵も味方もみんな動いてしまうだろう?」
「悔しいけど、そうなんだ。狙った時間、狙った場所に敵がいないと意味がない」
「なるほど」

 つまり戦闘中に目指す場所に敵を誘導しないとならないのね。それは難しいわ。
 下手をすると味方に当たりかねない。

「でも、惜しいなあ。威力はあるし、使い方次第でなんとかなりそうだけど……」
「はん。そんな奇を衒った武器、役に立つわけないだろう? おおかた、かっこいいとかそんな理由だろう」
「なんだと!?」

 今度はルネーも黙っていない。

「これは一族に伝わる由緒正しい逸品なんだよ! おまえこそなんだ、その剣は? それこそかっこつけじゃねえか!?」
「なんだと!?」
「そんなばかでかいもの、戦場で役に立つか! 振り回されてバランス崩すのがオチだ。どうせ男に馬鹿にされたくないとか、そんな理由なんだろ?」
「きさま!」
「まあまあまあまあ」

 わたしが止めに入る。あやうく斬り合いになりそうなところに飛び込むのは怖かったけど。

「自分のポリシーを馬鹿にされたら、誰だっていやでしょ? 他人のこだわりや触れてほしくないことには踏み込まないこと。それがマナーってものよ。わかった?」

 ふたりはお互いそっぽを向くにとどまったが、今はそれでよしとしよう。
 ……よかった。斬り合いになったらどうしようかと、今さらながら冷や汗。

 それをずっと見ていたエクル。ついにひと言も発しなかった。
 われ関せず、という感じ。あまり人と関わりたくないのかしら。まあ、こちらもおいおいと。


 ◇


 ゴブリンの群れは七、いや八匹。ちょっと多いかな。
 
「さあ、前衛! 力を見せてもらうわよ!」
「おう!」
「言われなくても!」

 ペリトとルネーが飛びかかる。

 ルネーの武器は独特なだけあって、戦い方も独特だった。受けるより、身軽にかわす。そして反撃。重くはないが確実な戦いだ。

(けど、ちょっと腰が引けてるかな)

 盗賊は本来、前衛が役割ではない。だから防御力はあまり高くない。
 正面から攻撃を受け止める場面は苦手みたいだ。

 対して、ペリトは。

「うおりゃあああっ!」

 大剣を思うさまぶん回している。
 当たるを幸い、敵をばんばんなぎ倒すなぎ倒す。ゴブリンなんか一撃で吹っ飛んでいく。
 けど予想通り、アクションが大きすぎて付け込まれている。剣の柄で凌ぐのはうまいものだれど。
 それに、斬れていない。多分引く力が足りないのだ。これでは剣のメリットも半減してしまう。

 もっと身体に合った細身の剣の方が絶対にいい。それはわたしでもわかる。
 でも本人にこだわりがあるなら、なるべくそれは尊重してあげたい。どうしたもんかな。

 さらにもうひとり。魔術師のエクルくん。

「きみは【防御】や【回復】はできる?」
「少しなら」

 そう答えて、【防御】魔術を発動。ルネーの左のゴブリンが防壁に当たって跳ね返される。

「攻撃魔法はどう? 【炎熱】系とか【凍結】系とか」
「少しなら」

 そう答えて、【火炎】魔術を発動。ペリトに飛びかかろうとしていたゴブリンが炎に阻まれてのけぞる。

 うーん。生返事ばかりだなあ。
 いちおうひと通りのことはできる。というより、何でもできる。それはすごい。けど、熱意がないというか? 興味がない、といったふうに見える。なんで冒険者になったんだろう。

「えーと、きみの得意な魔術はなにかな?」
「得意、ですか?」

 初めて彼は言いよどんだ。

「あの……ぼくはいいですから、ニーナさんの魔法を見せてほしいです」
「わたし? いいけど、あまり参考にならないと思うよ?」
「いえ、大丈夫です。ぜひ見せて下さい!」

 不思議な少年だなあ。
 エクルの熱っぽい視線が少し病的なのが気になったけど。

 まあ、いいわ。
 まだ戦闘は続いている。わたしもサポートしないと。

 敵の数は半減していた。でもペリトもルネーも独自に動いているせいで、ふたりの距離が離れてしまっている。事実上ソロ、お互いに背中ががら空きだ。

「ふたりとも! 後ろもいるわよ!」

 背後から忍び寄るやつを【防壁】ではたき落としてやる。ふたりは慌てて後ろを向いて仕留めたけど、そのせいでまた背後ががら空きになり、ペリトが斬りつけられた。

「【スパンク】!」

 ペリトに斬りつけたゴブリンに魔法の小玉を投げつける。ちょっとした衝撃にゴブリンが怯んだすきに、後ろからルネーが仕留めた。

「大丈夫か?」
「……ああ」

 逃げる一体に、ルネーが円形刃を投げつける。短い距離なら真っ直ぐ飛ぶみたいだ。一直線にゴブリンに突き刺さる。これで群れはすべて片付いた。

「おつかれさま。クエスト完遂、おめでとう。みんな頑張ったわね」
「おう!」

 と答えてくれたのはルネーだけだった。
 ペリトは悔しそうにうつむいている。エクルはペリトの治療を――実に事務的に――こなしている最中だった。

「えーと、F級でこの成果は誇っていいよ、うん。みんなすごいわ」

 答え、なし。
 わたしも笑顔がだんだん引きつってきた。うわー、なんだろこの重たい空気は?

 なにか今までと勝手が違う。今度は……どうしようかな、これ? 誰か教えて。



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